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後編
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『アスベル
久しぶり。彼から話は聞きました。どうかお姉様をここから救ってあげて。お姉様を幸せにできるのはあなたしかいないの。私が全面的に協力します』
そこで初めて、アスベルの友人騎士とマリアがこっそりと交際していた事を知ったという。
「黙っていて悪かったな。こっちも色々と事情があってさ。私もマリアをすぐに迎えに行きたいところなんだけど、彼女にとってはお姉さんが一番最優先事項らしい。私も協力するよ」
こうしてマリアの全面協力の元、私とアスベルは結婚式を挙げることができた。バレないように仮面をつけての結婚式だったけれど、皮肉にも両親祝福のもと、正式なかたちで式を挙げることができたのだ。
話を聞いて、私は涙が止まらなかった。
ずっと、マリアだけは私の味方でいてくれた。何も言わずに、側にいてくれたのに。私はマリアに嫉妬ばかりしてたわ。
式の時だって、マリアを疑ってた。なんてひどい姉なの。
「アリア?」
「マリアにひどい事をしたわ。お礼もきちんと言えてない」
「大丈夫。マリアお嬢様はもうすぐ私の友人と結婚する予定です。色々と手続きを踏んでいるらしいから少しだけ時間はかかるようですが、マリアお嬢様もきっとアリアの気持ちをわかってくれているはずですから、泣かないでください」
アスベルは私のそっと背中に手を回し、トントンと優しく叩きながら抱きしめてくれた。
その日の夜、そんな気分ではないだろうとアスベルは私の気持ちを優先してくれて、けれど側にいたいから一緒に手を繋いで寝ようと提案してくれた。
アスベルが隣にいてくれる。妻として、ずっと側にいられる。そう思うと幸せで、嬉しくて。
安心感に包まれた私はうとうとと意識が遠のいていった。
「アリア…私の元に来てくれてありがとう。もう離しませんからね」
遠くの方で、アスベルの声が聞こえた。
***
「マリア!」
「お姉様ー!!」
マリアと再会したのは、私とアスベルの結婚式から半年後の事だった。花嫁姿のマリアは、それはそれは美しかった。
お互いに抱きしめ合い、気づくとわんわん泣いていた。
「マリアっ…ごめんなさい…私、ずっとあなたにお礼も言えてなくて」
「もうっ、お姉様ったらそんな事で罪悪感を感じないで。私がどれだけお姉様に救われたか分かっていないなんて、お姉様は自分の価値を下げすぎです」
もうっ!と怒ったような表情を浮かべながらも、どこか嬉しそうなマリア。
「幸せになってね、マリア」
「えぇ。お姉様も」
そう言って、ふっとお互いに微笑み合った。あれから両親はどうなったかは知らない。マリアが口に出さないと言う事と、この式に招待されていないということが物語っている。あえて訊ねる必要もない。
「アリア、いつまで抱き合っているんですか?」
背後から不機嫌そうな声が聞こえる。
振り向かなくても、声だけでどう言う表情をしているのか手に取るようにわかる。
「あら、アスベル。あまり束縛すると嫌われるわよ?」
「なっ…!」
マリアの方がどうやら上手のようだ。
「それじゃ、そろそろ怒られそうだからお姉様をお返しするわね」
そう言ってマリアは私をぐいっとアスベルの方へと引き渡した。その反動で思わずよろけてしまい、すっぽりと彼の腕の中に収まる。
「マリア!」
「ふふっ。それじゃあまた式でね」
そう言うとマリアはパタンっと扉を閉じた。
「ちょっ、アスベル!?」
「そろそろ慣れてください。結婚して半年も経つんですから」
後ろからぎゅっと抱きしめられ、思わず顔が赤くなる私を愛おしそうに見つめながら、アスベルが言った。
「アリア」
「何?」
「…そろそろ、解禁してもよろしいですか?」
ちゅっと首元にキスをされ、ビクッと身体が反応する。
アスベルは私の気持ちを優先して今までずっと待ってくれていた。下手にマリアに連絡してしまえば、マリアの計画を台無しにしてしまうかもしれない。そう思って連絡をしたくてもできなかった臆病な私。それが解決しないときっとできないでしょうと、アスベルは我慢強く待ってくれた。
普通であれば、意味がわからないと思うだろう。けれどアスベルは私の気持ちを一番に考えてくれていた。
こくりと頷く私を見て、アスベルはさらに強く私を抱きしめた。
「やっぱりなしは、ないですからね」
「わ、分かってるわよ。…アスベル」
「ん?」
「…ありがとう。大好き」
ふっ、と固まるアスベル。
それが面白くて。
「アスベル、大好きよ」
「…っ、不意打ちはずるいです」
「ふふっ…んっ、ちょっ、ここではダメ!!」
次第に深くなる口付けに慌ててアスベルを押し返す。
私の表情を嬉しそうに見ながら、アスベルは耳元でそっと囁いた。
「これから覚悟してくださいね」
半年前の私は、この場所で人生に絶望すら抱いていた。まさかこんなに幸せな生活が待ってるなんて、誰が予想したのだろう。
大切な妹のおかげで、彼のおかげで、そして周りの人たちのおかげで私はこんなにも幸せになれた。
「ありがとう」
「お礼を言うのは私の方ですよ」
愛しいこの人と、これからの人生を共に歩んでいく。
~完~
久しぶり。彼から話は聞きました。どうかお姉様をここから救ってあげて。お姉様を幸せにできるのはあなたしかいないの。私が全面的に協力します』
そこで初めて、アスベルの友人騎士とマリアがこっそりと交際していた事を知ったという。
「黙っていて悪かったな。こっちも色々と事情があってさ。私もマリアをすぐに迎えに行きたいところなんだけど、彼女にとってはお姉さんが一番最優先事項らしい。私も協力するよ」
こうしてマリアの全面協力の元、私とアスベルは結婚式を挙げることができた。バレないように仮面をつけての結婚式だったけれど、皮肉にも両親祝福のもと、正式なかたちで式を挙げることができたのだ。
話を聞いて、私は涙が止まらなかった。
ずっと、マリアだけは私の味方でいてくれた。何も言わずに、側にいてくれたのに。私はマリアに嫉妬ばかりしてたわ。
式の時だって、マリアを疑ってた。なんてひどい姉なの。
「アリア?」
「マリアにひどい事をしたわ。お礼もきちんと言えてない」
「大丈夫。マリアお嬢様はもうすぐ私の友人と結婚する予定です。色々と手続きを踏んでいるらしいから少しだけ時間はかかるようですが、マリアお嬢様もきっとアリアの気持ちをわかってくれているはずですから、泣かないでください」
アスベルは私のそっと背中に手を回し、トントンと優しく叩きながら抱きしめてくれた。
その日の夜、そんな気分ではないだろうとアスベルは私の気持ちを優先してくれて、けれど側にいたいから一緒に手を繋いで寝ようと提案してくれた。
アスベルが隣にいてくれる。妻として、ずっと側にいられる。そう思うと幸せで、嬉しくて。
安心感に包まれた私はうとうとと意識が遠のいていった。
「アリア…私の元に来てくれてありがとう。もう離しませんからね」
遠くの方で、アスベルの声が聞こえた。
***
「マリア!」
「お姉様ー!!」
マリアと再会したのは、私とアスベルの結婚式から半年後の事だった。花嫁姿のマリアは、それはそれは美しかった。
お互いに抱きしめ合い、気づくとわんわん泣いていた。
「マリアっ…ごめんなさい…私、ずっとあなたにお礼も言えてなくて」
「もうっ、お姉様ったらそんな事で罪悪感を感じないで。私がどれだけお姉様に救われたか分かっていないなんて、お姉様は自分の価値を下げすぎです」
もうっ!と怒ったような表情を浮かべながらも、どこか嬉しそうなマリア。
「幸せになってね、マリア」
「えぇ。お姉様も」
そう言って、ふっとお互いに微笑み合った。あれから両親はどうなったかは知らない。マリアが口に出さないと言う事と、この式に招待されていないということが物語っている。あえて訊ねる必要もない。
「アリア、いつまで抱き合っているんですか?」
背後から不機嫌そうな声が聞こえる。
振り向かなくても、声だけでどう言う表情をしているのか手に取るようにわかる。
「あら、アスベル。あまり束縛すると嫌われるわよ?」
「なっ…!」
マリアの方がどうやら上手のようだ。
「それじゃ、そろそろ怒られそうだからお姉様をお返しするわね」
そう言ってマリアは私をぐいっとアスベルの方へと引き渡した。その反動で思わずよろけてしまい、すっぽりと彼の腕の中に収まる。
「マリア!」
「ふふっ。それじゃあまた式でね」
そう言うとマリアはパタンっと扉を閉じた。
「ちょっ、アスベル!?」
「そろそろ慣れてください。結婚して半年も経つんですから」
後ろからぎゅっと抱きしめられ、思わず顔が赤くなる私を愛おしそうに見つめながら、アスベルが言った。
「アリア」
「何?」
「…そろそろ、解禁してもよろしいですか?」
ちゅっと首元にキスをされ、ビクッと身体が反応する。
アスベルは私の気持ちを優先して今までずっと待ってくれていた。下手にマリアに連絡してしまえば、マリアの計画を台無しにしてしまうかもしれない。そう思って連絡をしたくてもできなかった臆病な私。それが解決しないときっとできないでしょうと、アスベルは我慢強く待ってくれた。
普通であれば、意味がわからないと思うだろう。けれどアスベルは私の気持ちを一番に考えてくれていた。
こくりと頷く私を見て、アスベルはさらに強く私を抱きしめた。
「やっぱりなしは、ないですからね」
「わ、分かってるわよ。…アスベル」
「ん?」
「…ありがとう。大好き」
ふっ、と固まるアスベル。
それが面白くて。
「アスベル、大好きよ」
「…っ、不意打ちはずるいです」
「ふふっ…んっ、ちょっ、ここではダメ!!」
次第に深くなる口付けに慌ててアスベルを押し返す。
私の表情を嬉しそうに見ながら、アスベルは耳元でそっと囁いた。
「これから覚悟してくださいね」
半年前の私は、この場所で人生に絶望すら抱いていた。まさかこんなに幸せな生活が待ってるなんて、誰が予想したのだろう。
大切な妹のおかげで、彼のおかげで、そして周りの人たちのおかげで私はこんなにも幸せになれた。
「ありがとう」
「お礼を言うのは私の方ですよ」
愛しいこの人と、これからの人生を共に歩んでいく。
~完~
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