REBELLION ~リベリオン~

春乃 蓮

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#4.Future of the bright 4 ~フューチャー・オブ・ザ・ブライト 4~

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 激しい咆哮がアリスと空護を襲う。
 咆哮のあまりの大きさに空護は耳を塞ぐが、アリスはその場に凛と立ち続けている。
 だがその表情には、最下級偽天使アンゲロイを倒した時の余裕さは失われていた。
 アリスの目線の先には、倒壊した建物の上空にさっき現れた巨顔の偽天使と違い、鎧を纏った人間に猛禽類の翼が二対生えているナニカが、その巨大な翼を羽ばたかせながら無機質な表情でこちらを見ている。
 その姿はまるで美術の教科書に載っている絵画で見かけたことある典型的な天使のそれだった。
 
 「嘘でしょ……なんで偽大天使アルカンゲロイがここにいるのよ!!」
 
 アリスはすぐさま自身と剣槍けんそうに風を纏わせ、空護を見る。
 
 「あいつは偽大天使って言って、さっき倒した偽天使とは全くの別物で、さっきみたくすんなり倒せないわ!!」
 「なんでそんなやつがここに………」
 「そんなの知らないわよ!アンタ、死にたくなかったらここから離れて遠くに逃げなさい!!」

 自分がこの場にいても何もできないと悔しく思いながらも、空護は小さく「…わかった」と呟き、走ってその場を後にする。


   *


 アリスは空護がこの場を離れるのを視界の端で捉えながら、上空で空中浮揚する偽大天使から目を離さないでいる。

 「アイツが逃げる時間くらいは稼ぐつもりだけど、ここで死ぬわけにもいかないし–––––––––…ぶっ倒す!」

 冷静に、だが最後の言葉には覚悟を込めた宣言をするとアリスは脚に力を込める。
 地面から淡い光がチカチカと点滅しながら光が立ち昇った。
 そして剣槍を横に構えながら、跳躍をするとアリスの能力《風操作》も合わさり、旋風を巻き起こしながら凄まじい速度で偽大天使に迫る。

 「はあああああああああ!!!!」
 
 身の丈以上ある剣槍を軽々しく切り上げ、鈍色にびいろ剣尖けんせんが偽大天使へ襲いかかる。
 偽大天使はその攻撃を自身の腰に携えていた両刃直剣ロングソードを引き抜き軽く受け止め、そのまま弾いた。

 「………チッ」

 弾かれた衝撃でアリスは後方へ飛ばされたが、剣槍を持っていない左手を飛ばされた方向へ向けると風を放ち衝撃を相殺する。
 偽大天使はそれをただ見ているだけで動こうとしていなかった。
 それどころか目の前で戦っているアリスすらも見ていない。

 「アイツなんなの…私は眼中にもないってわけ?」

 なら何を気にしているの。と思い偽大天使が見つめる視線を追うと、そこには倒壊したビルや木を縫うように走っている空護の姿があった。

 「アイツが目当てってこと!?」
 
 偽大天使も空護の姿を捉えたのか、巨大な翼を羽ばたかせる。
 
 「行かせない!!」
 
 アリスはそれを阻止しようと、離れた場所にいる偽大天使に向かって剣槍を突く。
 剣槍の穂先に纏わせた旋風が収束され鋭い一条の閃となり放たれる。
 放たれた旋風の一閃は凄まじい勢いと速度で偽大天使へ到達するが、偽大天使は自身の片腕を犠牲にすることで、旋風の一閃の軌道をずらし身体への直撃を防いだ。
 そして勢いそのままに偽大天使は空護の元へ迫った。

 「クッソ!!!自分の腕を犠牲にしてまで、アイツを追うなんて異常すぎるでしょ!!」

 旋風の一閃の直撃を防いだのを見たアリスは、すぐさま偽大天使の後を追う様に空中移動を開始する。
 アリスの数メートル前を飛翔する偽大天使は残った片腕に握られた両刃直剣を構えた。
 偽大天使の前方を走る青年は逃げることに集中しているのか、まだ気が付いていなかった。

 「早く逃げなさい!!!!!」

 アリスは空護に向かって叫ぶが、このままじゃ間に合わないと思い自身の剣槍にありったけの風を纏わせ、それを空護の背後に向かって投げる。


  *


 空護は背後から聞こえたアリスの叫び声に速度を緩め後ろを見ると、すぐそばに剣をこちらに向けて突っ込んでくる偽大天使と、その数メートル後ろにアリスがいた。
 アリスの方を向くと、目の前にアリスが持っていた剣槍が地面に突き刺さる。
 直後、地面に刺さった剣槍が纏っていた暴風が吹き上がり、巨大な風の壁が出来上がっていた。

 「……え?」

 目の前で起こった一瞬の出来事に空護は何もできずにいた。
 そして風の壁を突き抜けて自身の胸を貫くつるぎを見る。
 アドレナリンが出ているからなのかわからないが、不思議と痛みは感じなかった。
 風の壁の向こうから、アリスが空護の名前を呼んでいる声が聞こえる気がする。
 
 -あぁ…意味もわからず、こんな世界に飛ばされたと思ったら…こんな意味もわからずに死ぬのかよ-

 友人と笑い合った時間、母親と妹過ごしたなんでもないような日々が脳裏をよぎる。

 -これが走馬灯ってやつなのかな-

 と思いながらも、最後にみんなと会えたことに少し喜びを感じていた。
 空護は暗くなる視界の中で様々な事を思いだし、何かを見る。
 それは強烈な日差しの中にある影のように見えない。
 だがどこか懐かしさを感じさせるその影は自分に触れると、静かにどこかへと去ってしまった。
 
 -待ってくれ……!-

 消えそうな意識の中、手を伸ばすが影に触れる事はできなかった。
 だが暗かった視界に徐々に光が取り戻っていくのを感じると、ゆっくりと閉じていた瞳を開ける。

 ………
 ……
 …

 自身の身体を見ると、貫いていたはずの剣は跡形もなく消え去っていた。
 その代わりに空護の身体からは溢れんばかりの光に包まれている。
 
 「……これは」
 
 防壁の外ではアリスが必死に空護の名前を呼ぶ声が聞こえる。
 空護は自身を守るように展開された風の防壁にそっと触れると、激しい突風を起こしながら霧散する。
 アリスに攻撃をされたのか、遠くに飛ばされへたり込む偽大天使が見えた。
 アリスは必死に偽大天使を止めようとしてくれていたのか、かなり傷だらけだった。

 「…アンタ。その光…」
 「すまねぇ……アイツは俺が狙いだったんだろ」

 偽大天使は空護の姿を見ると、ゆっくりと起き上がり、空護もそれがわかっているのか静かに歩みを進める。
 
 「アンタじゃアイツには無理よ!せめて私と二人で行かないと!!」
 「………大丈夫だから」

 空護はそう言うと、一人で偽大天使の元へ進み、距離が10メートル程にまで迫ると脚に力を入れ一気に距離を縮める。
 偽大天使は残っている片腕を振り下ろしたが空護はそれを躱す。
 空護は握り締めた拳を開き、掌打を放った。
 衝撃が偽大天使の身体全体へと駆け巡り、苦悶の表情を浮かべながら霧散する。

 舞い上がる光の粒子の中、空護は一人、空を見上げ立っているのだった。

 
 
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