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リリィ・ラムの産ぶ声
13.啼泣と幕開け(後)
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「嫌っ!! 嫌あぁっ!!」
目を覚ましたアドニスの反応は、あまりにも予想外で、信じられないものだった。
悲痛な色に染まった悲鳴を上げ、転げるようにベッドの上を這いずると、反対側の端まで逃げていった。
明らかに私達から逃げようとするその行動と響いた悲鳴に、言葉を失った。
「ア、ァ、ぁ、やだ…やだ…っ!!」
ベッドの端まで辿り着くと、それ以上動けなくなったのか、アドニスは逃げ場を失った体を隅に寄せ、身を守るようにシーツの中に丸まった。
乱暴に振り払われた左手がジン…と痛んだが、もはや些細なことだった。
目にした光景は異常としか言えないもので、思考も固まったまま、身動きすることすらできなかった。
ベッドの隅で、震えながら縮こまっている人物…それが“あの”アドニスだということが信じられず、ただ茫然とその場に立ち尽くした。
「ア、ドニ───」
「ヒッ! や…っ!!」
決して近づこうとした訳ではない。
振り払われたまま宙に浮いていた左手を、無意識の内に、ほんの少しだけ伸ばしただけだった。
それすら恐れるように後退った体。ベッドの端に寄っていたはずの体は、その先が無いことにすら気づいていないようだった。
「…っ、馬鹿! それ以上は───」
咄嗟にルカーシュカが声を上げたが、既に遅かった。
ドタンッ! ガッ! バキッ! ブチブチブチッ───…
グラリと揺れ、視界から消えたアドニスの体は、ベッドの反対側へと消えていった。
重いものが落ちる鈍い音と共に聞こえたのは、布が裂ける音。落ちる瞬間に掴んだのか体に引っかかったのか、天蓋の一部が天井から外れ、布が引き千切られていた。骨組みの一部は壊れ、ダラリと垂れた布がアドニスの上に落ちていく。
「おい…!」
一瞬の出来事をただ呆けて見ていることしか出来なかった中、いち早く意識を取り戻したルカーシュカが動いた。
反対側へと回り込み、アドニスへと近寄ろうとした時だった。
「来ないでっ!!!」
泣くような叫び声が響き、ルカーシュカの動きがピタリと止まった。
「嫌だ!! 来ないでっ!! 来ないでぇ…っ!!」
引きずられ、ベッドから落ちたシーツと、天蓋の布の中に埋もれるように身を小さくして震えるアドニス。
憐れなまでのその姿に、声を発することすら忘れた。
シンと静まり返った部屋の中、弱々しい泣き声が耳に届き、思わず息を呑んだ。
(…泣、いて……)
泣いていた。あのアドニスが。
自身の鼓膜を疑うような嗚咽を含んだその声は、確かに泣いていて、だがその声の主がアドニスだということに脳は混乱していた。
「っ…、ひっ、…っ、なんで…っ、なにも…してな…っ、なにもしてなぃ…っ」
纏まらない思考のまま、聞こえてきたのはか細く小さな声。
弱々しく震える泣き声と、耳を塞いだままこちらに背を向け、怯えた動物のように丸まったアドニス。
その姿を目の前に、声を掛けることはおろか、近寄ることすらできず沈黙が流れた。
ふと視線を横へと流せば、血の気の引いた顔で立ち尽くすルカーシュカが視界に映った。
よほどショックだったのか、その顔からは表情が抜け落ち、後退るようにフラリとその体が蹌踉めいた。
───このままでは、双方に良くない。
自分自身、動揺が大きく、冷静な判断ができそうになかったが、それだけは分かった。
一旦この場を離れるべきだ…そう思いつつ、気に掛かるのはアドニスのことだった。
恐れ、怯え、泣いて震えるアドニスをこのまま放置していけるほど薄情にはなれなかった。
「……誰か、来れますか」
独り言のように声を発すれば、背後でふわりと空気が動く気配がした。
「此処に」
瞬間、それまでそこにいなかったはずの人影がスッと現れた。
「…ああ、あなたなら任せられますね」
気配も音もなく現れたのは、自分の側仕えである天使だった。
「暫くの間、アドニスの…彼の世話を任せたいのですが、よろしいですか?」
「承りました」
相手があのアドニスだと伝えても、一瞬の動揺も躊躇いもなく、粛々とした態度で返事をする姿にホッとする。
感情の起伏の少ない彼は、淡々としているが故に冷たい印象を与えるが、その仕事ぶりは丁寧で安心できる子だった。
「今のアドニスは少々…かなり、様子がおかしい状態です。あなたに危害を加えるようなことはないと思いますが…いえ、とにかく側にいて様子を見ていて下さい。…恐らく最初は怯えるでしょうから、不用意に近づかないよう、気をつけなさい」
「…畏まりました」
“怯える”というところに引っかかったのか、彼にしては珍しく返事が遅れたが、それでも表情を変えなかったのは流石だ。
「日に一度、どんなに些細なことでも構いません。側にいて気づいたことや、何か変化があれば必ず報告を。よいですね」
「仰せのままに」
手本のような礼の形を取ると、彼はスッと背後から移動し、扉の脇へと移動した。
それを見届けてから、未だにアドニスを見つめたまま固まっているルカーシュカに声を掛ける。
「ルカーシュカ」
「っ、あ、ああ…」
「…今日のところは一旦戻りましょう。これ以上この場にいるのは、あなたにも良くない」
「……そう、だな…」
そう言いながらもアドニスが気になるのか、横目でその姿を確認しながら、ぎこちない動きで扉へと向かう。
とその間際、視線をアドニスからベッドへと移したルカーシュカの足が止まった。
「どうしました?」
不思議に思って声を掛けるが、ルカーシュカは無言のままベッドへと近寄ると、そっと身を屈めた。
アドニスが眠っていたベッドの脇…落ちた側とは反対側の枕元に、ルカーシュカが手を伸ばす。
ほんの数秒、僅かに手元を動かす動作をした後、踵を返した彼がこちらに戻ってきた。
「なにかありましたか?」
「…いや、大したことじゃない」
言葉を濁したまま扉へと向かうその背を追いながら、チラリとアドニスの様子を伺う。
耳を塞いだまま背を向けている彼は、恐らく私達が居なくなったことにすら気づかないのだろう。
(…どういうことでしょう…)
疑問と疑念よりも、動揺と混乱、それと認めたくないが、拒まれたことへのショックが大きかった。
気になることばかりだが、この場に留まったところで、確実に事態は悪化するだけだろう。
扉を通り過ぎる一瞬、側仕えの彼に視線だけ送れば、心得たと言うように深々と頭を下げる礼が返ってきた。
…今は、彼に任せるしかないのだろう。
若干の名残惜しさのようなものを残しながら、静かに扉を閉めた。
アドニスの元を離れると、ルカーシュカを連れて自身の離宮へと帰ってきた。
話しをするにも、多くの者が出入りする宮廷で、どこで誰の耳に入るか分からない会話をするのは憚られたからだ。
広い部屋の中、従者達も全員下がらせ、向かい合って座った二人の間には重い沈黙が流れた。
「………」
「………」
押し黙ったままのルカーシュカは相変わらず顔色が悪く、悲壮感さえ漂っていた。その様子から、アドニスの異常とも言える変化と関係しているのは明らかだった。
「…大丈夫ですか?」
なにが、とは聞かない。…聞けない。自分自身、なにに対して聞いてるのかさえ定かではないからだ。
「……ああ…」
帰ってきた返事はひどく沈んでいて、とても大丈夫そうには聞こえなかった。
「…あえて聞きますよ。アドニスのあの変わり様はなんです?」
他にどう聞けばいのかも分からず、単刀直入に切り出した。
「…知らん」
「はい?」
「俺も…アイツの様子がおかしいと思ったんだ。…それを、なにがおかしいのかを、確かめるために行ったんだが…それが……」
はぁ、と吐かれた溜め息は重苦しいものだった。
「おかしいというのは…いえ、様子がおかしいのは分かります。あなたはいつ…なぜ、そう感じたのですか?」
「……もう、かなり前の話なんだが───」
そう言って、ポツリ、ポツリと話し出したルカーシュカの話は、あのアドニスの姿を見ていない限り、信じられないものだった。
ヴェラの花畑での邂逅
怯えたアドニス
怒ったプティ達
違和感に気づきつつ、感情のままに詰ってしまったこと、そのせいで傷つけてしまったことが、ずっと気に掛かっていたのだと。
「アイツ相手に、そう思うこと自体信じられなくて…ずっと知らぬフリをしていたんだ…」
その罪悪感から、謹慎中であるアドニスが外を出歩いていたことを報告する気にすらなれなかった、と。
「………」
その話を聞きながら、己にも心当たりがあることに気づき、苦い気持ちになった。
背中の傷を癒すために訪れた時、同じように怯えた目をしていたアドニス。話し方も態度も、全てが別人のように見えた。
深い傷を負いながら、声を上げることもなく、施しに対して素直に感謝の言葉を述べたこと、それら全てに違和感があった。
その全てを、自分は関わりたくないという一心で振り払ったのだ。
ルカーシュカのように違和感をずっと抱き続けることも、そのために行動を取ることすら無かった。
それどころか、今日こうして彼と出会って話すまで、その存在すら忘れていたくらいだ。
(ルカーシュカは、アドニスを傷つけたと言うが…)
それでも、彼は優しいのだろう。
相手があのアドニスだと言うことで偏見こそあったが、それでも『傷つけた』ということをずっと悔やんでいたのだ。
違和感を抱きながらも、煩わしさからそれを切り捨て、無かったことにした自分よりよほど優しいはずだ。
「…っ」
そう自覚した途端、己の薄情さと、傷を癒したのだからもういいだろうと、自己満足だけで終わらせた独りよがりが浮き彫りになり、思わず唇を噛んだ。
脳裏に浮かぶのは、泣いて震えていたアドニス。
背中の傷を癒やした時は、多少は怯えていたように見えたが、それでも目が合った。少なかったが、言葉を交わすこともできた。
それが、今日再会したアドニスはどうだ。
自分達の姿を目にしただけで悲鳴を上げ、逃げていった。
耳を塞ぎ、声を聞くことすら嫌がった。
背を向け、視界に入れることすら拒んだ。
恐れ、怯え、泣き叫んで、全身で拒絶していた。
聖気は枯渇しかけ、恐らくもう数日と気づくのが遅ければ、肉体ごと魂は消滅していただろう。
誰に気づかれることもなく、あの暗闇に閉ざされた孤独な部屋で、その生を終えていたかもしれない───その可能性に気づき、ゾッとした。
それと同時に、もしも、もしも自分があの時感じた違和感を無視せずにいたなら、あの時アドニスと向き合っていたなら、ああなるまで追い詰めることも、傷つけることもなかったのではないか…
それに気づいてしまい、どうしようもない自己嫌悪に駆られた。
「っ…」
恐らく、今の自分の顔色はルカーシュカ以上に悪いだろう。だがそれを言葉にする勇気などなく、ただ押し黙ることしか出来なかった。
長い沈黙の後、口を開いたのはルカーシュカだった。
「……なぁ…アレは誰だ?」
「………」
いつか自分も抱いた、あまりにも馬鹿げた、あり得ない感覚。
それを今は、馬鹿らしいと思えなくなっていた。
見た目は確かにアドニスで間違いないはずなのに、とてもアドニスには見えないという矛盾。
その矛盾に、もう気づかぬフリは出来なかった。
「…言いたいことは分かります。私も同じ気持ちですよ。ただ、今はその疑問に対する答えを確認する術がありません」
「…ああ」
私達を恐れ、拒絶したアドニスに接触するのはほぼ不可能だろう。…今は。
「アドニスの元に、一人側仕えを置いてきました。暫くはその子に様子を見てもらうしかないでしょう」
「…そうだな」
「些細なことでも全て報告するよう伝えてあります。…彼が拒絶されなければ、恐らくは大丈夫でしょう」
「………」
そこが一番の問題なのだが、あまり深くは考えたくない。
「バルドル様にも報告を。…ただ、この件は内密に進めた方がいいでしょう。今のアドニスは、不安定で危うい」
「分かってる。なんとか俺達に一任してもらえないか、話をつける必要があるな」
正直、一任されたところで、自分達になにか出来ることがあるとは到底思えなかった。
それでも、少なからずアドニスと接触した者同士、その変化の異常さを理解しているだけ、他の者よりはまだマシだろう。
「日に一度、話す場を設けましょう」
「ああ、頼む」
話が纏まり、バルドル神へ事の次第を報告するために互い席を立った。まだ顔色の悪いルカーシュカに気づき、そっと声を掛ける。
「…あまり、気に病まないで下さいね」
「…すまん。あそこまで怯えられるとは思ってなくてな…よほど俺が恐ろしいんだろうな」
自虐気味に笑うルカーシュカに、それ以上なにも言えず口を噤んだ。
───自分もまた、罪を犯したのだ。
怯えていたアドニスを、切り捨てるように振り払い、当然のようにその存在を忘れた。
手を伸ばすことが出来たはずなのに、ただ見捨てたのだ。
(…どの口で…)
目を開いたアドニスの瞳に映っていたのはルカーシュカだけではない。確かに自分のことも見ていた。
アドニスにとって恐ろしかったのは、ルカーシュカだけではないはずだ。きっと自分のことも、恐ろしいのだろう。
そう考えるだけで、重く暗いものがのし掛かったように気持ちは沈んだ。
(…今は、考えるだけ無駄でしょう)
ただの違和感で片付けるには、済まされないほど大きくなっていた変化。
見て見ぬフリで放置し続けたそれは、予想以上に深刻なものとなっていた。
(せめて、側に置いてきた彼を受け入れてくれるといいのですが…)
なんとか会話だけでも出来る様になれば…そんなことを考えながら、ルカーシュカと二人、バルドル神の元へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
イヴァニエと2人で訪れた宮廷の端は、想像していなかった程に暗い場所だった。
照明も落とされ、人の気配すらしないそこは、不気味なほどに静まり返っていた。
結界が張られているとばかり思っていた一帯は、なんの柵もなく、目の前の扉には鍵すら掛かっていなかった。
その事実に驚くと同時に、アドニスは部屋の扉が難無く開くということすら知らなかったのでは…という考えが浮かぶ。
まさか、そんな、…そう思いつつ、なぜか否定しきれない思考のまま開いた扉の先は、暗闇だった。
窓の外から見ていた時も気づいていたが、完全に閉め切られ、光を遮断した室内は予想していた以上に暗く、動揺した。足
を踏み入れた先は暗く静かで、物と呼べるものがほとんど無い、殺風景な空間だった。
更には、その部屋にいるはずのアドニスの姿すら無い。そのことに不安は募り、ますます動揺した。
そんな不安のまま踏み込んだ寝室。
大きなベッドの上で丸まって眠るアドニスがあまりにも小さく見えて、落ち着かない気持ちにさせた。
ふと、その枕元に見慣れた白い物が見えて、それに視線は釘付けになった。
砂白───草花の亡骸が結晶化した純白のそれが、枕元に散らばっていた。
考えなくても分かった。プティ達がアドニスに贈ったのだ。
バルコニーの外、小さな山となったそれと同じ花を、アドニスは受け取り、枕元に置いていたのだろう。
それに気づいた瞬間、堪らない気持ちになった。と同時に、結晶化するほど長い間、それがずっとそこにあったのだろうかという疑問が沸いた。…が、そんな疑問もイヴァニエの大声により霧散した。
言われるがまま触れたアドニスの肌は、死を瞬時に思い浮かべるほど冷たかった。
何故、どうして。
そんなことを考える暇もなく、純粋に救いたい一心で聖気をその身に送った。
弾かれる前提で譲渡した聖気…だが不思議なことに、弾かれるはずだった聖気は一切の抵抗もなく、全てアドニスへと吸い込まれていった。
予想外の出来事に驚いたが、それでも握った手首に僅かに熱を感じ、ホッとした瞬間だった。
───泣き叫ぶような悲鳴に、全身が凍りついた。
まるで化け物でも見たかのように、恐怖の色に染まった瞳に、ただショックを受けた。小さく丸まった体は、全てを拒絶していた。
鼓膜に届いた震える泣き声と、視界に映った怯える背中。
真っ暗な部屋も、聖気の尽きかけた冷たい体も、悲痛な叫びも、自分が傷つけてしまったが故に、ここまで追い込んでしまったのではないか…そんな考えに血の気が引き、眩暈がした。
イヴァニエに声を掛けられるまで、泣き続けている背中を茫然と見つめていることしか出来なかった。
ここに居るだけでアドニスを怯えさせる…そんな容赦のない現実から逃げるように部屋を出る間際、ある物の存在を思い出し、踵を返した。
枕元に落ちていた純白のそれを集めると、そっと手の内に隠した。あのままにしておいて、いつの間にか無くなってしまってはいけないと思ったからだ。
花としての形は残っていなくとも、ただの砂白として片付けていいものではないと、そう思ったのだ。
宮廷を後にし、訪れたイヴァニエの離宮で、あの日の出来事を全て話した。
そのことを、嘘だと否定するでもなく静かに聞いてくれたイヴァニエにも、何か心当たりがあるようだった。
まるで別人のようになってしまったアドニス。その原因が何かは分からない。
それでも、今までの傍若無人なアドニスと同一視していいとは思えなかった。…とても、そんな風には思えなかった。
鼓膜の奥に張り付いた泣き声と悲鳴に、心はジクジクと痛んだ。
アドニスに対して、胸が痛むということ。
自分自身、信じられないことだが、もうそれを否定することすら出来なかった。
何がどうなっているのか、何も分からない状態だが、せめてアドニスを想うプティ達の気持ちだけは、きちんと届けたいと、そう思った。
手の中に隠した砂白は、片手に収まるほどの小瓶に詰めて、大切に保管した。
アドニスに愛されたのであろう花の亡骸を、いつか彼の手元に返すために───…
目を覚ましたアドニスの反応は、あまりにも予想外で、信じられないものだった。
悲痛な色に染まった悲鳴を上げ、転げるようにベッドの上を這いずると、反対側の端まで逃げていった。
明らかに私達から逃げようとするその行動と響いた悲鳴に、言葉を失った。
「ア、ァ、ぁ、やだ…やだ…っ!!」
ベッドの端まで辿り着くと、それ以上動けなくなったのか、アドニスは逃げ場を失った体を隅に寄せ、身を守るようにシーツの中に丸まった。
乱暴に振り払われた左手がジン…と痛んだが、もはや些細なことだった。
目にした光景は異常としか言えないもので、思考も固まったまま、身動きすることすらできなかった。
ベッドの隅で、震えながら縮こまっている人物…それが“あの”アドニスだということが信じられず、ただ茫然とその場に立ち尽くした。
「ア、ドニ───」
「ヒッ! や…っ!!」
決して近づこうとした訳ではない。
振り払われたまま宙に浮いていた左手を、無意識の内に、ほんの少しだけ伸ばしただけだった。
それすら恐れるように後退った体。ベッドの端に寄っていたはずの体は、その先が無いことにすら気づいていないようだった。
「…っ、馬鹿! それ以上は───」
咄嗟にルカーシュカが声を上げたが、既に遅かった。
ドタンッ! ガッ! バキッ! ブチブチブチッ───…
グラリと揺れ、視界から消えたアドニスの体は、ベッドの反対側へと消えていった。
重いものが落ちる鈍い音と共に聞こえたのは、布が裂ける音。落ちる瞬間に掴んだのか体に引っかかったのか、天蓋の一部が天井から外れ、布が引き千切られていた。骨組みの一部は壊れ、ダラリと垂れた布がアドニスの上に落ちていく。
「おい…!」
一瞬の出来事をただ呆けて見ていることしか出来なかった中、いち早く意識を取り戻したルカーシュカが動いた。
反対側へと回り込み、アドニスへと近寄ろうとした時だった。
「来ないでっ!!!」
泣くような叫び声が響き、ルカーシュカの動きがピタリと止まった。
「嫌だ!! 来ないでっ!! 来ないでぇ…っ!!」
引きずられ、ベッドから落ちたシーツと、天蓋の布の中に埋もれるように身を小さくして震えるアドニス。
憐れなまでのその姿に、声を発することすら忘れた。
シンと静まり返った部屋の中、弱々しい泣き声が耳に届き、思わず息を呑んだ。
(…泣、いて……)
泣いていた。あのアドニスが。
自身の鼓膜を疑うような嗚咽を含んだその声は、確かに泣いていて、だがその声の主がアドニスだということに脳は混乱していた。
「っ…、ひっ、…っ、なんで…っ、なにも…してな…っ、なにもしてなぃ…っ」
纏まらない思考のまま、聞こえてきたのはか細く小さな声。
弱々しく震える泣き声と、耳を塞いだままこちらに背を向け、怯えた動物のように丸まったアドニス。
その姿を目の前に、声を掛けることはおろか、近寄ることすらできず沈黙が流れた。
ふと視線を横へと流せば、血の気の引いた顔で立ち尽くすルカーシュカが視界に映った。
よほどショックだったのか、その顔からは表情が抜け落ち、後退るようにフラリとその体が蹌踉めいた。
───このままでは、双方に良くない。
自分自身、動揺が大きく、冷静な判断ができそうになかったが、それだけは分かった。
一旦この場を離れるべきだ…そう思いつつ、気に掛かるのはアドニスのことだった。
恐れ、怯え、泣いて震えるアドニスをこのまま放置していけるほど薄情にはなれなかった。
「……誰か、来れますか」
独り言のように声を発すれば、背後でふわりと空気が動く気配がした。
「此処に」
瞬間、それまでそこにいなかったはずの人影がスッと現れた。
「…ああ、あなたなら任せられますね」
気配も音もなく現れたのは、自分の側仕えである天使だった。
「暫くの間、アドニスの…彼の世話を任せたいのですが、よろしいですか?」
「承りました」
相手があのアドニスだと伝えても、一瞬の動揺も躊躇いもなく、粛々とした態度で返事をする姿にホッとする。
感情の起伏の少ない彼は、淡々としているが故に冷たい印象を与えるが、その仕事ぶりは丁寧で安心できる子だった。
「今のアドニスは少々…かなり、様子がおかしい状態です。あなたに危害を加えるようなことはないと思いますが…いえ、とにかく側にいて様子を見ていて下さい。…恐らく最初は怯えるでしょうから、不用意に近づかないよう、気をつけなさい」
「…畏まりました」
“怯える”というところに引っかかったのか、彼にしては珍しく返事が遅れたが、それでも表情を変えなかったのは流石だ。
「日に一度、どんなに些細なことでも構いません。側にいて気づいたことや、何か変化があれば必ず報告を。よいですね」
「仰せのままに」
手本のような礼の形を取ると、彼はスッと背後から移動し、扉の脇へと移動した。
それを見届けてから、未だにアドニスを見つめたまま固まっているルカーシュカに声を掛ける。
「ルカーシュカ」
「っ、あ、ああ…」
「…今日のところは一旦戻りましょう。これ以上この場にいるのは、あなたにも良くない」
「……そう、だな…」
そう言いながらもアドニスが気になるのか、横目でその姿を確認しながら、ぎこちない動きで扉へと向かう。
とその間際、視線をアドニスからベッドへと移したルカーシュカの足が止まった。
「どうしました?」
不思議に思って声を掛けるが、ルカーシュカは無言のままベッドへと近寄ると、そっと身を屈めた。
アドニスが眠っていたベッドの脇…落ちた側とは反対側の枕元に、ルカーシュカが手を伸ばす。
ほんの数秒、僅かに手元を動かす動作をした後、踵を返した彼がこちらに戻ってきた。
「なにかありましたか?」
「…いや、大したことじゃない」
言葉を濁したまま扉へと向かうその背を追いながら、チラリとアドニスの様子を伺う。
耳を塞いだまま背を向けている彼は、恐らく私達が居なくなったことにすら気づかないのだろう。
(…どういうことでしょう…)
疑問と疑念よりも、動揺と混乱、それと認めたくないが、拒まれたことへのショックが大きかった。
気になることばかりだが、この場に留まったところで、確実に事態は悪化するだけだろう。
扉を通り過ぎる一瞬、側仕えの彼に視線だけ送れば、心得たと言うように深々と頭を下げる礼が返ってきた。
…今は、彼に任せるしかないのだろう。
若干の名残惜しさのようなものを残しながら、静かに扉を閉めた。
アドニスの元を離れると、ルカーシュカを連れて自身の離宮へと帰ってきた。
話しをするにも、多くの者が出入りする宮廷で、どこで誰の耳に入るか分からない会話をするのは憚られたからだ。
広い部屋の中、従者達も全員下がらせ、向かい合って座った二人の間には重い沈黙が流れた。
「………」
「………」
押し黙ったままのルカーシュカは相変わらず顔色が悪く、悲壮感さえ漂っていた。その様子から、アドニスの異常とも言える変化と関係しているのは明らかだった。
「…大丈夫ですか?」
なにが、とは聞かない。…聞けない。自分自身、なにに対して聞いてるのかさえ定かではないからだ。
「……ああ…」
帰ってきた返事はひどく沈んでいて、とても大丈夫そうには聞こえなかった。
「…あえて聞きますよ。アドニスのあの変わり様はなんです?」
他にどう聞けばいのかも分からず、単刀直入に切り出した。
「…知らん」
「はい?」
「俺も…アイツの様子がおかしいと思ったんだ。…それを、なにがおかしいのかを、確かめるために行ったんだが…それが……」
はぁ、と吐かれた溜め息は重苦しいものだった。
「おかしいというのは…いえ、様子がおかしいのは分かります。あなたはいつ…なぜ、そう感じたのですか?」
「……もう、かなり前の話なんだが───」
そう言って、ポツリ、ポツリと話し出したルカーシュカの話は、あのアドニスの姿を見ていない限り、信じられないものだった。
ヴェラの花畑での邂逅
怯えたアドニス
怒ったプティ達
違和感に気づきつつ、感情のままに詰ってしまったこと、そのせいで傷つけてしまったことが、ずっと気に掛かっていたのだと。
「アイツ相手に、そう思うこと自体信じられなくて…ずっと知らぬフリをしていたんだ…」
その罪悪感から、謹慎中であるアドニスが外を出歩いていたことを報告する気にすらなれなかった、と。
「………」
その話を聞きながら、己にも心当たりがあることに気づき、苦い気持ちになった。
背中の傷を癒すために訪れた時、同じように怯えた目をしていたアドニス。話し方も態度も、全てが別人のように見えた。
深い傷を負いながら、声を上げることもなく、施しに対して素直に感謝の言葉を述べたこと、それら全てに違和感があった。
その全てを、自分は関わりたくないという一心で振り払ったのだ。
ルカーシュカのように違和感をずっと抱き続けることも、そのために行動を取ることすら無かった。
それどころか、今日こうして彼と出会って話すまで、その存在すら忘れていたくらいだ。
(ルカーシュカは、アドニスを傷つけたと言うが…)
それでも、彼は優しいのだろう。
相手があのアドニスだと言うことで偏見こそあったが、それでも『傷つけた』ということをずっと悔やんでいたのだ。
違和感を抱きながらも、煩わしさからそれを切り捨て、無かったことにした自分よりよほど優しいはずだ。
「…っ」
そう自覚した途端、己の薄情さと、傷を癒したのだからもういいだろうと、自己満足だけで終わらせた独りよがりが浮き彫りになり、思わず唇を噛んだ。
脳裏に浮かぶのは、泣いて震えていたアドニス。
背中の傷を癒やした時は、多少は怯えていたように見えたが、それでも目が合った。少なかったが、言葉を交わすこともできた。
それが、今日再会したアドニスはどうだ。
自分達の姿を目にしただけで悲鳴を上げ、逃げていった。
耳を塞ぎ、声を聞くことすら嫌がった。
背を向け、視界に入れることすら拒んだ。
恐れ、怯え、泣き叫んで、全身で拒絶していた。
聖気は枯渇しかけ、恐らくもう数日と気づくのが遅ければ、肉体ごと魂は消滅していただろう。
誰に気づかれることもなく、あの暗闇に閉ざされた孤独な部屋で、その生を終えていたかもしれない───その可能性に気づき、ゾッとした。
それと同時に、もしも、もしも自分があの時感じた違和感を無視せずにいたなら、あの時アドニスと向き合っていたなら、ああなるまで追い詰めることも、傷つけることもなかったのではないか…
それに気づいてしまい、どうしようもない自己嫌悪に駆られた。
「っ…」
恐らく、今の自分の顔色はルカーシュカ以上に悪いだろう。だがそれを言葉にする勇気などなく、ただ押し黙ることしか出来なかった。
長い沈黙の後、口を開いたのはルカーシュカだった。
「……なぁ…アレは誰だ?」
「………」
いつか自分も抱いた、あまりにも馬鹿げた、あり得ない感覚。
それを今は、馬鹿らしいと思えなくなっていた。
見た目は確かにアドニスで間違いないはずなのに、とてもアドニスには見えないという矛盾。
その矛盾に、もう気づかぬフリは出来なかった。
「…言いたいことは分かります。私も同じ気持ちですよ。ただ、今はその疑問に対する答えを確認する術がありません」
「…ああ」
私達を恐れ、拒絶したアドニスに接触するのはほぼ不可能だろう。…今は。
「アドニスの元に、一人側仕えを置いてきました。暫くはその子に様子を見てもらうしかないでしょう」
「…そうだな」
「些細なことでも全て報告するよう伝えてあります。…彼が拒絶されなければ、恐らくは大丈夫でしょう」
「………」
そこが一番の問題なのだが、あまり深くは考えたくない。
「バルドル様にも報告を。…ただ、この件は内密に進めた方がいいでしょう。今のアドニスは、不安定で危うい」
「分かってる。なんとか俺達に一任してもらえないか、話をつける必要があるな」
正直、一任されたところで、自分達になにか出来ることがあるとは到底思えなかった。
それでも、少なからずアドニスと接触した者同士、その変化の異常さを理解しているだけ、他の者よりはまだマシだろう。
「日に一度、話す場を設けましょう」
「ああ、頼む」
話が纏まり、バルドル神へ事の次第を報告するために互い席を立った。まだ顔色の悪いルカーシュカに気づき、そっと声を掛ける。
「…あまり、気に病まないで下さいね」
「…すまん。あそこまで怯えられるとは思ってなくてな…よほど俺が恐ろしいんだろうな」
自虐気味に笑うルカーシュカに、それ以上なにも言えず口を噤んだ。
───自分もまた、罪を犯したのだ。
怯えていたアドニスを、切り捨てるように振り払い、当然のようにその存在を忘れた。
手を伸ばすことが出来たはずなのに、ただ見捨てたのだ。
(…どの口で…)
目を開いたアドニスの瞳に映っていたのはルカーシュカだけではない。確かに自分のことも見ていた。
アドニスにとって恐ろしかったのは、ルカーシュカだけではないはずだ。きっと自分のことも、恐ろしいのだろう。
そう考えるだけで、重く暗いものがのし掛かったように気持ちは沈んだ。
(…今は、考えるだけ無駄でしょう)
ただの違和感で片付けるには、済まされないほど大きくなっていた変化。
見て見ぬフリで放置し続けたそれは、予想以上に深刻なものとなっていた。
(せめて、側に置いてきた彼を受け入れてくれるといいのですが…)
なんとか会話だけでも出来る様になれば…そんなことを考えながら、ルカーシュカと二人、バルドル神の元へと向かった。
◇◇◇◇◇◇
イヴァニエと2人で訪れた宮廷の端は、想像していなかった程に暗い場所だった。
照明も落とされ、人の気配すらしないそこは、不気味なほどに静まり返っていた。
結界が張られているとばかり思っていた一帯は、なんの柵もなく、目の前の扉には鍵すら掛かっていなかった。
その事実に驚くと同時に、アドニスは部屋の扉が難無く開くということすら知らなかったのでは…という考えが浮かぶ。
まさか、そんな、…そう思いつつ、なぜか否定しきれない思考のまま開いた扉の先は、暗闇だった。
窓の外から見ていた時も気づいていたが、完全に閉め切られ、光を遮断した室内は予想していた以上に暗く、動揺した。足
を踏み入れた先は暗く静かで、物と呼べるものがほとんど無い、殺風景な空間だった。
更には、その部屋にいるはずのアドニスの姿すら無い。そのことに不安は募り、ますます動揺した。
そんな不安のまま踏み込んだ寝室。
大きなベッドの上で丸まって眠るアドニスがあまりにも小さく見えて、落ち着かない気持ちにさせた。
ふと、その枕元に見慣れた白い物が見えて、それに視線は釘付けになった。
砂白───草花の亡骸が結晶化した純白のそれが、枕元に散らばっていた。
考えなくても分かった。プティ達がアドニスに贈ったのだ。
バルコニーの外、小さな山となったそれと同じ花を、アドニスは受け取り、枕元に置いていたのだろう。
それに気づいた瞬間、堪らない気持ちになった。と同時に、結晶化するほど長い間、それがずっとそこにあったのだろうかという疑問が沸いた。…が、そんな疑問もイヴァニエの大声により霧散した。
言われるがまま触れたアドニスの肌は、死を瞬時に思い浮かべるほど冷たかった。
何故、どうして。
そんなことを考える暇もなく、純粋に救いたい一心で聖気をその身に送った。
弾かれる前提で譲渡した聖気…だが不思議なことに、弾かれるはずだった聖気は一切の抵抗もなく、全てアドニスへと吸い込まれていった。
予想外の出来事に驚いたが、それでも握った手首に僅かに熱を感じ、ホッとした瞬間だった。
───泣き叫ぶような悲鳴に、全身が凍りついた。
まるで化け物でも見たかのように、恐怖の色に染まった瞳に、ただショックを受けた。小さく丸まった体は、全てを拒絶していた。
鼓膜に届いた震える泣き声と、視界に映った怯える背中。
真っ暗な部屋も、聖気の尽きかけた冷たい体も、悲痛な叫びも、自分が傷つけてしまったが故に、ここまで追い込んでしまったのではないか…そんな考えに血の気が引き、眩暈がした。
イヴァニエに声を掛けられるまで、泣き続けている背中を茫然と見つめていることしか出来なかった。
ここに居るだけでアドニスを怯えさせる…そんな容赦のない現実から逃げるように部屋を出る間際、ある物の存在を思い出し、踵を返した。
枕元に落ちていた純白のそれを集めると、そっと手の内に隠した。あのままにしておいて、いつの間にか無くなってしまってはいけないと思ったからだ。
花としての形は残っていなくとも、ただの砂白として片付けていいものではないと、そう思ったのだ。
宮廷を後にし、訪れたイヴァニエの離宮で、あの日の出来事を全て話した。
そのことを、嘘だと否定するでもなく静かに聞いてくれたイヴァニエにも、何か心当たりがあるようだった。
まるで別人のようになってしまったアドニス。その原因が何かは分からない。
それでも、今までの傍若無人なアドニスと同一視していいとは思えなかった。…とても、そんな風には思えなかった。
鼓膜の奥に張り付いた泣き声と悲鳴に、心はジクジクと痛んだ。
アドニスに対して、胸が痛むということ。
自分自身、信じられないことだが、もうそれを否定することすら出来なかった。
何がどうなっているのか、何も分からない状態だが、せめてアドニスを想うプティ達の気持ちだけは、きちんと届けたいと、そう思った。
手の中に隠した砂白は、片手に収まるほどの小瓶に詰めて、大切に保管した。
アドニスに愛されたのであろう花の亡骸を、いつか彼の手元に返すために───…
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