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フォルセの果実
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『エルダ』と、彼の名を呼ぶようになった翌日。
「おはようございます。アドニス様」
「おはよう…エルダ」
何気ない朝の挨拶でも、エルダと名を呼べば嬉しそうに微笑んでくれるのが嬉しくて、つられて笑ってしまう。
昨日はその反応が嬉しくて、意味もなく何度も名を呼んでしまったが、おかげで名を呼ぶことにはすっかり慣れた。
(今日は、イヴァニエ様とルカーシュカ様のことを話さなきゃ…)
一昨日はエルダの名前を考えることでいっぱいで、昨日はエルダの名を呼ぶことしか頭になかったが、イヴァニエとルカーシュカと再び会うことについても、改めて話さなければいけなかった。
…ただ、そのことを考えると、どうしても不安になってしまうのだ。
(この前は、ああ言ったけど…本当に良かったのかな…)
「会いたい」と願った気持ちは本当だ。
二人もまた会ってくれると返事をくれた。
とても喜ばしいことなのだが、本当に良かったのか、迷惑になっていないか、時間が経つにつれ、そんな不安で胸がザワついた。
(むぅ…)
なんと話を切り出すべきか、エルダに手を引かれて寝室を出ながら考え込む。
周りを飛びながら後をついてくる赤子達とも手を繋ぎながら、いつものようにソファーに腰掛けようとして───ふと、見慣れない小さなテーブルが目の前に置かれていることに気づく。
おや? と思っている間にエルダに促され、気になりつつもソファーに腰を下ろした。
「…テーブル、どうしたの?」
「本日は、ミルクをこちらの器で召し上がって頂きたかったので、テーブルをご用意致しました」
そう言ってテーブルの上に置かれたのは、いつもミルクを飲む時に使っている白いカップではなかった。
小さな花が縁に描かれた白い受け皿と、ミルクの入った半月型をした透明の器。その横には、金色のスプーンと琥珀色の花が添えられていた。
「…お花?」
「そちらは蜂蜜です。ルカーシュカ様より、アドニス様への贈り物です」
「……え?」
(…なんで?)
ルカーシュカから何かを贈られる意味が分からず、首を傾げながらエルダを見上げれば、その顔には苦笑が浮かんでいた。
「アドニス様が、お二人を怖がられていないことについてはご理解頂いております。ですが、いきなりお会いするのはやはり急すぎたのでは、というお話しになりまして……少しでもアドニス様の緊張が和らぐならばと、お二人が色々と考えて下さったんですよ」
「イヴァニエ様からの贈り物は明日お渡ししますね」とにこやかに言われ、ポカンと口を開けたまま、エルダを凝視した。
「…ん……ん?」
自分の緊張を和らげるために、なぜ二人から贈り物をもらうことになるのかが分からず、言葉に迷っていると、エルダが目を細めて笑った。
「あまり難しく考えられなくてもよろしいのですよ。お二人からアドニス様への、友好的でありたいというお気持ちの表れです」
「…友好、的…?」
「アドニス様に喜んで頂ければ、それがなによりではございますが…お気持ちが少しでも明るくなれば、その分、緊張も和らぐのでは、と考えて贈って下さったのです」
「ぁ…えと…あ、ありがとう、ございます…」
二人のことを話そうと思っていた矢先に、二人から贈り物を貰うという展開に、先ほどまでの不安は早くも薄れていた。
エルダの視線に促され、スプーンに手を伸ばすと、そっと持ち上げ、琥珀色の花を見つめた。
「これが、蜂蜜…?」
大輪の薔薇のような形をしたそれは立体的で、とても蜂蜜で出来ているとは思えなかったが、ふわりと香る甘い匂いは間違いなく蜂蜜のそれだった。
「綺麗…」
角度を変えるたび、光を反射してキラリ、キラリと光る花に、ほぅっと溜め息が零れた。
「そちらをミルクに溶かして、お召し上がり下さい」
「…溶かしちゃうの?」
せっかく綺麗なのに…と残念に思いつつ、スプーンごとゆっくりとミルクの中に沈めた。
「わっ…」
瞬間、ぷわりと溶けた蜂蜜はミルクの表面に金色の花を咲かせた。真白いミルクに描かれた花は美しく、思わず見惚れてしまうほどだった。
「そちらをそのまま、混ぜてみて下さいませ」
「あ……う、うん…」
綺麗に描かれた花を崩してしまうのは忍びなかったが、ゆるりゆるりと器の中でスプーンを回せば、渦を巻くように金色の花はミルクに溶けて消えていった。
「……ん?」
くるりくるりとスプーンを回していると、僅かな抵抗のようなものを感じ、手を止めた。
(なんだろ…?)
ミルクに沈めていたスプーンの先を取り出し、じっと器の中を見つめる。
固まっている───? そう思った瞬間だった。
───ポンッ♪
「わっ!?」
ミルクの一部がポコンッと跳ねるのと同時に、軽快な音が鳴った。
ポンッ♪ ポポンッ♪ ポンッ♪
それに続くように、ポンッポンッと器の中でミルクが跳ねるたびに音が鳴る。まるで何かのメロディーを奏でているような音はなかなか鳴り止まず、硬直したままミルクの入った器を凝視し続けた。
暫くして音が鳴り止み、恐る恐る器の中を覗き込み、目を見開いた。
「え……花、だ…」
「あ~!」
ミルクが入っていたはずの器の中には、先ほど溶かした蜂蜜と同じ形をした真っ白な花がいっぱいに詰まっていた。
一緒になってその様子を眺めていた赤ん坊達は、器の中身を見て楽しそうにきゃあきゃあとはしゃぐ。
「え…えと…エルダ…? これ…」
「どうぞ、お手に取ってみて下さい」
「う、うん…」
言われるがまま、そっと白い花に触れれば、形が崩れることもなく、摘むことができた。
しっとりとした手触りのそれは、まるで本物の薔薇のようで、まじまじと見つめながら、目の前で起こった不思議な現象と、液体から固体になったミルクに首を傾げた。
「…これは…お花になっちゃったの…?」
「ふふ、では召し上がってみて下さい。できましたら、お一口で」
「一口…」
スプーンひと匙分の大きさの花は、なんとか一口で食べれるほどの大きさだ。
真白い薔薇を口に入れることにドキドキしながら、摘んだそれを口の中に放り込んだ。
「……ん!?」
口を閉じた瞬間、舌の上にあった白い花は花弁が解けるようにホロリと溶け出し、一瞬にして甘いミルクへと変わった。
思わず声を出してしまいそうになった口を慌てて両手で塞ぐ。驚いている間にも花は跡形もなく消え、ただの液体となったミルクは喉の奥へと消えていった。
「……?」
パチリと目を瞬きながらエルダに視線を送れば、彼はどこか楽しそうに笑っていた。
「いかがでしたか?」
「…すごい…あの……面白い、ね?」
固形だったはずの白い花が、瞬間的にミルクに変わった。
その不思議な口溶けと初めての体験に、落ち着いてくるにつれて『楽しい』『面白い』という感情が湧いてくる。
「すごい…楽しい…」
「お気に召して頂けてなによりです。ルカーシュカ様が、アドニス様がお食事を楽しんで召し上がれるようにと、お気持ちを込めてご用意して下さった物ですよ」
「…うん」
自分へと宛てられた贈り物。見た目にも綺麗なそれに、気持ちが込められているのが分かる。
だが同時に、どうして自分にそこまでしてくれるのだろうという疑問も浮かぶ。
(…自分が、なんにも喋れなかったから…気を遣わせてしまったのかな…)
…二人に悪いことをしてしまった。
そんな感情が真っ先に浮かんだが、ふるりと頭を振るとその考えを振り払った。
(……ちがう。先に、お心遣いに感謝すべきだ)
元々、自分はとても嫌われていたはずだ。少なくとも、初めて出会った時は、怒りや憎しみが滲むほどに嫌われていた。
だけど、先日会った時、二人からはそのような感情は一切感じられなかった。
自分という存在が、変わってしまったことが原因かもしれないが、それでも、元々あった感情を取り払い、向き合おうとしてくれるイヴァニエとルカーシュカには、いくら感謝しても足りないはずだ。
(…お礼、言わなきゃいけないことが、増えちゃった…)
今度こそ、取り乱さずに二人と対面できるだろうか。いや、それ以前にまず、自分からもう一度、再び会うための約束を交わさなければいけないのだが───…
「アドニス様? いかがなさいましたか?」
「…うぅん、なんでもないよ」
ミルクでできた花を見つめながら、つい考え込んでしまい、エルダの声にハッとして意識を切り替える。
(…今は、食べることに集中しよう)
そろりと器に手を伸ばすと、白い花を一つ摘み、口に含む。
いつもと変わらない味のはずなのに、トロリと溶けるような柔らかな食感の違いなのか、不思議といつもよりも美味しく感じた。
「…美味しい」
「それは良うございました」
嬉しそうに微笑むエルダに、自然と自分の口元も緩む。
(…色々考えるのは、後にしよう)
今はこの綺麗な花を味わって食べることに集中しよう、と器の中に積もった白い花に視線を向けた。
「エルダは、これ…食べたこと、あるの?」
「いいえ、そのような形になっている物は食べたことがございません」
「…そうなの?」
「ルカーシュカ様が、アドニス様にお贈りするために作られた物ですから」
「そう、なんだ…」
(…ん? わざわざ、作られた…の?)
そこまで手間を掛けてもらったのだろうか?
それとも、自分が思うよりも簡単に作れるものなのだろうか?
どちらなのか分からず、どのような反応をすべきなのか判断できずに、視線だけがキョロキョロと忙しなく動いた。
(エルダも、食べたことがないんだ……あ…)
その時、ふと閃いた考えに、体は素直に動いていた。白い花を一つ指先に摘むと、そのままエルダへ向けて手を伸ばす。
「…はい」
「………アドニス様?」
「エルダも、食べて?」
食べたことがないのなら、一緒に食べればいい。
ついでに、この面白い食感を共有できればいいなと思い、摘んだそれをエルダに差し出した。
「不思議な感じ、だよ」
「…左様で……いえ、あの…」
エルダに食べてもらおうと差し出した花。だが、どうしてかエルダが食べてくれそうな気配はなく、首を傾げた。
「…エルダ?」
「……お気持ちは大変有り難いのですが、そちらはアドニス様のお食事です。…私が戴く訳にはまいりません」
「ぁ…」
「申し訳ございません」と困ったように笑うエルダに、上げていた腕をゆっくりと下ろした。
(…ダメなんだ…)
『自分の食事』と言われてしまっては、返す言葉が無い。
自分の力が弱いのも、だからこそ食事を摂ることが大切なのだと、切々と説かれたことも覚えている。
『自分が食べなければいけない分』を減らす訳にはいかないのだろう。
(一口だけでも、ダメなのかな…)
少しだけ寂しい気持ちになりながら、それでもエルダを困らせるつもりはなく、へにゃりと曖昧な笑みを返した。
「え…と、自分で、ちゃんと食べるね」
「…、アドニ───」
指先に摘んだままだった花を食べようと、口元まで近づけた時だった。
───くんっ
「…? どうしたの?」
服の端を引かれるような感覚に視線をずらせば、隣に座っていた赤子が、ローブの裾を小さな手で握っていた。
「あ!」
「……食べたいの?」
「んぁっ」
「あ」と言いながら小さな口を大きく開ける赤ん坊が三人。その姿に、何が言いたいのかを察し───困惑した。
「え、えっと……あ、あれ?」
というのも、赤ん坊達が自分が食べている物を欲しがったことなど、今まで一度もなかったからだ。
急にどうしたのだろうと困惑しつつ、口を開けたまま待っている赤ん坊とエルダに交互に視線を送った。
「あ、あの…」
「恐らくですが、アドニス様が私にミルクを差し出して下さったのを見て、プティ達も欲しくなったのではないでしょうか」
「あ…」
なるほど、と思いつつ、手に持ったままの白い花に視線を落とした。
「あ…あの…あのね、自分が、食べなきゃいけない分って、分かってるんだけど、い、一個だけ、あげちゃ…ダメ?」
「いけません」と言われることを覚悟しながら、恐る恐るエルダに尋ねれば、眉を下げた笑みが返ってきた。
「そちらの一つだけですよ? 今この場にいるプティにだけ、他の子達には内緒ですからね?」
「…っ、うん…!」
口元で人差し指を立てて微笑むエルダに、思わず勢いよく返事をしてしまう。
先ほどはダメと言われてしまったが、自分が残念そうな顔をしたから、少しだけなら、と許してくれたのかもしれない。
「プティ達も、いいね? 他の子達には内緒だよ」
「ん!」
「内緒」と言われ、両手で口を隠す赤子の姿が可愛らしくて、つい笑みが零れる。
「そのままでは大きいので、切り分けましょう。お預かりしてもよろしいですか?」
「あ…うん」
薄い布を広げたエルダの手の平の上に、白い花をそっと乗せる。
それをテーブルの端に置くと、いつも果物を切り分けてくれるナイフが添えられた。
───サク…
「わぁ…」
なんの抵抗もなく、サクリ、サクリと耳に心地良い音を立てながら、白い花にナイフが入る。
不思議なもので、四等分にされたそれは液体になることもなく、切り分けた瞬間に、それ単体が小さな花の形を成してコロリと転がった。
(すごい…なんで…?)
その様子を見ているだけで楽しく、エルダの手元を見つめている間に、小さな花が四つ出来上がっていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとう…!」
薄い布ごと手渡された四つの白い花が、手の中でコロコロと転がった。
「あ~ぅ」
「まってね…えと…お口の中に入れたら、ミルクに変わるからね?」
「あ!」
お行儀良く隣に座り、口を開けたままコックンと頷く赤子に笑みを返しつつ、小さくなった花を手に取る。
大きく開けているつもりの小さな口の中に見えるのは、同じく小さなピンク色の舌。その可愛らしい舌の上に、コロリと花を転がした。
「はぷっ」と口を閉じて一秒、パァッと瞳を煌めかせながら、柔らかな頬を両手でぎゅーっと押さえる赤子に思わず笑ってしまった。
「ん~っ」
「ふっ、ふふ、美味しい?」
「ん!」
一口分を四等分にした花は小さく、味が分かるか心配だったが、赤ん坊の小さな口にはちょうど良かったらしい。
「あぁ~っ」
「あ~ぅ!」
「あ、まって…まってね」
絨毯の上に座っていた二人もいつの間にか立ち上がり、ソファーに座っている自身の膝にしがみつくと、大きく口を開けて催促しだした。
(…雛みたい)
可愛らしい声でミルクを強請りながら、口を開けて待っている姿は、親鳥からの餌を待つ雛鳥のそれとそっくりだった。背中の小さな羽が余計にそれらしく見えてしまい、苦笑する。
「はい、あ~…」
「あ~!」
二人の口の中にも、同様に小さな花を放り込めば、同じように目をキラキラさせながら「美味しい!」とまろい頬を押さえ、「楽しい!」と言うように笑う赤子達。
「美味しいね」
「ん~ま!」
「んぁ!」
その様子を眺めていて、ふとあることに気づき、エルダに向き直った。
「…この子達って、ご飯食べれたんだね」
今まで自分が何か食べていても欲しがる素振りもなく、何かを口にしている光景も見たことがなかったので、てっきり赤ん坊達は食事を必要としていないのだと思っていた。
「そうですね。正確には、プティ達が食べられる物は一つだけです。ただ、液体…飲み物であれば、多少は口にすることができますので、ミルクや果実水であれば、この子達でも食べれるのですよ」
「そうなんだ…」
白い花は今は固形だが、口の中に含めばミルクに変わるので、赤子達でも食べれるのだろう。
「………」
そっと視線を落とせば、手の平の中で転がる小さな花が一つ。
エルダが切り分けてくれたのは四等分、赤ん坊達は三人…一つ、余ってしまった。
「…エルダ、これ…これだけなら…ダメ?」
指の爪ほどのサイズになった小さな花をそっと摘み、もう一度エルダに差し出す。
「えっと、みんなで分けた分の、あ、余った分…だし……どう、かな…?」
赤ん坊達に食べさせたように、エルダへと手を伸ばす。とはいえ、エルダは立っているので、屈んでもらわなければ到底届かない距離ではあるのだが…
「いえ…その…」
「…ちょっとだけ、だよ…?」
伝わる困惑に、やはりダメなのだろうかと、ゆるゆると伸ばした腕が下がる。
(…でも、ダメって言わない…)
ほんの少しだけだから、ダメとも言えないのだろうか? それとも他に何か───そこまで考え、ハッとする。
(あ…もしかして…指じゃダメ…?)
つい赤子達にするのと同じように、指で摘んでそのまま食べてもらおうとしてしまったが、良くなかったのかもしれない。
(えっと…何か…何か…っ)
キョロリと視線を動かせば、皿の上に置いたままになっていた金色のスプーンが視界に映った。咄嗟にそれを掴むと、その上に小さな花をコロリと転がした。
「は…はい…!」
もう一度、手を伸ばし、エルダへとスプーンの先を向ける。
これでダメなら、もう無理に勧めることはしない…そう思いながら暫し待っていると、エルダの視線が泳いだ。
視線を彷徨わせ、二度ほど口を薄く開いては閉じ、指先を遊ばせる。珍しく落ち着かない様子のエルダを待つこと十秒───…
「………では、その…戴きます」
「…っ、うん!」
身を乗り出すように、エルダに向けて真っ直ぐとスプーンを持った腕を伸ばせば、ぎこちなく身を屈めたエルダがスプーンの先に顔を寄せ、薄く口を開いた。
(わ…)
白い花を口に含む瞬間、目を伏せたエルダの睫毛の長さに改めて気づき、ドキリとした。
(…本当に、綺麗な子だなぁ)
花を食む美少年という光景に思わず見惚れてしまったが、花を口に含んだエルダはすぐに姿勢を正し、いつもの立ち姿に戻ってしまった。
それでも口元を指先で軽く押さえながら、ほんの少しだけ目を大きく開いた顔をジッと見つめる。
「…どぉ?」
「…なんでしょう…不思議な食感…いえ、面白い感覚ですね」
「ね…! 口の中で…ふわって、ミルクになるの」
「これは…楽しいですね」
「うん…!」
(一緒だ…)
少々強引なお願いをしてしまったのは自覚しているが、それでも同じ感覚を共有できたことが嬉しくて、思わず笑みが零れた。
「ふふ」
「…? どうなさいました?」
「一緒に、同じ物、食べられて…嬉しいな、て」
「…、…ええ、左様でございますね。私にも分けて下さり、ありがとうございます。アドニス様」
「エルダも…一緒に食べてくれて、ありがとう」
「あぅ」
「だ、うーぁ」
「みんなも、ありがとうね」
「んぁ」
ふにゃふにゃと笑う赤子達のすべらかな頬を一撫ですると、そのまま白い花へと手を伸ばす。
摘んだそれを口に含むと、舌の上でじゅわりと蕩ける食感に目を閉じた。
(…美味しい)
とろりと口の中に広がる甘さは、いつもより少しだけ、優しい味がした。
「おはようございます。アドニス様」
「おはよう…エルダ」
何気ない朝の挨拶でも、エルダと名を呼べば嬉しそうに微笑んでくれるのが嬉しくて、つられて笑ってしまう。
昨日はその反応が嬉しくて、意味もなく何度も名を呼んでしまったが、おかげで名を呼ぶことにはすっかり慣れた。
(今日は、イヴァニエ様とルカーシュカ様のことを話さなきゃ…)
一昨日はエルダの名前を考えることでいっぱいで、昨日はエルダの名を呼ぶことしか頭になかったが、イヴァニエとルカーシュカと再び会うことについても、改めて話さなければいけなかった。
…ただ、そのことを考えると、どうしても不安になってしまうのだ。
(この前は、ああ言ったけど…本当に良かったのかな…)
「会いたい」と願った気持ちは本当だ。
二人もまた会ってくれると返事をくれた。
とても喜ばしいことなのだが、本当に良かったのか、迷惑になっていないか、時間が経つにつれ、そんな不安で胸がザワついた。
(むぅ…)
なんと話を切り出すべきか、エルダに手を引かれて寝室を出ながら考え込む。
周りを飛びながら後をついてくる赤子達とも手を繋ぎながら、いつものようにソファーに腰掛けようとして───ふと、見慣れない小さなテーブルが目の前に置かれていることに気づく。
おや? と思っている間にエルダに促され、気になりつつもソファーに腰を下ろした。
「…テーブル、どうしたの?」
「本日は、ミルクをこちらの器で召し上がって頂きたかったので、テーブルをご用意致しました」
そう言ってテーブルの上に置かれたのは、いつもミルクを飲む時に使っている白いカップではなかった。
小さな花が縁に描かれた白い受け皿と、ミルクの入った半月型をした透明の器。その横には、金色のスプーンと琥珀色の花が添えられていた。
「…お花?」
「そちらは蜂蜜です。ルカーシュカ様より、アドニス様への贈り物です」
「……え?」
(…なんで?)
ルカーシュカから何かを贈られる意味が分からず、首を傾げながらエルダを見上げれば、その顔には苦笑が浮かんでいた。
「アドニス様が、お二人を怖がられていないことについてはご理解頂いております。ですが、いきなりお会いするのはやはり急すぎたのでは、というお話しになりまして……少しでもアドニス様の緊張が和らぐならばと、お二人が色々と考えて下さったんですよ」
「イヴァニエ様からの贈り物は明日お渡ししますね」とにこやかに言われ、ポカンと口を開けたまま、エルダを凝視した。
「…ん……ん?」
自分の緊張を和らげるために、なぜ二人から贈り物をもらうことになるのかが分からず、言葉に迷っていると、エルダが目を細めて笑った。
「あまり難しく考えられなくてもよろしいのですよ。お二人からアドニス様への、友好的でありたいというお気持ちの表れです」
「…友好、的…?」
「アドニス様に喜んで頂ければ、それがなによりではございますが…お気持ちが少しでも明るくなれば、その分、緊張も和らぐのでは、と考えて贈って下さったのです」
「ぁ…えと…あ、ありがとう、ございます…」
二人のことを話そうと思っていた矢先に、二人から贈り物を貰うという展開に、先ほどまでの不安は早くも薄れていた。
エルダの視線に促され、スプーンに手を伸ばすと、そっと持ち上げ、琥珀色の花を見つめた。
「これが、蜂蜜…?」
大輪の薔薇のような形をしたそれは立体的で、とても蜂蜜で出来ているとは思えなかったが、ふわりと香る甘い匂いは間違いなく蜂蜜のそれだった。
「綺麗…」
角度を変えるたび、光を反射してキラリ、キラリと光る花に、ほぅっと溜め息が零れた。
「そちらをミルクに溶かして、お召し上がり下さい」
「…溶かしちゃうの?」
せっかく綺麗なのに…と残念に思いつつ、スプーンごとゆっくりとミルクの中に沈めた。
「わっ…」
瞬間、ぷわりと溶けた蜂蜜はミルクの表面に金色の花を咲かせた。真白いミルクに描かれた花は美しく、思わず見惚れてしまうほどだった。
「そちらをそのまま、混ぜてみて下さいませ」
「あ……う、うん…」
綺麗に描かれた花を崩してしまうのは忍びなかったが、ゆるりゆるりと器の中でスプーンを回せば、渦を巻くように金色の花はミルクに溶けて消えていった。
「……ん?」
くるりくるりとスプーンを回していると、僅かな抵抗のようなものを感じ、手を止めた。
(なんだろ…?)
ミルクに沈めていたスプーンの先を取り出し、じっと器の中を見つめる。
固まっている───? そう思った瞬間だった。
───ポンッ♪
「わっ!?」
ミルクの一部がポコンッと跳ねるのと同時に、軽快な音が鳴った。
ポンッ♪ ポポンッ♪ ポンッ♪
それに続くように、ポンッポンッと器の中でミルクが跳ねるたびに音が鳴る。まるで何かのメロディーを奏でているような音はなかなか鳴り止まず、硬直したままミルクの入った器を凝視し続けた。
暫くして音が鳴り止み、恐る恐る器の中を覗き込み、目を見開いた。
「え……花、だ…」
「あ~!」
ミルクが入っていたはずの器の中には、先ほど溶かした蜂蜜と同じ形をした真っ白な花がいっぱいに詰まっていた。
一緒になってその様子を眺めていた赤ん坊達は、器の中身を見て楽しそうにきゃあきゃあとはしゃぐ。
「え…えと…エルダ…? これ…」
「どうぞ、お手に取ってみて下さい」
「う、うん…」
言われるがまま、そっと白い花に触れれば、形が崩れることもなく、摘むことができた。
しっとりとした手触りのそれは、まるで本物の薔薇のようで、まじまじと見つめながら、目の前で起こった不思議な現象と、液体から固体になったミルクに首を傾げた。
「…これは…お花になっちゃったの…?」
「ふふ、では召し上がってみて下さい。できましたら、お一口で」
「一口…」
スプーンひと匙分の大きさの花は、なんとか一口で食べれるほどの大きさだ。
真白い薔薇を口に入れることにドキドキしながら、摘んだそれを口の中に放り込んだ。
「……ん!?」
口を閉じた瞬間、舌の上にあった白い花は花弁が解けるようにホロリと溶け出し、一瞬にして甘いミルクへと変わった。
思わず声を出してしまいそうになった口を慌てて両手で塞ぐ。驚いている間にも花は跡形もなく消え、ただの液体となったミルクは喉の奥へと消えていった。
「……?」
パチリと目を瞬きながらエルダに視線を送れば、彼はどこか楽しそうに笑っていた。
「いかがでしたか?」
「…すごい…あの……面白い、ね?」
固形だったはずの白い花が、瞬間的にミルクに変わった。
その不思議な口溶けと初めての体験に、落ち着いてくるにつれて『楽しい』『面白い』という感情が湧いてくる。
「すごい…楽しい…」
「お気に召して頂けてなによりです。ルカーシュカ様が、アドニス様がお食事を楽しんで召し上がれるようにと、お気持ちを込めてご用意して下さった物ですよ」
「…うん」
自分へと宛てられた贈り物。見た目にも綺麗なそれに、気持ちが込められているのが分かる。
だが同時に、どうして自分にそこまでしてくれるのだろうという疑問も浮かぶ。
(…自分が、なんにも喋れなかったから…気を遣わせてしまったのかな…)
…二人に悪いことをしてしまった。
そんな感情が真っ先に浮かんだが、ふるりと頭を振るとその考えを振り払った。
(……ちがう。先に、お心遣いに感謝すべきだ)
元々、自分はとても嫌われていたはずだ。少なくとも、初めて出会った時は、怒りや憎しみが滲むほどに嫌われていた。
だけど、先日会った時、二人からはそのような感情は一切感じられなかった。
自分という存在が、変わってしまったことが原因かもしれないが、それでも、元々あった感情を取り払い、向き合おうとしてくれるイヴァニエとルカーシュカには、いくら感謝しても足りないはずだ。
(…お礼、言わなきゃいけないことが、増えちゃった…)
今度こそ、取り乱さずに二人と対面できるだろうか。いや、それ以前にまず、自分からもう一度、再び会うための約束を交わさなければいけないのだが───…
「アドニス様? いかがなさいましたか?」
「…うぅん、なんでもないよ」
ミルクでできた花を見つめながら、つい考え込んでしまい、エルダの声にハッとして意識を切り替える。
(…今は、食べることに集中しよう)
そろりと器に手を伸ばすと、白い花を一つ摘み、口に含む。
いつもと変わらない味のはずなのに、トロリと溶けるような柔らかな食感の違いなのか、不思議といつもよりも美味しく感じた。
「…美味しい」
「それは良うございました」
嬉しそうに微笑むエルダに、自然と自分の口元も緩む。
(…色々考えるのは、後にしよう)
今はこの綺麗な花を味わって食べることに集中しよう、と器の中に積もった白い花に視線を向けた。
「エルダは、これ…食べたこと、あるの?」
「いいえ、そのような形になっている物は食べたことがございません」
「…そうなの?」
「ルカーシュカ様が、アドニス様にお贈りするために作られた物ですから」
「そう、なんだ…」
(…ん? わざわざ、作られた…の?)
そこまで手間を掛けてもらったのだろうか?
それとも、自分が思うよりも簡単に作れるものなのだろうか?
どちらなのか分からず、どのような反応をすべきなのか判断できずに、視線だけがキョロキョロと忙しなく動いた。
(エルダも、食べたことがないんだ……あ…)
その時、ふと閃いた考えに、体は素直に動いていた。白い花を一つ指先に摘むと、そのままエルダへ向けて手を伸ばす。
「…はい」
「………アドニス様?」
「エルダも、食べて?」
食べたことがないのなら、一緒に食べればいい。
ついでに、この面白い食感を共有できればいいなと思い、摘んだそれをエルダに差し出した。
「不思議な感じ、だよ」
「…左様で……いえ、あの…」
エルダに食べてもらおうと差し出した花。だが、どうしてかエルダが食べてくれそうな気配はなく、首を傾げた。
「…エルダ?」
「……お気持ちは大変有り難いのですが、そちらはアドニス様のお食事です。…私が戴く訳にはまいりません」
「ぁ…」
「申し訳ございません」と困ったように笑うエルダに、上げていた腕をゆっくりと下ろした。
(…ダメなんだ…)
『自分の食事』と言われてしまっては、返す言葉が無い。
自分の力が弱いのも、だからこそ食事を摂ることが大切なのだと、切々と説かれたことも覚えている。
『自分が食べなければいけない分』を減らす訳にはいかないのだろう。
(一口だけでも、ダメなのかな…)
少しだけ寂しい気持ちになりながら、それでもエルダを困らせるつもりはなく、へにゃりと曖昧な笑みを返した。
「え…と、自分で、ちゃんと食べるね」
「…、アドニ───」
指先に摘んだままだった花を食べようと、口元まで近づけた時だった。
───くんっ
「…? どうしたの?」
服の端を引かれるような感覚に視線をずらせば、隣に座っていた赤子が、ローブの裾を小さな手で握っていた。
「あ!」
「……食べたいの?」
「んぁっ」
「あ」と言いながら小さな口を大きく開ける赤ん坊が三人。その姿に、何が言いたいのかを察し───困惑した。
「え、えっと……あ、あれ?」
というのも、赤ん坊達が自分が食べている物を欲しがったことなど、今まで一度もなかったからだ。
急にどうしたのだろうと困惑しつつ、口を開けたまま待っている赤ん坊とエルダに交互に視線を送った。
「あ、あの…」
「恐らくですが、アドニス様が私にミルクを差し出して下さったのを見て、プティ達も欲しくなったのではないでしょうか」
「あ…」
なるほど、と思いつつ、手に持ったままの白い花に視線を落とした。
「あ…あの…あのね、自分が、食べなきゃいけない分って、分かってるんだけど、い、一個だけ、あげちゃ…ダメ?」
「いけません」と言われることを覚悟しながら、恐る恐るエルダに尋ねれば、眉を下げた笑みが返ってきた。
「そちらの一つだけですよ? 今この場にいるプティにだけ、他の子達には内緒ですからね?」
「…っ、うん…!」
口元で人差し指を立てて微笑むエルダに、思わず勢いよく返事をしてしまう。
先ほどはダメと言われてしまったが、自分が残念そうな顔をしたから、少しだけなら、と許してくれたのかもしれない。
「プティ達も、いいね? 他の子達には内緒だよ」
「ん!」
「内緒」と言われ、両手で口を隠す赤子の姿が可愛らしくて、つい笑みが零れる。
「そのままでは大きいので、切り分けましょう。お預かりしてもよろしいですか?」
「あ…うん」
薄い布を広げたエルダの手の平の上に、白い花をそっと乗せる。
それをテーブルの端に置くと、いつも果物を切り分けてくれるナイフが添えられた。
───サク…
「わぁ…」
なんの抵抗もなく、サクリ、サクリと耳に心地良い音を立てながら、白い花にナイフが入る。
不思議なもので、四等分にされたそれは液体になることもなく、切り分けた瞬間に、それ単体が小さな花の形を成してコロリと転がった。
(すごい…なんで…?)
その様子を見ているだけで楽しく、エルダの手元を見つめている間に、小さな花が四つ出来上がっていた。
「どうぞ」
「あ、ありがとう…!」
薄い布ごと手渡された四つの白い花が、手の中でコロコロと転がった。
「あ~ぅ」
「まってね…えと…お口の中に入れたら、ミルクに変わるからね?」
「あ!」
お行儀良く隣に座り、口を開けたままコックンと頷く赤子に笑みを返しつつ、小さくなった花を手に取る。
大きく開けているつもりの小さな口の中に見えるのは、同じく小さなピンク色の舌。その可愛らしい舌の上に、コロリと花を転がした。
「はぷっ」と口を閉じて一秒、パァッと瞳を煌めかせながら、柔らかな頬を両手でぎゅーっと押さえる赤子に思わず笑ってしまった。
「ん~っ」
「ふっ、ふふ、美味しい?」
「ん!」
一口分を四等分にした花は小さく、味が分かるか心配だったが、赤ん坊の小さな口にはちょうど良かったらしい。
「あぁ~っ」
「あ~ぅ!」
「あ、まって…まってね」
絨毯の上に座っていた二人もいつの間にか立ち上がり、ソファーに座っている自身の膝にしがみつくと、大きく口を開けて催促しだした。
(…雛みたい)
可愛らしい声でミルクを強請りながら、口を開けて待っている姿は、親鳥からの餌を待つ雛鳥のそれとそっくりだった。背中の小さな羽が余計にそれらしく見えてしまい、苦笑する。
「はい、あ~…」
「あ~!」
二人の口の中にも、同様に小さな花を放り込めば、同じように目をキラキラさせながら「美味しい!」とまろい頬を押さえ、「楽しい!」と言うように笑う赤子達。
「美味しいね」
「ん~ま!」
「んぁ!」
その様子を眺めていて、ふとあることに気づき、エルダに向き直った。
「…この子達って、ご飯食べれたんだね」
今まで自分が何か食べていても欲しがる素振りもなく、何かを口にしている光景も見たことがなかったので、てっきり赤ん坊達は食事を必要としていないのだと思っていた。
「そうですね。正確には、プティ達が食べられる物は一つだけです。ただ、液体…飲み物であれば、多少は口にすることができますので、ミルクや果実水であれば、この子達でも食べれるのですよ」
「そうなんだ…」
白い花は今は固形だが、口の中に含めばミルクに変わるので、赤子達でも食べれるのだろう。
「………」
そっと視線を落とせば、手の平の中で転がる小さな花が一つ。
エルダが切り分けてくれたのは四等分、赤ん坊達は三人…一つ、余ってしまった。
「…エルダ、これ…これだけなら…ダメ?」
指の爪ほどのサイズになった小さな花をそっと摘み、もう一度エルダに差し出す。
「えっと、みんなで分けた分の、あ、余った分…だし……どう、かな…?」
赤ん坊達に食べさせたように、エルダへと手を伸ばす。とはいえ、エルダは立っているので、屈んでもらわなければ到底届かない距離ではあるのだが…
「いえ…その…」
「…ちょっとだけ、だよ…?」
伝わる困惑に、やはりダメなのだろうかと、ゆるゆると伸ばした腕が下がる。
(…でも、ダメって言わない…)
ほんの少しだけだから、ダメとも言えないのだろうか? それとも他に何か───そこまで考え、ハッとする。
(あ…もしかして…指じゃダメ…?)
つい赤子達にするのと同じように、指で摘んでそのまま食べてもらおうとしてしまったが、良くなかったのかもしれない。
(えっと…何か…何か…っ)
キョロリと視線を動かせば、皿の上に置いたままになっていた金色のスプーンが視界に映った。咄嗟にそれを掴むと、その上に小さな花をコロリと転がした。
「は…はい…!」
もう一度、手を伸ばし、エルダへとスプーンの先を向ける。
これでダメなら、もう無理に勧めることはしない…そう思いながら暫し待っていると、エルダの視線が泳いだ。
視線を彷徨わせ、二度ほど口を薄く開いては閉じ、指先を遊ばせる。珍しく落ち着かない様子のエルダを待つこと十秒───…
「………では、その…戴きます」
「…っ、うん!」
身を乗り出すように、エルダに向けて真っ直ぐとスプーンを持った腕を伸ばせば、ぎこちなく身を屈めたエルダがスプーンの先に顔を寄せ、薄く口を開いた。
(わ…)
白い花を口に含む瞬間、目を伏せたエルダの睫毛の長さに改めて気づき、ドキリとした。
(…本当に、綺麗な子だなぁ)
花を食む美少年という光景に思わず見惚れてしまったが、花を口に含んだエルダはすぐに姿勢を正し、いつもの立ち姿に戻ってしまった。
それでも口元を指先で軽く押さえながら、ほんの少しだけ目を大きく開いた顔をジッと見つめる。
「…どぉ?」
「…なんでしょう…不思議な食感…いえ、面白い感覚ですね」
「ね…! 口の中で…ふわって、ミルクになるの」
「これは…楽しいですね」
「うん…!」
(一緒だ…)
少々強引なお願いをしてしまったのは自覚しているが、それでも同じ感覚を共有できたことが嬉しくて、思わず笑みが零れた。
「ふふ」
「…? どうなさいました?」
「一緒に、同じ物、食べられて…嬉しいな、て」
「…、…ええ、左様でございますね。私にも分けて下さり、ありがとうございます。アドニス様」
「エルダも…一緒に食べてくれて、ありがとう」
「あぅ」
「だ、うーぁ」
「みんなも、ありがとうね」
「んぁ」
ふにゃふにゃと笑う赤子達のすべらかな頬を一撫ですると、そのまま白い花へと手を伸ばす。
摘んだそれを口に含むと、舌の上でじゅわりと蕩ける食感に目を閉じた。
(…美味しい)
とろりと口の中に広がる甘さは、いつもより少しだけ、優しい味がした。
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