13 / 22
葛藤
しおりを挟む
マリーは僕が好きで結婚した訳ではないことくらい、わかっていた。彼女の中で僕との結婚は政略結婚。それ以上の感情はきっとない。
彼女と結婚できれば、妻にできれば満足するのだと。満たされるのだと思っていた。念願だった彼女を妻として迎え入れることも、彼女と肌重ねることもできた。
ずっとずっと、喉から手が出るほど欲しかったものを手に入れたはずなのに。どうして今こうも苦しいのだろうか。
好きになって欲しい、僕と同じくらい彼女に愛してもらいたい。
そんな感情が渦巻くようになったのはいつからだろう。
初めて肌を重ねた夜、嬉しくて涙が零れ落ちた。彼女をようやく手に入れたのだと、実感できた気がしたから。それと同時に、彼女に愛されたいと言う気持ちも芽生えたのだ。
「好きだよ」
「愛してるよ」
そう伝えるたびに、彼女の口からも同じ言葉が出てくるのを願う自分がいた。
昔から、優秀な兄達と比べられながら育ってきた。出来損ないだと思われていた僕は、周りからは期待されずに育った。
特に除け者にされたり、邪険に扱われたりした訳ではない。兄二人は僕に対して優しかったし、周りの期待なんてある方が辛いことも多いぞ、なんて言って慰めてくれた。けれど僕はそれが羨ましかった。誰かから必要とされていることが、それが手に入ることが単純に羨ましかったのだ。
初めてマリーと出会って、僕は自分の人生が少しずつ変わっていくのを感じた。
この子が、将来の僕のお嫁さんになるんだ。...僕の、僕だけの。
何も手に入れられない、期待もされないと思っていた。でも彼女だけは僕のものになるんだ。
執着、と言われればそうなのだろう。僕にはマリーだけだった。
読書好きな彼女。それは僕にとって好都合だった。
外の世界は知らなくていい。彼女の世界は僕だけでいい。そう思っていた。
パーティーではしゃぐ彼女を見て、僕は彼女を狭い世界に閉じ込めてしまっていたのではないかと思った。
それと同時に、それを知ってしまうことで僕のそばから彼女が離れて行ってしまうのではないかと不安になった。
御令嬢が僕のそばにまとわりついても、彼女は表情を変えなかった。マリーが他の男達に言い寄られていたら、僕は冷静さを保ってはいられないだろう。
つまりは、僕はマリーにとってその程度なのだ。
カストル公爵とマリーの視線が合うたび、僕は苦しかった。お願いだから、その綺麗な瞳に他の人を映さないで欲しい。
...気持ちが悪い。こんな感情、捨ててしまいたい。
マリーが不安げに問いかけてくる。僕の様子がおかしいと。
「おかしい、か」
そうだ。僕はおかしい。
マリーをぼんやりと見つめ、ずっと避けていた言葉を投げかけた。
「君は...僕のことが好きかい?」
彼女と結婚できれば、妻にできれば満足するのだと。満たされるのだと思っていた。念願だった彼女を妻として迎え入れることも、彼女と肌重ねることもできた。
ずっとずっと、喉から手が出るほど欲しかったものを手に入れたはずなのに。どうして今こうも苦しいのだろうか。
好きになって欲しい、僕と同じくらい彼女に愛してもらいたい。
そんな感情が渦巻くようになったのはいつからだろう。
初めて肌を重ねた夜、嬉しくて涙が零れ落ちた。彼女をようやく手に入れたのだと、実感できた気がしたから。それと同時に、彼女に愛されたいと言う気持ちも芽生えたのだ。
「好きだよ」
「愛してるよ」
そう伝えるたびに、彼女の口からも同じ言葉が出てくるのを願う自分がいた。
昔から、優秀な兄達と比べられながら育ってきた。出来損ないだと思われていた僕は、周りからは期待されずに育った。
特に除け者にされたり、邪険に扱われたりした訳ではない。兄二人は僕に対して優しかったし、周りの期待なんてある方が辛いことも多いぞ、なんて言って慰めてくれた。けれど僕はそれが羨ましかった。誰かから必要とされていることが、それが手に入ることが単純に羨ましかったのだ。
初めてマリーと出会って、僕は自分の人生が少しずつ変わっていくのを感じた。
この子が、将来の僕のお嫁さんになるんだ。...僕の、僕だけの。
何も手に入れられない、期待もされないと思っていた。でも彼女だけは僕のものになるんだ。
執着、と言われればそうなのだろう。僕にはマリーだけだった。
読書好きな彼女。それは僕にとって好都合だった。
外の世界は知らなくていい。彼女の世界は僕だけでいい。そう思っていた。
パーティーではしゃぐ彼女を見て、僕は彼女を狭い世界に閉じ込めてしまっていたのではないかと思った。
それと同時に、それを知ってしまうことで僕のそばから彼女が離れて行ってしまうのではないかと不安になった。
御令嬢が僕のそばにまとわりついても、彼女は表情を変えなかった。マリーが他の男達に言い寄られていたら、僕は冷静さを保ってはいられないだろう。
つまりは、僕はマリーにとってその程度なのだ。
カストル公爵とマリーの視線が合うたび、僕は苦しかった。お願いだから、その綺麗な瞳に他の人を映さないで欲しい。
...気持ちが悪い。こんな感情、捨ててしまいたい。
マリーが不安げに問いかけてくる。僕の様子がおかしいと。
「おかしい、か」
そうだ。僕はおかしい。
マリーをぼんやりと見つめ、ずっと避けていた言葉を投げかけた。
「君は...僕のことが好きかい?」
10
お気に入りに追加
1,864
あなたにおすすめの小説

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。


ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる