17 / 26
奪われたお姫様
しおりを挟む
「あの...コーラス様」
「はい、どうなさいましたか?」
「教室までついて来られるのですか?」
通常、護衛の騎士たちは学園の入り口付近までしか来ません。剣という武器を常に持ち歩いている騎士たちが教室まで立ち入る場合は事前に学園の許可が必要なのです。
ラエル様のように公爵様以上の地位の場合は別格で、許可などなく護衛の騎士が常に側にいるのが当たり前です。
「カイは今日私たちの護衛をしてくれるそうよ。ローズ、ラエル公爵様はあなたのことが心配なのよ」
とっても愛されてるのね、なんてコソッと耳打ちされ、私は顔がじんわりと赤くなりました。
コーラス様はにこりと私に微笑み、ご安心ください、許可はいただいていますからと再び私の側に立ちました。
「...あの御令嬢らしいわ」
「えっ!?まさか...嘘でしょう」
「あんな地味で目立たない彼女がどうして...納得いかないわ」
「しかも下流の伯爵令嬢でしょう」
ヒソヒソと周囲が騒がしくなるのがわかり、私は不思議に思いながら周りを見渡します。
何故かしら、みんな私を見ているような...
「ローズ!」
ぐいっとマリアが私の袖を引いたかと思うと、一番後ろの席へと向かいました。
いつもは真ん中あたりに座るのに、どうしてかしら?
「今日は何だかここの席の気分なの。ね、一番後ろもたまには悪くないでしょう?」
「そ、そうね...?」
少し不審に思いながらも、私はマリアに手を引かれるがまま一番後ろの席につきました。
相変わらず、ひそひそ声はやみません。
「ねぇ、マリア」
「なにかしら?」
「気のせいかもしれないんだけど、私何だか見られている気がして...」
「気のせいよ。あ、もしかしたらカイがいるからかしらね」
そう言いながら、にこっと私に微笑みます。さっきから何だかマリアの様子も少しおかしい気がするけれど、それも気のせいなのかしら...
「騎士が教室にいるのが珍しいからでしょう。ちょっと注目を浴びてしまっているようですね。申し訳ありません」
申し訳なさそうに謝るコーラス様に、私は慌てて手を振りました。
「こ、コーラス様のせいではありません。こんなところまで護衛に来ていただいて感謝しています」
でもふと、思ったのです。いつもラエル様を見ている御令嬢達はコーラス様のこともご存知なのではないかしら?ラエル様の側にいつもいるコーラス様が私の護衛をしていることで仲を疑われる、なんてことはないわよね...
コーラス様はマリアの婚約者ですが、婚姻前に令嬢が周りに婚約者を公表することは珍しいため、どの令嬢がどの方と婚約を結んでいるのかはわからないのです。
マリアの婚約者だと知っていればそのような疑いも無いけれど、そんなはずもないわ...
そんなことを考え、少し不安になりながらも講義を受けるのでした。
「マリア様、あちらで先生が呼んでらしたわよ」
次の講義を受けるために移動していると、ふと声を掛けられました。
確か、ユリアンヌ伯爵令嬢だわ。
品のいい顔立ちに美しい立居振る舞い。さすがは上流階級の伯爵令嬢です。
「あら、何かしら」
「わからないけれど、急いでいる様子だったから、すぐに向かった方がいいと思うわ」
ちらっと私の方に視線を向け、ぱちっと目が合うとにこやかに微笑みます。なんて可憐な方なのかしら。
「そう。じゃあローズ、悪いけど一緒についてきてくれる?カイも」
にこっとマリアが微笑むと、ユリアンヌ様は少しだけ慌てたような顔になりました。
「ろ、ローズ様は先に教室に行かれたらいかがですか?もう講義も始まりますし...」
「あら。いいわよね、ローズ?」
「えぇ、もちろん」
きゅっとマリアが私の袖を掴んできたので、私は不思議に思いながらも頷きます。
「そ、そうですか。では私はこれで」
そういうと、彼女は足速に去っていきました。何だか様子が変だわ。
今日は周囲がいつもと違う。けれど、それがどうしてだかわからない...
「ローズ?」
マリアに顔を覗き込まれ、私はハッとしたように顔を上げます。
「ふふっ、ぼーっとしてたわよ。そしたら、先生のところにいきましょうか」
そう言いながら、マリアとコーラス様と歩き出した次の瞬間
ドンっ
「....っ、マリアーーー!!!」
コーラス様が叫び、さっと動いたかと思うと、凄い勢いで階段を駆け降りました。側にあった階段の下の方にマリアが倒れ込む姿が目に入りました。
...何が起こったの?
隣にいたはずのマリアは、頭から血を流して倒れています。コーラス様がマリアを抱き抱え、青ざめながら叫んでいます。
人をっ...誰か呼ばなければ!!
私は動揺しながらも人を呼びに走り出しました。誰かっ、誰かっ....
「ローズお嬢様っ!!!」
遠くの方でコーラス様が叫ぶ声が聞こえた気がしましたが、必死だった私の耳には届きませんでした。
ドンっと、誰かとぶつかりました。
「あ、申し訳ありません...うっ...!?」
突然首元を叩かれたかと思うと、私は意識を手放してしまいました。
「あら、案外簡単だったわね。...さてと、連れ出して」
私は抱えられ、その場から遠ざかってゆくのでした。
「はい、どうなさいましたか?」
「教室までついて来られるのですか?」
通常、護衛の騎士たちは学園の入り口付近までしか来ません。剣という武器を常に持ち歩いている騎士たちが教室まで立ち入る場合は事前に学園の許可が必要なのです。
ラエル様のように公爵様以上の地位の場合は別格で、許可などなく護衛の騎士が常に側にいるのが当たり前です。
「カイは今日私たちの護衛をしてくれるそうよ。ローズ、ラエル公爵様はあなたのことが心配なのよ」
とっても愛されてるのね、なんてコソッと耳打ちされ、私は顔がじんわりと赤くなりました。
コーラス様はにこりと私に微笑み、ご安心ください、許可はいただいていますからと再び私の側に立ちました。
「...あの御令嬢らしいわ」
「えっ!?まさか...嘘でしょう」
「あんな地味で目立たない彼女がどうして...納得いかないわ」
「しかも下流の伯爵令嬢でしょう」
ヒソヒソと周囲が騒がしくなるのがわかり、私は不思議に思いながら周りを見渡します。
何故かしら、みんな私を見ているような...
「ローズ!」
ぐいっとマリアが私の袖を引いたかと思うと、一番後ろの席へと向かいました。
いつもは真ん中あたりに座るのに、どうしてかしら?
「今日は何だかここの席の気分なの。ね、一番後ろもたまには悪くないでしょう?」
「そ、そうね...?」
少し不審に思いながらも、私はマリアに手を引かれるがまま一番後ろの席につきました。
相変わらず、ひそひそ声はやみません。
「ねぇ、マリア」
「なにかしら?」
「気のせいかもしれないんだけど、私何だか見られている気がして...」
「気のせいよ。あ、もしかしたらカイがいるからかしらね」
そう言いながら、にこっと私に微笑みます。さっきから何だかマリアの様子も少しおかしい気がするけれど、それも気のせいなのかしら...
「騎士が教室にいるのが珍しいからでしょう。ちょっと注目を浴びてしまっているようですね。申し訳ありません」
申し訳なさそうに謝るコーラス様に、私は慌てて手を振りました。
「こ、コーラス様のせいではありません。こんなところまで護衛に来ていただいて感謝しています」
でもふと、思ったのです。いつもラエル様を見ている御令嬢達はコーラス様のこともご存知なのではないかしら?ラエル様の側にいつもいるコーラス様が私の護衛をしていることで仲を疑われる、なんてことはないわよね...
コーラス様はマリアの婚約者ですが、婚姻前に令嬢が周りに婚約者を公表することは珍しいため、どの令嬢がどの方と婚約を結んでいるのかはわからないのです。
マリアの婚約者だと知っていればそのような疑いも無いけれど、そんなはずもないわ...
そんなことを考え、少し不安になりながらも講義を受けるのでした。
「マリア様、あちらで先生が呼んでらしたわよ」
次の講義を受けるために移動していると、ふと声を掛けられました。
確か、ユリアンヌ伯爵令嬢だわ。
品のいい顔立ちに美しい立居振る舞い。さすがは上流階級の伯爵令嬢です。
「あら、何かしら」
「わからないけれど、急いでいる様子だったから、すぐに向かった方がいいと思うわ」
ちらっと私の方に視線を向け、ぱちっと目が合うとにこやかに微笑みます。なんて可憐な方なのかしら。
「そう。じゃあローズ、悪いけど一緒についてきてくれる?カイも」
にこっとマリアが微笑むと、ユリアンヌ様は少しだけ慌てたような顔になりました。
「ろ、ローズ様は先に教室に行かれたらいかがですか?もう講義も始まりますし...」
「あら。いいわよね、ローズ?」
「えぇ、もちろん」
きゅっとマリアが私の袖を掴んできたので、私は不思議に思いながらも頷きます。
「そ、そうですか。では私はこれで」
そういうと、彼女は足速に去っていきました。何だか様子が変だわ。
今日は周囲がいつもと違う。けれど、それがどうしてだかわからない...
「ローズ?」
マリアに顔を覗き込まれ、私はハッとしたように顔を上げます。
「ふふっ、ぼーっとしてたわよ。そしたら、先生のところにいきましょうか」
そう言いながら、マリアとコーラス様と歩き出した次の瞬間
ドンっ
「....っ、マリアーーー!!!」
コーラス様が叫び、さっと動いたかと思うと、凄い勢いで階段を駆け降りました。側にあった階段の下の方にマリアが倒れ込む姿が目に入りました。
...何が起こったの?
隣にいたはずのマリアは、頭から血を流して倒れています。コーラス様がマリアを抱き抱え、青ざめながら叫んでいます。
人をっ...誰か呼ばなければ!!
私は動揺しながらも人を呼びに走り出しました。誰かっ、誰かっ....
「ローズお嬢様っ!!!」
遠くの方でコーラス様が叫ぶ声が聞こえた気がしましたが、必死だった私の耳には届きませんでした。
ドンっと、誰かとぶつかりました。
「あ、申し訳ありません...うっ...!?」
突然首元を叩かれたかと思うと、私は意識を手放してしまいました。
「あら、案外簡単だったわね。...さてと、連れ出して」
私は抱えられ、その場から遠ざかってゆくのでした。
10
お気に入りに追加
1,513
あなたにおすすめの小説

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」
21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」
そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。
理由は簡単――新たな愛を見つけたから。
(まあ、よくある話よね)
私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。
むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を――
そう思っていたのに。
「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」
「これで、ようやく君を手に入れられる」
王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。
それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると――
「君を奪う者は、例外なく排除する」
と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!?
(ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!)
冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。
……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!?
自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
window
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる