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16.2人っきり 前編

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「あんた‼︎ そりゃ、とんでもない代物だよ!」


ウラ婆の大声で目が覚めた。
ここは・・・あ、私の部屋か。


どうやら一階で、ウラ婆が誰かと話してるみたい。
大声の後、今度はボソボソ話し始めて内容までは聞き取れないけど、聞こえてくる声の感じからして相手はヴィルなのかなぁと思う。

あれ?
そういえば昨日の夜はヴィルを訪ねてってそこでーーーあっ‼︎

私は慌てて起き上がると一気に階段を駆け降りた。
居間に飛び込むと、やっぱりウラ婆とヴィルが立ち話をしてたんだけど、私はそのまま勢いよく二人の間に割り込んだ。


「ヴィル!」


名前を呼びながら、まずは彼の全身をしっかり観察する。

夜の始まりみたいな、あの不思議な青紫色の髪はいつものように背中でひとつに括られてる。
顔に火傷の跡は全くないし、見開かれた銀色の瞳は両目ともしっかり私を見捉えてる。

それから彼の左腕を両手でパンパンと挟み込んで、きちんと袖の中身があることを確認した。

同様に彼の前にしゃがみ込むと、

「うおっ、ちょっ!」

とか、慌てるのも気にせずヴィルの股下に手を突っ込んで腕と同様にパンパンと挟みながら左の足が再生していることも確認した。


「夢じゃないんだ。よかったぁ・・・」


ちゃんと元通りに治ってる。
安心したら身体の力が抜けちゃって、へなへなって床に座り込んでしまった。

いや、座り込みそうになったんだけど、ヴィルが素早く反応したから、私はポスンと彼の腕の中に収まってた。


「おやおや、いきなり寝巻き姿で飛び込んできたと思ったらずいぶんと積極的じゃあないか」


ニヤニヤ笑いながら、からかうようにウラ婆が言った。

たしかに!
このパジャマ、この世界に来てウラ婆が用意してくれたものなんだけど、キャミソールとショートパンツなんだよね。
胸元は谷間見えるくらい開いてるし、何よりテロンテロンのこの生地が大変心もとない。


「ちょっと着替えてくる」

ってヴィルの腕から飛び出そうとしたんだけど、なぜかヴィルが私を抱きしめた腕に力を込めたから抜け出せなくて・・・


「大人しくしてろ。部屋まで連れてってやる」


ヴィルの腕の中に閉じ込められて、思わず見上げると彼のほっぺが少し赤かった。
サル顔でもやっぱりあれか、今の格好はちょっとね・・・

何より私、寝起きだった。
この格好も恥ずかしいし、とにかく一旦下ろして欲しいんだけど。

「連れてってもらいな、コジマ。あんた、昨日魔力切れ起こしたんだよ、記憶あんのかい?
とりあえず、今日は1日休んでな。それに・・・」
 

ウラ婆はそこで一旦言葉を切ると、ニヤけた顔を引きしめて続けた。


「ヴィルがなんであんな無茶したのか、おまえだって知りたいだろう? 誰が来たって通しゃしないさ。だから、二人っきりでゆっくり話してきな」


ウラ婆が珍しく優しい口調で言うもんだから、なんか妙に落ち着かない。

オマケに今はお姫様抱っこですよ。
兄たちに筋トレと称したお姫様抱っこはされたことあるんだけどね。
おっもい、重い言われながら。

でもよその男の人に抱き上げられるのはこれが初めてで、しかもこんなあられも無い格好なのに・・・


「じゃあ頼むぜ、ウラ婆。お言葉に甘えてコジマと二人っきりにさせてもらう」


そう言って、ヴィルは私を抱きあげたまま階段を上がっていく。

布面積の少ないこのパジャマからはみ出た生身の腕や太ももに、ヴィルの手が当たって温かい・・・
なんか恥ずかしくて両手で顔を覆ったら、隠しきれなかったおデコにちゅーされた。

「えっ?!?」

思わず手を外して、真顔でヴィルを見上げる。
そしたら、

「可愛いな、おまえ」

とか、とんでもないことを言われてしまって・・・って、あれ?
ヴィルから触れられたのって初めてだよね・・・??


私を抱いたまま、ヴィルは器用に部屋のドアを開けると、そっとベッドに下ろしてくれた。
とりあえず、置いてあったカーディガンを羽織りながら頭の中を整理する。

ヴィルはというと、ベッドサイドまで椅子を引っ張って来たと思ったらドカッと私のすぐそばに腰かけた。それから、私が引っ掛けただけのカーディガンに指を伸ばして前のボタンを留めてくれた。


「ねぇ、ヴィル?」


ボタンを全て留め終えたヴィルが、もう一度深く椅子に腰かけたところで声をかけた。

私、気づいちゃった。
だってヴィル、さっき私にデコチューしたくせに、顔色ひとつ変えてないんだよ?


「ねぇ、いつから知ってたの? 私の素顔・・・」


その質問に、ヴィルは「あー・・・」とか言いながらポリポリ頬をかいてる。

それから、スっと右手を伸ばしたかと思うと、その大きな手は躊躇うことなく私の頭を優しく撫でた。
何度となく伸ばされてきたヴィルのこの右手は、これまで一度だって私に届くことはなかったのに・・・


「ずっと、ホントはおまえにこうして触れたかった。でも触れたら二度と手放せなくなる気がして・・・だから我慢してた」


真顔で私の頬をなでながらそんなことを言うもんだから、目を合わせてられなくて・・・
なんかすっごい恥ずかしくなって、思わず体操座りした膝に顔をつっ伏してしまった。



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