政略結婚なのにここまで溺愛されるなんて思いませんでした

ベル

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はじまり

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マリーは困惑していた。目の前で幸せそうに微笑む彼、侯爵家の三男でマリーの夫となったクラストに対してだ。


「マリー、おはよう。今日も綺麗だ」


「お、おはようございます」


昨日は盛大な結婚式を終え、マリーは正直ヘトヘトだった。


なのにっ...なのに...


「...今夜もよろしくね、僕の奥さん」


耳元で少し低く甘い声でささやかれる。昨夜のことを思い出して赤面するマリーを嬉しそうに見つめ、そっと口付ける。


「んっ....」


軽く重なる程度のものかと思ったら次第に深くなるキスにマリーはついていくのに必死だった。


ようやく解放された頃には息が上がり、視線はうつろ。何も考えられなくなる。


「いい子で待っててくれ」


満足そうに微笑み、マリーの頭を優しく撫で、名残惜しそうにクラストは部屋を出ていった。


こ、こんな予定じゃなかったわ。どうしてこんなことに?


マリーは訳がわからず頭を抱えたのだった。




幼い頃からクラストとの婚約が決まっていたマリーは数少ない友人の誕生日パーティー以外で、大勢の集まるパーティーに参加することはなかった。父から参加を禁止されていたからだ。


令嬢がこぞって参加する社交パーティーは、いわゆる出会いの場だった。そこで仲を深めた男女がそのまま交際に発展するなんてことは当たり前に起こっていた。


だからこそ、父が反対したのだろうとマリーは思っていた。男爵である父にとって、侯爵家との繋がりを持てることはとても利益になるからだ。


それに、マリーは昔から恋愛というものに興味がなかった。だからパーティーに行くことを反対されても、むしろ行くこともないのだから心配しなくてもいいのに、くらいにしか思わなかった。


それどころかマリーは結婚をとても心待ちにしていた。婚約者であるクラストを好きだからとか、そういう甘酸っぱい理由ではない。理由は別にある。


マリーは幼い頃から本を読むのが大好きだった。小説を読んでいると、まるで別世界に連れ出されたような感覚になり、時間を忘れて読み耽ってしまい、侍女のエスラに怒られることもしばしば。


侯爵家の書庫はどれほど広いのだろう。ここよりも広いのは確実だ。侯爵家とはいえ、結婚相手は三男。公務に対して気にかけたり、パーティーにひっきりなしに出る必要もない。そして、今よりも裕福な暮らしができる上に思う存分読書もできる。


マリーにとってこの結婚は、大好きな読書をするにはとても幸せな条件しかなかった。


あぁ、今から楽しみだわ。


心躍らせるマリーは、これから始まる結婚生活がこんなにもどろどろに甘やかされ、愛される生活になるとは思いもしなかったのだ。



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