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落ち着かない感情
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これは一体どういうことなんだろう。
騎士の訓練に参加すると聞いていたのに、どうして私はルカと一緒に視察に来ることになったの?
遡ること数時間前。
ようやくオレフィスが戻ってきたかと思ったら、なぜかルカも一緒だった。しかも今から視察に行くから付いてくるようにとのこと。
それには隣にいたクリスティアも驚いた様子だった。
ルカが視察に行く場所は、怪物が多く出没し、被害が多いところだ。
「あの、騎士の訓練に参加すると聞いてきたのですが…」
「あぁ、君の魔力があまりにも大きくてね。騎士たちの訓練よりも実践的に学ぶ方がいいと判断した」
魔力が大きい?
オレフィスが驚いた様子だったのは、そういうことだったのね。
「気をつけて行ってきてくださいね」
クリスティアに潤んだ瞳で言われたらもう、思わず顔が緩んでしまう。デレデレになっているであろう私をよそに、ルカは顔色ひとつ変えない。
元の設定としてはこの二人が結ばれるはずなのに、状況が少し変わっただけでこんなにも違うのね。
まさかこの時ルカの視線が私の方に向いているなんて、これっぽっちも考えていなかった。
そんなわけで、私はルカと一緒に視察に行くことになったのだけれど…
「あの、私馬に乗ったことがなくて」
「あぁ、知っている」
令嬢であれば普通のことだ。
移動手段は馬車が多いし、そもそも学校やパーティー以外でどこかに行く機会なんてそうそうない。
私の場合は移動する時は瞬間移動を使っていたし。
馬車だと怪物が出た時に対処できないため、馬で移動するのだという。
「場所を教えてください。そうすれば私は瞬間移動で行きますから」
「ダメだ。今から行く場所は危険だからな」
「ではどうやって…」
「私と一緒に乗れば良いだろう」
…はい?
そう言うとルカは馬に乗り、戸惑う私の手をぐいっと力強く引いて自分の前に乗せた。
え、え、え?!
状況が理解できずにパニックになる。
「しっかり捕まっているんだぞ」
そう言うと手綱を引いて馬を颯爽と走らせた。
「あ、あのっ」
「大丈夫だ。怖ければ言ってくれ、速度を落とす」
そう言う問題じゃなくてですね!
馬に乗ること自体が嫌なわけではない。問題なのは、ルカが後ろに乗っていて背後から抱きしめられるような体制になっていること。
馬に誰かと一緒に乗る機会なんて今までなかったから分からないんだけど、こんなに近いものなの?
ふと、小さい頃にポニーの乗馬体験をした記憶が蘇ってきた。ポカポカ陽気で牧草が広がっており、心地よい風を浴びながら大人しそうなポニーが一生懸命ゆっくり歩いて進んでくれたっけ。
…って、今はそんなこと思い出してる場合じゃない。
口数が少ない私を心配しているのか、「大丈夫か?」「気分が悪くなったら言ってくれ」などと声をかけてくれるものの、その度に耳にルカの声が直に響く。
違うことを考えていなければ、なんだか落ち着かなかった。
ルカって、思ったよりも筋肉質なんだな。もう少しひょろっとした人なのかと思っていたけど、手綱を引く腕を見ると筋肉が浮き出ている。
男の人なんだなと思った途端に、顔がじわりと火照るのを感じた。急に恥ずかしくなってくる。
いったい私は何を考えているんだと悶々としていると、馬は走る速度を緩めてやがて止まった。後ろからついてきた騎士たちの集団も同じように止まる。
ここが目的地なのだろう。だけどここって…
「森の中じゃないですか?」
「あぁ。最近ここから怪物が出てくると言う目撃情報が多くてな」
ルカは馬から降りると、私に向かって手を伸ばした。自分で降りられると思ったけれど意外と高く、しかも足を滑らせてしまった私はルカにしがみつくような体制になってしまった。
引き締まった腕がグッと私を支える。さっきから何だか心臓がうるさい。
「気分は大丈夫か?」
顔を覗き込むように言われて、私は思わず後退りしてしまった。
「はい、平気です」
「そうか。これから怪物が出てくる可能性があるから注意してほしい。怪我には気をつけてくれ」
そう言うと、他の騎士たちに指示を出しながら辺りを捜索していく。
ルカは私に側から離れないようにと言い、私の先に立って奥へと進んでいった。
その時、大きな響き声がしたかと思うと、騎士たちが戦闘体制に入るのがわかった。
「皇太子様っ!怪物が現れました!!」
目の前には、今まで倒してきたサイズの怪物が2匹。これなら大丈夫そうだわ。
「マルスティア伯爵令嬢、君は横で…」
シュバっ
よし、片付いた。
ルカの声を聞く前に、私は魔力を内側に集めると、サッと手を怪物の方へと向けた。そのまま、ここだ、と思ったポイントへ魔力を送り込む。怪物たちは奇声をあげて2匹同時に倒れ込んだ。
騎士たちは何が起こったのかわからない様子だった。数名は以前倒した時に居合わせた騎士だったため、その者たちは驚きながらも納得した様子だったが、初めて見る騎士たちは混乱していた。
ルカは驚いたように私を見た後、ふはっと吹き出すように笑い出した。
「さすがだ。君は本当に、大したものだよ」
騎士の訓練に参加すると聞いていたのに、どうして私はルカと一緒に視察に来ることになったの?
遡ること数時間前。
ようやくオレフィスが戻ってきたかと思ったら、なぜかルカも一緒だった。しかも今から視察に行くから付いてくるようにとのこと。
それには隣にいたクリスティアも驚いた様子だった。
ルカが視察に行く場所は、怪物が多く出没し、被害が多いところだ。
「あの、騎士の訓練に参加すると聞いてきたのですが…」
「あぁ、君の魔力があまりにも大きくてね。騎士たちの訓練よりも実践的に学ぶ方がいいと判断した」
魔力が大きい?
オレフィスが驚いた様子だったのは、そういうことだったのね。
「気をつけて行ってきてくださいね」
クリスティアに潤んだ瞳で言われたらもう、思わず顔が緩んでしまう。デレデレになっているであろう私をよそに、ルカは顔色ひとつ変えない。
元の設定としてはこの二人が結ばれるはずなのに、状況が少し変わっただけでこんなにも違うのね。
まさかこの時ルカの視線が私の方に向いているなんて、これっぽっちも考えていなかった。
そんなわけで、私はルカと一緒に視察に行くことになったのだけれど…
「あの、私馬に乗ったことがなくて」
「あぁ、知っている」
令嬢であれば普通のことだ。
移動手段は馬車が多いし、そもそも学校やパーティー以外でどこかに行く機会なんてそうそうない。
私の場合は移動する時は瞬間移動を使っていたし。
馬車だと怪物が出た時に対処できないため、馬で移動するのだという。
「場所を教えてください。そうすれば私は瞬間移動で行きますから」
「ダメだ。今から行く場所は危険だからな」
「ではどうやって…」
「私と一緒に乗れば良いだろう」
…はい?
そう言うとルカは馬に乗り、戸惑う私の手をぐいっと力強く引いて自分の前に乗せた。
え、え、え?!
状況が理解できずにパニックになる。
「しっかり捕まっているんだぞ」
そう言うと手綱を引いて馬を颯爽と走らせた。
「あ、あのっ」
「大丈夫だ。怖ければ言ってくれ、速度を落とす」
そう言う問題じゃなくてですね!
馬に乗ること自体が嫌なわけではない。問題なのは、ルカが後ろに乗っていて背後から抱きしめられるような体制になっていること。
馬に誰かと一緒に乗る機会なんて今までなかったから分からないんだけど、こんなに近いものなの?
ふと、小さい頃にポニーの乗馬体験をした記憶が蘇ってきた。ポカポカ陽気で牧草が広がっており、心地よい風を浴びながら大人しそうなポニーが一生懸命ゆっくり歩いて進んでくれたっけ。
…って、今はそんなこと思い出してる場合じゃない。
口数が少ない私を心配しているのか、「大丈夫か?」「気分が悪くなったら言ってくれ」などと声をかけてくれるものの、その度に耳にルカの声が直に響く。
違うことを考えていなければ、なんだか落ち着かなかった。
ルカって、思ったよりも筋肉質なんだな。もう少しひょろっとした人なのかと思っていたけど、手綱を引く腕を見ると筋肉が浮き出ている。
男の人なんだなと思った途端に、顔がじわりと火照るのを感じた。急に恥ずかしくなってくる。
いったい私は何を考えているんだと悶々としていると、馬は走る速度を緩めてやがて止まった。後ろからついてきた騎士たちの集団も同じように止まる。
ここが目的地なのだろう。だけどここって…
「森の中じゃないですか?」
「あぁ。最近ここから怪物が出てくると言う目撃情報が多くてな」
ルカは馬から降りると、私に向かって手を伸ばした。自分で降りられると思ったけれど意外と高く、しかも足を滑らせてしまった私はルカにしがみつくような体制になってしまった。
引き締まった腕がグッと私を支える。さっきから何だか心臓がうるさい。
「気分は大丈夫か?」
顔を覗き込むように言われて、私は思わず後退りしてしまった。
「はい、平気です」
「そうか。これから怪物が出てくる可能性があるから注意してほしい。怪我には気をつけてくれ」
そう言うと、他の騎士たちに指示を出しながら辺りを捜索していく。
ルカは私に側から離れないようにと言い、私の先に立って奥へと進んでいった。
その時、大きな響き声がしたかと思うと、騎士たちが戦闘体制に入るのがわかった。
「皇太子様っ!怪物が現れました!!」
目の前には、今まで倒してきたサイズの怪物が2匹。これなら大丈夫そうだわ。
「マルスティア伯爵令嬢、君は横で…」
シュバっ
よし、片付いた。
ルカの声を聞く前に、私は魔力を内側に集めると、サッと手を怪物の方へと向けた。そのまま、ここだ、と思ったポイントへ魔力を送り込む。怪物たちは奇声をあげて2匹同時に倒れ込んだ。
騎士たちは何が起こったのかわからない様子だった。数名は以前倒した時に居合わせた騎士だったため、その者たちは驚きながらも納得した様子だったが、初めて見る騎士たちは混乱していた。
ルカは驚いたように私を見た後、ふはっと吹き出すように笑い出した。
「さすがだ。君は本当に、大したものだよ」
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