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19.私の大切な人

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『ピロピローン♪♩♬』


「これ、電話なの」
「デンワ?」


あは、キョトン顔のヴィルだ。
やっぱりカワイイ。


『ピロピローン♪♩♬』


いや、そんなことより、早く、出なきゃ、りっくんから着信、切れちゃう、早く・・・


『ピロピローン♪♩♬』


結局、焦るばかりで大して心の準備も出来ないままに私は電話に出た。


「・・・はい」
璃子りこ! 璃子なのか!?』


スピーカーで聴こえるりっくんの声に、反射的にブワッと溢れ出す涙・・・


「ふ・・ふっ・・ふぇぇん・・・」
『璃子!お前、カメラ付けろ、今すぐ顔見せて!』


ビデオ通話でかけたらしく、りっくんはカメラを要求してくる。

私は、今自分が異世界にいて、なんならヴィルの腕の中に閉じ込められていることも忘れちゃって、りっくんに言われるがままカメラをオンにしたら・・・


『だっ、誰だよそいつ!! お前、まさかそいつにさらわれたのか? そんなっ、アニメのコスプレしてるようなやつに!!』


あーッッ!!

「ちっ、ちが! ヴィル・・えっと、この人はね・・・私の恩人なの!!」

私は背後を振り返り、ヴィルの顔を見上げた。
ヴィルは目をこれでもかってくらい見開いて、スマホの画面に映るりっくんをまるで人形のように固まったまま見つめてる。


『その人が恩人・・・?ていうか、お前今どこにいんの? てか、お前のスマホは家に、ずっとお前の机の上に置いてたんだよ!それなのに、さっきいきなりお前の部屋から「あった!」とかってお前の大声が聞こえてさ・・・・・・』


「うん・・・うん・・・」

その後もりっくんは捲したてるようにしゃべり続けた。

あの日、私が急に消えたこと。
あっちの世界も、ここと同じくらいの時間が流れてること。
最初、私が死んじゃったんじゃないかって思ったこと。
でも、そんなことするやつが直前に虹の写真とか送って来るはずないって、きっとどこかで生きてるって家族みんな信じてたこと・・・


それから私も少しずつ、順を追って話していった。


部室のドアを開けたら、異世界の森に迷い込んでたこと。
魔女のウラ婆に拾われて、お世話になっていること。
この人、冒険者のヴィルが命を掛けて手に入れてくれた超希少アイテムのお陰で、今日こうして自分のスマホを手にすることができたこと。



でももう二度と、そっちの世界には戻れないということも・・・







璃子りこ・・・ごめんな。俺、ずっと後悔してた』

「なにを?」

『変に照れて、反発して・・・お前と同じ高校に行かなかったこと・・・』

「ああ・・・」

『俺も北高行ってバレー続けてたら、あの日のお前のこと、ちゃんと守れたかもって・・・』


りっくんはそこから俯いてしまった。
泣いてるの・・・?


『璃子、ごめんな。ごめん・・・守ってやれなくて、ほんとごめんな・・・』


スマホから、りっくんのすすり泣く声が聴こえる。
大きくなってからはもう、りっくんが泣くとこなんて見た事なかったのに。


私はずっと、ぬいぐるみのように後ろからヴィルに抱きしめられてる。
たまにヴィルを見上げるんだけど、私とりっくんが話すのは日本語だからヴィルには内容がわからないみたい。

私、なんにも意識してないのに初日からこの世界の言葉喋れたんだよね。
まぁそこは異世界転移特典かな、と思うことにしてる。


『お前がそっちで幸せなら、俺も・・・俺達もなんとか納得できる・・・外国に嫁に行ったと思えば・・・』


ハハ。
異世界に嫁入りって・・・


でもたしかに、私がこっちで幸せにしてるなら、りっくんも龍兄も遼兄も、お父さんもお母さんだって嬉しいよね。

りっくんの気持ちだってきっと軽くなる。


そこで私は、この長い時間ずーっと黙って背中からぎゅっと包み込んでくれてるヴィルに振り向いた。


ヴィル、あなたのおかげなんだよ。
今この瞬間も私を包んでくれるあなたの優しさに、私はこれまでずっと救われてきたんだよ。


私がこの世界に来て初めて声を上げて笑ったのもヴィルの冗談だったよね。



「ねぇヴィル?」

「どうした?」


これはこっちの世界の言葉。
りっくんにはわからない。


「・・・好き、大好き」

「ーーッッ!!」


銀色の宝石みたいに煌めく瞳を見上げながらそう言ったら、ヴィルは一瞬で耳まで真っ赤になってバッと私の肩口に顔を埋めてしまった。


『おい、璃子、何やってる??』


画面越しのりっくんが、ちょっと複雑な表情でこっちを見てた。


「ふふ、この人、私の大切な人なの」

『・・・そっか』


まだ目元が少し赤いけど、りっくんはもう泣いてなかった。


『おまえ、また話できるよな? 俺今からバイトだから』

「あ、うん。たぶんできると思う。お父さんたちは仕事?」

『ああ、2人ともいつもの出張だ。で、龍兄は去年から一人暮らししてて、遼兄も仕事な」

「・・・そっか」


何気ない、いつもの会話。2年以上もブランクがあったのにね。こうして話してたら、ほんとに外国に暮らしてるだけのような気もしてくるから不思議・・・



ヴィルのおかげで、まさかの通話まで可能になったよ。


『璃子。もしできたら、あとで家族のグループに写真上げてくれ。みんなビックリするから元気な顔見せてやって』

「うん」


『じゃあまたな、璃子』
「うん、またね、りっくん」








またな、だって。
1時間くらいは余裕で話したと思う。

改めて左手のスマホを眺める。
信じられないけどこのスマホ、電池減ってない。っていうか、もはや何を動力にしてるのかもわかんないんだけど。

魔法かな?
そうね、きっとそう。

それで片付けることにして、私の肩口に顔を伏せたままのヴィルに声をかけた。

「ヴィル?」

薄い青紫の不思議な色合いの髪をなでなでしてると、ヴィルがおもむろに顔を上げた。

「ヴィル?」

もう一度呼んで、彼の吸い込まれそうに澄んだ銀色を見つめていたら、


「リ・・コ?」


って。
気取ったとこも、バカっぽいとこもない、素のヴィルが私のことをただ愛しそうに見つめてる。
私は息が止まるくらいビックリして、ほんとに嬉しくて、ただ黙ってこくんと頷いたの。

そしたらヴィルが、


「リコ!」


って、今度は疑問形じゃなくて、すっごい溶けそうな笑顔で嬉しそうに名前を呼んでくれたんだ。


その瞬間、私の頭部を包んでいた見えないはずの魔法の縛りがパリンと弾けて空中に溶けていった。

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