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また、会える日まで
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私の叔父さんは、誰にでも分け隔てなく優しくて、温かい人だ。
怒ったところは見たことがないし、いつも穏やかでにこにこと笑っている。
私に対しても、それは同じだった。
「そろそろ行くよー!」
「はぁーい!!」
いそいそと準備を整えて車に乗り込む。
今日は、年に一度親戚同士で集まる日だ。
みんなで早くから予定を合わせて、その日におばあちゃん家に集まってワイワイと親族同士で楽しむのだ。
正月やお盆は人の移動が多く、遠方から来る親戚が来るのが大変だという事で、何故か早くから「この日に集まる」と日程を組むのだ。
私は、その集まりが苦手だった。
普段から口下手でなかなか人の輪に入る事が苦手な私にとって、いくら親族といえど普段会わない人たちと食事を囲む事にどうしても慣れなかった。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんとさっき話したんだけど、もしかしたら彼女と彼氏も連れてくるかもってー!」
隣で妹は楽しそうに話している。
私とは正反対の5つ下の妹は、誰とでもすぐに打ち解けられるタイプだ。
こんな風に、知らないうちに親戚のお兄ちゃんやお姉ちゃんと仲良く連絡を取り合うほど。
私は連絡先すら知らない。
「あんた、今日はちゃんと話しなさいよ?いっつもあんただけよ、黙りして暗ぁーい雰囲気なのはっ」
「...わかってるもん」
お母さんに注意されるのはこれが初めてではない。
暗い雰囲気を出しているつもりはないのに、そういう風に見えるから、もう少し明るくなりなさいといつも注意される。
「お姉ちゃんはお姉ちゃんで頑張ってるんだから、あんまり言わないであげてよ」
ね?と、妹が助け舟を出してくれる。
妹はいつもこうして庇ってくれるのだ。
「ほんと、全然似てないわよねぇあんた達は」
「まぁまぁ。よし、行くぞー」
お父さんがお母さんを少しなだめ、車を出発させる。
私は複雑な気持ちで外を眺めた。
「おぉおぉ、よく来たね。さぁ、上がって」
私たちがつくと、おじいちゃんが外で出迎えてくれた。
既に他のみんなは揃っているようだ。
オードブルや手作りの料理がテーブルいっぱいに並べられている。
「あんたはこっち手伝って。ほら、あの子はもう色々やってくれてるわよ」
妹は着いてすぐに親戚たちに挨拶を済ませ、テキパキと料理の準備や配膳を手伝っていた。
親戚のお兄ちゃん達も続々と集まってくる。
妹はお兄ちゃんの彼女を見るなり、目を輝かせながら近寄って挨拶をしていた。
「えっ!可愛いーー!お兄ちゃんさすがだね、こんな綺麗な人捕まえてぇ!やるぅ!あっ、初めまして!」
「綺麗なんて!うれしいっ。」
「はははっ」
楽しそうに話す妹を眺めながら、思わず立ち尽くす。
学校では話せる友人もいるし、特別孤独感を感じたことはない。
だけどここでは、どうしても孤独感を感じてしまうのだ。
「おぉ!えらく綺麗になったじゃないかぁ」
ふと、声をかけられた。
「あっ...叔父さん。久しぶり」
「ははっ、元気にしてたか?」
「うん!」
唯一、私に声をかけてくれる人。
それが、叔父さんだった。
母の兄である叔父さんは、昔から私を娘のように可愛がってくれた。
妹の事はもちろんだが、何故か私をとりわけ可愛がってくれるのだ。
そんな叔父さんが私は大好きだった。
嬉しさと同時に、こんな私を可愛がってくれるなんて、という後ろめたいものもあった。
叔父さんには子どもがいない。
どういう理由かは知らないけれど、でも叔父さん夫婦はいつも幸せそうだった。
「お兄ちゃん、座って座って」
お母さんが料理を運びながら言った。
そして、私にあんたは手伝って!と視線を向ける。
「相変わらずバタバタしてるなぁ。じゃあ、また後で話そうな」
苦笑いで叔父さんはリビングへと向かっていった。
「それじゃあ、かんぱーい!」
毎年恒例の、親戚同士の集まり。
わいわいとみんなが楽しそうに話す中、わたしは引き攣る笑顔を保つのに必死だった。
どうして、うまく立ち振る舞えないのか。
毎回、歳を重ねるごとに悩みは膨らんでゆく。
少し経って、私はトイレに行くためリビングを出た。
「ふぅ...」
思わずため息が出る。
あと、何時間あの空間にいなければならないのだろうか。
「おっ、どうした?気分でも悪いのか?」
ふと目の前に人影が現れて驚いた。
叔父さんだった。
「ううんっ、少しトイレに」
「そうか...」
じーっと、叔父さんが私を見つめる。
どうしたのだろうか?
キョトンとする私に、叔父さんは言った。
「...よく聞いてくれ。」
「う、うん?」
その眼差しは真剣だった。
「何があっても、味方だぞ」
「え...?」
「何があっても、叔父さんはお前の味方だからな」
そして、にっこりと笑った。
「いきなりごめんな。トイレ行ってきて良いぞ」
そして、そのままリビングへと歩いて行った。
...一体なんだったのだろうか。
結局その日は叔父さんと話せる暇もなく後片付けをした。
妹はおばあちゃん家にお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に泊まると言い、お母さんもそのまま泊まることになった。翌日に資格試験を控えていた私はお父さんと一緒に自宅へ帰った。
「ふぅ...」
無事に試験を終え、夜になって湯船に浸かりながら昨日のことを思い出していた。
考えてみるが叔父さんが何故あんな事を言ったのか分からなかった。
お風呂から上がって歯磨きをしながら、ぼんやりとしていると、ふわっ、と近くに人がいるような感覚がした。
お父さんは緊急で呼び出されて職場へ向かっているし、お母さんも妹もまだおばあちゃん家にいる。
今家にいるのは私だけだ。
胸がドキドキと波打ち、気配のする背後をばっと振り向いてみたが...
誰もいない。
「...気のせいか」
ぽつりと呟き、歯磨きを再開する。
叔父さんが亡くなったと聞いたのは、その数日後のことだった。
突然の心臓発作が原因だった。
「うぅっ...っ」
泣きじゃくる妹の横で、私はぼんやりと今いる状況を整理しようとした。
でも、頭を巡るのは叔父さんとの思い出ばかりだった。
幼い頃から、叔父さんはいつも優しかった。表情に感情が出ない私をいつも心配し、辛くないか、何か不安な事があったらいつでも相談するようにと言ってくれた。
私が昔着ていた服は全て叔父さんから貰ったものばかりだったと、お母さんから聞いた事がある。
それはそれは、私が生まれたことを喜んでくれて、人一倍可愛がってくれた。
たくさん、愛情をもらったのに。
わたしは、一体何をしていたの?
妹を羨ましく思うばかりで、考えるばかりで、自分のことばかりで。
『何があっても、叔父さんはお前の味方だからな』
叔父さんは、わかっていたのかもしれない。
あの日が、私と会える最後の日だったということを。
涙が頬を伝う。
顔がぐしゃぐしゃになるのも構わず、泣いた。
いくら泣いても、悲しんでも。
叔父さんとは、もう二度と会えない。
今までの感謝の気持ちも伝えられない。
そして、ふと気づいた。
あの日、人の気配がしたのは叔父さんが来たのかもしれない。
人は死ぬ前に、挨拶をしたい人の元へ行くのだと、何かの本で読んだ事がある。
その時は半信半疑で、そうなんだなぁくらいにしか思っていなかったけれど。
...叔父さん、最期に会いにきてくれていたんだ。
ひたすら泣いて、泣いて。
叔父さんが天国で幸せであるようにと、心の底から祈った。
数年の月日が経ち。
今日は、実家へと向かった。
妹が里帰りで帰ってきているのだ。
地元の大学を卒業後、東京に就職した私は仕事で評価され役職が付き、バリバリ働くいわゆるキャリアウーマンになった。
妹は短大を卒業後、地元の企業に就職し、そこで出会った人と結婚して今は産休中だ。
「ただいまぁー」
手土産を持ち、リビングへと向かう。
「あっ、お姉ちゃんおかえりー」
「うわ、お腹大きくなったねぇ」
リビングでくつろいでいた妹は、私の方を見て嬉しそうに笑った。
大きめのワンピースを着た妹のお腹は、前会った時よりもはるかに大きくなっていた。
「あー!それ、この前テレビで特集があったお菓子じゃん!」
私の手土産を見て、妹が声を上げる。
「そうよー。並んで買ってきたんだから」
起きあがろうとする妹を制し、私はキッチンで持ってきたケーキを切り分け、ポットにお湯を沸かして紅茶を淹れた。
「どーぞ」
「ありがとう!うわぁ、美味しそう!!」
相変わらず、妹は明るい。
周りをいつも明るい気持ちにさせてくれる。私にはないものを持っているけれど、前みたいに卑屈に思うことはもうなかった。
仕事で辛い時、人間関係で悩んだ時。
いつも、叔父さんの言葉を思い出す。
そう、私には叔父さんが味方でいてくれる。
「これ、あげるわ。持っていてくれるかしら?」
お別れを告げた後、叔父さんの奥さんから手渡されたのは、茶色のキーケースだった。使い込まれたような跡がある。
「あの人が肌身離さず持っていたものよ」
「こんな大事なもの、私にっ...」
「いいの。あの人だと思って、持っていて欲しいの。あなたの事、本当に可愛がっていたから」
その言葉に、また泣きそうになる。
「ありがとう、ございます」
その日から、キーケースは私の宝物になった。
何度も何度も、叔父さんが生きていたらと思う事がある。
言いたい事がたくさんある。
澄み切った空を見上げ、すうっと息を吸い込み、ゆっくりと吐く。
叔父さんの分も、わたし、精一杯生きるから。
寿命がきて、いつか会える日が来たら。
その時は、笑顔で会おうね。
そして、伝えるね。
何があっても味方でいてくれて、ありがとう。
怒ったところは見たことがないし、いつも穏やかでにこにこと笑っている。
私に対しても、それは同じだった。
「そろそろ行くよー!」
「はぁーい!!」
いそいそと準備を整えて車に乗り込む。
今日は、年に一度親戚同士で集まる日だ。
みんなで早くから予定を合わせて、その日におばあちゃん家に集まってワイワイと親族同士で楽しむのだ。
正月やお盆は人の移動が多く、遠方から来る親戚が来るのが大変だという事で、何故か早くから「この日に集まる」と日程を組むのだ。
私は、その集まりが苦手だった。
普段から口下手でなかなか人の輪に入る事が苦手な私にとって、いくら親族といえど普段会わない人たちと食事を囲む事にどうしても慣れなかった。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんとさっき話したんだけど、もしかしたら彼女と彼氏も連れてくるかもってー!」
隣で妹は楽しそうに話している。
私とは正反対の5つ下の妹は、誰とでもすぐに打ち解けられるタイプだ。
こんな風に、知らないうちに親戚のお兄ちゃんやお姉ちゃんと仲良く連絡を取り合うほど。
私は連絡先すら知らない。
「あんた、今日はちゃんと話しなさいよ?いっつもあんただけよ、黙りして暗ぁーい雰囲気なのはっ」
「...わかってるもん」
お母さんに注意されるのはこれが初めてではない。
暗い雰囲気を出しているつもりはないのに、そういう風に見えるから、もう少し明るくなりなさいといつも注意される。
「お姉ちゃんはお姉ちゃんで頑張ってるんだから、あんまり言わないであげてよ」
ね?と、妹が助け舟を出してくれる。
妹はいつもこうして庇ってくれるのだ。
「ほんと、全然似てないわよねぇあんた達は」
「まぁまぁ。よし、行くぞー」
お父さんがお母さんを少しなだめ、車を出発させる。
私は複雑な気持ちで外を眺めた。
「おぉおぉ、よく来たね。さぁ、上がって」
私たちがつくと、おじいちゃんが外で出迎えてくれた。
既に他のみんなは揃っているようだ。
オードブルや手作りの料理がテーブルいっぱいに並べられている。
「あんたはこっち手伝って。ほら、あの子はもう色々やってくれてるわよ」
妹は着いてすぐに親戚たちに挨拶を済ませ、テキパキと料理の準備や配膳を手伝っていた。
親戚のお兄ちゃん達も続々と集まってくる。
妹はお兄ちゃんの彼女を見るなり、目を輝かせながら近寄って挨拶をしていた。
「えっ!可愛いーー!お兄ちゃんさすがだね、こんな綺麗な人捕まえてぇ!やるぅ!あっ、初めまして!」
「綺麗なんて!うれしいっ。」
「はははっ」
楽しそうに話す妹を眺めながら、思わず立ち尽くす。
学校では話せる友人もいるし、特別孤独感を感じたことはない。
だけどここでは、どうしても孤独感を感じてしまうのだ。
「おぉ!えらく綺麗になったじゃないかぁ」
ふと、声をかけられた。
「あっ...叔父さん。久しぶり」
「ははっ、元気にしてたか?」
「うん!」
唯一、私に声をかけてくれる人。
それが、叔父さんだった。
母の兄である叔父さんは、昔から私を娘のように可愛がってくれた。
妹の事はもちろんだが、何故か私をとりわけ可愛がってくれるのだ。
そんな叔父さんが私は大好きだった。
嬉しさと同時に、こんな私を可愛がってくれるなんて、という後ろめたいものもあった。
叔父さんには子どもがいない。
どういう理由かは知らないけれど、でも叔父さん夫婦はいつも幸せそうだった。
「お兄ちゃん、座って座って」
お母さんが料理を運びながら言った。
そして、私にあんたは手伝って!と視線を向ける。
「相変わらずバタバタしてるなぁ。じゃあ、また後で話そうな」
苦笑いで叔父さんはリビングへと向かっていった。
「それじゃあ、かんぱーい!」
毎年恒例の、親戚同士の集まり。
わいわいとみんなが楽しそうに話す中、わたしは引き攣る笑顔を保つのに必死だった。
どうして、うまく立ち振る舞えないのか。
毎回、歳を重ねるごとに悩みは膨らんでゆく。
少し経って、私はトイレに行くためリビングを出た。
「ふぅ...」
思わずため息が出る。
あと、何時間あの空間にいなければならないのだろうか。
「おっ、どうした?気分でも悪いのか?」
ふと目の前に人影が現れて驚いた。
叔父さんだった。
「ううんっ、少しトイレに」
「そうか...」
じーっと、叔父さんが私を見つめる。
どうしたのだろうか?
キョトンとする私に、叔父さんは言った。
「...よく聞いてくれ。」
「う、うん?」
その眼差しは真剣だった。
「何があっても、味方だぞ」
「え...?」
「何があっても、叔父さんはお前の味方だからな」
そして、にっこりと笑った。
「いきなりごめんな。トイレ行ってきて良いぞ」
そして、そのままリビングへと歩いて行った。
...一体なんだったのだろうか。
結局その日は叔父さんと話せる暇もなく後片付けをした。
妹はおばあちゃん家にお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に泊まると言い、お母さんもそのまま泊まることになった。翌日に資格試験を控えていた私はお父さんと一緒に自宅へ帰った。
「ふぅ...」
無事に試験を終え、夜になって湯船に浸かりながら昨日のことを思い出していた。
考えてみるが叔父さんが何故あんな事を言ったのか分からなかった。
お風呂から上がって歯磨きをしながら、ぼんやりとしていると、ふわっ、と近くに人がいるような感覚がした。
お父さんは緊急で呼び出されて職場へ向かっているし、お母さんも妹もまだおばあちゃん家にいる。
今家にいるのは私だけだ。
胸がドキドキと波打ち、気配のする背後をばっと振り向いてみたが...
誰もいない。
「...気のせいか」
ぽつりと呟き、歯磨きを再開する。
叔父さんが亡くなったと聞いたのは、その数日後のことだった。
突然の心臓発作が原因だった。
「うぅっ...っ」
泣きじゃくる妹の横で、私はぼんやりと今いる状況を整理しようとした。
でも、頭を巡るのは叔父さんとの思い出ばかりだった。
幼い頃から、叔父さんはいつも優しかった。表情に感情が出ない私をいつも心配し、辛くないか、何か不安な事があったらいつでも相談するようにと言ってくれた。
私が昔着ていた服は全て叔父さんから貰ったものばかりだったと、お母さんから聞いた事がある。
それはそれは、私が生まれたことを喜んでくれて、人一倍可愛がってくれた。
たくさん、愛情をもらったのに。
わたしは、一体何をしていたの?
妹を羨ましく思うばかりで、考えるばかりで、自分のことばかりで。
『何があっても、叔父さんはお前の味方だからな』
叔父さんは、わかっていたのかもしれない。
あの日が、私と会える最後の日だったということを。
涙が頬を伝う。
顔がぐしゃぐしゃになるのも構わず、泣いた。
いくら泣いても、悲しんでも。
叔父さんとは、もう二度と会えない。
今までの感謝の気持ちも伝えられない。
そして、ふと気づいた。
あの日、人の気配がしたのは叔父さんが来たのかもしれない。
人は死ぬ前に、挨拶をしたい人の元へ行くのだと、何かの本で読んだ事がある。
その時は半信半疑で、そうなんだなぁくらいにしか思っていなかったけれど。
...叔父さん、最期に会いにきてくれていたんだ。
ひたすら泣いて、泣いて。
叔父さんが天国で幸せであるようにと、心の底から祈った。
数年の月日が経ち。
今日は、実家へと向かった。
妹が里帰りで帰ってきているのだ。
地元の大学を卒業後、東京に就職した私は仕事で評価され役職が付き、バリバリ働くいわゆるキャリアウーマンになった。
妹は短大を卒業後、地元の企業に就職し、そこで出会った人と結婚して今は産休中だ。
「ただいまぁー」
手土産を持ち、リビングへと向かう。
「あっ、お姉ちゃんおかえりー」
「うわ、お腹大きくなったねぇ」
リビングでくつろいでいた妹は、私の方を見て嬉しそうに笑った。
大きめのワンピースを着た妹のお腹は、前会った時よりもはるかに大きくなっていた。
「あー!それ、この前テレビで特集があったお菓子じゃん!」
私の手土産を見て、妹が声を上げる。
「そうよー。並んで買ってきたんだから」
起きあがろうとする妹を制し、私はキッチンで持ってきたケーキを切り分け、ポットにお湯を沸かして紅茶を淹れた。
「どーぞ」
「ありがとう!うわぁ、美味しそう!!」
相変わらず、妹は明るい。
周りをいつも明るい気持ちにさせてくれる。私にはないものを持っているけれど、前みたいに卑屈に思うことはもうなかった。
仕事で辛い時、人間関係で悩んだ時。
いつも、叔父さんの言葉を思い出す。
そう、私には叔父さんが味方でいてくれる。
「これ、あげるわ。持っていてくれるかしら?」
お別れを告げた後、叔父さんの奥さんから手渡されたのは、茶色のキーケースだった。使い込まれたような跡がある。
「あの人が肌身離さず持っていたものよ」
「こんな大事なもの、私にっ...」
「いいの。あの人だと思って、持っていて欲しいの。あなたの事、本当に可愛がっていたから」
その言葉に、また泣きそうになる。
「ありがとう、ございます」
その日から、キーケースは私の宝物になった。
何度も何度も、叔父さんが生きていたらと思う事がある。
言いたい事がたくさんある。
澄み切った空を見上げ、すうっと息を吸い込み、ゆっくりと吐く。
叔父さんの分も、わたし、精一杯生きるから。
寿命がきて、いつか会える日が来たら。
その時は、笑顔で会おうね。
そして、伝えるね。
何があっても味方でいてくれて、ありがとう。
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