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王子様の心
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ラエル様と初めてきちんとお会いしたのは、お父様から婚約の話を聞かされてすぐのことでした。
この国では政略結婚は当たり前のことです。ですが、身分も外見も違いすぎるラエル様と私が婚約だなんて信じられず、嬉しさよりも不安の方が大きくて、頭を抱えておりました。
ラエル様とは幼い頃に一度お会いしたのみですが、美しい容姿に公爵という地位を持ったお方です。周囲が放っておくはずもなく、どこからともなく様々な噂が飛び交っていました。
良い噂も、悪い噂も。
「ローズ、この間は婚約を一方的に伝えたが...一度、会ってから婚約について考える機会を設けようと思うんだが、どうだ?幼い頃に一度会ったっきりだっただろう?」
ある時、お父様が私にそう尋ねてきました。
私が動揺していたことと、もう一つ理由がありました。ラエル様が他の多くのご令嬢との噂があったからです。
あくまでも噂でしたが、お父様なりに心配だったのでしょう。
スカル公爵様は人格者ですし、その地位にふさわしいお方です。
ですが、だからといってその息子が同じように素晴らしい方だとは限らない、そうお考えになったのでしょう。
私自身、全く気にしないかと言われればそうではありませんでしたが、整った容姿や地位を持つお方に浮いた話がないはずがありません。それに、私のような令嬢が婚約者だなんて、むしろ申し訳なく感じてしまいます。
お父様はとても優しい方です。私がラエル様と結婚すればこの家は安泰なはず。ですがそれを強制しないのは、私を思ってのことでした。
「あぁ...君がローズ嬢か。はじめまして、ラエル・スカルと申します」
丁寧にお辞儀をし、綺麗に笑顔を見せる。ラエル様は、昔と比べようもないほど素敵な方に成長されていました。
金髪の髪は輝きを増し、元から整っていたお顔は更に凛々しく男らしさが増していました。
とても綺麗に笑うお方なのね。...綺麗だけれど、どこか違和感を感じるわ。
そんなことを考えながらも、思わず見入ってしまいそうになるのを必死で堪え、ラエル様とお会いすると決まったその日から幾度となく練習してきたお辞儀をしました。
「は、初めまして、ラエル公爵様。ローズ・ニコラドと申します」
ラエル様は笑顔を崩さず、ニコニコと微笑んで私を見ています。顔は笑顔だけれど、目は笑っていないのです。
それに気がついて、私は居心地が悪くなってしまいました。私のような身分も外見も釣り合わない令嬢との婚約なんて、嫌に違いないわ。
そんな考えがぐるぐると周り、申し訳なさに俯いてしまいます。
「どうされました?ご気分でも悪いのですか?」
急に俯く私に、ラエル様が声をかけてくださりました。ふと顔を上げると、心配するように瞳が揺れてはいるものの、どこか冷めたような雰囲気も感じます。
お父様には申し訳ないけれど、やはり私には無理だわ...ごめんなさい、お父様。
心の中でお父様に謝罪しながら、ラエル様の目を見て、しっかりとした口調で伝えました。
「ラエル公爵様。この婚約はなかったことに致しましょう。ほんの数日だけでも、こんな私と婚約してくださったこと、感謝しております」
「えっ.....ローズ嬢、本気か?」
よほど驚いたのでしょう。先程とは違い、敬語ではなくなっていました。
「はい、ほ、本気です」
思わず足が震え、声もか細くなってしまいます。
ラエル様は黙ってしまわれ、何か考え込む素振りを見せたかと思うと、ふぅ、と息を吐いて私に言いました。
「わかった。ただ、これは君のお父様と私の父上が決めたことだ。私は父上を説得するから、ローズ嬢、君もお父様を説得してくれ」
先程とは打って変わって、淡々と話し始めるラエル様に少し驚きながらも、私はこくりと頷きました。
そして、そんな様子の私を見てラエル様は首を傾げて聞いてきます。
「確認なのだが、君はこの婚約について前から知っていたのではないのか?」
「いえ、知りませんでした。スカル公爵様と父がご友人関係だったことは存じております。ですが、子ども同士を結婚させる話はてっきり冗談だとばかり思っていて...」
「そうか...」
そしてまた沈黙が訪れます。
「こんな令嬢とは聞いていないのだが...私の勘違いか...?」
ふとラエル様がボソッと話すのが聞こえ、思わず「どうされましたか?」と尋ねると、動揺したよにラエル様は何でもないと言い、また考え込むようにされています。
「...ローズ嬢、さっきの話だが、婚約は続けたままにしないか?」
「えっ...ど、どういうことですか?」
「今日会ってすぐに婚約解消というのはあまりにも父上に説明がつかない。何度か会って、私がこのタイミングだと思った時にお互いの父に伝えるのはどうだい?その方が説得もしやすい」
そう言い、ラエル様は先程とは違い、本当に楽しそうに私を見て言いました。
「それに、君に少し興味が湧いてきた」
そこから、何度かお会いして、お互いのことを語り合う仲になりました。
剣の訓練がとてもきついこと、口が悪いけれど優しい仲の良い騎士がいること、早起きが少し苦手なこと、甘いものが好きだけれどあまり周りに言えないこと。
私も、自分のことをこんなにも受け入れてくれる相手がいることに嬉しさを感じ、たくさん私自身の事についてラエル様にお話ししました。
読書が好きなこと、人前で話すのは苦手なこと、侍女達が私にとても優しいこと、唯一仲良くしてくれる友人がいること、花を育てるのが好きで、家の中庭にたくさん花を植えていること。
ラエル様は私の話をいつも楽しそうに聞いてくださり、ラエル様とこうしてお会いできる幸せに感謝すると同時に、これから婚約解消の話をしなければならないのだと思うと、自分から言い出した事とはいえ胸が締め付けられるように痛くなりました。
そして、何度目かお会いしたある日のこと。
その日は初めてラエル様の部屋へ招かれ、緊張でガチガチに固まる私を笑いながら「こっちに座って」とラエル様は座っていたソファの隣をとんっと叩きました。
「いえ、あのっ...」
あまりにも近い距離でしたのでおろおろとしていると、痺れを切らしたのかラエル様はぐっと私の腕を掴んで座らせました。
「今日から私のことはラエルと呼んでくれ。ローズ嬢、君のことはローズと呼ばせてもらうよ」
「え?あの、それは...」
お互いの名前を呼ぶのを許されるのは婚約者、もしくは妻や夫となった者のみのはずです。
戸惑う私を見ながら、ラエル様はふっと目を細め嬉しそうに笑いました。
「なに?何か問題でも?」
「いえ、あの、私たちもう婚約者では...「何を言ってるの?ローズ、君は私の婚約者だろう。」
どういう事なのか訳がわからず、思わず目が泳いでしまいます。
そんな私を知ってか知らずか、ラエル様は私にじりじりと近づき、綺麗な顔を近づけてきました。
「残念だけど、婚約は解消出来ないよ。ローズ、私は君を好きになってしまったんだ。悪いけど、私の妻になってもらうよ」
この国では政略結婚は当たり前のことです。ですが、身分も外見も違いすぎるラエル様と私が婚約だなんて信じられず、嬉しさよりも不安の方が大きくて、頭を抱えておりました。
ラエル様とは幼い頃に一度お会いしたのみですが、美しい容姿に公爵という地位を持ったお方です。周囲が放っておくはずもなく、どこからともなく様々な噂が飛び交っていました。
良い噂も、悪い噂も。
「ローズ、この間は婚約を一方的に伝えたが...一度、会ってから婚約について考える機会を設けようと思うんだが、どうだ?幼い頃に一度会ったっきりだっただろう?」
ある時、お父様が私にそう尋ねてきました。
私が動揺していたことと、もう一つ理由がありました。ラエル様が他の多くのご令嬢との噂があったからです。
あくまでも噂でしたが、お父様なりに心配だったのでしょう。
スカル公爵様は人格者ですし、その地位にふさわしいお方です。
ですが、だからといってその息子が同じように素晴らしい方だとは限らない、そうお考えになったのでしょう。
私自身、全く気にしないかと言われればそうではありませんでしたが、整った容姿や地位を持つお方に浮いた話がないはずがありません。それに、私のような令嬢が婚約者だなんて、むしろ申し訳なく感じてしまいます。
お父様はとても優しい方です。私がラエル様と結婚すればこの家は安泰なはず。ですがそれを強制しないのは、私を思ってのことでした。
「あぁ...君がローズ嬢か。はじめまして、ラエル・スカルと申します」
丁寧にお辞儀をし、綺麗に笑顔を見せる。ラエル様は、昔と比べようもないほど素敵な方に成長されていました。
金髪の髪は輝きを増し、元から整っていたお顔は更に凛々しく男らしさが増していました。
とても綺麗に笑うお方なのね。...綺麗だけれど、どこか違和感を感じるわ。
そんなことを考えながらも、思わず見入ってしまいそうになるのを必死で堪え、ラエル様とお会いすると決まったその日から幾度となく練習してきたお辞儀をしました。
「は、初めまして、ラエル公爵様。ローズ・ニコラドと申します」
ラエル様は笑顔を崩さず、ニコニコと微笑んで私を見ています。顔は笑顔だけれど、目は笑っていないのです。
それに気がついて、私は居心地が悪くなってしまいました。私のような身分も外見も釣り合わない令嬢との婚約なんて、嫌に違いないわ。
そんな考えがぐるぐると周り、申し訳なさに俯いてしまいます。
「どうされました?ご気分でも悪いのですか?」
急に俯く私に、ラエル様が声をかけてくださりました。ふと顔を上げると、心配するように瞳が揺れてはいるものの、どこか冷めたような雰囲気も感じます。
お父様には申し訳ないけれど、やはり私には無理だわ...ごめんなさい、お父様。
心の中でお父様に謝罪しながら、ラエル様の目を見て、しっかりとした口調で伝えました。
「ラエル公爵様。この婚約はなかったことに致しましょう。ほんの数日だけでも、こんな私と婚約してくださったこと、感謝しております」
「えっ.....ローズ嬢、本気か?」
よほど驚いたのでしょう。先程とは違い、敬語ではなくなっていました。
「はい、ほ、本気です」
思わず足が震え、声もか細くなってしまいます。
ラエル様は黙ってしまわれ、何か考え込む素振りを見せたかと思うと、ふぅ、と息を吐いて私に言いました。
「わかった。ただ、これは君のお父様と私の父上が決めたことだ。私は父上を説得するから、ローズ嬢、君もお父様を説得してくれ」
先程とは打って変わって、淡々と話し始めるラエル様に少し驚きながらも、私はこくりと頷きました。
そして、そんな様子の私を見てラエル様は首を傾げて聞いてきます。
「確認なのだが、君はこの婚約について前から知っていたのではないのか?」
「いえ、知りませんでした。スカル公爵様と父がご友人関係だったことは存じております。ですが、子ども同士を結婚させる話はてっきり冗談だとばかり思っていて...」
「そうか...」
そしてまた沈黙が訪れます。
「こんな令嬢とは聞いていないのだが...私の勘違いか...?」
ふとラエル様がボソッと話すのが聞こえ、思わず「どうされましたか?」と尋ねると、動揺したよにラエル様は何でもないと言い、また考え込むようにされています。
「...ローズ嬢、さっきの話だが、婚約は続けたままにしないか?」
「えっ...ど、どういうことですか?」
「今日会ってすぐに婚約解消というのはあまりにも父上に説明がつかない。何度か会って、私がこのタイミングだと思った時にお互いの父に伝えるのはどうだい?その方が説得もしやすい」
そう言い、ラエル様は先程とは違い、本当に楽しそうに私を見て言いました。
「それに、君に少し興味が湧いてきた」
そこから、何度かお会いして、お互いのことを語り合う仲になりました。
剣の訓練がとてもきついこと、口が悪いけれど優しい仲の良い騎士がいること、早起きが少し苦手なこと、甘いものが好きだけれどあまり周りに言えないこと。
私も、自分のことをこんなにも受け入れてくれる相手がいることに嬉しさを感じ、たくさん私自身の事についてラエル様にお話ししました。
読書が好きなこと、人前で話すのは苦手なこと、侍女達が私にとても優しいこと、唯一仲良くしてくれる友人がいること、花を育てるのが好きで、家の中庭にたくさん花を植えていること。
ラエル様は私の話をいつも楽しそうに聞いてくださり、ラエル様とこうしてお会いできる幸せに感謝すると同時に、これから婚約解消の話をしなければならないのだと思うと、自分から言い出した事とはいえ胸が締め付けられるように痛くなりました。
そして、何度目かお会いしたある日のこと。
その日は初めてラエル様の部屋へ招かれ、緊張でガチガチに固まる私を笑いながら「こっちに座って」とラエル様は座っていたソファの隣をとんっと叩きました。
「いえ、あのっ...」
あまりにも近い距離でしたのでおろおろとしていると、痺れを切らしたのかラエル様はぐっと私の腕を掴んで座らせました。
「今日から私のことはラエルと呼んでくれ。ローズ嬢、君のことはローズと呼ばせてもらうよ」
「え?あの、それは...」
お互いの名前を呼ぶのを許されるのは婚約者、もしくは妻や夫となった者のみのはずです。
戸惑う私を見ながら、ラエル様はふっと目を細め嬉しそうに笑いました。
「なに?何か問題でも?」
「いえ、あの、私たちもう婚約者では...「何を言ってるの?ローズ、君は私の婚約者だろう。」
どういう事なのか訳がわからず、思わず目が泳いでしまいます。
そんな私を知ってか知らずか、ラエル様は私にじりじりと近づき、綺麗な顔を近づけてきました。
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