4 / 28
4.馬鹿息子
しおりを挟む「この、馬鹿息子が!!!!」
ーーバチンッッ!!
父親であるフロックス伯爵の執務室に呼び出されたマークは、部屋に入るなり父から平手打ちを食らった。
マークがアリシアにしたものとは比べものにならない威力に、平手とはいえマークの身体がよろめいた。
三日前、学園から謹慎を食らった時でさえここまで叱られなかったのに、なぜ今になって、という思いがマークの頭をよぎる。
「なんてことをしてくれたんだ! まさか違反行為だなどとーーもう弁解のしようもないわ!!」
フーッ、フーッと抑えきれぬ怒りをなんとか鎮めようと、フロックス伯爵は深呼吸を繰り返している。
伯爵の左手には何かの書類が握られており、マークは聞かずともそれがアリシアとの婚約に関する書類なのだとわかった。
けれど父親の言っていることの意味はよく分からず、三日前アリシアの頬を引っ叩いたのはさすがに少しやり過ぎたか、などと呑気に考えていた。
「しかもキャロルとかいう娘、よりにもよってあの……はあぁぁ」
大きなため息をつき、ガックリと項垂れる父親を見て、マークはどうしてこんなに落胆しているのか正直よくわからなかった。
「お言葉ですが父上、キャロルとは今だけの関係ですよ。心配なさらずともアリシアは僕に心底惚れています。今回のことはきっと僕の気を引くために
ーーパシ‼︎
「もうそんな次元の話ではないことが、まだわからんのか!」
今度は平手打ちではない。
伯爵は握りしめていた書類を息子の顔に向かって投げつけた。
怒りに震え、伯爵の顔はもう真っ赤を通り越して若干黒みがかっている。
「フーッ、フーッ」
「旦那様、どうぞこちらへ。お身体に障りますゆえ、お掛けになってこちらをお飲みください」
家令が伯爵の身体に手を添え、ソファへと誘導する。
血圧の高い伯爵のため、どうやら心を落ち着かせるハーブティーを入れたようだった。
伯爵はそれを口に含み、ふぅと大きく息を吐き出した。
彼なりに落ち着いて話そうと努力しているのだろうが、息子のほうが無自覚に地雷を踏んでくるのだ。
「もう良い。もうどうにもならん。アリシアがお前にベタ惚れだったことに安心して、隙を見せたのは私とて同じこと……」
そう言って窓の外を見たきり、伯爵は手振りだけで息子を部屋から追い出した。
◇
自室に戻ったマークは、まずケインに持って来させた氷水にその辺にあったハンカチを浸して頬に当てた。
ひとしきり冷やしてから、先程父親に投げつけられた書類を手に取る。
父にぐちゃぐちゃに握りしめられていたそれをゆっくり広げると、以下のような文言が書いてあった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
貴家と当家の婚約は、貴家のご子息が契約書第44条各項に定める違反行為を行ったため遡って無効となりました。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「は?」
今日一日で、マークは何度この間抜けな声を出したことだろう。
「あの、マーク様? 何て書いてあったのですか?」
心配してケインが覗き込むので、マークはそのまま渡してやった。
「これだけ、ですか。契約書第44条各項って……あっ!」
何か思い出したのか、ケインはクローゼット奥のキャビネットをゴソゴソと漁り始める。
「えーっと、確かこの辺に……あった、ありました! きっとこれですよ、婚約契約書!」
そう言ってケインは王室の紋章が施された封筒を手にマークのもとへ戻ってきた。
貴族同士の婚姻は王家の承認を得ることになっている。それは婚姻の前段階である婚約においても同様で、この封筒、そして契約書自体にも施された箔押しの紋章こそが、これらが正式な書類であることを証明している。
ケインはマークに見えるようにそっと中の書類を取り出した。
「こんなもの、僕は一度も見たことないんだが?」
「私もです。大事な書類だろうなとは思っていたのですが……あ、ここです」
冊子になった契約書をめくり、ケインは指で第44条の箇所を示した。
1,151
お気に入りに追加
3,825
あなたにおすすめの小説
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【コミカライズ・取り下げ予定】アマレッタの第二の人生
ごろごろみかん。
恋愛
『僕らは、恋をするんだ。お互いに』
彼がそう言ったから。
アマレッタは彼に恋をした。厳しい王太子妃教育にも耐え、誰もが認める妃になろうと励んだ。
だけどある日、婚約者に呼び出されて言われた言葉は、彼女の想像を裏切るものだった。
「きみは第二妃となって、エミリアを支えてやって欲しい」
その瞬間、アマレッタは思い出した。
この世界が、恋愛小説の世界であること。
そこで彼女は、悪役として処刑されてしまうこと──。
アマレッタの恋心を、彼は利用しようと言うのだ。誰からの理解も得られず、深い裏切りを受けた彼女は、国を出ることにした。
一方、彼女が去った後。国は、緩やかに破滅の道を辿ることになる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〈完結〉思い上がりも程々に。地味令嬢アメリアの幸せな婚約
ごろごろみかん。
恋愛
「もう少し、背は高い方がいいね」
「もう少し、顔は華やかな方が好みだ」
「もう少し、肉感的な方が好きだな」
あなたがそう言うから、あなたの期待に応えれるように頑張りました。
でも、だめだったのです。
だって、あなたはお姉様が好きだから。
私は、お姉様にはなれません。
想い合うふたりの会話を聞いてしまった私は、父である公爵に婚約の解消をお願いしにいきました。
それが、どんな結末を呼ぶかも知らずに──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します
山科ひさき
恋愛
騎士のロバートに一目惚れをしたオリビアは、積極的なアプローチを繰り返して恋人の座を勝ち取ることに成功した。しかし、彼はいつもオリビアよりも幼馴染を優先し、二人きりのデートもままならない。そんなある日、彼からの提案でオリビアの誕生日にデートをすることになり、心を浮き立たせるが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妻の死で思い知らされました。
あとさん♪
恋愛
外交先で妻の突然の訃報を聞いたジュリアン・カレイジャス公爵。
急ぎ帰国した彼が目にしたのは、淡々と葬儀の支度をし弔問客たちの対応をする子どもらの姿だった。
「おまえたちは母親の死を悲しいとは思わないのか⁈」
ジュリアンは知らなかった。
愛妻クリスティアナと子どもたちがどのように生活していたのか。
多忙のジュリアンは気がついていなかったし、見ようともしなかったのだ……。
そしてクリスティアナの本心は——。
※全十二話。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください
※時代考証とか野暮は言わないお約束
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第三弾。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる