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第8話 ダメなのかもしれない、きっと
しおりを挟む次の日から昼休みの練習に沖田さんは来なくなった。
昼休みに音楽室で練習するという日常がただ過ぎていく。
ただ単に、同じ空間でピアノの練習を少しだけしているだけ、それだけの間柄。
そして、ただのクラスメイト。
沖田さんは、大勢の友達と一緒にいる。
俺は……中村くらい、かな、友達って言えるのは。
沖田さんとは、地球の裏側、日本とブラジルくらい、距離感がある。
沖田さんは、昼休みに入ると、俺が弁当を食べている間に、どこかにいってしまう。
俺の学校は、食堂もないし、中庭で弁当を食べる習慣もないのに……。
周りの人とか、中村にさえ、沖田さんがどこに行くのか聞くのも、憚られるから、俺はまったく話題にも出すことができない。
「なあ、一条。お前なんか最近雰囲気悪いで?」
「なんでもないよ、サンキュー、中村」
「それならええけど……」
「俺、行ってくるよ、音楽室に。また後でな」
「お、おう……」
もう期末テストも終わって、あと終業式まで数日しかない。
つまり、2学期の間、昼休みに練習することもあと数日。
あの日から今まで沖田さんは音楽室に来ない。
なんか俺は沖田さんに嫌なことでもしたのか……。
女性の気持ちなんてわかりやしないよ。
このまま高校生活が終わり、俺は東京に行っちまうのか?
♢
結局、そのまま2学期も終わる。
冬休みは、すでに、東京の受験校も決めており、過去問ばかり解くことに専念していた。
ピアノは少しだけ練習した。曲を弾くことなんて、少しも面白くなかった。
ピアノの鍵盤の蓋はとても重かった。
新年が明けても、正月らしいことは一切せず、半年ぶりに、父親とテレビ電話でちょっと会話をしたぐらいだった。
父親は今ニューヨークにいるらしい。
3学期が始まると、どうしても、東京に試験を受けに行くことになり大阪での時間は極端に少なくなってしまう。
そしてーー
始業式が終わる。
だから、すぐに家に帰って勉強することに。
俺は頭の中が受験一色になっていた。
2月の終わりまで、東京でたくさんの大学を受験していた。
願書を出した母さんをちょっと恨む。
「こんなに受ける必要あったか?」
「浪人されたら困るのよ」
試験で塗り固められた日々からやっと解放された俺は、大阪に帰った。
すぐに、沖田さんのことが気になって仕方がなかった。
明日から学校か……。一ヶ月くらい学校に行っていなかったのか?
卒業式まであと10日ちょっと。
受験で東京に行く前に、音楽の先生が、3月はもう体育館での練習になるって言っていた。
俺は学校の準備をしながら、沖田さんのいろんな表情を思い出していた。
夜中までカラスがうるさくてまったく寝られなかった。
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