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人生の振り返り~高校生③~
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「貧血を起こしたみたいでなぁ。悪かったな、心配かけてしもうて」
病院に着くと、祖父が出迎えてくれた。
畑仕事中、目眩がすると言い一旦家に戻った祖母だったが、心配になった祖父が様子を見に家に帰ったところ、玄関で倒れていたそうだ。
慌てて救急車を呼んだという。
祖父はそのまま救急車に乗り込み、辺りは騒然となった。
田舎の方だからご近所づきあいも深く、親しい隣人の奥さんが心配して母に電話をかけてくれたのだ。
「こんな田舎の方まで来てもろうて....ありがとうねぇ。明日は仕事じゃろう。母さんのことはわしが見るから大丈夫だ。心配せんと、遅くならんうちに早う帰りなさい」
点滴を打ち、すやすやと眠っている祖母を見て、母も少し落ち着いた様子だった。
祖母の入院の手続きを済ませ、ひと段落したところで祖父が帰るように促した。
「由佳子、お前が本気なら父さんは応援するよ」
帰りの車の中で、父が静かにそう言った。
「お前の人生だ。好きなように生きなさい。父さんや母さんは、お前が決めたことは全力で応援する」
「お父さん...」
母も、泣きながら静かに頷く。
「うん。ありがとう....」
私も、涙声になった。
祖母が無事で安堵した気持ちと、両親の優しさや愛情の深さへ感謝の気持ちが混じり合い、なんとも言えない気持ちになる。
頑張ろう。
そう、心に決めた。
この時から、祖母は既に病に侵されていた。
私たちを心配させまいと、祖父母はそれを隠していた。
その事を知ったのは、私が無事に芸術大学に合格し、本格的に絵の勉強を開始した時だった。
*****
「それから私、必死で勉強して....たぶん、人生で一番勉強して、がむしゃらになった気がします」
「そばで見ていて、凄く必死だったのは知っていました。私は応援はできても、物理的な手助けはできないので...もどかしかったですが、反面あなたの成長に嬉しくもあったんです」
まるで我が子を見るかのように、サキさんは優しい表情で笑った。
ふっと、頑張る私の側で、嬉しそうに、時折誇らしそうに涙ぐむサキさんの姿が見えた。
私は、両親だけでなく、サキさんにも見守られながら生きてきたんだ。
そう、改めて実感する。
ふわっ....と、何かがサキさんの側にやってきたのがわかった。
「あれ、おばあちゃん?」
「振り返りの時間にお邪魔して悪いわねぇ。もうそろそろ、私のターンじゃないかと思って、ちょこっと様子を見にきたの」
何かを企むような、無邪気な祖母の顔。その変わらない姿に、改めてじんわりと胸が熱くなる。
私は、そんな祖母が大好きだった。
「サキさん、ちょこっといいかしら?」
「えぇ、いいですよ。由佳子さん、少し待っていてください」
そう言うと、祖母とサキさんはふっと姿を消した。
この世界は、暖かく穏やかで、ゆっくりと時の流れを感じることができる。
人でいた頃とは違う、開放的で自由な感覚。
私はそっと、目を閉じた。
病院に着くと、祖父が出迎えてくれた。
畑仕事中、目眩がすると言い一旦家に戻った祖母だったが、心配になった祖父が様子を見に家に帰ったところ、玄関で倒れていたそうだ。
慌てて救急車を呼んだという。
祖父はそのまま救急車に乗り込み、辺りは騒然となった。
田舎の方だからご近所づきあいも深く、親しい隣人の奥さんが心配して母に電話をかけてくれたのだ。
「こんな田舎の方まで来てもろうて....ありがとうねぇ。明日は仕事じゃろう。母さんのことはわしが見るから大丈夫だ。心配せんと、遅くならんうちに早う帰りなさい」
点滴を打ち、すやすやと眠っている祖母を見て、母も少し落ち着いた様子だった。
祖母の入院の手続きを済ませ、ひと段落したところで祖父が帰るように促した。
「由佳子、お前が本気なら父さんは応援するよ」
帰りの車の中で、父が静かにそう言った。
「お前の人生だ。好きなように生きなさい。父さんや母さんは、お前が決めたことは全力で応援する」
「お父さん...」
母も、泣きながら静かに頷く。
「うん。ありがとう....」
私も、涙声になった。
祖母が無事で安堵した気持ちと、両親の優しさや愛情の深さへ感謝の気持ちが混じり合い、なんとも言えない気持ちになる。
頑張ろう。
そう、心に決めた。
この時から、祖母は既に病に侵されていた。
私たちを心配させまいと、祖父母はそれを隠していた。
その事を知ったのは、私が無事に芸術大学に合格し、本格的に絵の勉強を開始した時だった。
*****
「それから私、必死で勉強して....たぶん、人生で一番勉強して、がむしゃらになった気がします」
「そばで見ていて、凄く必死だったのは知っていました。私は応援はできても、物理的な手助けはできないので...もどかしかったですが、反面あなたの成長に嬉しくもあったんです」
まるで我が子を見るかのように、サキさんは優しい表情で笑った。
ふっと、頑張る私の側で、嬉しそうに、時折誇らしそうに涙ぐむサキさんの姿が見えた。
私は、両親だけでなく、サキさんにも見守られながら生きてきたんだ。
そう、改めて実感する。
ふわっ....と、何かがサキさんの側にやってきたのがわかった。
「あれ、おばあちゃん?」
「振り返りの時間にお邪魔して悪いわねぇ。もうそろそろ、私のターンじゃないかと思って、ちょこっと様子を見にきたの」
何かを企むような、無邪気な祖母の顔。その変わらない姿に、改めてじんわりと胸が熱くなる。
私は、そんな祖母が大好きだった。
「サキさん、ちょこっといいかしら?」
「えぇ、いいですよ。由佳子さん、少し待っていてください」
そう言うと、祖母とサキさんはふっと姿を消した。
この世界は、暖かく穏やかで、ゆっくりと時の流れを感じることができる。
人でいた頃とは違う、開放的で自由な感覚。
私はそっと、目を閉じた。
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