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朝の楽しみ
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少し茶色がかった髪に、切長の目。
高身長な彼は、存在感がある。
目立つほど格好いい訳ではないけれど、整った顔立ちをしている方だと思う。
朝の通学時間。
朝が特に苦手な私にとって、人で溢れかえるこの電車は苦痛で仕方がない。
この時間に、彼は途中からこの車両に乗ってくる。
毎朝見ている光景のはずなのに、毎回人混みの多さに顔を歪ませながら乗車してくる。そして、私を見つけるとふわりと笑みを浮かべるのだ。
その瞬間、ほんのりと体温が上がるのがわかった。
彼と出会ったのは数ヶ月前のこと。
家の都合で引っ越すことになった私は、その翌日からこの電車での通学を余儀なくされた。
引っ越しといっても、都心から少し離れた場所への移動のような距離だった。
母が仕事を始めることになり、父の職場と母の職場の距離を考えて、どちらにも近いこの地域に引っ越すことになったのだ。
電車もバスも本数は割と多いし交通の便に関しては良いのだが、問題は人の多さ。
特に朝の通勤時間は地獄だった。
前住んでいた地域よりもサラリーマンや学生が多い地区になってしまった為か、以前よりも格段に通学時間が長く感じてしまう。
学校に着いた頃にはヘトヘトだった。
こんな生活がこれから続くのかと落ち込んでいた頃、彼と出会った。
その日は雨の予報でいつもより混雑していた。ぎゅうぎゅうと押されながらも必死で自分の立ち位置を確保する。
けれど、運悪く月に一度のあの日が来てしまい、朝から体調が優れなかった。
普段の体調ですらきつい中、貧血気味で頭がふらふらとし始めた。次の駅に着いた時には隣同士の距離もこれ以上詰められないほどぎゅうぎゅうとなり、意識が少しずつ薄れてゆく。
あと、少し...
そう考えながらも、顔が青ざめてゆくのがわかる。手足もふらふらの状態だった。
ヤバい、立っていられないかもしれない。どう、しよう。
「おい、大丈夫か?」
そんな時、肩を支えるようにして後ろから声をかけられた。
支えられているからか、ふわっと浮くように体が軽くなった。
周囲にいた人も、私の異変に気付いたのか今までぎゅうぎゅうになっていた周囲の空間が少しだけ空いた。
「顔色悪い。次の駅で降りよう」
そう言って、駅に着くまで支えるようにして立ってくれた。
駅に到着し、外へ向かう人の流れに乗り、電車を降りた。その間も、彼はずっと肩を支えてくれていた。
「ちょっと座ってて」
彼はそう言うと、私を駅のベンチに座らせてそばに荷物を置いた。
どうしよう。
途中で降りちゃったけど、この人も同じ高校生だよね。授業とか、大丈夫なのかな。
ベンチに座り、少し落ち着いてきた私は色々と考えを巡らせた。
制服は違うけど、高校生で間違えない。
というか、あの高校すごく頭が良いところだよね。
そんなことを考えていると、彼が手にペットボトルを持って戻ってきた。
「ん。これ、よかったら」
「あ、ありがとうございます」
スポーツドリンクだった。
少しずつ飲むと、ほっと息が漏れた。
彼は一つ年上の2年生だった。
そのあとたわいのない会話をし、母に車で迎えに来てもらうことになった。
授業に遅れないか心配で、もう母が来るから大丈夫だと伝えたけれど、友達にも遅れる事を伝えてるから問題ないからと言って、母が迎えに来るまで側にいてくれた。
母が来て事情を話し、何度もお礼を言って別れた。
優しい人だったな。
あの人がいなかったら、今頃倒れてたかもしれない。
そんなことを考えながら、その日はそのまま寝て、次の日も大事をとって休むことにした。
その翌日から同じ電車に乗った時、また彼と会った。そこで初めて、この車両にいつも乗っていることを知ったのだ。
お礼を言おうと試みたけれど、この人の多さだ。話しかけに行ける距離でもなく、私はペコリと頭を下げるので精一杯だった。
高校の最寄駅について降りる時に、「この間ありがとうございました!」そう言って降りた。すぐに同じように降りてくる人混みに流されてしまったから、彼に届いたか分からないけれど。
連絡先を交換したりとか、話していくうちにお互いに惹かれて付き合うとか、そんな漫画のようなことはなかった。
彼を見かけると温かくなる気持ちが恋なのか、それとも助けてもらったお礼の気持ちなのかわからない。
けれど、あの日から彼が気になるのは事実だ。
そして今日も、同じ車両に乗り込んだ。
朝の憂鬱だったこの時間が、いつの日か楽しみに変わっていった。
高身長な彼は、存在感がある。
目立つほど格好いい訳ではないけれど、整った顔立ちをしている方だと思う。
朝の通学時間。
朝が特に苦手な私にとって、人で溢れかえるこの電車は苦痛で仕方がない。
この時間に、彼は途中からこの車両に乗ってくる。
毎朝見ている光景のはずなのに、毎回人混みの多さに顔を歪ませながら乗車してくる。そして、私を見つけるとふわりと笑みを浮かべるのだ。
その瞬間、ほんのりと体温が上がるのがわかった。
彼と出会ったのは数ヶ月前のこと。
家の都合で引っ越すことになった私は、その翌日からこの電車での通学を余儀なくされた。
引っ越しといっても、都心から少し離れた場所への移動のような距離だった。
母が仕事を始めることになり、父の職場と母の職場の距離を考えて、どちらにも近いこの地域に引っ越すことになったのだ。
電車もバスも本数は割と多いし交通の便に関しては良いのだが、問題は人の多さ。
特に朝の通勤時間は地獄だった。
前住んでいた地域よりもサラリーマンや学生が多い地区になってしまった為か、以前よりも格段に通学時間が長く感じてしまう。
学校に着いた頃にはヘトヘトだった。
こんな生活がこれから続くのかと落ち込んでいた頃、彼と出会った。
その日は雨の予報でいつもより混雑していた。ぎゅうぎゅうと押されながらも必死で自分の立ち位置を確保する。
けれど、運悪く月に一度のあの日が来てしまい、朝から体調が優れなかった。
普段の体調ですらきつい中、貧血気味で頭がふらふらとし始めた。次の駅に着いた時には隣同士の距離もこれ以上詰められないほどぎゅうぎゅうとなり、意識が少しずつ薄れてゆく。
あと、少し...
そう考えながらも、顔が青ざめてゆくのがわかる。手足もふらふらの状態だった。
ヤバい、立っていられないかもしれない。どう、しよう。
「おい、大丈夫か?」
そんな時、肩を支えるようにして後ろから声をかけられた。
支えられているからか、ふわっと浮くように体が軽くなった。
周囲にいた人も、私の異変に気付いたのか今までぎゅうぎゅうになっていた周囲の空間が少しだけ空いた。
「顔色悪い。次の駅で降りよう」
そう言って、駅に着くまで支えるようにして立ってくれた。
駅に到着し、外へ向かう人の流れに乗り、電車を降りた。その間も、彼はずっと肩を支えてくれていた。
「ちょっと座ってて」
彼はそう言うと、私を駅のベンチに座らせてそばに荷物を置いた。
どうしよう。
途中で降りちゃったけど、この人も同じ高校生だよね。授業とか、大丈夫なのかな。
ベンチに座り、少し落ち着いてきた私は色々と考えを巡らせた。
制服は違うけど、高校生で間違えない。
というか、あの高校すごく頭が良いところだよね。
そんなことを考えていると、彼が手にペットボトルを持って戻ってきた。
「ん。これ、よかったら」
「あ、ありがとうございます」
スポーツドリンクだった。
少しずつ飲むと、ほっと息が漏れた。
彼は一つ年上の2年生だった。
そのあとたわいのない会話をし、母に車で迎えに来てもらうことになった。
授業に遅れないか心配で、もう母が来るから大丈夫だと伝えたけれど、友達にも遅れる事を伝えてるから問題ないからと言って、母が迎えに来るまで側にいてくれた。
母が来て事情を話し、何度もお礼を言って別れた。
優しい人だったな。
あの人がいなかったら、今頃倒れてたかもしれない。
そんなことを考えながら、その日はそのまま寝て、次の日も大事をとって休むことにした。
その翌日から同じ電車に乗った時、また彼と会った。そこで初めて、この車両にいつも乗っていることを知ったのだ。
お礼を言おうと試みたけれど、この人の多さだ。話しかけに行ける距離でもなく、私はペコリと頭を下げるので精一杯だった。
高校の最寄駅について降りる時に、「この間ありがとうございました!」そう言って降りた。すぐに同じように降りてくる人混みに流されてしまったから、彼に届いたか分からないけれど。
連絡先を交換したりとか、話していくうちにお互いに惹かれて付き合うとか、そんな漫画のようなことはなかった。
彼を見かけると温かくなる気持ちが恋なのか、それとも助けてもらったお礼の気持ちなのかわからない。
けれど、あの日から彼が気になるのは事実だ。
そして今日も、同じ車両に乗り込んだ。
朝の憂鬱だったこの時間が、いつの日か楽しみに変わっていった。
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