上 下
2 / 9

第2話 思わぬ接点

しおりを挟む
10月の終わり、音楽の授業の最後に卒業式で合唱のピアノを弾く生徒を募集すると先生が言った。

俺はピアノには自信がある。

ドレミファソラファミレドでお馴染みの、ヤマパ音楽教室に10年通っていた。

受験勉強もあるし、オーディションを申し込もうか申し込まないでおこうか、悩み、中村に相談してみた。

「お前ピアノ弾けるんや」
「そうなんだけど……」

そして、彼には関西人ってバイタリティあふれることを再認識させる。

「アホか!チャンスあんねやったら突っ込まんかい」

まあ、早速申し込んだが、定員3人のところ、6人いるらしい。

音楽の先生がオーディションするということで放課後、集められた。

そこにはなんと、沖田さんの姿があった。

順番を待つために置かれている椅子は、沖田さんの隣しか空いていなかった。

俺はもうオーディション関係なしに猛烈に緊張してきた。

観念して座って背筋を伸ばし、視線は思いっきり天井を突き刺していた。

沖田さんは、そのなんとも言い難い雰囲気を漂わす。いい香りが……俺を酔わせる。

その香りは、香水なんかとは一線を画す、どうやったら醸し出せるのかまったくわからない。

こんなに近くに沖田さんがいることなんて同じクラスになっても一度もなかった。

追い討ちをさらにかけるように、俺に声を掛けてきた。

「同じクラスの一条くん、やんな?ピアノできるん?」

「あ、う、うん………」

「あはは。そうなんや。まあ、こんな場やったら誰でも緊張するな!」

「………そ、そうだよね」

もう完全に会話が繋がらなくなりそうなところで、音楽の先生が教室に入ってきた。

「では、さっそく校歌、1人ずつ順番に弾いていってな!はい、手前にいる佐々木さんから弾いてってな」

おい、それだと俺が最後になるじゃんか!

くじとかなんか方法があるだろ。

ただ俺が最後に入室しただけだぞ!

そんな俺の心の声を無視して、他の人の演奏は進む。

4人目の演奏が終了し、沖田さんの名前が呼ばれて、彼女はピアノの椅子に座る。

椅子の高さ調整を終え、沖田さんが座ると周りの空気は一変する。

まあ、こういうのをオーラがすごいって言うんだろう。

俺は思わず息を飲んだ。

俺はピアノを弾き始める、その1音目でその演者の腕前が大体わかる。

彼女は……上手い。

彼女は、練習したんだろう、きっと。必死に。

演奏は終わる。

すばらしい演奏に俺は気づいたら拍手していた。

すばらしい演奏はとても時間が短く感じられるものだ。

「え?」

周りに拍手している人はいない。

俺、すっごい白い目で見られてる……。

いきなり彼女の演奏にだけ拍手したことに結果的になってるんだよな。

とたんに恥ずかしくなり、俺は右手で後頭部をかく。

俺は彼女の演奏だけを見て拍手したんだからね?

俺はただ、沖田さんの演奏をもっと聞きたかっただけ!

沖田さんが席に戻ってくると、彼女は俺に一言だけ、投げかけた。

「拍手、ありがとう」
「あ、ああ……」

やばい。

微笑みかけられた俺は、とんでもなく有頂天な気分になる。

次は俺の番。

浮かれている場合じゃない。

「じゃあ、最後やね。一条くん」

「はい。よろしくお願いします」

……だいたい沖田さんは身長160?センチなんだ、椅子結構低いな。

俺は椅子調整にかかる、この時間、嫌なんだよなー。クルクル取っ手を回すの。

ようやくピアノの前に座り、演奏を始める。






俺は、完璧な演奏を成し遂げた、つもりだ。

「ありがとうでざいました」

「あ、一条くん、演奏終わったんやね、さ、みんな、今日はオーディションお疲れさん!結果は3日後の昼休みに発表するから音楽室に来てや」

3日後、か。

オーディション、俺は沖田さんと一緒に合格できていることを祈る……!



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

処理中です...