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リリィ・ラムの産ぶ声
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アドニスとして生まれた魂が生を受けたのは、神と天使達が住まう天界と呼ばれる世界だ。
人間達が住まう人間界とは異なる次元にあり、人間界側からはその存在を感知することはできないが、天界からは人間界に干渉、関与することができる世界。
人間界に住まう、生きとし生けるもの全ての命を見守り、見届けるのが神や天使達の役目だ。
天界に存在する神は最高神であるバルドルのみであり、他に二十数人の大天使が存在し、神の手足となって、それぞれが与えられた役目を担っていた。
『御使い』とも呼ばれる彼らは、純天使、天使、大天使と三階級に分かれており、姿形が異なった。
純天使は赤ん坊の姿、天使は少年から青年の姿、そして大天使は、青年以上の姿であり、背中に二対四枚の翼を携えていた。
純天使として生まれた彼らは、ある過程を経て徐々に成長してゆき、やがて大天使となる。
但し、大天使になれる者は数多といる天使達の内のほんの一握りであり、ほとんどの者は純天使や天使の姿のまま一生を過ごした。
そんな天使達には寿命が存在しない。その命を奪われることがない限り、半永久的に生き続けるのだ。
永い時を生きる彼らには基本的に『死』という概念がなく、『命の湖』と呼ばれる湖に還ることで、その命と役目を天界という大地と、父であり神であるバルドルへと返上し、天寿を全うしたとみなされる。
そうして還った命は、永い年月を経てまた天界へと孵り、命を循環させていた。そこに『死』という考えは無かった。
但し、寿命的な『死』が無いとはいえ、不死という訳ではない。
俘虜の事故や、治癒や自己再生が間に合わないような大怪我、心臓を一突きなどされれば天使とて死ぬ。
そうなった場合、その魂は命の循環の輪から外れ、消滅する。未来永劫、還ることも孵ることもないのだ。
罰を受け、翼と同時に大量の聖気を失ったことで魂が消滅した『アドニス』は、この輪から外れた。
この時、僅かに体内に残っていた聖気はアドニスの意識に引きずられ、肉体と魂の解離を『死』として認識することが出来なかった。
その為、空っぽになってしまった器を、遺された肉体を維持する為に、聖気は新たな魂を産んだ。
そうして生まれた魂は、遺された肉体の新たな主となり、アドニスと呼ばれるようになったのだ。
聖気とは命の源であり、天界に存在するありとあらゆる物全てに含まれている目には見えない力だ。
天使達は聖気が満ちた大樹の花の蕾から生まれ、同じく聖気で満ちた命の湖へと還る。
命の源、生命そのものとも呼べる聖気から新たな命が生まれること自体はおかしいことではない。だが肉体をそのままに、魂だけを入れ替えるというのはイレギュラーであり、万が一にも起こってはいけない事態だった。…それが起こってしまった。
結果、生まれたばかりの純天使同様の無垢な魂は、蔑まれ、疎まれ、なにも知らないまま孤独へと追いやられた。
アドニスが天使達を心底恐れるのは、生まれた瞬間の光景に恐怖を抱いているからだけではない。
その魂が純天使同様、純粋で無垢であるが故、悪意や害意となるものに敏感だからだ。
自身を傷つけるもの、敵意をもつもの、怒りや憎悪といったものすべてが、その魂には耐え難いほどの苦痛と恐怖を与えた。
重度の恐怖に疲弊し摩耗した魂は、一筋の光すら届かない暗闇の中、無意識の内に生きることを諦めていた。
アドニスが知らないだけで、天使にとって陽の光を浴びることは、生命を維持するために必要不可欠な行為だった。
基本的に食事を必要としない天使達だが、あくまで“基本的に”である。
生命維持だけであれば、陽の光を浴びることでそれが栄養となり、ひいては命そのものである聖気となる。だがそれだけでは補いきれない分があり、それらを食事という形で賄っていた。
生まれたばかりのアドニスは、その必要性こそ理解していなかったが、本能的に陽の光を浴びることを好んでいた。その影響で自己再生能力は活発に働き、少しずつだが傷は癒えていった。
逆に、陽の光を充分に浴びることができなけば、それだけ自己再生能力は衰えていく。生命を維持する為に栄養を費やせば、残るものなどほとんど無いからだ。
食事も摂らず、陽の光さえ満足に浴びることのなくなった体は、擦り減っていく聖気と比例するように、徐々に活動範囲を狭めていった。
負った傷は癒えることなく、外部から癒しを施してもらわなければ治らなくなる。
満足に栄養素を取り込めなかった体は、起きて活動することすらままならず、一日の大半を寝て過ごすようになる。
月の光に含まれる僅かな光でようやく動いていた体も、それすら絶たれれば命を維持できなくなる。
その為、アドニスは本人すら感知していないところで、本能的に活動することを止めた。
命の源である聖気が尽きれば、その魂は循環の輪に還ることも出来ずに散ってしまう。
眠るという行為で、肉体を仮死状態とし、極力聖気の消耗を抑えたのだ。
身動きもせず、意識すらなく、ただ静かに呼吸を繰り返すだけの肉体…それでも、完全に消耗を抑えることはできなかった。
栄養素である陽の光を浴びない限り、ゆっくりゆっくりと聖気は削られていく。
せめて何か口にしていたなら、食事という行為を行っていたならば、ここまで追い込まれることはなかった。
それが天使という存在であること、そうであるが故に飢えを感じない体であること、そのせいで当たり前に行うべき食事という行為を『不必要なもの』と断定してしまったことで、アドニスの魂は緩やかに死へ向かっていた。
突然命を与えられた魂は祝福されることもなく、その最期すら見届けられぬまま、消滅しかけていた。
そんな状況になるまで、アドニスが放置され続けてしまったのもまた問題だった。
ただそれも、結局は以前の『アドニス』が撒いた種が元凶だった。
世話をするよう言いつけられた天使達は皆、『アドニス』を疎み、避け、傲慢で乱暴者のアドニスに近づくことすら嫌がった。
それでも言いつけに背くことは出来ず『アドニス』からなにか要求された時だけ応えるつもりだった。その為、なんの要求もしてこないアドニスは放置され続けた。
同じように、何も無い部屋も『アドニス』なら勝手に部屋の中を整え、自分好みに取り揃えるよう命令するだろう、とあえて最初から何も置いていなかったのだ。
手当てされぬままだった背中の傷も、何も無い部屋も、ただ放置されたのも、すべてその対象が『アドニス』だったからだ。
アドニスなら───
どうせアドニスのことだから───
アドニスなんて───
そんな認識が当たり前で、誰一人、そのことに疑問すら抱かない。
心配する者はおろか同情する者すらいない状況で、誰も彼もがアドニスが放置され続けていることなど知る由もなく、それどころかその存在すら記憶から消していく。
侮蔑の対象であり、罰を受け、天使の資格すら失った者に対して、それは非情ではなく当然の感情だったのだろう。
その対象となる者は、とうにいなくなったというのに───…
嫌い、蔑み、一切の関わりを持とうとしなかった天使達と
恐れ、傷つき、声を上げることすら出来なかった幼い魂
『アドニス』という存在が変質してしまったこと。
それに気づくことができなかったが故のすれ違いにより、事態は悪化の一途を辿り続けた。
暗い暗い微睡みの底から、ふと浮かび上がった意識。
開いたはずの瞼に映る視界は暗く、目が覚めたのだと認識するまでに時間がかかった。
(………ずいぶん…長く……寝ていた気がする…)
体を動かすことはおろか、視線を動かすことすらままならないほど重い意識の中、何も見えない暗闇の一点を見つめた。
この時既に、最後にアドニスが目を覚ましてから約半年という月日が流れていた。眠っていたアドニスがそのことを知るはずもなく、それでもなんとなく、長く眠っていたのだろうと本能的に察していた。
(…このまま……死ぬんだろうか……)
浅く細い呼吸をゆっくりと繰り返しながら、ぼんやりとそんなことを思う。
悲観的でも自虐的でもなく、ただあるがまま、それが当然のことであるかのように自然とそんな考えが頭に浮かんだ。
眠り続け、指先すら動かすことも出来ず、布団の中にいて尚冷たい体。命が終わりに向かっているのだろうことには薄々気づいていた。
(別に…構わないけれど……)
望みも希望もないように、悲しみも恐怖もない。
自分の呼吸音以外なにも聞こえない静寂の中、このまま眠るように静かに最期を迎えられたなら、それだけで充分だと思えた。
(……あの子達は…元気かな…)
脳裏に浮かぶのは、可愛らしい赤ん坊達の姿。大好きな、優しい子達。
自分に唯一優しくしてくれた、奇跡のような存在。
記憶に残る中でたった一つだけ、大事だと思える大切な思い出。
その姿を思い浮かべるだけで、温かく優しい気持ちになれた。
穏やかな気持ちのまま、美しい夢を瞼の裏に閉じ込めるように、暗闇の中でそっと瞳を閉じる。
(……忘れて…くれてたらいいな…)
あの優しい子達は、きっと自分がいなくなったら悲しんでくれるだろう。
与えられるばかりで、なにも返せなかった自分のために、泣いてくれるかもしれない。
…それが嫌だった。自分のことで悲しんでほしくなかった。
憂いにも翳りにもなりたくない。
ただ笑っていてくれたならそれでいい。
それだけでなにより幸せだと、長く会ってない自分のことなど、もう忘れていますようにと、強く願った。
自分だけでも覚えていられたなら、記憶に刻んで逝けたなら、それだけで充分だと、心から思ったのだ。
乞い願うようなささやかな祈り───…
数十秒にも満たない僅かな覚醒の後、これが最後になるのだろうと、深い眠りに落ちるように、アドニスは意識を手放した。
人間達が住まう人間界とは異なる次元にあり、人間界側からはその存在を感知することはできないが、天界からは人間界に干渉、関与することができる世界。
人間界に住まう、生きとし生けるもの全ての命を見守り、見届けるのが神や天使達の役目だ。
天界に存在する神は最高神であるバルドルのみであり、他に二十数人の大天使が存在し、神の手足となって、それぞれが与えられた役目を担っていた。
『御使い』とも呼ばれる彼らは、純天使、天使、大天使と三階級に分かれており、姿形が異なった。
純天使は赤ん坊の姿、天使は少年から青年の姿、そして大天使は、青年以上の姿であり、背中に二対四枚の翼を携えていた。
純天使として生まれた彼らは、ある過程を経て徐々に成長してゆき、やがて大天使となる。
但し、大天使になれる者は数多といる天使達の内のほんの一握りであり、ほとんどの者は純天使や天使の姿のまま一生を過ごした。
そんな天使達には寿命が存在しない。その命を奪われることがない限り、半永久的に生き続けるのだ。
永い時を生きる彼らには基本的に『死』という概念がなく、『命の湖』と呼ばれる湖に還ることで、その命と役目を天界という大地と、父であり神であるバルドルへと返上し、天寿を全うしたとみなされる。
そうして還った命は、永い年月を経てまた天界へと孵り、命を循環させていた。そこに『死』という考えは無かった。
但し、寿命的な『死』が無いとはいえ、不死という訳ではない。
俘虜の事故や、治癒や自己再生が間に合わないような大怪我、心臓を一突きなどされれば天使とて死ぬ。
そうなった場合、その魂は命の循環の輪から外れ、消滅する。未来永劫、還ることも孵ることもないのだ。
罰を受け、翼と同時に大量の聖気を失ったことで魂が消滅した『アドニス』は、この輪から外れた。
この時、僅かに体内に残っていた聖気はアドニスの意識に引きずられ、肉体と魂の解離を『死』として認識することが出来なかった。
その為、空っぽになってしまった器を、遺された肉体を維持する為に、聖気は新たな魂を産んだ。
そうして生まれた魂は、遺された肉体の新たな主となり、アドニスと呼ばれるようになったのだ。
聖気とは命の源であり、天界に存在するありとあらゆる物全てに含まれている目には見えない力だ。
天使達は聖気が満ちた大樹の花の蕾から生まれ、同じく聖気で満ちた命の湖へと還る。
命の源、生命そのものとも呼べる聖気から新たな命が生まれること自体はおかしいことではない。だが肉体をそのままに、魂だけを入れ替えるというのはイレギュラーであり、万が一にも起こってはいけない事態だった。…それが起こってしまった。
結果、生まれたばかりの純天使同様の無垢な魂は、蔑まれ、疎まれ、なにも知らないまま孤独へと追いやられた。
アドニスが天使達を心底恐れるのは、生まれた瞬間の光景に恐怖を抱いているからだけではない。
その魂が純天使同様、純粋で無垢であるが故、悪意や害意となるものに敏感だからだ。
自身を傷つけるもの、敵意をもつもの、怒りや憎悪といったものすべてが、その魂には耐え難いほどの苦痛と恐怖を与えた。
重度の恐怖に疲弊し摩耗した魂は、一筋の光すら届かない暗闇の中、無意識の内に生きることを諦めていた。
アドニスが知らないだけで、天使にとって陽の光を浴びることは、生命を維持するために必要不可欠な行為だった。
基本的に食事を必要としない天使達だが、あくまで“基本的に”である。
生命維持だけであれば、陽の光を浴びることでそれが栄養となり、ひいては命そのものである聖気となる。だがそれだけでは補いきれない分があり、それらを食事という形で賄っていた。
生まれたばかりのアドニスは、その必要性こそ理解していなかったが、本能的に陽の光を浴びることを好んでいた。その影響で自己再生能力は活発に働き、少しずつだが傷は癒えていった。
逆に、陽の光を充分に浴びることができなけば、それだけ自己再生能力は衰えていく。生命を維持する為に栄養を費やせば、残るものなどほとんど無いからだ。
食事も摂らず、陽の光さえ満足に浴びることのなくなった体は、擦り減っていく聖気と比例するように、徐々に活動範囲を狭めていった。
負った傷は癒えることなく、外部から癒しを施してもらわなければ治らなくなる。
満足に栄養素を取り込めなかった体は、起きて活動することすらままならず、一日の大半を寝て過ごすようになる。
月の光に含まれる僅かな光でようやく動いていた体も、それすら絶たれれば命を維持できなくなる。
その為、アドニスは本人すら感知していないところで、本能的に活動することを止めた。
命の源である聖気が尽きれば、その魂は循環の輪に還ることも出来ずに散ってしまう。
眠るという行為で、肉体を仮死状態とし、極力聖気の消耗を抑えたのだ。
身動きもせず、意識すらなく、ただ静かに呼吸を繰り返すだけの肉体…それでも、完全に消耗を抑えることはできなかった。
栄養素である陽の光を浴びない限り、ゆっくりゆっくりと聖気は削られていく。
せめて何か口にしていたなら、食事という行為を行っていたならば、ここまで追い込まれることはなかった。
それが天使という存在であること、そうであるが故に飢えを感じない体であること、そのせいで当たり前に行うべき食事という行為を『不必要なもの』と断定してしまったことで、アドニスの魂は緩やかに死へ向かっていた。
突然命を与えられた魂は祝福されることもなく、その最期すら見届けられぬまま、消滅しかけていた。
そんな状況になるまで、アドニスが放置され続けてしまったのもまた問題だった。
ただそれも、結局は以前の『アドニス』が撒いた種が元凶だった。
世話をするよう言いつけられた天使達は皆、『アドニス』を疎み、避け、傲慢で乱暴者のアドニスに近づくことすら嫌がった。
それでも言いつけに背くことは出来ず『アドニス』からなにか要求された時だけ応えるつもりだった。その為、なんの要求もしてこないアドニスは放置され続けた。
同じように、何も無い部屋も『アドニス』なら勝手に部屋の中を整え、自分好みに取り揃えるよう命令するだろう、とあえて最初から何も置いていなかったのだ。
手当てされぬままだった背中の傷も、何も無い部屋も、ただ放置されたのも、すべてその対象が『アドニス』だったからだ。
アドニスなら───
どうせアドニスのことだから───
アドニスなんて───
そんな認識が当たり前で、誰一人、そのことに疑問すら抱かない。
心配する者はおろか同情する者すらいない状況で、誰も彼もがアドニスが放置され続けていることなど知る由もなく、それどころかその存在すら記憶から消していく。
侮蔑の対象であり、罰を受け、天使の資格すら失った者に対して、それは非情ではなく当然の感情だったのだろう。
その対象となる者は、とうにいなくなったというのに───…
嫌い、蔑み、一切の関わりを持とうとしなかった天使達と
恐れ、傷つき、声を上げることすら出来なかった幼い魂
『アドニス』という存在が変質してしまったこと。
それに気づくことができなかったが故のすれ違いにより、事態は悪化の一途を辿り続けた。
暗い暗い微睡みの底から、ふと浮かび上がった意識。
開いたはずの瞼に映る視界は暗く、目が覚めたのだと認識するまでに時間がかかった。
(………ずいぶん…長く……寝ていた気がする…)
体を動かすことはおろか、視線を動かすことすらままならないほど重い意識の中、何も見えない暗闇の一点を見つめた。
この時既に、最後にアドニスが目を覚ましてから約半年という月日が流れていた。眠っていたアドニスがそのことを知るはずもなく、それでもなんとなく、長く眠っていたのだろうと本能的に察していた。
(…このまま……死ぬんだろうか……)
浅く細い呼吸をゆっくりと繰り返しながら、ぼんやりとそんなことを思う。
悲観的でも自虐的でもなく、ただあるがまま、それが当然のことであるかのように自然とそんな考えが頭に浮かんだ。
眠り続け、指先すら動かすことも出来ず、布団の中にいて尚冷たい体。命が終わりに向かっているのだろうことには薄々気づいていた。
(別に…構わないけれど……)
望みも希望もないように、悲しみも恐怖もない。
自分の呼吸音以外なにも聞こえない静寂の中、このまま眠るように静かに最期を迎えられたなら、それだけで充分だと思えた。
(……あの子達は…元気かな…)
脳裏に浮かぶのは、可愛らしい赤ん坊達の姿。大好きな、優しい子達。
自分に唯一優しくしてくれた、奇跡のような存在。
記憶に残る中でたった一つだけ、大事だと思える大切な思い出。
その姿を思い浮かべるだけで、温かく優しい気持ちになれた。
穏やかな気持ちのまま、美しい夢を瞼の裏に閉じ込めるように、暗闇の中でそっと瞳を閉じる。
(……忘れて…くれてたらいいな…)
あの優しい子達は、きっと自分がいなくなったら悲しんでくれるだろう。
与えられるばかりで、なにも返せなかった自分のために、泣いてくれるかもしれない。
…それが嫌だった。自分のことで悲しんでほしくなかった。
憂いにも翳りにもなりたくない。
ただ笑っていてくれたならそれでいい。
それだけでなにより幸せだと、長く会ってない自分のことなど、もう忘れていますようにと、強く願った。
自分だけでも覚えていられたなら、記憶に刻んで逝けたなら、それだけで充分だと、心から思ったのだ。
乞い願うようなささやかな祈り───…
数十秒にも満たない僅かな覚醒の後、これが最後になるのだろうと、深い眠りに落ちるように、アドニスは意識を手放した。
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