政略結婚なのにここまで溺愛されるなんて思いませんでした

ベル

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戸惑い

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真っ直ぐな視線を向けられ、マリーは思わずパッと目を逸らしてしまった。


どうして急にそんな事...


政略結婚だと思っていた。これからは悠々自適に本を読みながら自由に暮らせる。そう呑気に考えていた。


政略結婚なのだから、きっとクラスト様も私に恋愛感情なんて持っていないだろうけれど、あくまでも夫婦になったからには妻としての役目は果たさないと。そう、思っていた。


クラストに好きだと伝えられて愛されている事を実感してから、正直戸惑ったし、慣れない甘い空気から逃れたくなったこともある。


でも、突き放そうとは思えなかった。これが、妻となったという責任感からくるものなのか、それとも彼を思ってのことなのかわからない。


「マリー」


はっとして再びクラストを見る。街灯の光がクラストの顔を照らした。


どうして....そんなに辛そうな顔をしているの?


胸がぎゅうっと締め付けるように苦しくなった。彼の顔が苦しそうに歪んでいる。


「クラスト様...」


そっと頬にマリーの手が触れると、ピクッとクラストが反応した。怯えるような、不安そうな表情になり、瞳が揺れる。


「どうして、そんなに辛そうな顔をされるのですか?」


「...そう、見える?」


クラストはそう言い、渇いた笑みを浮かべた。マリーは不安げにクラストを見つめる。


「僕は、君がずっと好きだった。多分、一目惚れだった」


ぽつりぽつりと、クラストは話し始める。もう、引かれてもいい。話したところで彼女に響くかもわからないけれど。


そもそも、興味すら持たれていないのだから。


「マリー、僕は君だけなんだ。おかしいだろう?こんな歪んだ感情なんか」


「クラスト様...」


マリーはクラストの想いを聞き、正直動揺した。ここまでとは思わなかった。


どうしよう。どうすればいいの?
どう答えればいいの?


「君に、外の世界を知って欲しくなかったんだ」


「....」


「僕だけ、見ていればいいのに」


「...クラスト、様」


「マリー。僕が怖いかい?」


「そんな、ことは...」


「きっと、僕が君の立場だったら今すぐにでも逃げ出したくなるだろうな」


クラストはすっと立ち上がると、マリーの隣に座った。マリーは思わずビクッと反応してしまう。


悲しげに微笑みながら、クラストはマリーに言った。


「ごめんね、離してあげられなくて。好きになってくれとは言わない。側にいてくれれば、それでいい。それでいいから...どうか、これからも僕の妻でいてくれるかい?」


マリーが頷くのを確認すると、ほっとしたようにクラストの表情が緩んだ。


どこか悲しげな瞳で見つめられるのが分かったけれど、マリーはどうしていいか分からずにただただそっと隣で座っていることしか出来なかった。
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