政略結婚なのにここまで溺愛されるなんて思いませんでした

ベル

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公爵家の長男

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会場に戻ると、一際人が集まっている場所があった。どうやら公爵様の長男、カイルスが到着したようだ。


「マリー、行こうか」


「は、はいっ」


失礼のないようにしなければ。マリーは気を引き締める。人だかりに近づくにつれて、クラストに気づいた御令嬢たちの声だろうか、きゃあっと黄色い声が上がる。


「おやおや、クラスト侯爵。よく来てくれたね」


「この度はお招きいただきありがとうございます」


恰幅のいい男性がクラストに向かって優しそうな笑みを浮かべる。クラストは丁寧にお辞儀をし、マリーもそれに続いた。


「おぉ、この綺麗なお嬢さんが君の?」


「はい。妻のマリーです」


クラストはマリーの腰に手を回し、優しく触れた。緊張しなくてもいい、と言うように。


「初めまして、マリーと申します。いつも夫がお世話になっております」


そう言って深々と頭を下げる。〝夫〟と言う言葉に、一瞬クラストがピクッと反応したがすぐに冷静を装う。


公爵様は笑みを浮かべたままマリーを見て言った。


「結婚式に参加したんだが、あまりの人の多さになかなか侯爵夫人の顔を見れなくてね。こんなに綺麗な方だったとは。なぁ、カイルス」


「ええ...とても綺麗です」


隣にいるのは、このパーティーの主役である公爵家長男のカイルスだ。


金髪の髪にグリーンの瞳をしたカイルスは、父親に似て人の良さそうな笑みを浮かべながらマリーを見た。


じっと見つめられて、マリーは思わずパッと視線を逸らしてしまったが、すぐに視線を戻す。クラスト様の妻として、立居振る舞いには気をつけないと。


「お誕生日、おめでとうございます」


「あぁ、ありがとう」


再び視線が合うと、カイルスはにこっと笑う。マリーも負けじと笑みを浮かべた。優しそうだけれど、何を考えているか読めない方だわ。


クラストが手を強めに握ったかと思うと、そっと自分の方へ引き寄せた。


「カイルス公爵様。改めましてお誕生日おめでとうございます。そろそろ、私たちはこれで」


「もう行くのか?せっかく来たんだ、もう少し楽しんでいくといい」


「お心遣い感謝します。申し訳ありませんが少し用事を思い出したもので。マリー、行こうか」


「は、はい。では失礼致します」


用事って何かしら?


不思議に思いながらも、マリーはぐいっと手を強く引かれてついていく他なかった。



「....あの」


「........」


「クラスト様...?」


「....あぁ、何だい?」


馬車に乗り込んだものの、ずっと無言で外を見つめるクラストを不審に思い、マリーは声をかける。


2度目の声かけにようやく応じたかと思えば、今度はぼんやりとマリーを見つめた。


...さっきからおかしいわ。


「どうかなさったのですか?」


「どうして?」


「様子が、少しおかしいようなので...」


「おかしい、か...」


クラストはそう呟くと、ふっと笑みを浮かべた。いつもの優しい笑みではなく、どこか悲しげに。


「あの、用事というのは...」


「マリー」


「はい」


「君は...」


そう言い、次の言葉を言うかどうか悩むように口をつぐんだ。


さっきも、何か言いかけてやめたわ。何か私に言いたいことがあるのかしら?


クラストはマリーを見つめる。暗がりでよく表情が見えないけれど、いつもの優しい雰囲気ではないことはわかる。


「君は....僕のことが好きかい?」


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