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人生の振り返り~高校生②~

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担任の木下先生は、40代だが童顔のせいか、見た目がとても若い。


いつもにこにこしていて、優しいけれど怒ると怖い。でも、人情味があって生徒達からの相談にも一生懸命乗ってくれて、勉強も熱心に見てくれる。
そんな人だった。

もちろん生徒達からはとても人気があった。


私もそのうちの一人。

以前からの知り合いのような、そんな優しい雰囲気を持った先生だった。



「別に、今将来が決まるわけじゃないんだから、そんなに悩まなくてもいいぞ」



「はい.....」



悩んでいたわけでは無かったけれど、周りの友人は将来の夢があり、それになる為に大学を選んでいる。


私は何になりたいんだろう...


友人達が将来について希望を持って語っているのに、私は何になりたいかさえ見つけられていない。


不安と焦りのようなものが、私の中でぐるぐると渦を巻く。



「坂下はさ、美術部で絵がすごく上手だよな。確かコンクールとかにも応募してなかったか?文化祭で坂下の作品みたよ。感動した!」



唐突に、先生が言った。


私は高校に入学して、すぐに美術部に入部した。


幼稚園の頃から絵が大好きで、高校に入ったら入部したいと中学生の頃から思っていた。

中学生の頃は、入るのが難しかったから....



「別に、無理にやりたい事を見つけなくてもいい。まだ高校生だし、若いんだから。好きな事を伸ばすのも、先生はありだと思うぞ」



「好きな事.....」



絵を描くのは、確かに好きだ。

描きたいと思う絵もたくさんあるし、まだまだ美術部員としてコンクールに応募したい。


実は、県のコンクールでは何度か入賞した事もある。



「また何かあったらいつでも相談に乗るからな!」


「ありがとうございます」



面談を終えて、少しだけ心が軽くなった。


今までは、模試の時もなんとなくで大学を選択していたけれど。

自分のやりたい事を伸ばす。
そういう選択も、ありなんだと気づく。



そして、ふと思った。


現地味は無いかもしれないけれど。

私、絵を描く仕事がしたい、と。





「芸術大学?」




思い立ったら、すぐ行動。
思い立ったが吉日。


中学の頃に行動を起こして変われた私は、それ以降すぐに行動に移すようになった。


考えても始まらない。


ただ、大学に行くには少なからず親の援助が必要だ。


しかも、行きたいところは芸術系の大学。


普通の大学よりも、お金がかかる。


でも、そんな不安よりも、やりたい事を見つけた私は、とてもうきうきとしていた。


目標を見つける、やりたい事があるというのは、こんなにも心が躍るものなんだ。



帰ってすぐに、私は母に相談した。



娘が芸術大学に行きたいと言い出すなんて、思ってもみなかったのだろう。


母は、心底驚いていた。


私が絵を描くのが好きなのは知っていたが、そこまで本気だったとは思いもしなかったのだろう。



父が帰ってきてから、家族会議が行われた。



「由佳子、本気なんだな?お前が小さい頃から絵を描くのが好きなのは知っているよ。だけど、芸術の世界は好きだけで食べていける程、生易しい世界じゃない」



父の顔は、真剣だった。


今まで、私がやりたい事を思う存分させてくれた父。


 放任主義のように見えて、実は違う。 


自分の意思でやった事は、誰かのせいにせず、必ず最後まできちんと責任を持つ事。自分の意見を持ちなさい。


そう、教えられてきた。



「うん、わかってる。でも決めたの。私は絵を描く仕事がしたい」



それから、今までの事を初めて両親に話た。



中学生の時、言葉の暴力というイジメを受けていた事、学校に行きたくなくて仕方がなかった事、生きたくないと思ってしまった事、少しずつ友達が出来た事、今は友達や先生に恵まれて、とても楽しい学校生活を送っている事、絵を描く時は何故か幸せな気持ちになる事。



両親は、私がいじめにあっていた事を初めて知り、母は信じられないという風な表情で涙ぐみ、父は深刻な顔をして、真剣に私の話を聞いていた。



「知らなかった...由佳子が辛い目にあっていたのに、私....」


「お母さん。もう、過ぎた事だから自分を責めないで。私はそれがあったから強くなれた。乗り越えられたのは、お母さんがずっと支えてくれたからだよ?」


「由佳子....」


「お父さん。私、真剣に考えてる。挑戦してみたい」



その時だった。



家の電話が鳴り響く。



「はい、坂下です.......え?!」



母が電話を取り、何かを聞いて取り乱すように声をあげた。



「はい....はい....すぐ、行きます」


「どうした?」



母が受話器を置くと、父がすかさず聞いた。


母の声が震えているのがわかった。



「お母さんが...倒れたって」



「えっ...」



ふっと思い浮かんだのは、いつも私の行事には必ず参加してくれていた祖母の顔。



「病院に行くぞ!!」



父は、取り乱す母を落ち着かせるようになだめ、すぐに外出する準備をし、車を発進させた。
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