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気づくと漫画の世界に転生していました

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へぇ、これがいわゆる貴族のお話ね。

私は友人が面白いから絶対見て!感想聞くからね!と押しに押されて、映画館に来ていた。

友人がハマっているという漫画、『聖女が世界を救う』が映画化されたものだ。一緒に観にいく予定だったのだが、急遽急ぎの仕事が入ったといって友人は映画の直前で会社に行ってしまった。

せっかくだしと、私一人で見ることになったのだ。

主役の聖女は心優しく芯の強さもあり、幼少期は孤児院で育てられたがその生活は酷く、辛い日々を送っていた。転機が訪れたのは10歳の時。負傷した友人を救いたいと祈りを捧げた時、聖女としての才能を発揮。その噂が皇帝の耳に届き、第一王子であるルカと婚姻関係となる。

ルカを慕っていた令嬢からの嫌がらせや怪物との戦いなど、数々の至難を乗り越えた末に二人は結ばれてハッピーエンド、ということだそうだ。

まだ映画は途中なんだけれど、漫画を全巻読み尽くし、既に何度もこの映画を見た友人があまりにも白熱して何度も語るので覚えてしまった。


『私が、聖女…?』


映画の画面では、聖女のクリスティアがこぼれ落ちそうな大きな瞳からポロポロと流れ落ちる涙が透き通るような白い肌を伝うシーンが映し出されている。

というか、これだけの美少女だったら聖女の能力がなくてもどこかの貴族に見染められたりとかしそうなんだけど、設定だから仕方ないのか。現実世界だったら絶対モテモテでしょこの子。

友人に言ったら怒られそうなことがふと頭に浮かびつつ、再び映画に集中していたその時だった。


「いたっ…」


急激に腹痛に襲われたのだ。
やばいやばいやばい。
これ、もしかしたら今朝食べた消費期限切れのケーキが原因かも。

母からは止められたけど、甘いものが大好きで食欲が人一倍旺盛な私はその忠告を聞かずにパクッと食べてしまったのだ。そもそもそれを捨てずに冷蔵庫にあったのがいけないのよ。見たら食べたくなるじゃん。

ぐるぐるとなりだすお腹を抑え、私はお腹に刺激を与えないよう恐る恐る階段を降りてトイレへと向かった。

そこで、ほっと目を閉じた瞬間、私は気を失っていた。


***

「さま…お嬢様」


遠くの方で、柔らかい声が聞こえる。お嬢様ってどこの誰を呼んでるんだろう?
それに、気持ちよく寝てるんだから邪魔しないでよね。


…ん?
なんで私の部屋から知らない人の声が聞こえるの?


「お嬢様!ようやく起きられたのですね。今日は奥様のパーティーに同行する日だから早めに支度しないといけないんですよ。ささ、こちらのドレスに着替えてください」


ニコッと優しい笑みを浮かべる女性。

どういうこと?
お嬢様って、私にいっていたの?
パーティー?
しかもこの人なんかメイド服着てない?

疑問が次かから次へと頭に湧いてくる。混乱した私は、もう一度布団へとダイブした。

夢だ。これは夢。
きっと何か変な夢を見てるのよ。
そうそう、貴族の映画見てたからその世界観に影響されちゃったのかもしれない。

……映画の最後って、どういう終わり方だったっけ。


「お嬢様っ!いい加減に起きてくださいっ」

パッと手元から布団が取り上げられ、私の体は彼女の手によってふわりと宙に浮いていた。

嘘でしょ、こんな華奢な人が私をこんなにも軽々と持ち上げて…

ふと自分の手が目に入り、私はその小さな手に驚愕した。

何このちっこい手!?


「ささっ、こちらに着替えますよ。手を伸ばしてください」


何が起こっているのか理解できないまま、私はふわふわのフリルがついた洋服に着替えさせられ、立派な化粧台の椅子に座らされていた。

そして、鏡に映る自分の姿に再度驚くことになる。

これって…マルスティア伯爵令嬢の幼少期の姿じゃない?

金髪のサラサラな髪に、目の下にあるほくろ。間違いない、彼女だ。どうして鏡に映っているのが彼女なの!?

…ま、まさか

これが転生ってやつ?



ランチを食べながら、友人とした会話が頭の中を反芻していた。

『ねぇ、もしさ、この漫画みたいに転生したらどうするー?』

『何それ、またそんなの読んでるの?』

『これが面白いんだって!ね、どうする?』

『んー。物語がわかってるんだったら、そのイベントやらを無視して好きなように生きるかな』




…神様。
私はこの世界で、どう生きればいいですか?
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