16 / 22
共通点
しおりを挟む
「ショッピング中だったか?」
「は、はい」
エスラが持っている袋を見ながら、興味深そうにカイルス公爵は尋ねる。
公爵様がどうしてここに?
マリーは答えながらも動揺を隠せなかった。昨日は言葉を交わしたとはいえ一瞬のことで、まさか顔を覚えられていた上にこんな街中で会うとは思いもしなかったのだ。
「ほぉ...君は本が好きなのか?しかもこれはあのユリスタクが主人公の小説じゃないか」
「ご存知なのですか!?」
思わず声を上げてしまい、はっとして口を押さえる。カイルス公爵は楽しそうに答えた。
「あぁ、もちろんだ。私も昔からこの作品が好きでね。残念ながら私の周りにこの小説を好んで読む人はいなくてね」
「そうなんです。こんなにも面白くて楽しい作品なのに」
嬉しかった。マリーにとってこの作品は初めて手にした思い出の小説だったからだ。本好きになったきっかけと言っても過言ではない。
元々の原作はかなり昔に書かれたものだけれど、新装版として売られていた本をたまたま見つけて思わず買ってしまったのだ。
カイルス公爵は他にも読んでいたという小説についても教えてくれたがそのほとんどがマリーのお気に入りの作品だった。
「ははっ、意外だな。こんなにも本の趣味が合うとは」
「本当に。こんなに小説について話せたのは初めてです」
マリーは嬉しくて思わずたくさん話してしまったことにふと気づき、はっとした。
私ったら、公爵様に向かってこんなにも話してしまうなんて...
「あ...申し訳ありません」
「どうした?」
「いえ、あの...話しすぎてしまって。何が用事があったのではありませんか?」
「あぁ、気にするな。たまたまちょっと、な」
そう言って意味ありげに笑う。昨日は挨拶だけしかしなかったからどういう方か分からなかったけれど、優しそうな方ね。
「カイルス公爵様、そろそろ...」
側にいた騎士が、公爵様にそっと耳打ちする。耳を傾けて頷いたかと思うと、マリーに視線を移した。
「すまないね、そろそろ公務に行かなければ。そうだ、君にこれをあげるとしよう」
そう言って差し出してきたのは、金に輝く栞だった。うっすらと、ユリスタクと文字が記してある。
こ、これって...。幻の栞!
「う、受け取れません!こんな貴重なもの!」
「いいんだ。私よりもより本が好きな君の方が持つに相応しい」
「カイルス公爵様!」
「いいから、君が持っていてくれ。じゃあ、また...会うかな?」
そう言い残し、カイルス公爵は騎士たちを引き連れてあっという間にその場から去っていった。
どうしよう...
残された栞を眺めながら、マリーは呆然とした。
「せっかくいただいたのですから大切に保管しておきましょう。そろそろ邸宅に戻りましょうか」
そう言って、エスラはマリーを帰路へと促した。
「...クラスト様?」
「おかえり、マリー」
邸宅に到着すると、玄関の壁にもたれかかるクラストと目があった。
さっきまで街で視察をしていたはずのクラスト様がどうしてここに?
優しい笑みを浮かべてはいるものの、目が全く笑っていない。その威圧感に、マリーは思わず後退りをしてしまう。
「あ、あの...きゃっ!?」
「エスラ。夕食は自室で食べるから、後から持ってきてくれるかい?」
「は、はい、旦那様...」
クラストの淡々とした声に驚きながらも返事をするエスラを尻目に、クラストはマリーの手を強く引くとそのまま自室へと歩き出した。
マリーはどうして手を引かれているのか訳がわからず、ただクラストについて行くしかなかった。
無言のままクラストの自室へと入る。
「あのっ、...クラスト様?い、痛いです」
手を強く握りしめられ、痛みでマリーは思わず顔をしかめた。
「.....」
クラストはそっと手を離すと、静かにマリーを見つめた。その瞳のあまりの冷たさに、マリーは背筋がじわりと冷えていくのを感じた。
「あ、の...クラスト様...?」
声が僅かに震えるのがわかる。どうして無表情で冷たい視線を向けられるのかわからなかった。
それに、昼間の女性との光景を思い出して胸がギュッと苦しくなった。
あの人は、一体誰なの...?
「マリー」
「クラストさ、....んっ!?」
ドアの壁に押し付けられたかと思うと、クラストは強引に唇を奪った。
「は、はい」
エスラが持っている袋を見ながら、興味深そうにカイルス公爵は尋ねる。
公爵様がどうしてここに?
マリーは答えながらも動揺を隠せなかった。昨日は言葉を交わしたとはいえ一瞬のことで、まさか顔を覚えられていた上にこんな街中で会うとは思いもしなかったのだ。
「ほぉ...君は本が好きなのか?しかもこれはあのユリスタクが主人公の小説じゃないか」
「ご存知なのですか!?」
思わず声を上げてしまい、はっとして口を押さえる。カイルス公爵は楽しそうに答えた。
「あぁ、もちろんだ。私も昔からこの作品が好きでね。残念ながら私の周りにこの小説を好んで読む人はいなくてね」
「そうなんです。こんなにも面白くて楽しい作品なのに」
嬉しかった。マリーにとってこの作品は初めて手にした思い出の小説だったからだ。本好きになったきっかけと言っても過言ではない。
元々の原作はかなり昔に書かれたものだけれど、新装版として売られていた本をたまたま見つけて思わず買ってしまったのだ。
カイルス公爵は他にも読んでいたという小説についても教えてくれたがそのほとんどがマリーのお気に入りの作品だった。
「ははっ、意外だな。こんなにも本の趣味が合うとは」
「本当に。こんなに小説について話せたのは初めてです」
マリーは嬉しくて思わずたくさん話してしまったことにふと気づき、はっとした。
私ったら、公爵様に向かってこんなにも話してしまうなんて...
「あ...申し訳ありません」
「どうした?」
「いえ、あの...話しすぎてしまって。何が用事があったのではありませんか?」
「あぁ、気にするな。たまたまちょっと、な」
そう言って意味ありげに笑う。昨日は挨拶だけしかしなかったからどういう方か分からなかったけれど、優しそうな方ね。
「カイルス公爵様、そろそろ...」
側にいた騎士が、公爵様にそっと耳打ちする。耳を傾けて頷いたかと思うと、マリーに視線を移した。
「すまないね、そろそろ公務に行かなければ。そうだ、君にこれをあげるとしよう」
そう言って差し出してきたのは、金に輝く栞だった。うっすらと、ユリスタクと文字が記してある。
こ、これって...。幻の栞!
「う、受け取れません!こんな貴重なもの!」
「いいんだ。私よりもより本が好きな君の方が持つに相応しい」
「カイルス公爵様!」
「いいから、君が持っていてくれ。じゃあ、また...会うかな?」
そう言い残し、カイルス公爵は騎士たちを引き連れてあっという間にその場から去っていった。
どうしよう...
残された栞を眺めながら、マリーは呆然とした。
「せっかくいただいたのですから大切に保管しておきましょう。そろそろ邸宅に戻りましょうか」
そう言って、エスラはマリーを帰路へと促した。
「...クラスト様?」
「おかえり、マリー」
邸宅に到着すると、玄関の壁にもたれかかるクラストと目があった。
さっきまで街で視察をしていたはずのクラスト様がどうしてここに?
優しい笑みを浮かべてはいるものの、目が全く笑っていない。その威圧感に、マリーは思わず後退りをしてしまう。
「あ、あの...きゃっ!?」
「エスラ。夕食は自室で食べるから、後から持ってきてくれるかい?」
「は、はい、旦那様...」
クラストの淡々とした声に驚きながらも返事をするエスラを尻目に、クラストはマリーの手を強く引くとそのまま自室へと歩き出した。
マリーはどうして手を引かれているのか訳がわからず、ただクラストについて行くしかなかった。
無言のままクラストの自室へと入る。
「あのっ、...クラスト様?い、痛いです」
手を強く握りしめられ、痛みでマリーは思わず顔をしかめた。
「.....」
クラストはそっと手を離すと、静かにマリーを見つめた。その瞳のあまりの冷たさに、マリーは背筋がじわりと冷えていくのを感じた。
「あ、の...クラスト様...?」
声が僅かに震えるのがわかる。どうして無表情で冷たい視線を向けられるのかわからなかった。
それに、昼間の女性との光景を思い出して胸がギュッと苦しくなった。
あの人は、一体誰なの...?
「マリー」
「クラストさ、....んっ!?」
ドアの壁に押し付けられたかと思うと、クラストは強引に唇を奪った。
10
お気に入りに追加
1,864
あなたにおすすめの小説

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。


ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる