無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル

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*番外編*かけがえのないお方 ~アクリウスside~

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「そろそろいいお相手を見つけないとね」


「そうだな。アクリウス、私たちはお前自身で選んだ相手と結婚して欲しいんだ」


「私たちのようにね。ねっ、あなた」


「ごほんっ。ま、まぁそういう事だ」


母上にデレデレとした表情を浮かべる父上をしらっとした目で見ながら、私は小さく息を吐く。


今日まで、皇帝に仕える騎士として懸命に剣の技術を磨き、騎士団長まで上り詰めた。


父上は皇帝からの信頼が厚く、私も同じように努めなければと今日まで懸命に努力してきた。


剣の技術を認められる一方で、女性との関わりは一切無かった。興味がなかったからだ。


そもそも、私はこの体格のせいで威圧感を相手に与えてしまうらしく、優しく接しようとしてみてもどうにも上手くいかなかった。


マリウスに無理矢理連れられた社交パーティーでは数々の令嬢に怯えられ、避けられた。


「どうしてあんなお方がマリウス公爵様のそば話にいらっしゃるのかしら」
「しっ。聞かれたらまずいわよ。仮にも皇帝の騎士様で公爵家の方なんだから」
「分かってるわよ。それにしても怖くて近寄れないわ」


そうやって令嬢達から陰で噂されていることも知っていたし、それにも慣れてきた。


マリウスは憤慨していたが、仕方がないことだと受け入れていた。


傷つかないのかと言われれば、もちろんそうではない。けれど、この体格であればそのように噂されても仕方がないのだと。そう思っていた。


今回で社交パーティーに参加するのは最後にしよう。両親に心配をかけまいと母上から勧められるがままに参加していたのだが、正直令嬢たちに怯えられながら参加するパーティーに意味を見出せなくなってしまった。




パーティーの途中から外の空気でも吸ってこようと会場から少し離れた場所に行くと、そこに彼女がいた。人気のない場所で、彼女はうっとりと外を眺めている。


か弱そうな御令嬢がこんなところで一体何をしているのだろうか?


社交パーティーでは純粋無垢な令嬢を狙う輩も少なくはない。表沙汰にはならないのは、ある程度権力を持つ貴族が関わっているケースが多いからだ。


「そこで何をしている?」


声をかけると、彼女は驚いたように私を見て、怯える表情を見せた。


令嬢から怖がられるのはいつものことだ。会場に戻る道が分からず迷ってしまったと話す彼女を連れ、私は会場の側まで見送った。


戻る時、何か言いたげに私を見ていたが、私はすぐに側を離れた。


怯えた表情をしていたものの、彼女の柔らかく可愛らしい雰囲気に私はドクドクと胸が波打つのを感じていた。


令嬢の側を歩くのが初めてだったからだろう。そう思う事にした。


会場に戻るとマリウスが令嬢たちに囲まれており、私はやれやれと会場の隅の方にある椅子に腰掛けた。


華やかできらびやかな貴族のパーティーに私のような者は似つかわしくない。そもそもここに参加する事自体、間違いだったんだ。




そろそろ帰ろうと席を立ったその時、「きゃあっ」という声と共に食器が割れる音がした。


その方を見ると、さっきの彼女がオロオロおする給士に心配そうに声を掛けていた。


給士が側を離れた後、表情を歪める彼女の足からは、食器の破片で切れたのだろう小さな傷があった。


考える間もなく、気がつくと私は彼女にハンカチを差し出していた。


驚きと怯える表情の彼女にチクリと胸が痛む。やはり、怖がらせてしまったか。


しかし、彼女の反応は予想外のものだった。何故か名前の確認をされ、私の目をしっかりと見て言ったのだ。


「私、公爵様を怖いだなんて思いません」


あまりにも純粋で綺麗な瞳に見つめられ、私は「そうか」と返すので精一杯だった。




それから、私は最後にしようと参加した社交パーティーにその後も通う事になる。


「アクリウス、正直に言ってみろ。気になる令嬢がいるんだろう?」


「...うるさいぞ」


マリウスに冷やかされても、私は会場で彼女の姿を見られるだけで嬉しかった。


声をかけようと何度も試みたが、怖くないと言われてもなお怯えられたら、と思う自分がいて行動に移せずにいた。


皇帝の騎士団長が、聞いて呆れるな。


そろそろ覚悟を決めなければ。そう思っていた矢先のことだった。


ソフィアの父親の事業が失敗し、没落寸前まで追い込まれてしまったのだ。貴族の間では話題となり、彼女は社交パーティーから姿を消した。




「アクリウス、話とはなんだ?」


「父上、....結婚を申し込みたい御令嬢がいます」


父上は驚いた表情を見せ、母上は「まぁっ」と嬉しそうに声を上げた。


「アクリウス、お前にもついに相手ができたか。どこの御令嬢だ?」


「ソフィア•レーガンです」


両親はさらに驚いた表情を見せたが、やや顔を曇らせていた。


「...あの伯爵家が今どんな状況なのか知っていて言っているのか?」


「はい、存じております」


「では何故...」


「あなたは正義感が人一倍強いから、情けをかけているのではないの?」


私は首を横に振って言った。


「彼女を.....愛しているからです」


それから両親に彼女との出会い、人柄、どこに惹かれたのかを話した。正直苦手な話だったが、彼女への気持ちを伝え、助けたいと思った。


「お前がそこまで言うなら反対はしない」
「そんなに素敵なお嬢さんなら私も賛成よ。あなたが決めた相手だもの」


両親の了承を得て、私は彼女の両親にも話をしにいった。そして数日後、彼女が求婚を受けるとの返事があった。


それを知った時の感情は、何とも言えない。恋焦がれた相手を妻にする喜びと同時に、彼女はどのような気持ちで承諾してくれたのだろうかと言う不安だった。


彼女が嫌がることは絶対にしたくはない。妻にできる、側にいてくれるというだけで私にとっては十分幸せなことなのだから。
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