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あの世の世界
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「そんな......」
いつもと違う事は、わかっていた。
それでも、そんなの受けいられない。
容態が急変したのは、午後のこと。
その日はとても天気が良く、洗濯物をいつもより多めに干した。
日が陰り、風が冷たくなってきたので洗濯物を取り込んでいる時だった。
バタンっ.....
何かが、倒れる音がした。
いやな予感がする。
「朱音ー?」
さっきまでリビングでテレビを見ていたはずの朱音がいない。
ドクドクと、心臓が嫌な音を立てる。
「朱音ー?どこにいるのー?」
お願い、返事をして。
「......っ、朱音!!!!!!」
朱音の部屋を開けると、ぐったりと倒れこむ朱音がいた。
震える手で救急車を呼び、病院に着くとすぐに処置が行われた。
そして、告げられたのは残酷な言葉だった。
「今夜が、山でしょう。お気持ちはわかります....どうか、心の準備をしておいてください」
目の前が真っ暗になるとは、こういうことか。
私は、自分がどうやって呼吸をしているかさえわからなかった。
隣で夫が何かを言っているのがわかったけれど、それも聞こえてこない。
ふらふらと、その場を後にする。
「.....朱音」
小さな体にはたくさんの器具がつけられ、痛々しい姿の朱音。
側に座り、私よりも数十倍小さく、弱々しいをぎゅっと握った。
どうして.....?
どうしてこの子がこんな目に合わなければならないんだろう。
いっそ....いっその事私がっ.....
「......マ...マ.....?」
「.....っ、朱音、!?」
涙ぐむ私を見て、朱音はふんわりと笑う。
「お星....さま、きれい.....だねぇ」
窓から見える星のことを言っているのだろうか。
「....っ、そうね、きれいねぇ」
「もっ.....と、長...くすれば....よか、...ったなぁ.....」
「....え?なに....?朱音....?」
「ママ....幸せ?」
「あか、ね.....お願っ.....」
もう、わかっていた。
だからそこ、祈るような気持ちになる。
お願い、いかないで
「あか、ね....はねぇ、幸せ.....だよ?」
「あか...ねっ....」
涙で、声が震える。
「ママ.....しあ....わせ....?」
微笑む朱音に、私は精一杯涙をこらえる。
そして、笑顔で答えた。
「朱音のおかげで、幸せよ」
*************
「これ.....なにかしら....?」
朱音の部屋を整理していると、大量の紙が見つかった。
そして、何度かこの部屋に入った時に、朱音が何かを隠していたのを見たことがある。
それがなんなのか、決して教えてはくれなかった。
「大丈夫か....?なんだそれは?」
夫が、私を心配して部屋に入ってきた。
朱音がいなくなり、抜け殻のようになった私を、夫は懸命に支えてくれた。
夫も辛いはずなのに、側で寄り添ってくれた。
数ヶ月経ち、完全に元に戻ることは難しかったが、ようやく朱音の部屋に入ることが出来るようになった。
「あの子が描いた絵みたい....」
その絵は、翼が生えた人が数人で取り囲んでいる情景や、ふわふわとした雲、きらきらの星空。
そんな、見ていて温かくなるような、そんな絵だった。
「あの子、いつの間にこんな...」
だめだ。思い出すと、また涙が溢れ出してくる。
「....今日はもう遅い。寝よう」
夫がそれに気がついたのか、私を寝室へと促した。
それは、不思議な夢だった。
私は気がつくと、煌煌と輝く光の空を、ふわふわと漂っていた。
ここは、どこ......?
そこで、ぱっと情景が変わる。
気がつくと、目の前に鬼の様な形相の人物が座っていた。
そして、手に持っていた巻物の様なものを静かに読み、そして言った。
『お前はこの世界に行け』
また情景がぱっと変わる。
パシャ....
足元に、水が当たる
「川.....?」
小さなボートが遠くからやってくるのがわかる。
気がつくと、私はボートに乗り込んでいた。
周りは、感覚的にふわふわとした景色で、黄色くキラキラと輝く光でいっぱいだった。
そこで、また情景がパッと変わる。
小さな赤ん坊が目の前に現れた。
ただ、その子は私に気付かないのか何やら下を眺めている様だった。
「.......私....?」
視線を辿っていくと、なんと中学生の私がいた。
スクリーンに、大きく私が映し出されるような、そんな感覚。
中学生時代は、楽しいことなんて一つもなかった。
親戚からは邪魔者扱いをされ、学校の先生は家庭環境が複雑な私をどう扱っていいのかわからない様子で、腫れ物扱いをされていた。
思い出したく、ない。
そして、突然赤ん坊が言った。
『決めた!私、あの人を幸せにする人生にする』
『わかりました。じゃあ、これから私と一緒に人生の計画を立てましょうか』
赤ん坊の側をふよふよと漂っていた光が、赤ん坊に向かって言った。
そしてまた、ぱっと情景が変わる。
目の前に現れたのは.....
「あか、ね....」
申し訳なさそうな表情で、朱音が立っていた。
「ママ、泣かないで」
「あかねっ.....」
今まで見たのは.....朱音の転生するまでの出来事だった。
そして、思い出した。
『朱音ね、お星さまからきたんだよ』
『ママ、幸せ?』
どうして、私が幸せかを確認していたのか.....
生まれた時から、朱音は空を見ては何かを話していた。
寝ていた時も、寝言なのか、ずっと言葉を発していた。
もしかしたら、この世界と繋がっていたからかもしれない。
「ママ...朱音、幸せだったよ」
「.....っ、あかねっ....」
私もよ
そう、伝えようとした時
ピピピピピッ
目覚ましがなる音がして、私は現実に引き戻された。
枕は、涙でぐっしょりと濡れていた。
今のは、夢.....?
そしてその日を境に、私は同じような夢を繰り返し見るようになった。
いつもと違う事は、わかっていた。
それでも、そんなの受けいられない。
容態が急変したのは、午後のこと。
その日はとても天気が良く、洗濯物をいつもより多めに干した。
日が陰り、風が冷たくなってきたので洗濯物を取り込んでいる時だった。
バタンっ.....
何かが、倒れる音がした。
いやな予感がする。
「朱音ー?」
さっきまでリビングでテレビを見ていたはずの朱音がいない。
ドクドクと、心臓が嫌な音を立てる。
「朱音ー?どこにいるのー?」
お願い、返事をして。
「......っ、朱音!!!!!!」
朱音の部屋を開けると、ぐったりと倒れこむ朱音がいた。
震える手で救急車を呼び、病院に着くとすぐに処置が行われた。
そして、告げられたのは残酷な言葉だった。
「今夜が、山でしょう。お気持ちはわかります....どうか、心の準備をしておいてください」
目の前が真っ暗になるとは、こういうことか。
私は、自分がどうやって呼吸をしているかさえわからなかった。
隣で夫が何かを言っているのがわかったけれど、それも聞こえてこない。
ふらふらと、その場を後にする。
「.....朱音」
小さな体にはたくさんの器具がつけられ、痛々しい姿の朱音。
側に座り、私よりも数十倍小さく、弱々しいをぎゅっと握った。
どうして.....?
どうしてこの子がこんな目に合わなければならないんだろう。
いっそ....いっその事私がっ.....
「......マ...マ.....?」
「.....っ、朱音、!?」
涙ぐむ私を見て、朱音はふんわりと笑う。
「お星....さま、きれい.....だねぇ」
窓から見える星のことを言っているのだろうか。
「....っ、そうね、きれいねぇ」
「もっ.....と、長...くすれば....よか、...ったなぁ.....」
「....え?なに....?朱音....?」
「ママ....幸せ?」
「あか、ね.....お願っ.....」
もう、わかっていた。
だからそこ、祈るような気持ちになる。
お願い、いかないで
「あか、ね....はねぇ、幸せ.....だよ?」
「あか...ねっ....」
涙で、声が震える。
「ママ.....しあ....わせ....?」
微笑む朱音に、私は精一杯涙をこらえる。
そして、笑顔で答えた。
「朱音のおかげで、幸せよ」
*************
「これ.....なにかしら....?」
朱音の部屋を整理していると、大量の紙が見つかった。
そして、何度かこの部屋に入った時に、朱音が何かを隠していたのを見たことがある。
それがなんなのか、決して教えてはくれなかった。
「大丈夫か....?なんだそれは?」
夫が、私を心配して部屋に入ってきた。
朱音がいなくなり、抜け殻のようになった私を、夫は懸命に支えてくれた。
夫も辛いはずなのに、側で寄り添ってくれた。
数ヶ月経ち、完全に元に戻ることは難しかったが、ようやく朱音の部屋に入ることが出来るようになった。
「あの子が描いた絵みたい....」
その絵は、翼が生えた人が数人で取り囲んでいる情景や、ふわふわとした雲、きらきらの星空。
そんな、見ていて温かくなるような、そんな絵だった。
「あの子、いつの間にこんな...」
だめだ。思い出すと、また涙が溢れ出してくる。
「....今日はもう遅い。寝よう」
夫がそれに気がついたのか、私を寝室へと促した。
それは、不思議な夢だった。
私は気がつくと、煌煌と輝く光の空を、ふわふわと漂っていた。
ここは、どこ......?
そこで、ぱっと情景が変わる。
気がつくと、目の前に鬼の様な形相の人物が座っていた。
そして、手に持っていた巻物の様なものを静かに読み、そして言った。
『お前はこの世界に行け』
また情景がぱっと変わる。
パシャ....
足元に、水が当たる
「川.....?」
小さなボートが遠くからやってくるのがわかる。
気がつくと、私はボートに乗り込んでいた。
周りは、感覚的にふわふわとした景色で、黄色くキラキラと輝く光でいっぱいだった。
そこで、また情景がパッと変わる。
小さな赤ん坊が目の前に現れた。
ただ、その子は私に気付かないのか何やら下を眺めている様だった。
「.......私....?」
視線を辿っていくと、なんと中学生の私がいた。
スクリーンに、大きく私が映し出されるような、そんな感覚。
中学生時代は、楽しいことなんて一つもなかった。
親戚からは邪魔者扱いをされ、学校の先生は家庭環境が複雑な私をどう扱っていいのかわからない様子で、腫れ物扱いをされていた。
思い出したく、ない。
そして、突然赤ん坊が言った。
『決めた!私、あの人を幸せにする人生にする』
『わかりました。じゃあ、これから私と一緒に人生の計画を立てましょうか』
赤ん坊の側をふよふよと漂っていた光が、赤ん坊に向かって言った。
そしてまた、ぱっと情景が変わる。
目の前に現れたのは.....
「あか、ね....」
申し訳なさそうな表情で、朱音が立っていた。
「ママ、泣かないで」
「あかねっ.....」
今まで見たのは.....朱音の転生するまでの出来事だった。
そして、思い出した。
『朱音ね、お星さまからきたんだよ』
『ママ、幸せ?』
どうして、私が幸せかを確認していたのか.....
生まれた時から、朱音は空を見ては何かを話していた。
寝ていた時も、寝言なのか、ずっと言葉を発していた。
もしかしたら、この世界と繋がっていたからかもしれない。
「ママ...朱音、幸せだったよ」
「.....っ、あかねっ....」
私もよ
そう、伝えようとした時
ピピピピピッ
目覚ましがなる音がして、私は現実に引き戻された。
枕は、涙でぐっしょりと濡れていた。
今のは、夢.....?
そしてその日を境に、私は同じような夢を繰り返し見るようになった。
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