上 下
73 / 76

ホームレス、本当に英雄になってしまう

しおりを挟む
 そして、俺たちは王都へと凱旋がいせんする。
 列の中盤で、俺はアルフレッドと女王陛下と一緒に豪華な場所に乗って移動していた。
 王都の門には民衆が待ち構えていた。

『女王陛下が帰還されたぞ!!』

 王都はお祭り騒ぎだった。人々は戦争の勝利に歓喜している。それも勝ったのは、列強国のひとつ・ローゼンブルク帝国だ。

 いままで外交力だけでなんとか抑えていた大国を下したことで、積み重なった不満は一気に解消されたんだろう。

 昼間なのにビールを片手にみんなが躍っていた。

『英雄たちの帰還だ!! みんな喜べ!』
『女王陛下は完全な勝利をもたらした!! まさに勝利の女神だ』
『それにアルフレッド将軍の指揮もすごかったよな。ワル―シャ攻防戦は歴史に残るぞ』
『でも、今回の最大の功労者はあの人だろう?』
『ほんとかな? あんな功績をひとりで作ったなんて!?』
『ニコライ=ローザンブルク中将を一騎討ちの末、討ち取った救国の英雄だぞ!? 失礼だろ!!』
『だってさ、すべての作戦をひとりで立案して、戦いが始まったら最前線で敵国の将軍を討ってくるなんて物語の世界の話じゃんか!』
『たぶん、王国首脳部が隠していた切り札だよ。歴史上最高クラスの魔導士だ。どこからともなく、オーラを感じるだろう?』
『ああ、きっと戦場ではもっとすごいんだろうな。俺たちみたいな能力も力もないやつなんて、目を合わせる前に吹き飛ばされてるぞ!?』

 いつの間にか俺のうわさが広まっているような。
 どんな怪物になっているんだろう……ちょっと不安だ。

「クニカズ? 皆があなたを見ていますよ。手くらい振ってあげなさい」
 ウィリーは俺をからかうように笑う。

「こうか?」
 テレビで見たことがある王族のように民衆に手を振った。

「ぎこちないな」
 アルフレッドは脇で笑いをこらえていた。

「うるせぇ」
 だが、観衆はそうは思わなかったようだ。

『おい、クニカズ中佐が笑いながら手を振ってくれたぞ!!』
『なんだ意外と気さくじゃねぇか』
『すげぇ優しそうな笑顔で、私ファンになっちゃうかも!!」
『あれですごい魔導士なのよね? もっと怖い人だと思ってたわ』

 なんか芸能人みたいになってしまってすごく恥ずかしいです。

「ところで、俺の新しい役職なんだけど具体的に何をすればいいんだ?」
 たしか、女王直属の軍事参議官室室長だったよな?

「そう、気取らなくても大丈夫よ。私のアドバイザーになって欲しいだけ。軍事参議官っていうのは引退した軍の長老たちが就任する役職で、女王を助言する仕事よ。ただ、必要あるときだけ招集するから滅多に長老たちは来ないし。事実上、クニカズだけが常駐している部屋の長ね。適宜、私に助言をくれればいいわ。あなたの持つ知性は軍事だけじゃなくて、いろんな分野に応用したいからね」

 女王陛下は少しだけ顔を赤らめて笑う。アルフレッドはちょっとだけ苦笑していた。

 ※

 室長。公務員だとたしか課長補佐クラスの役職だったよな。
 公務員の課長職は民間企業の課長職と比べて権限が大きいと聞いたことがある。
 
 テレビドラマによく出てくる警視庁捜査一課長なんて300人以上部下がいるとか。
 課員が下手な会社の社員よりも多いからな。

 役所の課長補佐が民間企業の課長みたいなはずだ。おそらく、俺も忙しいのだろう。そう思うとちょっと憂鬱だな。デスクワークとかできるかな?

 軍事参議官室長1日目。
 女王陛下の軍事アドバイザーという立場だからか、職場は軍務省ではなく王宮に用意されている。

 軍事参議官室の本来の仕事は、王国の重要な局面において、退役した軍の長老たちを招集し女王陛下の意思決定に必要な情報を分析したうえで上申する軍事参議官会議を招集したりするものだ。

 軍の長老会議のための事務室だな。それだけだと仕事が少ないので、もうひとつ重要な任務を仰せつかっている。各国の大使館に派遣している駐在武官の報告書に目を通して重要な情報がないかを判断しなくてはいけない。

 駐在武官。簡単に言えば軍人外交官だ。外交と軍事は切っても切り離せない関係だから職業外交官だけでは判断できない軍事的な問題が現地で発生する可能性もある。それを処理したり大使にアドバイスしたりする仕事が主だが……

 たいていは裏で軍事的な情報収集やスパイ活動をおこなっているのが暗黙の了解だ。
 日本でもたまに情報流出に外国の大使館職員がかかわっている疑惑があるが、まあそういうことだ。

 つまり、軍事参議官室が各地にいる駐在武官の元締めということになる……
 かなり重要なお仕事だよなァ。

 そして、もうひとつ女王陛下からは特命を帯びている。
 それは、戦略と輸送計画の総合的な見直しだ。俺が発案した浮遊魔力による空中からの強襲。これによって補給基地は無防備であることが判明した。各国は航空魔導士の研究にやっきになっているはずだ。膨大な魔力を消費する航空魔導士の育成は妖精の加護なしでは実現が難しいだろうが、もしかしたら簡易版でも開発に成功する国が出てくるかもしれない。

 それも踏まえて航空魔導士を有効活用する戦略の立案と空からの攻撃があるという前提に立って補給線の維持をどう確保するかが解決すべき課題になっている。

 ウィリーには「難しい仕事でしょうから、室長補佐はあなたの意見を優先する」と言ってもらえたので、もちろんあの男をお願いしてある。

 軍事参議官室の扉を開いた。
 そこには20人くらいのスタッフと俺の補佐役である親友が待っていた。

「お待ちしておりました、クニカズ室長。本日付で室長補佐の任を拝命しましたクリスタ少佐です、以後お見知りおきを!」

 ※

 ということで、俺の新しい生活は始まった。
 軍事参議官室長の朝は早い。

 軍が用意してくれた官舎で目を覚ますとターニャが朝食を用意してくれていた。
 ハムとピクルスと黒パン。

 どうやら官舎生活に慣れて、デスクワーク中心になったので、彼女は暇すぎるのか市場に遊びに行き食材まで用意してくれているようだ。今あるピクルスは既製品だけど、彼女が作ってくれたピクルスも地下ボックスに眠っているらしい。

「酢漬けのピクルスは今晩が食べごろですよ、センパイ!! 今日の夜は2人でピクルスとソーセージをおつまみにワインでも飲みましょうよ!!」
 とか新妻みたいなセリフを言ってくる。

 ちょっと、ドキドキするよな。実際さ、妖精と言われるだけあってターニャは普通に美少女だし……
 そもそも、料理を含む家事スキルは高いし、魔力の加護は絶大。ちょっと独占欲が強いところはあるけど、それを補っても余りあるほどレベルが高い。

 そんな女の子と同棲みたいなことをしていて俺はいいのだろうか?
 いや、むしろこれは同棲なのか!?
 
「何をバカなことを言っているんですか?」
 やばい、心が繋がっているのを忘れていた。

「だよな、同棲じゃないよな!!」
 俺は慌てて妄想を否定する。

「いや、それがバカなことですよ。年頃の男女が同じ部屋で生活を共にして、私が作った朝食を先輩が美味しそうに食べているなんて、どこをどう見ても同棲中のカップルですよ? 当たり前のことを言わせないでください」

「そうだよな、やっぱりこれカップルだよな。それも同棲中の!!」

「むしろ同棲中のカップルよりもきずなが強いと言っても過言ではありませんよ。だって、魂は繋がっているわけですからね。ソウルメイトでもあります」

 なんかちょっとヤンデレ気味な気もするが気にしてはいけないよな。

「あっ、センパイ!! もうそろそろ行かないと遅刻しますよ!」
 なんかありきたりな展開になってしまったが、確かにそろそろ出ないとまずい。

「おう、じゃあ行ってくるよ」

「行ってきますのキスくらいします?」

「ぐほっ」
 いきなりの爆弾発言に飲んでいた水を噴き出しかける。

「冗談ですよ、まだ、ね?」
 そう言うと妖精は、その場から恥ずかしそうに消えてしまった。

 俺と同化したのか、暇だから街に散歩に行ったのかはわからないけど……

「ん?」

 そう言えばさっき、まだとか言ってたよな。ということは将来的には可能性があるのか!?
 いや、考えないようにしよう。それがお互いのためだ。

 ※

「はぁ、なんで肝心なところで弱気になっちゃうんだろう、私って……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...