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9. 現実味のない現実
しおりを挟む「エファンディ嬢がおかしい?」
「ハハッ、おかしいのは元からだろ」
「それなー!!」
(はぁ……)
この件、今ので何回目だろうか。皆、本人が聞いていようがお構いなしだ。
今週から、私はフェリハとしてこのサブリエ魔法学園に復帰しているわけだが、少々外野が騒がしいのを無視すれば問題なく過ごせている。
午前中は最下位特別シートで電撃マッサージを堪能し、今日はあまりの心地良さにうっかり眠ってしまったくらいだ。
それに昼時間は、この一週間ずっとランチルームで優雅なひと時を楽しんでいる。
ちなみに初日以来、「弟」をはじめとする厄介な仲間達とは遭遇していない。
周りも私を遠巻きにするだけで、誰ひとり寄ってこない。
母国スミュルナでも高等学院に通っていたが、あそこはしがらみだらけで気が抜けず、居心地が良いだなんて一度も思ったことはなかった。
(一人って、こんなにも快適なのね)
おまけに、今日はなんとミハイル殿下が大好きだと仰っていた「特製ハンバーグランチ」がメニューに出ていた。それも限定二十食で。
友人のいない私は、おしゃべりも寄り道もせずランチルームへ直行したおかげで、無事に限定ランチをゲットできたというわけだ。
デザートに、これまた殿下一推しのクレームブリュレを頂きながら、もしかしたらこの席にミハイル殿下もお座りになったことがあるのかも、なんて考えてさっきからずっと胸を熱くしている。
(まるで夢を見ているようだわ)
そう。今の私にはこれら全てがまるで現実味のない出来事の連続だった。
本当に、新婚早々目覚めたら他人になっていました、なんてとんでもない不幸だと思う。
けれどそんな事態にも心折れずにいられるのは、ひとえにこの学園生活のおかげだ。
まだ、あの夜のことは思い出せない。
思い出すのが一番の近道だとわかっていても、少し考えただけで頭がひどく痛むのでどうしようもない。
ベッドに入ると、このまま戻れなかったらどうしようとか、早く殿下に逢いたいとか、そんなことを考えては毎夜、胸元の指輪を握りしめたまま眠りに落ちる。
(だからって、この私が授業中に居眠りまでしちゃうなんてね)
学園に復帰して五日。そろそろスミュルナ王室の話でも聞けたらいいのだが。
「エファンディ嬢、次は一体何やらかしてくれんのかな?」
なんて、聞こえてくるのは私のことばかり。
(まぁ、ここで他国の王室について話題が出るほうが問題か……)
仮に、私と入れ替わった本物のフェリハがスミュルナの王宮で何か問題を起こしたとして、果たしてここトラレスまで聞こえてくるだろうか。
いや、むしろ徹底的に隠すはずだ。それに私自身、皇太子妃がおかしくなったなんて話、聞きたくもない。
(でも、それじゃあいつまで経っても情報が入らないのよね……はぁ)
ため息を吐いた時だった。
隣の男子生徒達の会話が耳に飛び込んで来たのは。
「なぁ、本当にいらっしゃるのかな? スミュルナのミハイル殿下」
(ーーーー????!!)
「ちょ、ちょちょちょっと、あなた! 今、ミハイル殿下とおっしゃいまして??」
「「うわぁっっ!!」」
隣の席からいきなり乱入して来た私に、二人は椅子をガタつかせて驚いた。
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