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祖母の想い
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祖母が亡くなったと連絡が来たのは、私が大学2年生の時。
夏休みに入り、絵の合宿と称して友人達と旅行に行っていた時だった。
私はすぐに飛行機に飛び乗り、祖母の家へと向かった。その後はどうやって移動したか、自分でも覚えていない。
信じられない気持ちでいっぱいだった。
母は、一時期まともに食事ができない状態だった。
家族みんなが、そして近所の人でさえショックで涙を流していた中、祖父は決して涙を見せなかった。
それどころか、祖母が亡くなった次の日も、変わらず畑仕事を続けていた。
最初の頃は、奥さんが亡くなったというのに、素知らぬ顔をして畑仕事をするなんてなんて人だ、と周りから言われていた。
しかし、よほどショックだったのだろうと、周囲は次第にそっとしておく事を決めた。
私はそんな祖父が心配だったが、祖父は変わらず私の心配をしてくれた。
「わしの心配はいいから、自分のことを考えなさい。いつでも頼るんだよ」
そう優しい言葉をかけてくれた。
そんな祖父が。
祖母がいなくなった時でさえ、決して涙を見せなかった祖父が。
目の前で、泣いているのだ。
「うっ.....うう、.....っ」
声を押し殺していたが、堪えきれなかったのか、わんわんと泣き出した。
信じられなかった。
ジャリッ...ジャリッ....
遠くの方で、車を止める音がした。
「お父さん、由佳子ー?いるのー?」
玄関の方から母の声がする。
廊下を歩いてこちらに向かって来る足音が聞こえた。
私が〝祖父のところに行く〟と、向かう電車の中で母に念の為連絡をしたのだ。
どうやら心配で、車で来たようだった。
「おとうさ......えっ.....?」
母は、私と祖父がいる部屋に入ってきて、言葉を失ったように祖父を見た。
「どうしたの....?なにが....」
私は黙って祖父を見つめた。
私達の間に沈黙が流れる。
しばらくすると、祖父は涙を堪えながら震える手で私に手紙を渡してきた。
「読んで、いいの....?」
頷く祖父を確認して、私は祖母からの手紙を読んだ。
〝正一さんへ
あなたに手紙を書くなんて、いつぶりかしらね。
読みにくかったらごめんなさい。
病気だとお医者様から言われた時から、私は一番あなたの事が心配でした。
昔から人一倍努力家で、家族思いで、寂しがり屋なあなた。
それは今も変わらないわね。
私が病気だと知って、一番動揺したのはあなただったじゃないかしら。
あなたは決して弱った姿を見せなかったけれど。
でも、実はね。夜中に私が寝たのを確認した後、リビングであなたが声を押し殺して泣いていた事、私は知っていました。
何ともないように振る舞って、決して弱さを見せないあなたを見て。
あぁ、この人は私がいなくなった後、自分で全て背負い込んでしまわないだろうか。
それが、心配になりました。
自分では気づいていないかもしれないけれど、あなたはとっても不器用だから。
だから、約束してください。
この手紙を読んだなら、すべて自分で背負い込もうとしない事。
辛い事は、いくら隠しても辛いのよ。
だから、強がってはダメ。
周りをもっと頼って。
あなたには、可愛い娘の由紀と可愛い孫の由佳子がいるでしょう?
それと、今まで恥ずかしくて言えなかったけど。
私はあなたと結婚できて幸せでした。
本当に、あなたへの気持ちだけは、誰にも負けませんよ。
私がいないからって、強がるのはやめてね。
私は先に旅立ちますけど、ずっとあなたのこと見守っていますからね。〟
祖母の、とても綺麗な字が並ぶ。
「.....っ」
手紙の端に、震えるような字で小さく書かれた文を見つけた。
涙の跡なのか、それは滲んでいる。
それ見て、私は堪えきれずに泣いてしまった。
〝正一さん。
私を選んでくれて、ありがとう
ずっと、大好きです〟
夏休みに入り、絵の合宿と称して友人達と旅行に行っていた時だった。
私はすぐに飛行機に飛び乗り、祖母の家へと向かった。その後はどうやって移動したか、自分でも覚えていない。
信じられない気持ちでいっぱいだった。
母は、一時期まともに食事ができない状態だった。
家族みんなが、そして近所の人でさえショックで涙を流していた中、祖父は決して涙を見せなかった。
それどころか、祖母が亡くなった次の日も、変わらず畑仕事を続けていた。
最初の頃は、奥さんが亡くなったというのに、素知らぬ顔をして畑仕事をするなんてなんて人だ、と周りから言われていた。
しかし、よほどショックだったのだろうと、周囲は次第にそっとしておく事を決めた。
私はそんな祖父が心配だったが、祖父は変わらず私の心配をしてくれた。
「わしの心配はいいから、自分のことを考えなさい。いつでも頼るんだよ」
そう優しい言葉をかけてくれた。
そんな祖父が。
祖母がいなくなった時でさえ、決して涙を見せなかった祖父が。
目の前で、泣いているのだ。
「うっ.....うう、.....っ」
声を押し殺していたが、堪えきれなかったのか、わんわんと泣き出した。
信じられなかった。
ジャリッ...ジャリッ....
遠くの方で、車を止める音がした。
「お父さん、由佳子ー?いるのー?」
玄関の方から母の声がする。
廊下を歩いてこちらに向かって来る足音が聞こえた。
私が〝祖父のところに行く〟と、向かう電車の中で母に念の為連絡をしたのだ。
どうやら心配で、車で来たようだった。
「おとうさ......えっ.....?」
母は、私と祖父がいる部屋に入ってきて、言葉を失ったように祖父を見た。
「どうしたの....?なにが....」
私は黙って祖父を見つめた。
私達の間に沈黙が流れる。
しばらくすると、祖父は涙を堪えながら震える手で私に手紙を渡してきた。
「読んで、いいの....?」
頷く祖父を確認して、私は祖母からの手紙を読んだ。
〝正一さんへ
あなたに手紙を書くなんて、いつぶりかしらね。
読みにくかったらごめんなさい。
病気だとお医者様から言われた時から、私は一番あなたの事が心配でした。
昔から人一倍努力家で、家族思いで、寂しがり屋なあなた。
それは今も変わらないわね。
私が病気だと知って、一番動揺したのはあなただったじゃないかしら。
あなたは決して弱った姿を見せなかったけれど。
でも、実はね。夜中に私が寝たのを確認した後、リビングであなたが声を押し殺して泣いていた事、私は知っていました。
何ともないように振る舞って、決して弱さを見せないあなたを見て。
あぁ、この人は私がいなくなった後、自分で全て背負い込んでしまわないだろうか。
それが、心配になりました。
自分では気づいていないかもしれないけれど、あなたはとっても不器用だから。
だから、約束してください。
この手紙を読んだなら、すべて自分で背負い込もうとしない事。
辛い事は、いくら隠しても辛いのよ。
だから、強がってはダメ。
周りをもっと頼って。
あなたには、可愛い娘の由紀と可愛い孫の由佳子がいるでしょう?
それと、今まで恥ずかしくて言えなかったけど。
私はあなたと結婚できて幸せでした。
本当に、あなたへの気持ちだけは、誰にも負けませんよ。
私がいないからって、強がるのはやめてね。
私は先に旅立ちますけど、ずっとあなたのこと見守っていますからね。〟
祖母の、とても綺麗な字が並ぶ。
「.....っ」
手紙の端に、震えるような字で小さく書かれた文を見つけた。
涙の跡なのか、それは滲んでいる。
それ見て、私は堪えきれずに泣いてしまった。
〝正一さん。
私を選んでくれて、ありがとう
ずっと、大好きです〟
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