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食べ盛りの伯爵令嬢
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数日後に、私は騎士たちの訓練を参加させてもらうことになった。令嬢が訓練に参加することは前代未聞のため、受け入れ態勢をつくるためにしばらく時間が欲しいとのことだった。
騎士と言っても、魔法の方なので剣を使用することは滅多にないため、通常の訓練ではなく魔力をコントロールする訓練なのだそうだ。
魔力は使い方によっては著しく体力を消耗する。そのため、使い方を訓練する必要があるらしい。
私も今まで怪物退治をしてきたけれど、確かに退治したあとは食欲がすごく、食べた後はすぐに眠ってしまっていたかも。夜に静かになったキッチンにこっそり忍び込んでは余った食材を使って自分で調理して食べてたっけ。
途中で使用人たちに見つかって慌てて料理は私たちがしますから!って夜食を作ってもらってたのよね。
そんなことを思い出しながら、私はふと気になった。そういえば、このことを家族にまだ話していなかった。
「ラープ伯爵には私の方からこの件については話をしてきたから安心してくれ」
心配になりルカの元を訪ねると、私をソファに座るよう促した後、温かい紅茶を差し出してくれた。焼き菓子まであり、私は思わずテンションが上がってしまう。
どうなったか知りたくて聞きに来ただけだったのに、まさかルカとティータイムをする事になるとは。しかも宮殿で出されるお菓子だ。美味しくないはずがない。
「あの、両親は何か言っていましたでしょうか?兄上も…その…結構な過保護なもので」
気になったのはそこだった。皇太子からの頼みを伯爵家が断れるはずもなく、反対されることはないだろうとは思っていた。ただ、マルスティアをあれだけ溺愛する家族だ。すんなり承諾するとは思えなかった。
「そのようだな。反対はされなかったが、とても驚いていたよ。君が怪物を倒すなんて信じられないと。家族には君の魔力については伝えていなかったのだな」
「私は伯爵令嬢ですし、魔力が必要になるとは思いませんでしたので…」
「では、魔法は誰からも学ばずに独学で習得したのか?それとも魔力が元々強いのか?」
ルカは興味津々で私を見ている。
けれどその答えは私には出せそうになかった。設定がどうなっているか詳しく知らないからだ。
私がこの世界に転生した時から、すでに魔法については身体が覚えているようだった。ただ、マルスティアが書いたであろうびっしりと書き記された魔法に関するノートを見る限り、魔力だけで魔法を習得したとは思えない。おそらく、どちらもだろう。
「どちらもです」
「そうか。オレフィスから聞いたが、やはり君の実力は凄いらしいな。訓練には私も顔を出すとしよう」
「そんなに褒めていただけるほどでは…」
正直、今までまぐれで倒せていたようなものだ。確かに怪物を倒していく過程で魔法が上手く使えるようになった自覚はあるものの、それでもルカには勝てないだろう。
オレフィスから聞いたのは、この国で1番の実力者はルカなのだ。この物語の主人公よりも強い脇役はいないはずだ。
「そうだ。頼まれたことがあった」
そういうと、ルカは少しクスリと笑いながら言った。
「マルスティア伯爵令嬢、君は食べることがとても好きなんだと聞いた。だから訓練の後は美味しいものをたくさん食べさせてあげて欲しいと頼まれたんだ。君の家族だけでなく、使用人たちにも頼まれたよ」
「なっ…!」
皇太子になんてことを頼んでるのよ。自負していたものの、ルカに言われると何だか恥ずかしくなる。
「これから君に力を貸してもらうんだ。それなりの御礼はさせてもらう。甘いものは好きか?」
「はい…」
私が頷くと、ルカは焼き菓子を私の方へと差し出した。
「ここの焼き菓子は母上のお気に入りのお店で買ったものだ。遠慮なく食べてくれ」
「ありがとう、ございます」
さっきまでティータイムだと喜んでいたけれど、改めて食べろと言われると何だかぎこちなくなってしまう。
私は勧められるがまま、焼き菓子を手に取った。口に入れた瞬間に、バターの風味とほのかに蜂蜜の香りがいっぱいに広がる。
うっわ。おいっしい!!
「美味しいか?」
「はいっ!!」
何この焼き菓子!
美味しすぎない!?
ルカは美味しそうにパクパクと食べる私を見ながら、嬉しそうに微笑んでいたのだった。
騎士と言っても、魔法の方なので剣を使用することは滅多にないため、通常の訓練ではなく魔力をコントロールする訓練なのだそうだ。
魔力は使い方によっては著しく体力を消耗する。そのため、使い方を訓練する必要があるらしい。
私も今まで怪物退治をしてきたけれど、確かに退治したあとは食欲がすごく、食べた後はすぐに眠ってしまっていたかも。夜に静かになったキッチンにこっそり忍び込んでは余った食材を使って自分で調理して食べてたっけ。
途中で使用人たちに見つかって慌てて料理は私たちがしますから!って夜食を作ってもらってたのよね。
そんなことを思い出しながら、私はふと気になった。そういえば、このことを家族にまだ話していなかった。
「ラープ伯爵には私の方からこの件については話をしてきたから安心してくれ」
心配になりルカの元を訪ねると、私をソファに座るよう促した後、温かい紅茶を差し出してくれた。焼き菓子まであり、私は思わずテンションが上がってしまう。
どうなったか知りたくて聞きに来ただけだったのに、まさかルカとティータイムをする事になるとは。しかも宮殿で出されるお菓子だ。美味しくないはずがない。
「あの、両親は何か言っていましたでしょうか?兄上も…その…結構な過保護なもので」
気になったのはそこだった。皇太子からの頼みを伯爵家が断れるはずもなく、反対されることはないだろうとは思っていた。ただ、マルスティアをあれだけ溺愛する家族だ。すんなり承諾するとは思えなかった。
「そのようだな。反対はされなかったが、とても驚いていたよ。君が怪物を倒すなんて信じられないと。家族には君の魔力については伝えていなかったのだな」
「私は伯爵令嬢ですし、魔力が必要になるとは思いませんでしたので…」
「では、魔法は誰からも学ばずに独学で習得したのか?それとも魔力が元々強いのか?」
ルカは興味津々で私を見ている。
けれどその答えは私には出せそうになかった。設定がどうなっているか詳しく知らないからだ。
私がこの世界に転生した時から、すでに魔法については身体が覚えているようだった。ただ、マルスティアが書いたであろうびっしりと書き記された魔法に関するノートを見る限り、魔力だけで魔法を習得したとは思えない。おそらく、どちらもだろう。
「どちらもです」
「そうか。オレフィスから聞いたが、やはり君の実力は凄いらしいな。訓練には私も顔を出すとしよう」
「そんなに褒めていただけるほどでは…」
正直、今までまぐれで倒せていたようなものだ。確かに怪物を倒していく過程で魔法が上手く使えるようになった自覚はあるものの、それでもルカには勝てないだろう。
オレフィスから聞いたのは、この国で1番の実力者はルカなのだ。この物語の主人公よりも強い脇役はいないはずだ。
「そうだ。頼まれたことがあった」
そういうと、ルカは少しクスリと笑いながら言った。
「マルスティア伯爵令嬢、君は食べることがとても好きなんだと聞いた。だから訓練の後は美味しいものをたくさん食べさせてあげて欲しいと頼まれたんだ。君の家族だけでなく、使用人たちにも頼まれたよ」
「なっ…!」
皇太子になんてことを頼んでるのよ。自負していたものの、ルカに言われると何だか恥ずかしくなる。
「これから君に力を貸してもらうんだ。それなりの御礼はさせてもらう。甘いものは好きか?」
「はい…」
私が頷くと、ルカは焼き菓子を私の方へと差し出した。
「ここの焼き菓子は母上のお気に入りのお店で買ったものだ。遠慮なく食べてくれ」
「ありがとう、ございます」
さっきまでティータイムだと喜んでいたけれど、改めて食べろと言われると何だかぎこちなくなってしまう。
私は勧められるがまま、焼き菓子を手に取った。口に入れた瞬間に、バターの風味とほのかに蜂蜜の香りがいっぱいに広がる。
うっわ。おいっしい!!
「美味しいか?」
「はいっ!!」
何この焼き菓子!
美味しすぎない!?
ルカは美味しそうにパクパクと食べる私を見ながら、嬉しそうに微笑んでいたのだった。
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