22 / 26
聖女の力
しおりを挟む
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
突然ルカに抱きしめられたかと思ったら、ドスッと嫌な音が響く。
次の瞬間、ルカが力なく私の方へと崩れ落ちてきた。私は彼を受け止めることで精一杯だった。
「ルカ皇太子様!!!」
オレフィスが真っ青な顔で近づいてくる。再び光の玉が近づいてくるのにようやく気づいた私は、頭が混乱しつつも魔力で打ち返した。その光は怪物を一瞬で倒してしまった。
まさかあれが、ルカに当たったの…?
「ルカ、皇太子…さま?」
私は恐る恐る彼の肩を持って起き上がらせようとするが、重くて持ち上げられない。何よりも、手が震えて動かせなかった。
呆然とする私の代わりに、オレフィスが急いでルカを横に寝かせる。
「あ…う、そ…」
治療しなきゃ。
治さなきゃ。
…私に、治せるの?
「マルスティア様!治療を!!」
どう考えても、私にはできない。
私は簡単な治癒魔法しか使えない。
ここにくる前にクリスティアに治癒魔法のコツを教えてもらって、それを実践したからさっきまでは治療ができた。けれどルカのこの傷はどう考えても私ができる範囲を超えている。
クリスティアなら治せるだろうか。
けれど、瞬間移動をするには相手がしっかりと捕まってくれなければ移動できない。
どうして、私なんかを庇ったのよ。
あなたはこの国の皇太子様でしょう?
何で、盾になるようなことを…
こんなの、この物語の流れにはなかったでしょう?
あなたは幸せになるのよ。
そうなってるんだから。
「マルスティア様、どうかお願いします。頼めるのはあなただけなのです」
オレフィスが泣きそうな表情で続ける。
「ルカ皇太子様はいつもあなたのことを気にかけておいででした。宮殿に呼んだことも、最近では本当に悪いことをしたと悩んでおられました。あなたには別の人生があったのではないかと」
そういえば最近は視察に行く回数が減ったと思っていた。それは、あえて私を連れていかなかったのかもしれない。
怪物は一人でも倒せると言ってもいつも必ず側にいてくれた。危ない時は守ってくれた。
忙しいはずなのに食事はいつも一緒にとってくれて、何か不自由はないかと会うたびに気にかけてくれた。
時折、申し訳なさそうな視線を私に向けることもあった。目が合うたびに、優しく微笑んでくれた。
今まで過ごした時間が走馬灯のように私の中を駆け巡っていく。
「…っ、ルカ皇太子様」
涙が頬を伝う。
お願い。
お願いだから、目を覚まして。
〝心から願うのです〟
ふと、クリスティアの声が聞こえた。
それは、治癒魔法について教えてもらった後、クリスティアが私に言った言葉だった。
〝もしどうしても救えない人がいた場合は、その人の手を握って心から生きてほしいと願ってください。心から願うのです。これは聖女にしかできない祈りですが、マルスティア様ならその力を発揮できるはずです。どうか信じてください。あなたは聖女の力を持っています〟
私はルカの手を握り、心から願った。
どうか、目を覚まして。
私はあなたが……
次の瞬間、辺り一面が光の渦に巻き込まれた。
突然ルカに抱きしめられたかと思ったら、ドスッと嫌な音が響く。
次の瞬間、ルカが力なく私の方へと崩れ落ちてきた。私は彼を受け止めることで精一杯だった。
「ルカ皇太子様!!!」
オレフィスが真っ青な顔で近づいてくる。再び光の玉が近づいてくるのにようやく気づいた私は、頭が混乱しつつも魔力で打ち返した。その光は怪物を一瞬で倒してしまった。
まさかあれが、ルカに当たったの…?
「ルカ、皇太子…さま?」
私は恐る恐る彼の肩を持って起き上がらせようとするが、重くて持ち上げられない。何よりも、手が震えて動かせなかった。
呆然とする私の代わりに、オレフィスが急いでルカを横に寝かせる。
「あ…う、そ…」
治療しなきゃ。
治さなきゃ。
…私に、治せるの?
「マルスティア様!治療を!!」
どう考えても、私にはできない。
私は簡単な治癒魔法しか使えない。
ここにくる前にクリスティアに治癒魔法のコツを教えてもらって、それを実践したからさっきまでは治療ができた。けれどルカのこの傷はどう考えても私ができる範囲を超えている。
クリスティアなら治せるだろうか。
けれど、瞬間移動をするには相手がしっかりと捕まってくれなければ移動できない。
どうして、私なんかを庇ったのよ。
あなたはこの国の皇太子様でしょう?
何で、盾になるようなことを…
こんなの、この物語の流れにはなかったでしょう?
あなたは幸せになるのよ。
そうなってるんだから。
「マルスティア様、どうかお願いします。頼めるのはあなただけなのです」
オレフィスが泣きそうな表情で続ける。
「ルカ皇太子様はいつもあなたのことを気にかけておいででした。宮殿に呼んだことも、最近では本当に悪いことをしたと悩んでおられました。あなたには別の人生があったのではないかと」
そういえば最近は視察に行く回数が減ったと思っていた。それは、あえて私を連れていかなかったのかもしれない。
怪物は一人でも倒せると言ってもいつも必ず側にいてくれた。危ない時は守ってくれた。
忙しいはずなのに食事はいつも一緒にとってくれて、何か不自由はないかと会うたびに気にかけてくれた。
時折、申し訳なさそうな視線を私に向けることもあった。目が合うたびに、優しく微笑んでくれた。
今まで過ごした時間が走馬灯のように私の中を駆け巡っていく。
「…っ、ルカ皇太子様」
涙が頬を伝う。
お願い。
お願いだから、目を覚まして。
〝心から願うのです〟
ふと、クリスティアの声が聞こえた。
それは、治癒魔法について教えてもらった後、クリスティアが私に言った言葉だった。
〝もしどうしても救えない人がいた場合は、その人の手を握って心から生きてほしいと願ってください。心から願うのです。これは聖女にしかできない祈りですが、マルスティア様ならその力を発揮できるはずです。どうか信じてください。あなたは聖女の力を持っています〟
私はルカの手を握り、心から願った。
どうか、目を覚まして。
私はあなたが……
次の瞬間、辺り一面が光の渦に巻き込まれた。
66
お気に入りに追加
1,489
あなたにおすすめの小説
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。
そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
うーん、別に……
柑橘 橙
恋愛
「婚約者はお忙しいのですね、今日もお一人ですか?」
と、言われても。
「忙しい」「後にしてくれ」って言うのは、むこうなんだけど……
あれ?婚約者、要る?
とりあえず、長編にしてみました。
結末にもやっとされたら、申し訳ありません。
お読みくださっている皆様、ありがとうございます。
誤字を訂正しました。
現在、番外編を掲載しています。
仲良くとのメッセージが多かったので、まずはこのようにしてみました。
後々第二王子が苦労する話も書いてみたいと思います。
☆☆辺境合宿編をはじめました。
ゆっくりゆっくり更新になると思いますが、お読みくださると、嬉しいです。
辺境合宿編は、王子視点が増える予定です。イラっとされたら、申し訳ありません。
☆☆☆誤字脱字をおしえてくださる方、ありがとうございます!
☆☆☆☆感想をくださってありがとうございます。公開したくない感想は、承認不要とお書きください。
よろしくお願いいたします。
婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました
花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。
クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。
そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。
いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。
数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。
✴︎感想誠にありがとうございます❗️
✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦
✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる