天使様の愛し子

東雲

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フォルセの果実

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「見て、エルダ。えっと……鹿だ」

白い木々がどこまでも続く森の中、立派な角を生やした牡鹿が遠くに見え、足を止めた。

「…綺麗だね」
「……う」

遠くに見えるのは、白金の艶やかな毛並みの大きな牡鹿。そちらの方角に体を向け、腕に抱いたままのエルダを覗き込むように話しかければ、小さな返事が返ってきた。

(…あ、エルダは見慣れてるのかな?)

胸元にくっついたまま、チラリとだけ視線を向けるエルダ。その丸くすべすべとした頬を一撫ですると、またゆっくりと歩き出した。



昨夜、エルダが指差した先は、命の湖がある方角だった。
エルダがどんな気持ちで、そうしたのかは分からない。ただ頑なに、目的地を告げるように指を差すので、躊躇いながらもそちらに足を向けた。
赤ん坊になったエルダは、幼い天使達同様喋らず、「どうしたの?」と聞いても明確な返事は無かった。
それでもなんとなく「向こうに行って」と言っている様な気がして、強請られるままそちらに向かって歩き出せば、途端に大人しくなった。
戸惑いながらソロソロと歩く中、ふとある考えが脳裏に浮かんだ。

もしや、命の湖はそんなに遠くない所にあるのではないだろうか?

赤ん坊達に場所を尋ねた時も、「遠くもないし、近くもない」というような反応だった。
もしかしたら、夜の間に行って帰って来れるのでは───そう思えば、エルダの行動にも納得がいく気がした。

(行って、帰ってくるだけなら…大丈夫かな?)

部屋を勝手に抜け出したことに変わりはないが、陽が高く昇る前に帰れれば…悪いことをしているとは思ったが、久方ぶりの外の空気に抗えず、歩き出した足を止めることが出来なかった。

───そうしてすっかり夜が明け、朝日が昇っても、目的地に辿り着くことはなかった。




「ふぅ…」

牡鹿を見かけてから暫く経った頃、ちょうど良い高さのすべらかな石を見つけ、腰を下ろした。
少しだけ上がった息を整えるように、ゆっくりと呼吸を繰り返していると、エルダが膝の上にちょこんと座った。

「エルダは、もう眠くない?」
「…ん」

コクンと小さく頷く頬はほんのりと赤く、その可愛らしさに思わず手が伸びる。ふわふわすべすべとした頬は気持ち良く、それだけで疲労を忘れてしまう様だった。



夜中、星明りが照らす大地はうっすらと明るく、草原を抜け、林の中に立ち入っても、そこかしこに光る草花があり、歩くのにも困らなかった。
大地の上に星が降ぅてきたかのような煌めく光景に見惚れ、何度も足を止めては辺りを見回す。
それを何度か繰り返し、夜も深まった頃、抱いていた温もりが突然重みを増したことに、慌てて足を止めた。

見れば、腕の中でエルダが寝息も立てずに眠っていた。
そこでようやく、エルダが自分の負担にならないようにと、抱かれながらも体を浮かせてくれていたことに気づいた。
きちんと赤子一人分の重さになったエルダを抱き直すと、近くにあった太い幹に背を預けるように地面に座った。
すぅすぅと聞こえ始めた寝息と、ぽってりとした重み。赤ん坊の高い体温はどこまでも心地良く、どこまでも愛おしかった。

(本当なら、寝てる時間だもんね…)

昼間眠っていたせいだろうか、眠気に襲われることもなく、エルダの小さな寝息と心地良い夜のさざめきを聞きながら、夜闇の中をキラキラと輝く淡い光を眺めて過ごした。


どれほどか時間が過ぎた頃、パチンと弾かれたようにエルダが体を起こした。

「…エルダ?」
「………?」

寝ぼけているのだろうか。丸い瞳を更にまん丸くさせ、ぱちくりと瞬きをする顔が可愛らしくて、つい笑ってしまった。

「ふふ…おはよう。いっぱい寝たね」
「…~~~っ!」

眠っている間もずっとしがみついていたせいか、頬にはうっすらと服の皺の痕が残っていた。それをなぞるように撫でれば、顔を真っ赤にしてお腹の辺りに顔を埋めてしまった。

「エルダ?」
「んむぅ…!」

恥ずかしかったのか、「イヤイヤ」と言うように丸い頭をぐりぐりと腹部に擦りつける仕草は、あの子達にそっくりだった。
脇の下に手を差し入れ、柔らかな体を抱き上げると、小さな背をポンポンと優しく叩く。

「まだ、寝ててもいいよ?」
「んん…っ」
「…もういいの?」
「…ん」

首筋を擽るような柔い肌と髪の毛に瞳を細めると、ゆっくりと立ち上がった。

「…じゃあ、そろそろ行こっか」

腕に抱いたエルダは、またいつの間にか重さを感じさせない軽さになっていた。
ずっと浮いていて疲れないのだろうか…そう思っていると、服の胸元を引かれる感覚がした。

「なぁに?」
「…ん」

視線を下げれば、エルダが小さな腕をうごうごと動かし、何かを掴むような仕草をした───直後、空気の壁から、白い布がするりと姿を現した。

「!?」
「んん~っ」
「て、手伝うね…?」

自分の手の平ですっぽりと包めてしまう小さな手では出すのが難しいのか、眉根に小っちゃな皺を寄せた顔に慌てて手を添えれば、するすると掴んでいた物が姿を現した。

「あ……これ…」

それは、あまりにも見覚えのある物だった。
ささやかな光が煌めく純白のローブは、毎日自分が身に着けていたそれであり、つい先ほど、あの部屋に置いてきた物だった。

「…持ってきて、くれたの?」
「…う」
「……ありがとう」

きっと、言いたいこともあるだろう。
それでも、ただローブを差し出してくれるエルダに、無性に何かが込み上げ、唇を噛んだ。
なんと名前を付けたらいいのか分からない感情を抑えるように、深く息を吸い込むと、潤んだ視界を誤魔化すように笑った。

「ちょっと、待っててね」

ローブを受け取れば、自然とエルダが腕から離れ、パタパタと小さな羽を動かして宙に浮いた。
その間に広げたローブを纏えば、背後に回ったエルダがいつものように肩口を整えてくれた。
普段と変わらぬ装いになったことにホッとしつつ、正面に戻ったエルダに手を差し出せば、小さな体は再び腕の中に収まった。

「ふふ…赤ちゃんのエルダは、甘えん坊さんだね」
「…む」

僅かに赤くなった小さな耳を指先で撫でれば、丸まって顔を隠してしまった。
クスリと笑みを零すと、ふわふわと夜風に揺れる髪を撫で、再び命の湖に向けて歩き出す。

(…時間、間に合うかな?)

随分長いこと腰を落ち着けていたが、夜明けまではまだ遠い。
エルダもいるし、きっと大丈夫だろう───漠然とした考えは、空の色が変わり始め、朝の空気を纏い始めた頃には、諦めへと変わっていた。


朝日が昇り始めた空を見つめ、夜の内に行って帰ってくることはおろか、辿り着くことすら難しいと悟った時にはもう遅かった。
どれほど先に進めたのかも分からない。ただ遠く離れた宮廷は既に見えず、戻ることも難しくなってしまったことに茫然とした。
朝日に照らされた白い大地が、キラキラと輝く幻想的な光景に見惚れながら、頭ではこれからどうすべきなのか、ぐるぐると思考を巡らせた。

(どうしよう……今から帰るのは、怖いし…)

部屋に戻ろうにも、すっかり陽が昇り、人目を忍んで行動することが難しくなってしまった今、周囲を草原に囲まれた宮廷に向かって歩く勇気はなかった。
自分自身と向き合わなければ…とは思えても、他の天使達に対する恐怖は別物で、遭遇してしまう可能性を考えるだけでも恐ろしかった。

対して命の湖へと向かう道は森や林が続き、高い木々の隙間に体を隠すことが出来た。
勿論、森の中で誰かとばったり出会す可能性もあったが、身を隠す場所がまったく無い広大な草原に比べれば、然程怖くなく…必然的に、引き返そうとする気持ちはしおれてしまった。

イヴァニエやルカーシュカのことを忘れた訳ではなかった。きっと自分やエルダの不在に気づいた彼らは、心配してくれるだろう。
ずっと案じてくれていた彼らを裏切った自分が言える立場ではないのは百も承知だが、冷静になった今、心配させたくない気持ちから、焦燥感に駆られた。
とはいえ、引き返す勇気もない…と、そこまで考え、はたとエルダだけでも帰ってもらえばいいのではないかと気づいた。
エルダなら、そう時間も掛けずに宮廷まで帰れるはず…そう思い、すぐ様エルダにその願いを伝えたのだが、どうしてか断られてしまった。

「エルダ…? あの…イヴァニエ様も、ルカーシュカ様も…きっと…心配してらっしゃるから…」
「ん!」
「ご、ごめんね? 自分で、行ければいいんだけど…あの……怖くて…」
「んん!」
「…えっと…ここから、動かないよ…? どこにも行かないから…今度は、本当に…ここで、ちゃんと待ってるから…」
「やっ!」

(……や、って言われちゃった)

「ん」しか言わなかったエルダが、頭を大きく振り、ハッキリと拒否する様にそれ以上頼めるはずもなく、何度も振り返り、立ち止まりながらも、結局は命の湖を目指す道を選んだ。

(……ごめんなさい…)

なんでもエルダに頼ろうとしてしまうことを反省しつつ、それでも怖くて引き返す勇気のない自分が情けなくて、心の中でイヴァニエとルカーシュカに謝罪する。
もしかしたら、部屋を抜け出したことが他の天使達にもバレて、誰かが探しに来るかもしれないが、そうなってしまっても自業自得だ。
もしも、イヴァニエやルカーシュカが見つけてくれたなら、たくさん謝って…謝って済む話ではないのだろうけれど、それでも、目一杯謝って…今度は、今度こそは、彼らの言うことをちゃんと聞くと約束しよう。

(……許して、もらえないかもしれないけど…)

今回こそ、間違いなく悪いのは自分なのだ。
きちんと叱られ、怒ってもらおう…覚悟を決めると、ぽてりぽてりと、歩を進めた。




(思ってたより…ずっと、遠かったんだなぁ…)

そうして今、暖かな陽射しが木々の隙間から差し込み、木漏れ日が揺れる長閑のどかな風景を眺めながら、束の間の休息を取っていた。

(…本当に、綺麗な世界だ)

部屋の中で感じる陽の光とは違う、ポカポカと足元から伝わる暖かさと空気に、うっとりと目を閉じた。

不安が無くなった訳でも、恐怖が振り払えた訳でもない。
ただどこを見回しても美しい世界は、見るものすべてが新しく、すべてが初めてのものばかりで、それらを凌駕するほどに、好奇心が満たされ、高揚感に胸が高鳴った。

夜は光る草花の優しい光に誘われるように、夢の中を彷徨うように歩いた。
空が白み始め、朝日が昇る瞬間は、肌が粟立つほど綺麗で、少しずつ明るくなっていく空と、光を反射的して輝く大地に魅入った。
陽が昇った後は、見るものすべてが新鮮で、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いた。

真白い木々がどこまでも続く森や、一面鮮やかな蒼い花が咲き誇る花畑、野を駆けていくふわふわとした生き物、何かの結晶のように輝く鉱物が、あちらこちらから顔を出す大地。
何を見ても楽しくて、何を見ても心が浮き立って、今の状況も忘れてしまいそうだった。

「…? どうしたの? エルダ」
「ん」

膝の上で行儀良く座っていたエルダが、小さな腕を傍らの茂みへと伸ばす。その先には、指先で摘めるほどの小さな赤い実が生っていた。

「これ?」
「ん」

数粒が集まっているそれを房ごともぎ取ると、手の平に乗せ、小さな粒を口に運んだ。

「…うん、美味しい」
「んっ」

手の平の上に乗せた果実を、エルダがプチリと一粒取り、伸ばした腕でそれをこちらに差し出した。

「ん」
「ふふ…あーんするの?」
「…う」

身を屈めると、エルダの指先から赤い実だけを口に含んだ。

「ん……エルダも、あーん」
「…あ」

お返しをするように、指先に摘んだ実を、エルダの小さな口の中に転がした。
時たまこうして、エルダが見つけた木の実や果実を囓り、互いに食べさせ合いができるのも嬉しかった。
赤ん坊になってからのエルダはとても甘えん坊で、いつもは「ダメ」と言うことに対しても積極的だ。
その愛らしい姿に、不安や罪悪感、どうしようもない焦燥が薄れるようだった。

「…そろそろ、行こうね」

何度目かの短い休息を終え、エルダを抱き抱えると、立ち上がり、また歩く。
楽しいけれど不安で、不安だけれど楽しくて、訳もなく泣きそうになりながら、ゆっくりと歩いた。

イヴァニエやルカーシュカはどうしてるだろう。
神様はこんな自分をどう思っているだろう。
他の天使達は───考え始めたらキリが無い疑問や不安は、今だけはあまり考えない様、そっと目を逸らした。

(…あと、どれくらいで着くのかな)

休みながら歩いているにしても、半日以上歩き続けているのだ。
もうそろそろ着いてもいいのでは───そんなことを考えていると、視界の端で何かがキラリと光った。

「え……あっ、わぁ!?」

反射的に視線を向けた先、こちらに向かって飛んでくるそれに、思わず声が出た。

(魚が、飛んでる…!)

いや、
水に赤や青、黄色い雫を垂らしたような、透明感のある透けた美しい魚が、数十匹という群れとなり、まるで水の中を泳ぐかのように尾鰭をくねらせながら、宙を舞うように泳いでいた。

(……魚って…飛べるんだっけ?)

自分の知識の中では魚は飛ばないはずだが…と、そんなことを考えている間に、魚の群れが緩やかにこちらに近づいてきた。
反射的に足を止め、少しだけ身構えていると、木々を避けるように、魚の群れは自身の横をするりと避けていった。
そのまま自分達を囲むように、くるくると周囲を泳ぎ始めた魚達。
キラキラと光を反射する鱗は美しく、色も形も様々な魚が楽しげに泳ぐ姿に、感嘆の声が漏れた。

「すごいねぇ…」
「………」
「…エルダ?」

宙を泳ぐ魚達を無言で見つめるエルダ。
その様子に違和感を感じて名前を呼ぶのと重なるように、周囲を囲んでいた魚は輪を解き、また何処かへ向かって泳いでいった。

「……あ」

その先、魚の輝く鱗とは違う光が遠くで光ったように見え、目を凝らした。

(…地面が、光って……違う。あれは…)


水面の光だ───ゆらゆらと漂うような輝きを見つめ、それを確信すると、一歩、また一歩と、そちらに向かって歩き出した。





森を抜けた先、視界に広がった風景に、視線は釘付けになった。

「……綺麗…」

拓けた大地の中、広く広がる大きな湖。
どこまでも続く水面は、不思議な色彩を放ちながらゆらゆらと煌めき、その中心部に聳え立つ巨大な白い大樹は、眩ゆい光の粒子を零す───命の湖だ、と一目で分かった。

幹も葉も白い大樹には、一抱えほどもある大きな白い花の蕾があり、今にも咲きそうなほどふっくらと膨れていた。
美しく壮大な光景に目を奪われながら、心の奥底から溢れた感情に胸が騒ぎ、瞳を細めた。

(………ああ…此処だ…)

どうしてかは、自分でも分からない。
ただ本能のように、知らない何かを思い出すかのように、『此処が還る場所だ』と、魂が歓喜するように泣き、体がふるりと震えた。
緊張か、高揚か、畏怖か、静かに脈打つ心臓の鼓動が少しだけ苦しくて、知らぬ内に詰めていた息をふっと吐き出した。

目の前の風景を脳に焼き付けるように、その場に立ち竦むこと数十秒。陽の光を反射する白い水面に誘われ、湖を囲むように咲く花々の中を、サクリ、サクリとゆっくりと歩き出す。
乳白色の中、淡い色がいくつも浮かぶようにゆらゆらと揺れている水面は、白いはずなのに透明感があり、とても不思議な色をしていた。

(綺麗…)

湖の縁まであと数歩───その時、腕の中で丸まっていたエルダが動いた。

「……エルダ?」
「んぅ…っ」

グッと自分の体を押し戻すように、小さな腕と手に目一杯力を込めて突っぱね、泣きそうな顔でこちらを見上げる姿にハッとする。

「…大丈夫だよ。見るだけだから…ね?」
「…ん」

強張った体を優しく抱き締め、額や頬に唇を落とせば、ゆるゆると柔い体から力が抜けていくのが分かった。
エルダの緊張が解けたところで、そぅっと湖の中を覗き込み、目を見開いた。

「わぁ……」

白いと思っていた水はどこまでも透き通っていて、水底みなぞこが見えていた。
底には桃色や薄水色の淡い光を放つ白い花が一面に咲き誇り、花の色が、光が、水に溶け出すように、湖全体をうっすらと輝かせていた。

(…あれ? この色…)

ふっと視線を上げ、湖の中心に立つ大樹───母提樹を見上げた。
真っ白だと思ったそれは、湖の色と同じように、いくつもの淡い色がゆらゆらと揺らめき、同じ光を纏っていた。

(……おんなじ、色…?)

母提樹は湖の中、小島のようになっている大地に根を張っており、その根本には、結晶のような物がいくつも地面から生えていた。

淡い色がゆらゆらと揺めき、それを纏う純白の木からは光の粒子が絶え間なく零れ、根本の結晶の上に降り注ぐ。
どこまでも美しく、どこまでも温かく、どこまでも澄んでいるその姿は、確かに母なる大樹の姿だった。

不思議と、見ているだけで気持ちが凪いでいく風景を眺めながら、ゆるりと動き出す。
大きな湖の周りをゆっくりと散策していると、不意に足の裏に触れる草の感触が変わった。

「…?」

柔らかな草だったそれが、薄く硬質的な何かに変わった気がして、足を止めた。
蹲り、足元にある花に触れれば、しっとりとした花弁らしさはなく、妙な硬さを感じた。

「あ…」

直後、パラリと砕けた花は、真っ白な砂のようにサラサラと零れ、大地の白に混じった。
砂白シャハクに変わったそれを指先でなぞりながら辺りを見回せば、地面の一部がなだらかな斜面になっており、湖と一続きになっていた。

湖の水と草花が交わる境目は曖昧で、穏やかに凪ぐ水面が、水に浸かった花の花弁をゆらゆらと揺らす。

命が始まる場所で、終わる場所。

それらが同時に混じり合う光景に、息をすることも忘れて魅入った。



「……ん」
「ん…? どうしたの?」
「む」
「…?」

どれほどそうしていたか、くいっとエルダに服の胸元を引かれ、首を傾げながら立ち上がる。

「エルダ…?」

陽射しを反射する水面の輝きと共に歌うように、サワサワと風が葉を揺らす───その中に、別の音が混じった。



バサリと、空を切るような、重たい翼の音が二つ。



「「アドニスッ!!」」



重なった二人分の声に、ハッとして空を見上げた。

鮮やかな青空に映える真白い翼───イヴァニエとルカーシュカが、こちらに向かって真っ直ぐ飛んでくる姿が見えた。
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