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王子様は思い悩む sideラエル
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「なぁ、カイ。令嬢はみな私の容姿と地位にしか興味がないと思っていたのだが、ローズ嬢はどうも違うようなんだ...どう思う?」
「ラエル公爵様、それは偏見です。貴方が今まで出会ってきた御令嬢はそうだったかもしれませんが、それは貴方も同じような態度をとっていたからでしょう。その容姿と地位を利用して、散々遊んでいたのはどなたです?」
「......お前、言うようになったな」
カイは呆れたようにふぅ、と息を吐く。まだ言い足りないように、しらっとした目で私を見てくる。
正直、何も返す言葉がなかった。
ローズ嬢との会話を思い出す。容姿はとりわけ美人でもなく、大人しそうな印象を受けた。
今まで会ってきた令嬢たちはみな華やかで、ギラギラとしたネックレスやイヤリング、キツイ匂いの香水を身にまとい、わかりやすく私に好意を示してきた。
ローズは私を見るなりやや怯えたような表情をし、得意の笑顔で優しく話しかけたものの、その後に何故か婚約解消を申し出てきたのだ。
明らかに他の令嬢とは違うその態度に驚き、彼女が何を考えているのか理解できず、結局、婚約解消を前提にまた会うことになるというよく分からない状況となった。
自分から提案したとはいえ、そんな回りくどい事をせずとも私が婚約を解消したいといえば相手は従うしかない。それは分かりきっている。
爵位がものをいうこの国で、仮に私が婚約解消を申し出て、ローズ嬢がそれを拒んだとしても下流階級の伯爵家の娘が上流階級の公爵家に婚約続行を懇願したところで通らない。
つまりすべての決定権は私にあるのだ。
...まぁ、爵位にこだわらない人格者の父上がそれを許すかは確かに問題ではあるが。
今考えれば、私は愚か者だった。
こんな考えを持つ私に、カイはよく仕えてくれていたと思う。
ローズ嬢がとても素晴らしい女性であることは、数回会えばすぐにわかった。
散々色んな令嬢と会ってきたことで、皮肉にも人の感情や性格などが、その人の言動である程度わかるようになっていた。
そして、ローズは今まで出会ったどの令嬢とも違う女性だった。
「ありがとう」
ローズは周りに対し、よくこの言葉を使う。他の令嬢は使用人に身の回りのことをしてもらって当たり前だと考え、お礼を言うことはない。
まぁ、生まれた頃からそのような環境で育てばそうなるのも不思議なことではないし、私自身お礼を言うのはカイに対してくらいだ。
「ローズお嬢様はとても素晴らしい方なんですよ」
彼女の使用人達は、みな口を揃えてそう言うのだ。物腰柔らかで気遣いができる。ここで働くことができて幸せだと言う者もいた。
私が公爵家の人間で、彼女の婚約者だからそう言うのだと最初は偏見の目で見ていたが、そうではないことは彼ら彼女らの表情を見てすぐにわかった。
「今日は料理人のカートスのお誕生日で...」
「侍女のサラと一緒にお買い物に行って...」
彼女は使用人の名前や家族構成、誕生日まで把握していた。そして、余程仲が良いのだろう。家族の話をするかのように嬉しそうに話をするのだ。
優しい人柄に触れ、いつしか私は彼女に惹かれるようになっていった。
自分のことについて人に話すのは初めてだった。私自身のことをもっと知って欲しい、彼女自身についてももっと知りたいと思い、何が好きなのか、何が苦手なのかなど、お互いの事についても話すようになった。
恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。
気がついたら、彼女自身に心底惚れ込み、常に会いたいと思うようになった。
婚約解消の事など忘れていたし、彼女も同じ気持ちだと信じて疑わなかった。
このまま、婚約者としていて側に欲しい。すぐでも結婚したい気持ちを抑え、父上との約束である学園を卒業後の婚姻を待ち望むようになった。
初めて私の部屋に招待した時。彼女が自分のテリトリーにいる事がたまらなく嬉しくて、今すぐにでも抱きしめてしまいたい衝動を必死で抑える。
お互いの名前を呼び合おうと提案した時、ふと彼女の瞳が動揺するように揺れた。彼女も同じ気持ちだと信じていたため、少し傷ついたがそんなことはもうどうでもよかった。
彼女が欲しい。一刻も早く。
その一心だった。
手を繋いだり抱き締めたりすると、顔を真っ赤にして恥ずかしがるような反応がたまらなく可愛くて、けれどそれ以上先に進むことはしなかった。
彼女の方から求めて欲しかったからだ。私は今まで女性から好意を受け取るのみで自分から愛情表現をする事はなかったが、ここまで人は変わるのか。
自分でも苦笑いするほど彼女が好きだった。
けれど、彼女の方から好意を示すことはなかった。嫌われているわけでは無さそうだし、いつも私が手を握ったり抱き締めると恥ずかしそうにはするものの、嫌な顔はしない。
照れているのだと、元々大人しい性格である彼女にとって、愛情表現をすることは難しいのだと思っていた。
不安にならないかと言われれば、不安だと思ったこともあるが、これは彼女の性格だからと見ないようにしていた。
しかしそれは、突然訪れた。
「ラエル公爵様、それは偏見です。貴方が今まで出会ってきた御令嬢はそうだったかもしれませんが、それは貴方も同じような態度をとっていたからでしょう。その容姿と地位を利用して、散々遊んでいたのはどなたです?」
「......お前、言うようになったな」
カイは呆れたようにふぅ、と息を吐く。まだ言い足りないように、しらっとした目で私を見てくる。
正直、何も返す言葉がなかった。
ローズ嬢との会話を思い出す。容姿はとりわけ美人でもなく、大人しそうな印象を受けた。
今まで会ってきた令嬢たちはみな華やかで、ギラギラとしたネックレスやイヤリング、キツイ匂いの香水を身にまとい、わかりやすく私に好意を示してきた。
ローズは私を見るなりやや怯えたような表情をし、得意の笑顔で優しく話しかけたものの、その後に何故か婚約解消を申し出てきたのだ。
明らかに他の令嬢とは違うその態度に驚き、彼女が何を考えているのか理解できず、結局、婚約解消を前提にまた会うことになるというよく分からない状況となった。
自分から提案したとはいえ、そんな回りくどい事をせずとも私が婚約を解消したいといえば相手は従うしかない。それは分かりきっている。
爵位がものをいうこの国で、仮に私が婚約解消を申し出て、ローズ嬢がそれを拒んだとしても下流階級の伯爵家の娘が上流階級の公爵家に婚約続行を懇願したところで通らない。
つまりすべての決定権は私にあるのだ。
...まぁ、爵位にこだわらない人格者の父上がそれを許すかは確かに問題ではあるが。
今考えれば、私は愚か者だった。
こんな考えを持つ私に、カイはよく仕えてくれていたと思う。
ローズ嬢がとても素晴らしい女性であることは、数回会えばすぐにわかった。
散々色んな令嬢と会ってきたことで、皮肉にも人の感情や性格などが、その人の言動である程度わかるようになっていた。
そして、ローズは今まで出会ったどの令嬢とも違う女性だった。
「ありがとう」
ローズは周りに対し、よくこの言葉を使う。他の令嬢は使用人に身の回りのことをしてもらって当たり前だと考え、お礼を言うことはない。
まぁ、生まれた頃からそのような環境で育てばそうなるのも不思議なことではないし、私自身お礼を言うのはカイに対してくらいだ。
「ローズお嬢様はとても素晴らしい方なんですよ」
彼女の使用人達は、みな口を揃えてそう言うのだ。物腰柔らかで気遣いができる。ここで働くことができて幸せだと言う者もいた。
私が公爵家の人間で、彼女の婚約者だからそう言うのだと最初は偏見の目で見ていたが、そうではないことは彼ら彼女らの表情を見てすぐにわかった。
「今日は料理人のカートスのお誕生日で...」
「侍女のサラと一緒にお買い物に行って...」
彼女は使用人の名前や家族構成、誕生日まで把握していた。そして、余程仲が良いのだろう。家族の話をするかのように嬉しそうに話をするのだ。
優しい人柄に触れ、いつしか私は彼女に惹かれるようになっていった。
自分のことについて人に話すのは初めてだった。私自身のことをもっと知って欲しい、彼女自身についてももっと知りたいと思い、何が好きなのか、何が苦手なのかなど、お互いの事についても話すようになった。
恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。
気がついたら、彼女自身に心底惚れ込み、常に会いたいと思うようになった。
婚約解消の事など忘れていたし、彼女も同じ気持ちだと信じて疑わなかった。
このまま、婚約者としていて側に欲しい。すぐでも結婚したい気持ちを抑え、父上との約束である学園を卒業後の婚姻を待ち望むようになった。
初めて私の部屋に招待した時。彼女が自分のテリトリーにいる事がたまらなく嬉しくて、今すぐにでも抱きしめてしまいたい衝動を必死で抑える。
お互いの名前を呼び合おうと提案した時、ふと彼女の瞳が動揺するように揺れた。彼女も同じ気持ちだと信じていたため、少し傷ついたがそんなことはもうどうでもよかった。
彼女が欲しい。一刻も早く。
その一心だった。
手を繋いだり抱き締めたりすると、顔を真っ赤にして恥ずかしがるような反応がたまらなく可愛くて、けれどそれ以上先に進むことはしなかった。
彼女の方から求めて欲しかったからだ。私は今まで女性から好意を受け取るのみで自分から愛情表現をする事はなかったが、ここまで人は変わるのか。
自分でも苦笑いするほど彼女が好きだった。
けれど、彼女の方から好意を示すことはなかった。嫌われているわけでは無さそうだし、いつも私が手を握ったり抱き締めると恥ずかしそうにはするものの、嫌な顔はしない。
照れているのだと、元々大人しい性格である彼女にとって、愛情表現をすることは難しいのだと思っていた。
不安にならないかと言われれば、不安だと思ったこともあるが、これは彼女の性格だからと見ないようにしていた。
しかしそれは、突然訪れた。
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