救ってくれたのはあなたでした

ベル

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不器用なお嬢様

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私がアリアお嬢様の護衛騎士になったのは、身寄りもなかった私を育ててくれた孤児院の院長が、騎士に興味はないかと伯爵様のことを紹介してくださったからだった。


伯爵様は外面はよく、周囲からも慕われていたため、まさか娘を比較してあのような仕打ちをされる方だとは思わなかった。


今思えば、孤児院にいる私を騎士と迎え入れるだなんて変だということは分かる。
いくら気に入らない娘だとはいえ、伯爵家の長女。護衛騎士を付けないわけにはいかない。そこで、たいしてお金を支払う必要のない孤児の私が選ばれたようだった。


アリアお嬢様は、何をするにもマリアお嬢様と比較され、いつも落ち込んでいた。


確かに側から見れば、マリアお嬢様は優秀で美しい方で、さらには使用人への気遣いまでしっかりしてくださる。彼女を慕う人は多いだろう。


ただ、娘を比較してアリアお嬢様をあのように貶すことは許されることではない。


せめて、護衛騎士である私だけでも彼女の味方にならなければ。そのために、騎士として剣の腕を上げよう。いざという時に、しっかりと彼女を守れるように。


私は日々のトレーニング以外にも、素振りやランニングなど出来る限り訓練をした。徐々に剣の腕を認められるようになり、上司からはこの屋敷で1番の腕前だと褒められるようにもなった。


伯爵様はあのようなお方だが、使用人たちはみな優しく、孤児の私も温かく迎え入れてくれた。


伯爵夫妻の態度を見て、初めこそマリアお嬢様もアリアお嬢様を同じように見下しているのではと思っていたが、そうではないようだった。彼女達はお互いを信じて助け合っているようだ。


それがせめてもの救いだ。
そう思っていたのだが、アリアお嬢様にはそれが苦しくもあったらしい。


ある夜、いつものように自主練を終えて屋敷に戻る途中、中庭で一人ベンチに腰掛けてうずくまっている彼女を見つけた。


「アリアお嬢様、こんなところで何をされているのですか。風邪をひきますよ」


「アスベル…?」


まさか私がここにいるとは思わなかったようで、驚いた様子で瞳を大きく見開いた。
暗がりだからよく見えないが、瞳が潤んでいるようにも見える。


「どうしてここに?」


「いつも剣の練習をしているんです」


「仕事熱心なのね」


「アリアお嬢様をお守りするためですから」


「…そう」


そう言って、アリアお嬢様はふと視線を下にずらした。気のせいか、頬が少し赤くなっている。


冷たい風が吹き、周りに植えてある花や木々がざあっと舞っていく。風が強くなってきた。


「アリアお嬢様、そろそろお戻りに…」


「アスベルは、私の護衛をするの、嫌にならない?」


「はい?」


急に何を言い出すかと思えば。
何を言っているんだこの人は。


「いいえ、全く」


「優しいのね」


優しいのはアリアお嬢様の方だ。
伯爵夫妻からどれだけ嫌味を言われても一切文句を言わず、陰で一生懸命に努力して、必死で頑張っているのを知っている。


主人が嫌な態度をとる者には必然的に使用人も同じような態度を取ることがある。

新入りのメイドが伯爵様の態度を見てアリアお嬢様に対して冷たくあたってもいいと判断し、嫌味な態度で接したことがあった。それでも、アリアお嬢様はしてもらったことに対してはきちんとお礼を言い、不満を言うことはなかった。

結局、他の使用人に注意され、マリアお嬢様が激怒して辞めさせられたけれど。


その件についても、マリアお嬢様が問題視するまで伯爵夫妻は知らん顔だった。


「マリアは何でもできて、可愛らしいでしょう?私はそうではないから、言われても仕方がないの」


この屋敷で初めてアリアお嬢様が受けてきた仕打ちを知った時、私の方が怒ってしまい、アリアお嬢様に何故黙っているのかと聞いてしまったことがあった。


その時の、アリアお嬢様の哀しげな顔と言葉が今でも忘れられない。彼女は自分の強さや優しさに気づいていないようだった。


「…アリアお嬢様」


「ん?」


「お嬢様は、あなたが思うよりもずっと強くて優しい方です。だからどうか、下を向かないでください」


アリアお嬢様は驚いたようにパチパチと瞬きをした後、嬉しそうに微笑んだ。


ずっと、哀しげな表情しか見たことがなかった。初めて、向けられた笑顔。


なんて、可愛らしい人なんだろう。


その時から、私はアリアお嬢様のことを全力でお守りしようと決めた。じわじわと流れ込んでくるこの感情が溢れるまで、そう時間はかからなかった。


まぁ、マリアお嬢様にはすぐにバレてしまったのだけれど。





「アスベル?」


「アリアお嬢様?」


「やだ、寝ぼけているの?」


クスクスと楽しそうに笑うアリアお嬢様…いや、アリア。

そうだ、思い出した。今は私の妻なんだ。
いつのまにか、ソファの上で寝てしまっていたようだ。


「アリア」


「きゃっ!?ちょっと」


笑いながら私のそばを離れようとするアリアの手を引き、アリアはよろけて私の上に倒れ込んでくる。


「アスベル?」


「アリア」


「なに?怖い夢でも見たの?」


アリアは私の髪の毛をそっと手でときながら優しい瞳で見つめてくれる。私はその手を取り、ぎゅっと握りしめた。


この手を絶対に、離さない。
彼女には二度と悲しい思いはさせない。


そのまま顔を近づけて優しく口付けをする。大人しく身を預けてくれるアリア。愛しくてたまらなかった。


夢を見て思い出したからか、何だか余計にこの状況が嬉しくて仕方がない。


何度も角度を変えて、深く深く口付ける。途中漏れるアリアの声や息づかい。耐えられそうになかった。


「きゃっ!?ちょっ」


ヒョイっと軽くアリアを持ち上げると、私は下ろしてと抗議する声を無視して寝室へと向かった。


***



「もうっ…昼間からなんて…」

「嬉しそうにしてたくせに」

「なっ…!?」

「さてと。まだ収まりそうにないから付き合ってくださいね」

「え!?何考えて…ま、…ぁ…っ」



アリアお嬢様がこんなにも可愛らしいことを知っているのは、私だけでいい。

これからもずっとお側にいます、お嬢様。
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