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プロローグ(4)
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それから、飛鳥は、いままでの姿勢を反省して業務に当たった。
最近は、戸建だけでなくマンションにもオーダーメイドの考え方を取り入れるようになった。今回の北千住のマンションもだ。戸建とは違い、お客様の要望を0から取り入れるのではなく、標準仕様をベースに要望可能だが、評判は良かった。その人の使い勝手に合わせた仕様に変更できるのが高評価を得ていた。
お客様の要望と真摯に向き合って提案する。仕事に対する姿勢を変えたあとの方が、成績がのびた。
慎也にはいまでも感謝しているし、頭があがらない。
でも、いつかは、その背中を追い越したい。
まだまだ、米粒くらい遠い存在だけれども。
事務所には、すでに城田課長を前に接客担当者八人が整列していた。
飛鳥と慎也も急いで並ぶ。
城田課長は、全員が揃ったことを確認して、挨拶を始めた。
「おはようございます。都心から近い北千住のこの場所で、きょうから、モデルルームが公開されます。初日なので、課長の私から短めに一言。みなさんがきょうから販売する家は、購入したお客様の出発でもあります。家は、新しい家族であり希望だと私は考えています。来店されるご家族にはいろんな形があるでしょう。単身の方も珍しくありません。どんな思いを抱き、どんな希望を持って家を探しているのかをしっかりと聞き、その人に、その家族に合った最適な家を提案してください。そして、これからの生活を共にする家がその人に希望の光を与えられたらいい。そう思っております。きょうからどうぞ、よろしくお願いします」
課長が頭を下げる。拍手が起きた。顔を上げた課長が飛鳥を見て目で合図をした。
飛鳥は小さく頷いて、前へ進んだ。
きょうから共に働く仲間の顔を、一人一人見た。もう何度も一緒に家を販売した人から、きょう新しく一緒の職場になる人、入社してまだ二年目の人も中にはいた。
目線の最後に慎也がいた。まっすぐに、飛鳥を見ていた。
飛鳥は、いつの間にか強く握っていた拳を開いた。指の感触がスーツに触れる。
小さく息を吸って、飛鳥は口を開いた。
「おはようございます。今回チーフマネージャーを務めさせていただきます瀬戸内です。本日よりモデルルームが始まり、今回が接客初めてだという方も中にはいらっしゃると思います。しかし、何も気負う必要はありません。私たちの役割は、お客様の要望を聞き、最大限叶えてあげることです。無理難題を言われることもあります。でも、絶対に否定はしないでください。先ほど課長の言葉にもありましたが、お客様にとって家はこれからの人生の希望の光でもあります。その希望を無下に扱ってはいけません。提案できる全ての力を使ってください。もしそれで契約に結びつかなかったとしても、誰も責めません。ここにお客様の最適がなかっただけの話です。お客様に真摯に向き合い提案すること。これを忘れずに、これから三ヶ月、がんばっていきましょう」
飛鳥が頭を下げると、上から拍手が降りそそいだ。
「では、みなさん、最終確認に移ってください。全員担当の場所へお願いします」
午前九時。お客様を出迎える準備が整った。入り口の扉を開けて外に出た。秋晴れの空に、飛行機雲が長く長く続いていた。
最近は、戸建だけでなくマンションにもオーダーメイドの考え方を取り入れるようになった。今回の北千住のマンションもだ。戸建とは違い、お客様の要望を0から取り入れるのではなく、標準仕様をベースに要望可能だが、評判は良かった。その人の使い勝手に合わせた仕様に変更できるのが高評価を得ていた。
お客様の要望と真摯に向き合って提案する。仕事に対する姿勢を変えたあとの方が、成績がのびた。
慎也にはいまでも感謝しているし、頭があがらない。
でも、いつかは、その背中を追い越したい。
まだまだ、米粒くらい遠い存在だけれども。
事務所には、すでに城田課長を前に接客担当者八人が整列していた。
飛鳥と慎也も急いで並ぶ。
城田課長は、全員が揃ったことを確認して、挨拶を始めた。
「おはようございます。都心から近い北千住のこの場所で、きょうから、モデルルームが公開されます。初日なので、課長の私から短めに一言。みなさんがきょうから販売する家は、購入したお客様の出発でもあります。家は、新しい家族であり希望だと私は考えています。来店されるご家族にはいろんな形があるでしょう。単身の方も珍しくありません。どんな思いを抱き、どんな希望を持って家を探しているのかをしっかりと聞き、その人に、その家族に合った最適な家を提案してください。そして、これからの生活を共にする家がその人に希望の光を与えられたらいい。そう思っております。きょうからどうぞ、よろしくお願いします」
課長が頭を下げる。拍手が起きた。顔を上げた課長が飛鳥を見て目で合図をした。
飛鳥は小さく頷いて、前へ進んだ。
きょうから共に働く仲間の顔を、一人一人見た。もう何度も一緒に家を販売した人から、きょう新しく一緒の職場になる人、入社してまだ二年目の人も中にはいた。
目線の最後に慎也がいた。まっすぐに、飛鳥を見ていた。
飛鳥は、いつの間にか強く握っていた拳を開いた。指の感触がスーツに触れる。
小さく息を吸って、飛鳥は口を開いた。
「おはようございます。今回チーフマネージャーを務めさせていただきます瀬戸内です。本日よりモデルルームが始まり、今回が接客初めてだという方も中にはいらっしゃると思います。しかし、何も気負う必要はありません。私たちの役割は、お客様の要望を聞き、最大限叶えてあげることです。無理難題を言われることもあります。でも、絶対に否定はしないでください。先ほど課長の言葉にもありましたが、お客様にとって家はこれからの人生の希望の光でもあります。その希望を無下に扱ってはいけません。提案できる全ての力を使ってください。もしそれで契約に結びつかなかったとしても、誰も責めません。ここにお客様の最適がなかっただけの話です。お客様に真摯に向き合い提案すること。これを忘れずに、これから三ヶ月、がんばっていきましょう」
飛鳥が頭を下げると、上から拍手が降りそそいだ。
「では、みなさん、最終確認に移ってください。全員担当の場所へお願いします」
午前九時。お客様を出迎える準備が整った。入り口の扉を開けて外に出た。秋晴れの空に、飛行機雲が長く長く続いていた。
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