エゾ伝

satoshi1994

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小規模ギルドのある町

第9話 神官と少年たちの

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 二日酔いで苦しんでいるであろう、パーティメンバーの看病でもしてやとうと、ティシャは昼にザフの家に向かう。
 最近の・・・特に昨日のザフの言動を思いだし、冷や汗をかくティシャは慌ててザフの装備を探す。
 まさか。
 慌てて町に出て、ザフのことを聞き回るティシャ。
 彼女の脳裏には、昨日の話がよぎる。
 それは、最近あの流れ者がダンたちと距離をとるようになっており、ダンの気が最近荒立っているという彼のパーティメンバーの話だった。
 必死に探している間、偶然ポロとベックに遭遇する。
 彼らが言うには、ダンが最近調子にのっているザフを閉めようとしていると言う話だった。
 いよいよ本格的に洒落にならない空気が、三人をおおう。
 「ど、どうする?誰か助けを呼ぼうよ」
 「誰かって誰だよ!?ダンの奴大分来ちまってるぞ!半端な奴だと何の役にもたたねぇ」
 男二人の結論が出そうにない会話を聞きながら、ティシャの頭にこの町の協会のトップである、女性神官の姿が浮かぶ。 



  手首は捻れ、大剣を覆う魔素によって強引に体を回される。
 正気に戻ったザフだったが、その時の感覚がふとしたときに蘇る。
 身体中の痛み、でたらめに回転する視界、崩壊する平衡感覚。忘れようとしても忘れられないものだった。
 両腕の感覚はまだ回復しない。そもそもあの状況からどうやってここまで戻って来たのだろう。
 俺を助けてくれるような奴に、知り合いはいないが。
 暫くしてから起き上がる。すると肩に激痛が走る。
 先程からまともに動かないと思っていたが、痛覚だけはあるのか。迷惑な話だ。
 腕が使えないので着替えることも出来ない。それに気のせいか、先程から微妙に歩きづらい。
 何もかもが思い通りに進まない。どうしてこうなる。
 少し考え事をしていると何人かが家に入ってくる。足音は3・・・いや、4人。おそらく3人はティシャとポロとベックだ。するともう一人の女は?
 足音の正体を当てる前に扉が開く。そこにいたのはパーティメンバーと、この村の協会の女性神官であった。
 そしてこの神官はジャンの葬式を執り行ってくれた恩人でもあった。
 「腕の調子はどうですか?」
 そう切り出した神官は昨日のことを話してくれた。
 まず、ティシャ達が神官に助けを読んでくれていたこと。そして神官がダンを止めて俺を治療してくれていたこと。さらにはダンが俺をここまで叩きのめしたことを。

 神官の話を静かに自分の頭の中で整理する。
 まさか仲間にそこまで心配されていたとは・・・。それにまた神官に迷惑をかけてしまった。しかしダンのやつ・・・取り返しのつかないことになる前に俺を説教すると言ったって殺されかけてたんだが?
 「皆・・・迷惑かけてすまない。神官様にまで面倒ごとをお掛けしてしまい・・・」
 神官は自分のことは気にしなくてもよいと行ってくれた。ただ、その代わり自分の味方の話をもっとよく聞くように言われた。
 「そうだよ!何でもかんでも独りで背負って・・・。悩みがあるなら、僕たちにも相談してくれよ。仲間じゃないか」
 ベック・・・思わず自分の気持ちを言いそうになる。
 だがそれは嫌だ。こいつらの前で弱音を吐きたくない。言い訳をしたくない。
 そんなことをすればまた、自分に嘘をつくかもしれない・・・。
 「強がってんじゃねぇよ!また前みたいにうじうじしたり、言い訳したり・・・。弱いところ見せてこいよ!
 お前がそんなに強くないこと。俺たちは分かってんだよ」
 「ダンには話を通しておきます。彼もあなたに話したいことがあるでしょうから、後で会いに行ってください」
 神官は勤めを果たし、協会に戻る。
 俺はジャンが死んでから久々に仲間と本音を話し合った。
 気持ちが・・・少し軽くなった。
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