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第1話 俺と沖田さんの普通な出会い
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俺は一条知明。
ふつうの男子。勉強が抜群にできるって訳でもない。
でも、ずっとピアノをやってきたから、これには自信がある。
中学3年になって、母さんの転勤で、急に2学期に大阪に引っ越すことになった。
今日は、2学期の始業式。
初めて転校先の高校に登校する。
まあ、何回も転校を経験してきた俺は、初めが肝心だと知っている。
職員室のドアを開けると、担任の先生と思しき人が俺を手招きしている。
「一条くんやね。よろしくな……よっしゃ、教室に向かおか」
「はい」
これからは、少し慣れない関西弁に、慣れていかなければいけない。
廊下をスタスタと歩く担任。
感情を無にして、教室の扉を担任に続いて入る。
扉越しに、ザワザワした雰囲気が感じられる。
「みんな静かにしーや!転校生来てるんやから」
「「おーーー!」」
期待するな。
なぜなら、俺はなんの変哲もない高校生だ。
この半年を乗り切れば、新たに大学生活がイチから始まる。
いいか。
余所者は目立ってはいけない。
カースト上位と下位を見極め、手頃な奴を狙って仲良くなり、話を聞き出す。
地元の方のご意向には背いてはいけない。
ん?
俺は、決してぼっち……じゃないよ?
仲良くする奴を絞っているだ……けだから。
そして、教壇の前に立つ。
「一条、自己紹介頼むな」
軽くうなづいた後、クラスメイトをぐるって見渡した俺の視線に……
俺はその人に思わず目を奪われた。
彼女とは目があった気がした。
でも逸らされた気がする。
担任の先生が黒板に名前を書き始める。
「はい。札幌から来ました、一条知明です。よろしくお願いします」
まばらに拍手が起きる。
「そうやな……まあ、あの後ろの席座ってな」
俺は言われた通りの席に座った。
何もない、ただ、両隣に人がいるだけ。
俺は、数日間クラスの分析を行った。
俺が、目があった(つまりそういうこと)女子は沖田有希子というらしい。
そう。
俺は彼女に一目惚れした。
彼女はその持ち前の美貌と人当たりのよさを存分に活かし、クラスの中心人物として教師からも一目置かれる存在。
まあ、俺が気になるって子だから、もちろん、学年の中でも人気がある。
そうして過ぎていった、高校生活の始まりだったーー
♢
席がたまたま横だった中村は、俺と仲良くしてくれた。
俺はまったく関西弁が話せなかった。
受験生からかもしれないが、中村は俺が受験する高校をどうしても聞きたいようだ。
「なあ、一条は公立、もしかして私立?」
「私立はないかな」
「公立やったら……ってまだ分からへんな」
「中村はどうなんだ?結構いろいろ頑張ってたし、お前こそ北高校はバッチリじゃないのか?」
「いや、そんなことあらへんし」
「まだまだ先の話かと思っているとすぐ受験だしな」
「そやな、ところで沖田さん、どこの大学受けるか知ってる?」
「いや、知らない。どこ?」
「大阪南大学やて」
「へー。やっぱ勉強もできるんだ」
「イヤミな奴やな、お前、結構できるん知ってるんやで」
「やめろよ。なにも決まってないんだ、担任との面談もまだだしな」
そのまま話をはぐらかした。
実はーー
もう10月くらいには、また母の転勤がなんとなく決まりそうだと俺は知った。
東京の方に転勤しなければならないらしい。
俺は、母さんと相談して、東京の私立大学に入ることだけを念頭に勉強することに決めた。
地元の塾は、もちろん地元志向だったから、自分で勉強することになった。
こんな俺はまったく中村以外の友達はできなかった。
休日返上で勉強に打ち込んだ。
すべての煩悩を捨て去って、シャーペンを動かした。
まあ、気分転換にと、3連休で1日だけ中村と遊んだ。
そして、俺が気になっている沖田さんとはーー
クラスが同じなだけで、話すことすらない。
ふつうの男子。勉強が抜群にできるって訳でもない。
でも、ずっとピアノをやってきたから、これには自信がある。
中学3年になって、母さんの転勤で、急に2学期に大阪に引っ越すことになった。
今日は、2学期の始業式。
初めて転校先の高校に登校する。
まあ、何回も転校を経験してきた俺は、初めが肝心だと知っている。
職員室のドアを開けると、担任の先生と思しき人が俺を手招きしている。
「一条くんやね。よろしくな……よっしゃ、教室に向かおか」
「はい」
これからは、少し慣れない関西弁に、慣れていかなければいけない。
廊下をスタスタと歩く担任。
感情を無にして、教室の扉を担任に続いて入る。
扉越しに、ザワザワした雰囲気が感じられる。
「みんな静かにしーや!転校生来てるんやから」
「「おーーー!」」
期待するな。
なぜなら、俺はなんの変哲もない高校生だ。
この半年を乗り切れば、新たに大学生活がイチから始まる。
いいか。
余所者は目立ってはいけない。
カースト上位と下位を見極め、手頃な奴を狙って仲良くなり、話を聞き出す。
地元の方のご意向には背いてはいけない。
ん?
俺は、決してぼっち……じゃないよ?
仲良くする奴を絞っているだ……けだから。
そして、教壇の前に立つ。
「一条、自己紹介頼むな」
軽くうなづいた後、クラスメイトをぐるって見渡した俺の視線に……
俺はその人に思わず目を奪われた。
彼女とは目があった気がした。
でも逸らされた気がする。
担任の先生が黒板に名前を書き始める。
「はい。札幌から来ました、一条知明です。よろしくお願いします」
まばらに拍手が起きる。
「そうやな……まあ、あの後ろの席座ってな」
俺は言われた通りの席に座った。
何もない、ただ、両隣に人がいるだけ。
俺は、数日間クラスの分析を行った。
俺が、目があった(つまりそういうこと)女子は沖田有希子というらしい。
そう。
俺は彼女に一目惚れした。
彼女はその持ち前の美貌と人当たりのよさを存分に活かし、クラスの中心人物として教師からも一目置かれる存在。
まあ、俺が気になるって子だから、もちろん、学年の中でも人気がある。
そうして過ぎていった、高校生活の始まりだったーー
♢
席がたまたま横だった中村は、俺と仲良くしてくれた。
俺はまったく関西弁が話せなかった。
受験生からかもしれないが、中村は俺が受験する高校をどうしても聞きたいようだ。
「なあ、一条は公立、もしかして私立?」
「私立はないかな」
「公立やったら……ってまだ分からへんな」
「中村はどうなんだ?結構いろいろ頑張ってたし、お前こそ北高校はバッチリじゃないのか?」
「いや、そんなことあらへんし」
「まだまだ先の話かと思っているとすぐ受験だしな」
「そやな、ところで沖田さん、どこの大学受けるか知ってる?」
「いや、知らない。どこ?」
「大阪南大学やて」
「へー。やっぱ勉強もできるんだ」
「イヤミな奴やな、お前、結構できるん知ってるんやで」
「やめろよ。なにも決まってないんだ、担任との面談もまだだしな」
そのまま話をはぐらかした。
実はーー
もう10月くらいには、また母の転勤がなんとなく決まりそうだと俺は知った。
東京の方に転勤しなければならないらしい。
俺は、母さんと相談して、東京の私立大学に入ることだけを念頭に勉強することに決めた。
地元の塾は、もちろん地元志向だったから、自分で勉強することになった。
こんな俺はまったく中村以外の友達はできなかった。
休日返上で勉強に打ち込んだ。
すべての煩悩を捨て去って、シャーペンを動かした。
まあ、気分転換にと、3連休で1日だけ中村と遊んだ。
そして、俺が気になっている沖田さんとはーー
クラスが同じなだけで、話すことすらない。
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