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カボチャスープの想い出
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「やっと終わったわ…」
全てのイベントを終えた後、私はもうクタクタだった。多くの人に祝福されて感謝の言葉を贈られることは嬉しかったが、こんなにもたくさんの人に囲まれる機会は今まで経験したことがなかったため、戸惑いもあった。
笑顔で手を振るたびに、自分がまるで有名人になったような気分だった。まぁ、聖女っていう時点でとっくにこの国では有名人なのかもしれないけれど。
部屋に着いた途端にベットに横たわる。目を閉じると、次第に意識が遠のいていった。
「…ア……スティ…」
遠くの方で声が聞こえてきて、私は徐々に意識を取り戻していく。
目を少しずつ開けると、ベットの脇で私を優しく見つめながら頬を撫でているルカと目が合い、一気に目が覚めた。
「ルカ皇太子様!?」
「ようやく起きたか。疲れているようだから寝かせていたがもう夜だ。今日は朝から忙しくて何も食べていないだろう。夕食を持ってきた」
起きようとする私を制して、ルカは奥の方から夕食が乗ったトレーを持ってきた。美味しそうな匂いが部屋全体に漂ってくる。
途端にお腹がなり始めた。
ルカはクスクスと笑いながらベット側の机にトレーを置くと、再び椅子に座る。
「食べさせようか?」
「自分で食べます!」
意地悪そうに微笑むルカに、私は慌てて答える。起き上がってルカと向かい合うように椅子に腰掛けた。
美味しそう!
そこには私の好物ばかりが並んでいる。
お腹も空いていたので、食べる手が止まらなかった。本当に美味しい。
ルカはその姿を微笑みながら見ている。じっと見られると食べにくいのだが、今はそんなことは言っていられないほどお腹が空いていた。
「美味しいか?」
「すっごく美味しいです!」
「良かった」
ルカはいつもそうだ。私が食べる姿を本当に幸せそうに見ている。
けれど何だか今日は様子がおかしいと感じた。何がおかしいのかは分からないけれど、雰囲気というか…何かが違う気がする。
そういえば、さっきもそうだけれど今朝から何だかスキンシップが多いような気がするんだけど…気のせいかな。
それにしてもこのカボチャスープ、本当に絶品だわ!
「マルスティア、私と君の婚約が決まった」
「ゴフッ」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わずスープを吐き出してしまった。ものの見事に目の前に座っているルカにも僅かに飛び散る惨事となった。
どうして私がスープを飲んだ時にそれを言ったのか。どう考えてもタイミングが悪すぎる。
「もっ、申し訳ありませんっ…!」
「君は本当に…」
スープを吹きかけられたというのに、ルカは怒るどころかおかしそうに声を上げて笑っていた。
私は慌てて近くにあったフキンでルカの服についてしまった黄色のシミを拭く。
ルカが「自分でするから食べなさい」と笑いながらフキンを私の手から取った。
この国で聖女はとても貴重な存在。皇太子との結婚は、この国の常識とも言える事は私もわかっていた。けれど、知っているのと現実として本人の口から実際に聞くのとでは訳が違う。
「婚約、ですか」
「あぁ。…スープを吐き出すほど嫌だとは思わなかった」
そう言いながら、からかうように私を見る。
絶対にわざとだ。
そうでなければ、そんな言葉は言わない。
きっと、オレフィスから聞いたのだ。
私がルカを救おうと手を握った時に必死で言った言葉を。
〝貴方と共に生きていきたいんです。だからお願い、目を覚まして〟
誰にも聞こえていないと思っていたのに、ルカが目を覚まして落ち着いた時に、オレフィスがにこやかな表情で私に言ったのだ。「マルスティア様がルカ皇太子様のことをそこまで慕っているとは気づきませんでした。きっとルカ皇太子様にも先ほどの言葉、届いていると思います」と。
「嫌、ではありません」
「そうか。それなら良かった。聖女との婚約はこの国決まりだが、私は君のことを心から妻に迎えたいと願っていたからな」
いつからだろう。
ルカをこんなにも格好いいと思い始めたのは。もちろん、元々容姿が整っているのは事実だけれど。
最初はオレフィスがドタイプで、オレフィスがいる視察が毎回の楽しみだったはずなのに。いつの間にか、ルカの方に目を奪われてしまっていた。
「これからは君の夫としてずっと側にいさせてくれ。マルスティア、君がいると私は心から安らげるんだ。私やこの国を救ってくれたことに感謝する気持ちがあるのはもちろんだが…そのずっと前から君が好きだった」
ルカは私の髪を撫でながら、愛しそうに私を見る。その指先が次第に頬に、そして唇へと移動する。
「あの…」
「嫌か?」
「私、今スープ飲んだばかりで…」
流石に、好きな人との初めてのキスがカボチャスープの味なのはちょっと…
「…っ、ハハっ!全く君は本当に…」
ルカは笑いながら私を見た後、楽しそうに言った。
「また今度、スープを飲んでない時まで待つよ」
全てのイベントを終えた後、私はもうクタクタだった。多くの人に祝福されて感謝の言葉を贈られることは嬉しかったが、こんなにもたくさんの人に囲まれる機会は今まで経験したことがなかったため、戸惑いもあった。
笑顔で手を振るたびに、自分がまるで有名人になったような気分だった。まぁ、聖女っていう時点でとっくにこの国では有名人なのかもしれないけれど。
部屋に着いた途端にベットに横たわる。目を閉じると、次第に意識が遠のいていった。
「…ア……スティ…」
遠くの方で声が聞こえてきて、私は徐々に意識を取り戻していく。
目を少しずつ開けると、ベットの脇で私を優しく見つめながら頬を撫でているルカと目が合い、一気に目が覚めた。
「ルカ皇太子様!?」
「ようやく起きたか。疲れているようだから寝かせていたがもう夜だ。今日は朝から忙しくて何も食べていないだろう。夕食を持ってきた」
起きようとする私を制して、ルカは奥の方から夕食が乗ったトレーを持ってきた。美味しそうな匂いが部屋全体に漂ってくる。
途端にお腹がなり始めた。
ルカはクスクスと笑いながらベット側の机にトレーを置くと、再び椅子に座る。
「食べさせようか?」
「自分で食べます!」
意地悪そうに微笑むルカに、私は慌てて答える。起き上がってルカと向かい合うように椅子に腰掛けた。
美味しそう!
そこには私の好物ばかりが並んでいる。
お腹も空いていたので、食べる手が止まらなかった。本当に美味しい。
ルカはその姿を微笑みながら見ている。じっと見られると食べにくいのだが、今はそんなことは言っていられないほどお腹が空いていた。
「美味しいか?」
「すっごく美味しいです!」
「良かった」
ルカはいつもそうだ。私が食べる姿を本当に幸せそうに見ている。
けれど何だか今日は様子がおかしいと感じた。何がおかしいのかは分からないけれど、雰囲気というか…何かが違う気がする。
そういえば、さっきもそうだけれど今朝から何だかスキンシップが多いような気がするんだけど…気のせいかな。
それにしてもこのカボチャスープ、本当に絶品だわ!
「マルスティア、私と君の婚約が決まった」
「ゴフッ」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わずスープを吐き出してしまった。ものの見事に目の前に座っているルカにも僅かに飛び散る惨事となった。
どうして私がスープを飲んだ時にそれを言ったのか。どう考えてもタイミングが悪すぎる。
「もっ、申し訳ありませんっ…!」
「君は本当に…」
スープを吹きかけられたというのに、ルカは怒るどころかおかしそうに声を上げて笑っていた。
私は慌てて近くにあったフキンでルカの服についてしまった黄色のシミを拭く。
ルカが「自分でするから食べなさい」と笑いながらフキンを私の手から取った。
この国で聖女はとても貴重な存在。皇太子との結婚は、この国の常識とも言える事は私もわかっていた。けれど、知っているのと現実として本人の口から実際に聞くのとでは訳が違う。
「婚約、ですか」
「あぁ。…スープを吐き出すほど嫌だとは思わなかった」
そう言いながら、からかうように私を見る。
絶対にわざとだ。
そうでなければ、そんな言葉は言わない。
きっと、オレフィスから聞いたのだ。
私がルカを救おうと手を握った時に必死で言った言葉を。
〝貴方と共に生きていきたいんです。だからお願い、目を覚まして〟
誰にも聞こえていないと思っていたのに、ルカが目を覚まして落ち着いた時に、オレフィスがにこやかな表情で私に言ったのだ。「マルスティア様がルカ皇太子様のことをそこまで慕っているとは気づきませんでした。きっとルカ皇太子様にも先ほどの言葉、届いていると思います」と。
「嫌、ではありません」
「そうか。それなら良かった。聖女との婚約はこの国決まりだが、私は君のことを心から妻に迎えたいと願っていたからな」
いつからだろう。
ルカをこんなにも格好いいと思い始めたのは。もちろん、元々容姿が整っているのは事実だけれど。
最初はオレフィスがドタイプで、オレフィスがいる視察が毎回の楽しみだったはずなのに。いつの間にか、ルカの方に目を奪われてしまっていた。
「これからは君の夫としてずっと側にいさせてくれ。マルスティア、君がいると私は心から安らげるんだ。私やこの国を救ってくれたことに感謝する気持ちがあるのはもちろんだが…そのずっと前から君が好きだった」
ルカは私の髪を撫でながら、愛しそうに私を見る。その指先が次第に頬に、そして唇へと移動する。
「あの…」
「嫌か?」
「私、今スープ飲んだばかりで…」
流石に、好きな人との初めてのキスがカボチャスープの味なのはちょっと…
「…っ、ハハっ!全く君は本当に…」
ルカは笑いながら私を見た後、楽しそうに言った。
「また今度、スープを飲んでない時まで待つよ」
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