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第21話 ホームレス、優等生を泥沼に引きずり込む

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「それでは、机上演習をはじめる。攻撃の効果測定は、サイコロを使って測定する。よいな? では、演習スタート!」

 教官がそう宣言すると、戦争が始まる。

「我が軍は、重装歩兵を前面に展開しながら進軍します」
 リーニャ大尉の方は俺たちよりも戦力数は2倍以上ある。重装歩兵を前に出して、後方に弓兵・魔力兵・砲兵を守る。そして、俺たちの前線が崩壊したら一気に騎兵が進軍する。

 教本通りの正統派な攻め方だ。

「我が軍は、敵の奇襲攻撃によって崩壊した前線を立て直すために一気に後退する。前線の兵はできる限り遅延戦闘を繰り返して後退」

 リーニャ軍が、俺たちの領土を瞬く間に制圧していく。しかし、どこかで立ち止まらなくてはいけない。向こうは、遠くの自国から物資を輸送しなくちゃいけないからな。攻めれば攻めるほど、物資はなくなっていく。

 敵軍の攻勢は、2日目にして止まった。一方的に攻めていたから想定以上の物資を食いつぶしたんだ。
 俺は兵を後方に下げて用意しておいた地形に兵を集結させた。

「クニカズ大尉、うまくいきましたね!」
 すでに、クリスタ大尉が俺の用意しておいた場所に、物資を輸送し始めている。まさか、ここまで効率的に輸送計画を立ててくれるとは思わなかった。

 やっぱり、彼はシナリオ2以降から登場する……ヴォルフスブルクの裏の支配者か。

「ああ、すごいよ、大尉は輸送系の天才だな!」
 俺たちは、お互いの拳をぶつけ合う。アルフレッドに続いてここでも友情が生まれたな。

「何を言ってるのよ!! さっきから逃げてばかりしかじゃないの。異世界の英雄が、こんなに情けないなんて、思わなかったわ。補給が終わり次第、すぐに前進を!」

 そして、リーニャ大尉軍は、少しずつ俺たちに誘導されていく。あえて、敗走ルートをあの湿地帯の近くに設定してある。勝利の美酒に酔っている敵軍は間違いなく誘いこまれる。

 そうすれば……

「はじまって1週間で、もう敵軍はボロボロよ。このまま一気に押し切るわァ! 味方主力3万を東に移動させる。たかだが、6千の守備兵になにができるの!?」

 そこは、俺たちが陣地を作って要塞化している湿地帯だよ、貴族のお嬢ちゃん?
 まぁ、学校では"野伏のぶせ"なんて教えないか。

 俺は歴史シミュレーションゲームオタクだ。こういう机上演習は死ぬほどやってきたんだよ。実地で学んでいるんだ。机の上だけで学んできたやつには、そう簡単には負けないぜ。

 リーニャ大尉軍は、俺の用意した囮部隊をおいかけて一気に進軍していく。
 湿地帯の陣地はほぼ完ぺきに成立している。

 囮部隊は、湿地帯に達するとさきほどまでの弱腰とはうって変わって勇猛な守備隊に変わった。
 さらに、湿地帯の左右には魔力兵と砲兵を待機させていた。

 そして、湿地帯はぬかるんでいるので兵士たちの脚は沼にとらわれていく。完全に動きが鈍った。

「今だ! 砲兵と魔力兵は敵前面に火力を集中させろ。3方向から攻撃だ」
 リーニャ大尉の兵士たちは、次々と倒れていく。

 これが"野伏のぶせ"だ。

 囮の兵士が自軍に有利な場所に敵兵を、用意しておいたで包囲して敵を迎え撃つ。

 この作戦で難しいのは、数が少なくなりやすい前面の囮の兵士たちをどう食い破られないか、だが……

 俺たちは湿地帯を守りに使うことで、少数の兵力をカバーした。さらに、立地的に兵士たちを逐次投入しなくてはいけなくなるので、それを利用した。

「リーニャ大尉! このままでは主力部隊が壊滅してしまいますわ!?」
 大尉のチームメイトは慌てて彼女に進言する。

「うるさい! 黙っていなさい。あなたは最初にすべてを私に任せると言ったでしょ。撤退を。すぐに引き返します!!」

 しかし、沼地によって素早い撤退なんて不可能に近い。さらに、前線の兵力は猛攻にさらされている。被害はどんどん増えていく。逆に、俺たちの戦力はほとんどダメージを食らわない!!

「撤退! 撤退!! 早く撤退よ!」

 彼女がパニックに陥っている間に、教官のサイコロによる攻撃判定は何度も行われた。
 敵の被害は拡大していった。さあ、地獄の始まりだよ、優等生。

 俺は手加減なんかしないぞ?
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