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彼女の落とし物

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「なぁ、アクリウス」


「なんだ?」


「いつもオレンジ色のヘアピンをしているメイドがいるだろう?」


「オレンジ色...?」


アクリウスは一瞬首を傾げたが、すぐに一人のメイドを思い出しあぁ、という表情を浮かべた。


「ナリアのことか?」


「....へぇ。ナリアっていうのか」


「なんだ?何か言ったか?」


「いや、こっちの話だ。そういえば、奥さんとは最近どうなんだ?」


マリウスはしれっと会話を変える。アクリウスは先ほどまでとは打って変わって柔らかい表情になった。


ナリアか...ナリア。
可愛い名前だな。


マリウスは、胸ポケットに入ったオレンジ色のヘアピンを確認しながらクスリと笑った。


あの追い出された日、いつか返さなければと思いながら今日までずっと返せずにいたのだ。


何故ここまで気になるのかわからない。今まで、女性は全て笑顔を見せれば思い通りになったし、それが当たり前だった。


メイドとはいえ...いや、むしろメイドだからこそ貴族である俺をあんな表情で見るようなことはありえない。


心の底から俺を毛嫌いしているような、話しかけるなよオーラ満載なのだ。


今まで令嬢たちに擦り寄られ、アクリウスへ向ける態度の変わりようにはうんざりしていたのだが、逆のパターンは初めてだ。


近寄られることはあっても、遠ざれられることはなかった。


...妙に気になる。


彼女の名前を呼んだらどんな反応をするだろうか。想像しながら、マリウスはふっと笑みを浮かべた。
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