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*side マーガレット* ①
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貴族が通う学園で一目置かれるルーカス侯爵様。
茶色がかった髪色にグレーの瞳。恐ろしく整った顔立ちに、周りの貴族令嬢たちはとろけそうな視線を向けるも、本人は全く興味がなさそうに冷たい視線を向ける。
そんな姿も素敵だと、ますますファンは増えていくばかり。
そんなルーカス侯爵様に想われる相手はきっと、とても綺麗で美しい方なんでしょう。
ただただ、憧れの存在だったルーカス侯爵様に、こんなに熱い視線を向けられる日が来るなんて思ってもいませんでした。
***
ウィル侯爵様と私の従姉妹であるリサが恋仲だということを知ったのは、学園に入学して少し経ってからのことでした。
「好きな人ができたの。とっても素敵な方でね」
嬉しそうに話す彼女を見ていると、ついつい私まで嬉しくなりました。そしてその当時は相手がまさかウィル侯爵様だとは思いもしなかったのですが…。
私は元々、両親のように人の役に立てる人材になりたいという目標がありました。そのためには、不器用な私には血の滲むような努力が必要でした。
侯爵という身分でさえ難関だと言われる試験。元平民で両親の努力の甲斐あって男爵令嬢という地位を与えられた私が突破するには、並大抵の努力では叶わないのは明らかで。
もっと努力しなければ。そう思うほどに貴族の人が羨ましくもあり、羨んでばかりではダメだと自分を叱咤し努力してきました。両親はそんな私を応援しながらも、険しい道に進もうとする娘を心配もしていました。
「研究職は、厳しい道だぞ。それでも良いのか?」
「はい。どうしても、なりたいんです」
「そうか。……うん、そうか」
父がわずかに悩むような表情をされていましが、ふとこんなことを言いました。
「ルーカス侯爵様という方は知っているかい?」
ルーカス侯爵?
そういえば、学内でいつも令嬢に囲まれている有名な方がいらっしゃったような…
「お会いしたことはありませんが、学内では有名なお方です」
「そうか…会ったことはないのか」
「そろそろ学校にいく時間なので」
何かしら?
珍しく歯切りの悪い返事をする父を不思議に思いながらも、私は学校に行く準備を整えます。
「気をつけて行ってきなさい」
「はいっ!お父様も」
父に笑顔で手を振り、私は学校へと出掛けて行きました。
「てっきり既に知り合いなのかと思ったが…会ったことがないのに何故侯爵様はマーガレットを…?」
父がポツリと呟いていたのを、そしてこれから私がルーカス侯爵様と関わりを持つ事になるなんて、この時の私は知る由もありませんでした。
***
それから数日が経ち、父からルーカス侯爵様について尋ねられたことがきっかけで、妙に侯爵様の話題に敏感になりました。
今までは校庭での目撃情報や噂を耳にしても全く気にならなかったのに。侯爵様は私たちの校舎でも話題で持ちきりで、一度は必ず好きになってしまうと有名な方でした。
ただお会いしたことはなく、噂を聞く限りは本当に人格者のような方でした。愛想は悪いけれどもそこが良い、勉強熱心な方でなんでもそつなくこなされ、課外活動にも力を入れられている、と。
ご友人のウィル侯爵様も同じく有名な方でしたが、ルーカス侯爵様と違うのは誰にでも優しく人当たりがいいことでした。
まるで、物語の中のようね。
他人事のように思っていたのですが、従姉妹の行動で、それは一気に崩れていくのです。
ある日、リサに話があると言われ、彼女が指定した待ち合わせ場所に向かいました。そこはとても彼女が出入りしているとは思えないような高級なカフェで、私は不審に思いながらも案内されるがままに向かうと、そこには顔立ちが整った背の高い男性とリサの姿。
この方が、例の気になっている彼かしら?
それにしてもすごいオーラを感じるわ。
「初めまして、マーガレット男爵令嬢。ウィルと申します」
「初めまして、ウィル…え?」
まさか…
ハッとして彼を見る。
高級なカフェに、オーラのある品のある男性。人懐っこそうな笑顔、そして聞き覚えのある名前。
まさか、まさか…
「ウィル、侯爵様ですか…?」
こくりと頷くウィル侯爵様に、恥ずかしそうな表情のリサ。眩暈がしそうだった。何を考えているの、この二人は。
「…反対です」
「えっ、マーガレット!?まだ何も言ってな…」
「リサ」
私は彼女の言葉を遮り、冷静な瞳でリサを見ました。まさか私が反対するとは思わなかったのでしょう。リサはかなり動揺した様子でした。
あなたは、何も分かっていない。
これがどれだけ愚かなことか。
「ウィル侯爵様、あなたは…覚悟があってこのようなことを?」
侯爵様であればご存じなはず。この国で、貴族と平民の恋愛がどれほど大変なことなのかを。表向きは平等を謳っていながらもそうではなく、裏では貴族同士でさえも家柄で揉めることがあるこの国の現状を、良く知っているのはウィル侯爵様のはず。
侯爵様はまだいいわ。高貴なお方だから、もしこれが明るみになったとしてもただの遊びだったと切り捨てればいい。傷つくのはリサの方よ。
「あぁ。だから、まずは君に認めてほしい」
それからウィル侯爵様は、学内で私に会うたびに説得してきました。私を説得したところで、侯爵様にとってはなんの得にもならないはずなのに。
「マーガレット、最近ウィル様に何か言われたりしていない?私にとってあなたは大切な存在で、あなたにだけは私たちの関係を認めて欲しかったの。ウィル様はご存知だったから、もしかしたらと思って…」
あれ以降連絡を取れずにいたマーガレットから久しぶりに連絡があり、会った時に言われたこの言葉を聞いて、初めて彼が心からリサを愛してくれているのだと知りました。
「リサ」
「…分かってるわ」
「何かあったら、すぐに連絡して。私が味方になるわ」
「…っ、ありがとうマーガレット!」
こうしてウィル侯爵様とはリサを通じて頻繁に会うようになりました。それから、ウィル侯爵様からルーカス侯爵様のことも度々話を聞くようになり、ルーカス侯爵様のお人柄にも興味を持つようになりました。
茶色がかった髪色にグレーの瞳。恐ろしく整った顔立ちに、周りの貴族令嬢たちはとろけそうな視線を向けるも、本人は全く興味がなさそうに冷たい視線を向ける。
そんな姿も素敵だと、ますますファンは増えていくばかり。
そんなルーカス侯爵様に想われる相手はきっと、とても綺麗で美しい方なんでしょう。
ただただ、憧れの存在だったルーカス侯爵様に、こんなに熱い視線を向けられる日が来るなんて思ってもいませんでした。
***
ウィル侯爵様と私の従姉妹であるリサが恋仲だということを知ったのは、学園に入学して少し経ってからのことでした。
「好きな人ができたの。とっても素敵な方でね」
嬉しそうに話す彼女を見ていると、ついつい私まで嬉しくなりました。そしてその当時は相手がまさかウィル侯爵様だとは思いもしなかったのですが…。
私は元々、両親のように人の役に立てる人材になりたいという目標がありました。そのためには、不器用な私には血の滲むような努力が必要でした。
侯爵という身分でさえ難関だと言われる試験。元平民で両親の努力の甲斐あって男爵令嬢という地位を与えられた私が突破するには、並大抵の努力では叶わないのは明らかで。
もっと努力しなければ。そう思うほどに貴族の人が羨ましくもあり、羨んでばかりではダメだと自分を叱咤し努力してきました。両親はそんな私を応援しながらも、険しい道に進もうとする娘を心配もしていました。
「研究職は、厳しい道だぞ。それでも良いのか?」
「はい。どうしても、なりたいんです」
「そうか。……うん、そうか」
父がわずかに悩むような表情をされていましが、ふとこんなことを言いました。
「ルーカス侯爵様という方は知っているかい?」
ルーカス侯爵?
そういえば、学内でいつも令嬢に囲まれている有名な方がいらっしゃったような…
「お会いしたことはありませんが、学内では有名なお方です」
「そうか…会ったことはないのか」
「そろそろ学校にいく時間なので」
何かしら?
珍しく歯切りの悪い返事をする父を不思議に思いながらも、私は学校に行く準備を整えます。
「気をつけて行ってきなさい」
「はいっ!お父様も」
父に笑顔で手を振り、私は学校へと出掛けて行きました。
「てっきり既に知り合いなのかと思ったが…会ったことがないのに何故侯爵様はマーガレットを…?」
父がポツリと呟いていたのを、そしてこれから私がルーカス侯爵様と関わりを持つ事になるなんて、この時の私は知る由もありませんでした。
***
それから数日が経ち、父からルーカス侯爵様について尋ねられたことがきっかけで、妙に侯爵様の話題に敏感になりました。
今までは校庭での目撃情報や噂を耳にしても全く気にならなかったのに。侯爵様は私たちの校舎でも話題で持ちきりで、一度は必ず好きになってしまうと有名な方でした。
ただお会いしたことはなく、噂を聞く限りは本当に人格者のような方でした。愛想は悪いけれどもそこが良い、勉強熱心な方でなんでもそつなくこなされ、課外活動にも力を入れられている、と。
ご友人のウィル侯爵様も同じく有名な方でしたが、ルーカス侯爵様と違うのは誰にでも優しく人当たりがいいことでした。
まるで、物語の中のようね。
他人事のように思っていたのですが、従姉妹の行動で、それは一気に崩れていくのです。
ある日、リサに話があると言われ、彼女が指定した待ち合わせ場所に向かいました。そこはとても彼女が出入りしているとは思えないような高級なカフェで、私は不審に思いながらも案内されるがままに向かうと、そこには顔立ちが整った背の高い男性とリサの姿。
この方が、例の気になっている彼かしら?
それにしてもすごいオーラを感じるわ。
「初めまして、マーガレット男爵令嬢。ウィルと申します」
「初めまして、ウィル…え?」
まさか…
ハッとして彼を見る。
高級なカフェに、オーラのある品のある男性。人懐っこそうな笑顔、そして聞き覚えのある名前。
まさか、まさか…
「ウィル、侯爵様ですか…?」
こくりと頷くウィル侯爵様に、恥ずかしそうな表情のリサ。眩暈がしそうだった。何を考えているの、この二人は。
「…反対です」
「えっ、マーガレット!?まだ何も言ってな…」
「リサ」
私は彼女の言葉を遮り、冷静な瞳でリサを見ました。まさか私が反対するとは思わなかったのでしょう。リサはかなり動揺した様子でした。
あなたは、何も分かっていない。
これがどれだけ愚かなことか。
「ウィル侯爵様、あなたは…覚悟があってこのようなことを?」
侯爵様であればご存じなはず。この国で、貴族と平民の恋愛がどれほど大変なことなのかを。表向きは平等を謳っていながらもそうではなく、裏では貴族同士でさえも家柄で揉めることがあるこの国の現状を、良く知っているのはウィル侯爵様のはず。
侯爵様はまだいいわ。高貴なお方だから、もしこれが明るみになったとしてもただの遊びだったと切り捨てればいい。傷つくのはリサの方よ。
「あぁ。だから、まずは君に認めてほしい」
それからウィル侯爵様は、学内で私に会うたびに説得してきました。私を説得したところで、侯爵様にとってはなんの得にもならないはずなのに。
「マーガレット、最近ウィル様に何か言われたりしていない?私にとってあなたは大切な存在で、あなたにだけは私たちの関係を認めて欲しかったの。ウィル様はご存知だったから、もしかしたらと思って…」
あれ以降連絡を取れずにいたマーガレットから久しぶりに連絡があり、会った時に言われたこの言葉を聞いて、初めて彼が心からリサを愛してくれているのだと知りました。
「リサ」
「…分かってるわ」
「何かあったら、すぐに連絡して。私が味方になるわ」
「…っ、ありがとうマーガレット!」
こうしてウィル侯爵様とはリサを通じて頻繁に会うようになりました。それから、ウィル侯爵様からルーカス侯爵様のことも度々話を聞くようになり、ルーカス侯爵様のお人柄にも興味を持つようになりました。
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