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5.新生フェリハ
しおりを挟む「お嬢様、お髪は本当にこれで宜しいのですか?」
「ええ」
「お化粧だって、これではいつもの半分も……」
「いいのよ、あまり目立ちたくないの」
「でも……」
どうやら、このフェリハという令嬢はとんでもなく派手な娘だったようだ。
今日から学園に復帰するのだからと、ナズが早朝から巻き髪や厚塗りメイクを施そうとするのを私は必死で止めた。
鏡に映るのは、黄みの強い金髪に、薄紫の瞳をした令嬢だ。
本来の私は白金の髪に紫の瞳をしている。
どちらも吊り目がちでキツめの顔立ちだ。
(雰囲気、けっこう似てるかも……)
「それにしても、お嬢様の瞳は本当に美しいですね」
メイクを終えたナズが鏡越しに言う。
「紫の瞳は珍しいものね」
(この娘も私と同じ雷属性だなんてね)
「色が前より濃くなった気がします」
「えっ、そうなの?」
「はい。もう少し淡い紫だった気がするんですが……でも、これも素敵です!」
「そう、それなら良かったわ」
(私がこの娘の中に入ったことで、色が濃くなったのかしら……)
私がフェリハになってから今日で十日。目覚めてからは一週間になる。
朝起きたら元の身体に戻ってた、なんてことを切に願ったが、ご覧の通りだ。
あれから色々考えてみた。
ミハイル殿下に手紙を出すとか、伝手を頼って会いに行くとか。
けれど常識的に考えて、何の関係もない他国の一令嬢(今の私)がいきなりスミュルナの王宮へ手紙を送ったところで、ミハイル殿下のもとに届くとは思えない。かと言って、自分の身に何が起きているのかわからない以上、迂闊にアイスンの名前を出すわけにもいかない。
もし、私と入れ違いに私の身体にフェリハが入っているとしたら、きっと殿下もすぐに気づいて対処して下さるはず。
(本当に? あちらも記憶喪失ってことになってたら……??)
不安に押しつぶされそうになり、制服の上から胸元の指輪を掴んだ。そうしていると今までと変わらずミハイル殿下を想うことができた。
(悩んでても現状は変わらないもの)
となると、自分に出来ることをするしかない。
『このままフェリハとして過ごしつつ機会を伺う』
それが、現時点で私に取れる唯一の策だ。
「お嬢様、くれぐれもマリク様にはお気をつけくださいね」
馬車に乗りこむと、ナズが心配そうに見上げてくる。
「大丈夫。大人しくしてるわ」
そうして「行ってらっしゃいませ」と私を送り出してくれたのは、この広い屋敷の中でナズ一人だけだった。
▪️
馬車に揺られながら考える。
マリクとは、こないだ私のことを姉上と呼んでいた、あの口うるさい「弟」のことだ。
ちなみにこの一週間、一度も顔を合わせていない。
ナズの話によると、エファンディ侯爵は朝早くから城に詰め、夜遅いかそもそもあまり帰って来ないとのこと。
夫婦仲は悪く、夫人は弟を産んで以来ずっと領地で暮らしているらしい。
つまり、典型的な貴族の両親ということだ。そこに愛はない。
最初に生まれたのが娘のフェリハで、夫人はとても落ち込んだらしい。
だから翌年、跡継ぎとなる弟のマリクが生まれた時、夫人は派手にパーティーを開いてお祝いをしたそうだ。
そしてそのまま、マリクは十歳になるまで母親とともに領地でのびのびと暮らしたんだとか。
その間、姉のフェリハはというと、領地に引きこもっている母親とも、仕事人間の父親とも顔を合わせる機会はほとんど無かったそうだ。
つまりはとても寂しい幼少期を送ってきたということで。
(この娘も私と同じね……)
「到着いたしました」
屋敷を出て十五分ほど走ったころ、御者から声がかかった。
(さすがにちょっと緊張するわ)
私はもう一度、服の上から銀の指輪をそっと撫でた。
ーーーーーーーーー
ここまで読んで下さってありがとうございます。
今日はこの後、20時にもう一話上げる予定です。
よろしければ次のお話も読みに来てくださると嬉しいです(o^^o)
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