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4.馬鹿息子
しおりを挟む「この、馬鹿息子が!!!!」
ーーバチンッッ!!
父親であるフロックス伯爵の執務室に呼び出されたマークは、部屋に入るなり父から平手打ちを食らった。
マークがアリシアにしたものとは比べものにならない威力に、平手とはいえマークの身体がよろめいた。
三日前、学園から謹慎を食らった時でさえここまで叱られなかったのに、なぜ今になって、という思いがマークの頭をよぎる。
「なんてことをしてくれたんだ! まさか違反行為だなどとーーもう弁解のしようもないわ!!」
フーッ、フーッと抑えきれぬ怒りをなんとか鎮めようと、フロックス伯爵は深呼吸を繰り返している。
伯爵の左手には何かの書類が握られており、マークは聞かずともそれがアリシアとの婚約に関する書類なのだとわかった。
けれど父親の言っていることの意味はよく分からず、三日前アリシアの頬を引っ叩いたのはさすがに少しやり過ぎたか、などと呑気に考えていた。
「しかもキャロルとかいう娘、よりにもよってあの……はあぁぁ」
大きなため息をつき、ガックリと項垂れる父親を見て、マークはどうしてこんなに落胆しているのか正直よくわからなかった。
「お言葉ですが父上、キャロルとは今だけの関係ですよ。心配なさらずともアリシアは僕に心底惚れています。今回のことはきっと僕の気を引くために
ーーパシ‼︎
「もうそんな次元の話ではないことが、まだわからんのか!」
今度は平手打ちではない。
伯爵は握りしめていた書類を息子の顔に向かって投げつけた。
怒りに震え、伯爵の顔はもう真っ赤を通り越して若干黒みがかっている。
「フーッ、フーッ」
「旦那様、どうぞこちらへ。お身体に障りますゆえ、お掛けになってこちらをお飲みください」
家令が伯爵の身体に手を添え、ソファへと誘導する。
血圧の高い伯爵のため、どうやら心を落ち着かせるハーブティーを入れたようだった。
伯爵はそれを口に含み、ふぅと大きく息を吐き出した。
彼なりに落ち着いて話そうと努力しているのだろうが、息子のほうが無自覚に地雷を踏んでくるのだ。
「もう良い。もうどうにもならん。アリシアがお前にベタ惚れだったことに安心して、隙を見せたのは私とて同じこと……」
そう言って窓の外を見たきり、伯爵は手振りだけで息子を部屋から追い出した。
◇
自室に戻ったマークは、まずケインに持って来させた氷水にその辺にあったハンカチを浸して頬に当てた。
ひとしきり冷やしてから、先程父親に投げつけられた書類を手に取る。
父にぐちゃぐちゃに握りしめられていたそれをゆっくり広げると、以下のような文言が書いてあった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
貴家と当家の婚約は、貴家のご子息が契約書第44条各項に定める違反行為を行ったため遡って無効となりました。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「は?」
今日一日で、マークは何度この間抜けな声を出したことだろう。
「あの、マーク様? 何て書いてあったのですか?」
心配してケインが覗き込むので、マークはそのまま渡してやった。
「これだけ、ですか。契約書第44条各項って……あっ!」
何か思い出したのか、ケインはクローゼット奥のキャビネットをゴソゴソと漁り始める。
「えーっと、確かこの辺に……あった、ありました! きっとこれですよ、婚約契約書!」
そう言ってケインは王室の紋章が施された封筒を手にマークのもとへ戻ってきた。
貴族同士の婚姻は王家の承認を得ることになっている。それは婚姻の前段階である婚約においても同様で、この封筒、そして契約書自体にも施された箔押しの紋章こそが、これらが正式な書類であることを証明している。
ケインはマークに見えるようにそっと中の書類を取り出した。
「こんなもの、僕は一度も見たことないんだが?」
「私もです。大事な書類だろうなとは思っていたのですが……あ、ここです」
冊子になった契約書をめくり、ケインは指で第44条の箇所を示した。
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