【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル

文字の大きさ
上 下
21 / 23

*番外編*かけがえのないお方 ~アクリウスside~

しおりを挟む
「そろそろいいお相手を見つけないとね」


「そうだな。アクリウス、私たちはお前自身で選んだ相手と結婚して欲しいんだ」


「私たちのようにね。ねっ、あなた」


「ごほんっ。ま、まぁそういう事だ」


母上にデレデレとした表情を浮かべる父上をしらっとした目で見ながら、私は小さく息を吐く。


今日まで、皇帝に仕える騎士として懸命に剣の技術を磨き、騎士団長まで上り詰めた。


父上は皇帝からの信頼が厚く、私も同じように努めなければと今日まで懸命に努力してきた。


剣の技術を認められる一方で、女性との関わりは一切無かった。興味がなかったからだ。


そもそも、私はこの体格のせいで威圧感を相手に与えてしまうらしく、優しく接しようとしてみてもどうにも上手くいかなかった。


マリウスに無理矢理連れられた社交パーティーでは数々の令嬢に怯えられ、避けられた。


「どうしてあんなお方がマリウス公爵様のそば話にいらっしゃるのかしら」
「しっ。聞かれたらまずいわよ。仮にも皇帝の騎士様で公爵家の方なんだから」
「分かってるわよ。それにしても怖くて近寄れないわ」


そうやって令嬢達から陰で噂されていることも知っていたし、それにも慣れてきた。


マリウスは憤慨していたが、仕方がないことだと受け入れていた。


傷つかないのかと言われれば、もちろんそうではない。けれど、この体格であればそのように噂されても仕方がないのだと。そう思っていた。


今回で社交パーティーに参加するのは最後にしよう。両親に心配をかけまいと母上から勧められるがままに参加していたのだが、正直令嬢たちに怯えられながら参加するパーティーに意味を見出せなくなってしまった。




パーティーの途中から外の空気でも吸ってこようと会場から少し離れた場所に行くと、そこに彼女がいた。人気のない場所で、彼女はうっとりと外を眺めている。


か弱そうな御令嬢がこんなところで一体何をしているのだろうか?


社交パーティーでは純粋無垢な令嬢を狙う輩も少なくはない。表沙汰にはならないのは、ある程度権力を持つ貴族が関わっているケースが多いからだ。


「そこで何をしている?」


声をかけると、彼女は驚いたように私を見て、怯える表情を見せた。


令嬢から怖がられるのはいつものことだ。会場に戻る道が分からず迷ってしまったと話す彼女を連れ、私は会場の側まで見送った。


戻る時、何か言いたげに私を見ていたが、私はすぐに側を離れた。


怯えた表情をしていたものの、彼女の柔らかく可愛らしい雰囲気に私はドクドクと胸が波打つのを感じていた。


令嬢の側を歩くのが初めてだったからだろう。そう思う事にした。


会場に戻るとマリウスが令嬢たちに囲まれており、私はやれやれと会場の隅の方にある椅子に腰掛けた。


華やかできらびやかな貴族のパーティーに私のような者は似つかわしくない。そもそもここに参加する事自体、間違いだったんだ。




そろそろ帰ろうと席を立ったその時、「きゃあっ」という声と共に食器が割れる音がした。


その方を見ると、さっきの彼女がオロオロおする給士に心配そうに声を掛けていた。


給士が側を離れた後、表情を歪める彼女の足からは、食器の破片で切れたのだろう小さな傷があった。


考える間もなく、気がつくと私は彼女にハンカチを差し出していた。


驚きと怯える表情の彼女にチクリと胸が痛む。やはり、怖がらせてしまったか。


しかし、彼女の反応は予想外のものだった。何故か名前の確認をされ、私の目をしっかりと見て言ったのだ。


「私、公爵様を怖いだなんて思いません」


あまりにも純粋で綺麗な瞳に見つめられ、私は「そうか」と返すので精一杯だった。




それから、私は最後にしようと参加した社交パーティーにその後も通う事になる。


「アクリウス、正直に言ってみろ。気になる令嬢がいるんだろう?」


「...うるさいぞ」


マリウスに冷やかされても、私は会場で彼女の姿を見られるだけで嬉しかった。


声をかけようと何度も試みたが、怖くないと言われてもなお怯えられたら、と思う自分がいて行動に移せずにいた。


皇帝の騎士団長が、聞いて呆れるな。


そろそろ覚悟を決めなければ。そう思っていた矢先のことだった。


ソフィアの父親の事業が失敗し、没落寸前まで追い込まれてしまったのだ。貴族の間では話題となり、彼女は社交パーティーから姿を消した。




「アクリウス、話とはなんだ?」


「父上、....結婚を申し込みたい御令嬢がいます」


父上は驚いた表情を見せ、母上は「まぁっ」と嬉しそうに声を上げた。


「アクリウス、お前にもついに相手ができたか。どこの御令嬢だ?」


「ソフィア•レーガンです」


両親はさらに驚いた表情を見せたが、やや顔を曇らせていた。


「...あの伯爵家が今どんな状況なのか知っていて言っているのか?」


「はい、存じております」


「では何故...」


「あなたは正義感が人一倍強いから、情けをかけているのではないの?」


私は首を横に振って言った。


「彼女を.....愛しているからです」


それから両親に彼女との出会い、人柄、どこに惹かれたのかを話した。正直苦手な話だったが、彼女への気持ちを伝え、助けたいと思った。


「お前がそこまで言うなら反対はしない」
「そんなに素敵なお嬢さんなら私も賛成よ。あなたが決めた相手だもの」


両親の了承を得て、私は彼女の両親にも話をしにいった。そして数日後、彼女が求婚を受けるとの返事があった。


それを知った時の感情は、何とも言えない。恋焦がれた相手を妻にする喜びと同時に、彼女はどのような気持ちで承諾してくれたのだろうかと言う不安だった。


彼女が嫌がることは絶対にしたくはない。妻にできる、側にいてくれるというだけで私にとっては十分幸せなことなのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...