政略結婚なのにここまで溺愛されるなんて思いませんでした

ベル

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クラストは悩む

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「さぁ、出来ましたよマリー様」


「ありがとう。...わぁ、私じゃないみたいね」


さすがはエスラ。鏡に映る自分の姿を見て、思わず驚いてしまう。


ほんのりピンクに色づく頬に、ぷっくりとした唇、緩くふんわりと巻かれた髪はダイヤが散りばめられた可愛らしい髪留めで止められている。


クラスト様が用意してくださったドレスはピンクを基調としたとても上品なドレスで、肌があまり出ない露出の少ないデザインだった。けれど、決して地味ではない。適度にフリルがついており、首元や袖の部分にはとても繊細なデザインの模様が入っている。


結婚式の時も思ったけれど、化粧と着飾るドレスの力はすごいわ。まるで別人みたい。エスラの腕は本当に素晴らしいわ。



「マリー」


部屋の外に出ると、正装姿のクラストが待っていた。


本当に、クラスト様はどうしてこうも何を着ても絵になるのかしら。毎日見ているはずなのに、日に日に格好良さが増してゆく。


クラストはマリーの姿を見るなり、一瞬固まったかと思うと、すぐにはぁっ息を吐く。


...何か、変かしら?


マリーはその反応におろおろとクラストを見る。初めてのパーティーの参加、しかも公爵家の誕生日パーティーに参加するとあって、マリーはとても緊張していた。


せめて見た目だけでも、クラストと並んでもおかしくないくらいにはしておきたかった。妻として、彼に恥をかかせてしまうようなことは避けたい。


彼の麗しい外見には到底及ばないけれど...


クラストは不安そうなマリーに気づいたのか、すぐにハッとしたように表情を戻したかと思うと、にこっと微笑み、マリーに手を差し出す。


「さぁ、行こうか」


そう言って優しく手を握り、馬車に乗り込むまで離さなかった。


「く、クラスト様?」


てっきり前の席に向かい合うように座ると思いきや、躊躇なく隣に腰掛けたクラストにマリーは戸惑った。


「何だい?」


「あの...近い、です」


「マリーが可愛すぎて、近くで見ていたくてね」


クラストは恥ずかしがるマリーを見て嬉しそうに笑った。


最近、私なんだかおかしいわ。
少し前までは何とも思っていなかったのに、クラスト様を見ると鼓動が早くなって苦しくなる。


...一体なんなのかしら。


一方でクラストは、マリーを見ながら内心とても焦っていた。


こんなに可愛いマリーをあんな大勢の場所に連れて行くなんて...。やはり断ればよかった。


マリーを見た瞬間、これからパーティーに行くことをひどく後悔した。こんなに可愛い妻を他の男どもの目に触れさせるなんて耐えられるだろうか。


馬車の中で、クラストは悶々とするのだった。
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