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逃亡姫は負けヒロイン
六話
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「ルヴァンさん、今日は何が食べたい気分ですか?」
「……あっさりしたものが食いたい気分っすね」
「分かりました。じゃあ、キッシュにしましょうか。お肉はメリーシープのモモ肉を買って、お野菜はジャイルとリコピンにピエリアを使いましょう」
ユナさんは買う物を素早くピックアップすると、俺の手を引いて八百屋へと向かった。
何故、ユナさんと手を繋いでいるかというと、何度謝っても素っ気なくあしらわれ、どうすればいいか分からず最終奥義『何でもしますから許してください』を使った結果である。
流石、最終奥義なだけのことはありユナさんの機嫌は良くなったのだが、まさか手を繋ぐことを要求されるとは思わなかった。
これ、まさか俺好かれてる?それとも俺をドギマギさせようと弄んでるのか?
…分からん。女性との付き合いがあまりにもなさ過ぎて理解できない。
「よぅ、ユナちゃん。今日男連れなんて珍しいね!もしかしてこれかい?」
「さぁ、どうでしょう。それより、ジャイルとリコピンとピエリアを二つずつ頂けませんか?店主のオススメでお願いします」
八百屋の店主から放たれたジャブを、ユナさんは意味ありげな笑みで躱すと先程言っていた野菜の名前を告げた。
「ハッハッハー!こりゃあめでたいな。分かった。とびっきりの旨いのを選んでやるよ」
何が面白いのか店主は大笑いし、野菜を選別し始める。
えっ、何?これもしかして、マジで勘違いじゃない可能性あるの?
ユナさん俺の彼女になるの嫌じゃないんですか。いや、待て早まるな。童貞歴前世合わせて三十五年の俺。知っているじゃないか、童貞な友人達が勘違いの末に告白し『生理的に無理』、『これだからオタクは自分の顔を鏡でよく見て考えなさいよ』、『あっ、あの、そんなつもりは私全然』と心を抉る言葉を頂戴したあの姿を。
手を握る、料理を作ることくらいこの世界の女性は平然とやってのけるのだ。この程度で判断するのは早い。早過ぎるのだ。ここは、冷静に。ステイークール落ち着け、落ち着くんだ。まだ、キスをしたいとか考えるんじゃあない!子供何人作りたいとか親子丼してみたいなんて考えるじゃあありません!
「……ァン…」
「何喘いでるんですか!?」
「えっ、私そんなことしてませんですけど。上の空だったので名前を呼んだだけですよ」
何を言ってるんですか?と不思議そうに首を傾げるユナさん。
「そうなんだ。…何でもないから忘れてくれ」
それを見た瞬間俺は全身の血が沸騰するのを感じプイッと顔を逸らした。
はっず!めっちゃはっず!ルヴァンの後ろ二文字だけ聞こえて喘いでいるって脳が勝手に判断しやがった!
あー死にたい!これ絶対幻滅された奴だ。
「ふふっ、ルヴァンさんがこんなに取り乱すなんてとっても面白いですね」
ユナさんは意外なことが知れたと楽しそうにクスクスと笑う。
穴があったら入ってゾンビ化して記憶全て無くしたい。そして、このことを知っている奴全員食い散らかしてぇ。
そんなことを思いながら、片手で顔を隠しているとユナさんがふわりと抱きついてきた。
「…一体どんな妄想をしていたんでしゅか?」
「…そこで噛むんかい」
蠱惑的声で最初ドギマギしていたのに、最後の最後で噛むんかい。あまりの残念さ加減に思わず声に出して突っ込んでしまった。
ユナさんの方を向いてみると、案の定耳を真っ赤に染めてぷるぷると震えながら俯いている。
「……忘れてください」
「この残念さを忘れるのは無理だ」
「忘れてください!」
「ちょ!ユナさん何処からその杖出したんだよ!止めろ、絶対それで頭殴ったら死ぬから!」
「そんなこと知りません!」
そう言って、ユナさんは何処からか出したか分からない魔導銀で出来た杖を、何の躊躇いもなく俺の脳天目掛けて振り下ろす。
「あっぶ!」
杖が当たるギリギリのところで手を離し、俺はそれを回避する。
「避けないでください!」
「そんな無茶な」
そこからは、俺がユナさんの杖を避けるゲームが始まり「なんだこりゃ?」、 と店主が選別した野菜を持ってくるまで続くのだった。
「……あっさりしたものが食いたい気分っすね」
「分かりました。じゃあ、キッシュにしましょうか。お肉はメリーシープのモモ肉を買って、お野菜はジャイルとリコピンにピエリアを使いましょう」
ユナさんは買う物を素早くピックアップすると、俺の手を引いて八百屋へと向かった。
何故、ユナさんと手を繋いでいるかというと、何度謝っても素っ気なくあしらわれ、どうすればいいか分からず最終奥義『何でもしますから許してください』を使った結果である。
流石、最終奥義なだけのことはありユナさんの機嫌は良くなったのだが、まさか手を繋ぐことを要求されるとは思わなかった。
これ、まさか俺好かれてる?それとも俺をドギマギさせようと弄んでるのか?
…分からん。女性との付き合いがあまりにもなさ過ぎて理解できない。
「よぅ、ユナちゃん。今日男連れなんて珍しいね!もしかしてこれかい?」
「さぁ、どうでしょう。それより、ジャイルとリコピンとピエリアを二つずつ頂けませんか?店主のオススメでお願いします」
八百屋の店主から放たれたジャブを、ユナさんは意味ありげな笑みで躱すと先程言っていた野菜の名前を告げた。
「ハッハッハー!こりゃあめでたいな。分かった。とびっきりの旨いのを選んでやるよ」
何が面白いのか店主は大笑いし、野菜を選別し始める。
えっ、何?これもしかして、マジで勘違いじゃない可能性あるの?
ユナさん俺の彼女になるの嫌じゃないんですか。いや、待て早まるな。童貞歴前世合わせて三十五年の俺。知っているじゃないか、童貞な友人達が勘違いの末に告白し『生理的に無理』、『これだからオタクは自分の顔を鏡でよく見て考えなさいよ』、『あっ、あの、そんなつもりは私全然』と心を抉る言葉を頂戴したあの姿を。
手を握る、料理を作ることくらいこの世界の女性は平然とやってのけるのだ。この程度で判断するのは早い。早過ぎるのだ。ここは、冷静に。ステイークール落ち着け、落ち着くんだ。まだ、キスをしたいとか考えるんじゃあない!子供何人作りたいとか親子丼してみたいなんて考えるじゃあありません!
「……ァン…」
「何喘いでるんですか!?」
「えっ、私そんなことしてませんですけど。上の空だったので名前を呼んだだけですよ」
何を言ってるんですか?と不思議そうに首を傾げるユナさん。
「そうなんだ。…何でもないから忘れてくれ」
それを見た瞬間俺は全身の血が沸騰するのを感じプイッと顔を逸らした。
はっず!めっちゃはっず!ルヴァンの後ろ二文字だけ聞こえて喘いでいるって脳が勝手に判断しやがった!
あー死にたい!これ絶対幻滅された奴だ。
「ふふっ、ルヴァンさんがこんなに取り乱すなんてとっても面白いですね」
ユナさんは意外なことが知れたと楽しそうにクスクスと笑う。
穴があったら入ってゾンビ化して記憶全て無くしたい。そして、このことを知っている奴全員食い散らかしてぇ。
そんなことを思いながら、片手で顔を隠しているとユナさんがふわりと抱きついてきた。
「…一体どんな妄想をしていたんでしゅか?」
「…そこで噛むんかい」
蠱惑的声で最初ドギマギしていたのに、最後の最後で噛むんかい。あまりの残念さ加減に思わず声に出して突っ込んでしまった。
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「……忘れてください」
「この残念さを忘れるのは無理だ」
「忘れてください!」
「ちょ!ユナさん何処からその杖出したんだよ!止めろ、絶対それで頭殴ったら死ぬから!」
「そんなこと知りません!」
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「あっぶ!」
杖が当たるギリギリのところで手を離し、俺はそれを回避する。
「避けないでください!」
「そんな無茶な」
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