26 / 33
祖父と祖母③
しおりを挟む
『娘がっ....喜美子がいないの!!』
顔面蒼白になりながら祖母の母が祖父の家を訪ねて来たのは、真冬の吹雪の日。
野菜の配達の仕事を終え、両親と共に自宅でくつろいでいた時だった。
『喜美子がっ.....うっ......』
玄関で泣き崩れる祖母の母を、祖父の母が慌てて抱き抱え、居間へ案内した。
祖母の母が言うには、いつものように旅館での仕事を終えて帰宅した時、いつもあるはずの祖母の靴が無かったと言う。
友達と寄り道をして帰るにしても、既に8時を過ぎている。
辺りは真っ暗で、裏に回ると祖母がいつも送り迎えをしている車が置いてあった。
寄り道をしているなら、迎えの車がここにあるのはおかしい。
震える手で、祖母の母はいつも送り迎えをしている運転手に電話をかけた。
『え?喜美子様でしたら、もうとっくにご自宅に送りましたが.....』
その言葉に、祖母の母はパニックになった。
祖母の父は従業員全員に娘を探すように指示し、警察にも連絡したと言う
祖母の学校にも連絡を入れ、総出で捜索していた。
もしかしたら祖父が何か知っているのではないかと、藁にもすがる思いで祖父の家に来たらしいが、祖父があの日以来全く接点が無いことを知ると、絶望したように泣き出した。
『あの子にっ.....あの子に何かあったら私っ.....』
『....あなたは悪くない。きっと大丈夫だから、落ち着きましょう』
取り乱す祖母の母をぎゅっと抱きしめ、優しく声をかけ、祖父の母はばっと祖父を見た。
『あんた、なぁにぼーっとしとんね!大事な子なんやろ!はよ探しに行きぃ!!!』
その瞬間、祖父は家を飛び出した。
その時、祖母の母が泣きながら話す間に外に出かけていた祖父の父が玄関に戻ってきた。
祖父の父は祖父を見るなり、やっぱりなぁという表情になる。
『今、滑らんように自転車にチェーンを巻いたから。けど、あんま無理せんようにな。母ちゃんはあぁ言うとるけど、お前の事を一番に心配しとるからな』
そして、祖父に自転車の鍵と「これも着て行き」とダウンを渡した。
『こんな時に車やバイクでもあったら良いんやけどなぁ。....正一、気をつけて行くんよ』
全速力で自転車を漕いだ。
雪が降り注ぐ中、祖父は真っ赤になりながら汗だくで祖母を探した。
祖父はこの時、祖母がいる場所がなんとなく分かっていた。
両親に隠れて会っていた時、約束していたのだ。
お互いの誕生日は、ここで一緒にお祝いをしようと。
そしてその日は、祖父の誕生日だった。
顔面蒼白になりながら祖母の母が祖父の家を訪ねて来たのは、真冬の吹雪の日。
野菜の配達の仕事を終え、両親と共に自宅でくつろいでいた時だった。
『喜美子がっ.....うっ......』
玄関で泣き崩れる祖母の母を、祖父の母が慌てて抱き抱え、居間へ案内した。
祖母の母が言うには、いつものように旅館での仕事を終えて帰宅した時、いつもあるはずの祖母の靴が無かったと言う。
友達と寄り道をして帰るにしても、既に8時を過ぎている。
辺りは真っ暗で、裏に回ると祖母がいつも送り迎えをしている車が置いてあった。
寄り道をしているなら、迎えの車がここにあるのはおかしい。
震える手で、祖母の母はいつも送り迎えをしている運転手に電話をかけた。
『え?喜美子様でしたら、もうとっくにご自宅に送りましたが.....』
その言葉に、祖母の母はパニックになった。
祖母の父は従業員全員に娘を探すように指示し、警察にも連絡したと言う
祖母の学校にも連絡を入れ、総出で捜索していた。
もしかしたら祖父が何か知っているのではないかと、藁にもすがる思いで祖父の家に来たらしいが、祖父があの日以来全く接点が無いことを知ると、絶望したように泣き出した。
『あの子にっ.....あの子に何かあったら私っ.....』
『....あなたは悪くない。きっと大丈夫だから、落ち着きましょう』
取り乱す祖母の母をぎゅっと抱きしめ、優しく声をかけ、祖父の母はばっと祖父を見た。
『あんた、なぁにぼーっとしとんね!大事な子なんやろ!はよ探しに行きぃ!!!』
その瞬間、祖父は家を飛び出した。
その時、祖母の母が泣きながら話す間に外に出かけていた祖父の父が玄関に戻ってきた。
祖父の父は祖父を見るなり、やっぱりなぁという表情になる。
『今、滑らんように自転車にチェーンを巻いたから。けど、あんま無理せんようにな。母ちゃんはあぁ言うとるけど、お前の事を一番に心配しとるからな』
そして、祖父に自転車の鍵と「これも着て行き」とダウンを渡した。
『こんな時に車やバイクでもあったら良いんやけどなぁ。....正一、気をつけて行くんよ』
全速力で自転車を漕いだ。
雪が降り注ぐ中、祖父は真っ赤になりながら汗だくで祖母を探した。
祖父はこの時、祖母がいる場所がなんとなく分かっていた。
両親に隠れて会っていた時、約束していたのだ。
お互いの誕生日は、ここで一緒にお祝いをしようと。
そしてその日は、祖父の誕生日だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説


【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる