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婚約者の正体

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今日という日を、私はきっと一生忘れることはないでしょう。


そして、こんなにも私は鈍感なのかと落ち込んだことも、どれだけ優しくて思いやり溢れる人に囲まれて生きていたのかを知ることも、この日以上に感じることは、これから先あるのでしょうか。




「な、なにごと!?!」


ふと頬にひやっと冷たい感触を感じた私が目を開けると、私は大勢の見覚えのあるメイドたちに囲まれていました。


なんだかデジャヴだわ。


いや、それは今はどうでもいいのよ。
これは一体何が起こっているの!?


「あら、ナリア起きたのね」


「あの、これはどういう」


「ささっ、腕を通してー」


言われるがままに袖に手を通すと、ふわっとしたフリルが手にあたりました。


「あの、これってウエディングド…」


「さっ、目を瞑ってー」


ひんやりした感覚が徐々に薄れていきます。香りから推測するに、おそらく薬草で作った顔のパックをつけられていたのでしょう。


目をつぶっている間、景色は見えないもののキャッキャっとはしゃぐメイドたちの楽しそうな声が聞こえてきます。


これは、どういうことなの?


どうして私はウエディングドレスを着せられて…


そこで、ふっと湧き上がったのは、昨日の周囲の反応。そして、奥様の意味深な発言。


もしかして
もしかして


マリウス公爵様の婚約者って…


「ナリア、できたわ。目を開けて」


目を開けると、目の前には立派な化粧台があり、その鏡に映ったのはとても綺麗な花嫁姿の私でした。


「とっっても綺麗よ!私の腕がいいからかしら?」

「ほんと綺麗よナリア!そうそう、これも忘れずにね」


そう言って頭の上にそっと乗せられたのは、昨日奥様がくださったティアラでした。


「あの…え…?私…」


「ほら、やっぱりナリア混乱してるわ」

「マリウス公爵様もすごいわよね、とんだサプライズよ」

「ナリア、大人しく従うしかないわ」

「すっごく大切にされていて羨ましいわ」


「「おめでとうナリア」」


これは夢なのでしょうか


もし、夢なのであれば、どうか
永遠にここにいたい



***


扉を開けると、そこには大切な人が集合していました。


ライトルさんに執事たち
アクリウス公爵様と奥様
マルクス
お母さんとお父さん

そして


「ナリア、綺麗だ」


マリウス公爵様



マリウス公爵様に手を引かれながら、私はまだ夢の中にいるようでした。


「考え事か?もしかして怒っているのか?」


「どちらもです」


「ふふ、君が不安に思っていることは全て解決したことがきっとじきにわかる」


お互いに向かいマリウス公爵様を見ると、今までにないほどに優しい表情で私を見つめていました。


「ずっと大切にする。だから私のそばを離れようなんて思わないことだ」


「ここまでされる方なんですもの。それはもう分かっています」


どこに行こうと、きっとこの方から逃れることはできないでしょう。そしてこの方以上に私を思ってくださる方もいない。


モブのメイドだった私は、腹黒だと思っていた優しい公爵様に捕まることになってしまいました。
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