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「ショッピング中だったか?」
「は、はい」
エスラが持っている袋を見ながら、興味深そうにカイルス公爵は尋ねる。
公爵様がどうしてここに?
マリーは答えながらも動揺を隠せなかった。昨日は言葉を交わしたとはいえ一瞬のことで、まさか顔を覚えられていた上にこんな街中で会うとは思いもしなかったのだ。
「ほぉ...君は本が好きなのか?しかもこれはあのユリスタクが主人公の小説じゃないか」
「ご存知なのですか!?」
思わず声を上げてしまい、はっとして口を押さえる。カイルス公爵は楽しそうに答えた。
「あぁ、もちろんだ。私も昔からこの作品が好きでね。残念ながら私の周りにこの小説を好んで読む人はいなくてね」
「そうなんです。こんなにも面白くて楽しい作品なのに」
嬉しかった。マリーにとってこの作品は初めて手にした思い出の小説だったからだ。本好きになったきっかけと言っても過言ではない。
元々の原作はかなり昔に書かれたものだけれど、新装版として売られていた本をたまたま見つけて思わず買ってしまったのだ。
カイルス公爵は他にも読んでいたという小説についても教えてくれたがそのほとんどがマリーのお気に入りの作品だった。
「ははっ、意外だな。こんなにも本の趣味が合うとは」
「本当に。こんなに小説について話せたのは初めてです」
マリーは嬉しくて思わずたくさん話してしまったことにふと気づき、はっとした。
私ったら、公爵様に向かってこんなにも話してしまうなんて...
「あ...申し訳ありません」
「どうした?」
「いえ、あの...話しすぎてしまって。何が用事があったのではありませんか?」
「あぁ、気にするな。たまたまちょっと、な」
そう言って意味ありげに笑う。昨日は挨拶だけしかしなかったからどういう方か分からなかったけれど、優しそうな方ね。
「カイルス公爵様、そろそろ...」
側にいた騎士が、公爵様にそっと耳打ちする。耳を傾けて頷いたかと思うと、マリーに視線を移した。
「すまないね、そろそろ公務に行かなければ。そうだ、君にこれをあげるとしよう」
そう言って差し出してきたのは、金に輝く栞だった。うっすらと、ユリスタクと文字が記してある。
こ、これって...。幻の栞!
「う、受け取れません!こんな貴重なもの!」
「いいんだ。私よりもより本が好きな君の方が持つに相応しい」
「カイルス公爵様!」
「いいから、君が持っていてくれ。じゃあ、また...会うかな?」
そう言い残し、カイルス公爵は騎士たちを引き連れてあっという間にその場から去っていった。
どうしよう...
残された栞を眺めながら、マリーは呆然とした。
「せっかくいただいたのですから大切に保管しておきましょう。そろそろ邸宅に戻りましょうか」
そう言って、エスラはマリーを帰路へと促した。
「...クラスト様?」
「おかえり、マリー」
邸宅に到着すると、玄関の壁にもたれかかるクラストと目があった。
さっきまで街で視察をしていたはずのクラスト様がどうしてここに?
優しい笑みを浮かべてはいるものの、目が全く笑っていない。その威圧感に、マリーは思わず後退りをしてしまう。
「あ、あの...きゃっ!?」
「エスラ。夕食は自室で食べるから、後から持ってきてくれるかい?」
「は、はい、旦那様...」
クラストの淡々とした声に驚きながらも返事をするエスラを尻目に、クラストはマリーの手を強く引くとそのまま自室へと歩き出した。
マリーはどうして手を引かれているのか訳がわからず、ただクラストについて行くしかなかった。
無言のままクラストの自室へと入る。
「あのっ、...クラスト様?い、痛いです」
手を強く握りしめられ、痛みでマリーは思わず顔をしかめた。
「.....」
クラストはそっと手を離すと、静かにマリーを見つめた。その瞳のあまりの冷たさに、マリーは背筋がじわりと冷えていくのを感じた。
「あ、の...クラスト様...?」
声が僅かに震えるのがわかる。どうして無表情で冷たい視線を向けられるのかわからなかった。
それに、昼間の女性との光景を思い出して胸がギュッと苦しくなった。
あの人は、一体誰なの...?
「マリー」
「クラストさ、....んっ!?」
ドアの壁に押し付けられたかと思うと、クラストは強引に唇を奪った。
「は、はい」
エスラが持っている袋を見ながら、興味深そうにカイルス公爵は尋ねる。
公爵様がどうしてここに?
マリーは答えながらも動揺を隠せなかった。昨日は言葉を交わしたとはいえ一瞬のことで、まさか顔を覚えられていた上にこんな街中で会うとは思いもしなかったのだ。
「ほぉ...君は本が好きなのか?しかもこれはあのユリスタクが主人公の小説じゃないか」
「ご存知なのですか!?」
思わず声を上げてしまい、はっとして口を押さえる。カイルス公爵は楽しそうに答えた。
「あぁ、もちろんだ。私も昔からこの作品が好きでね。残念ながら私の周りにこの小説を好んで読む人はいなくてね」
「そうなんです。こんなにも面白くて楽しい作品なのに」
嬉しかった。マリーにとってこの作品は初めて手にした思い出の小説だったからだ。本好きになったきっかけと言っても過言ではない。
元々の原作はかなり昔に書かれたものだけれど、新装版として売られていた本をたまたま見つけて思わず買ってしまったのだ。
カイルス公爵は他にも読んでいたという小説についても教えてくれたがそのほとんどがマリーのお気に入りの作品だった。
「ははっ、意外だな。こんなにも本の趣味が合うとは」
「本当に。こんなに小説について話せたのは初めてです」
マリーは嬉しくて思わずたくさん話してしまったことにふと気づき、はっとした。
私ったら、公爵様に向かってこんなにも話してしまうなんて...
「あ...申し訳ありません」
「どうした?」
「いえ、あの...話しすぎてしまって。何が用事があったのではありませんか?」
「あぁ、気にするな。たまたまちょっと、な」
そう言って意味ありげに笑う。昨日は挨拶だけしかしなかったからどういう方か分からなかったけれど、優しそうな方ね。
「カイルス公爵様、そろそろ...」
側にいた騎士が、公爵様にそっと耳打ちする。耳を傾けて頷いたかと思うと、マリーに視線を移した。
「すまないね、そろそろ公務に行かなければ。そうだ、君にこれをあげるとしよう」
そう言って差し出してきたのは、金に輝く栞だった。うっすらと、ユリスタクと文字が記してある。
こ、これって...。幻の栞!
「う、受け取れません!こんな貴重なもの!」
「いいんだ。私よりもより本が好きな君の方が持つに相応しい」
「カイルス公爵様!」
「いいから、君が持っていてくれ。じゃあ、また...会うかな?」
そう言い残し、カイルス公爵は騎士たちを引き連れてあっという間にその場から去っていった。
どうしよう...
残された栞を眺めながら、マリーは呆然とした。
「せっかくいただいたのですから大切に保管しておきましょう。そろそろ邸宅に戻りましょうか」
そう言って、エスラはマリーを帰路へと促した。
「...クラスト様?」
「おかえり、マリー」
邸宅に到着すると、玄関の壁にもたれかかるクラストと目があった。
さっきまで街で視察をしていたはずのクラスト様がどうしてここに?
優しい笑みを浮かべてはいるものの、目が全く笑っていない。その威圧感に、マリーは思わず後退りをしてしまう。
「あ、あの...きゃっ!?」
「エスラ。夕食は自室で食べるから、後から持ってきてくれるかい?」
「は、はい、旦那様...」
クラストの淡々とした声に驚きながらも返事をするエスラを尻目に、クラストはマリーの手を強く引くとそのまま自室へと歩き出した。
マリーはどうして手を引かれているのか訳がわからず、ただクラストについて行くしかなかった。
無言のままクラストの自室へと入る。
「あのっ、...クラスト様?い、痛いです」
手を強く握りしめられ、痛みでマリーは思わず顔をしかめた。
「.....」
クラストはそっと手を離すと、静かにマリーを見つめた。その瞳のあまりの冷たさに、マリーは背筋がじわりと冷えていくのを感じた。
「あ、の...クラスト様...?」
声が僅かに震えるのがわかる。どうして無表情で冷たい視線を向けられるのかわからなかった。
それに、昼間の女性との光景を思い出して胸がギュッと苦しくなった。
あの人は、一体誰なの...?
「マリー」
「クラストさ、....んっ!?」
ドアの壁に押し付けられたかと思うと、クラストは強引に唇を奪った。
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