4 / 6
#4.Future of the bright 4 ~フューチャー・オブ・ザ・ブライト 4~
しおりを挟む
激しい咆哮がアリスと空護を襲う。
咆哮のあまりの大きさに空護は耳を塞ぐが、アリスはその場に凛と立ち続けている。
だがその表情には、最下級偽天使を倒した時の余裕さは失われていた。
アリスの目線の先には、倒壊した建物の上空にさっき現れた巨顔の偽天使と違い、鎧を纏った人間に猛禽類の翼が二対生えているナニカが、その巨大な翼を羽ばたかせながら無機質な表情でこちらを見ている。
その姿はまるで美術の教科書に載っている絵画で見かけたことある典型的な天使のそれだった。
「嘘でしょ……なんで偽大天使がここにいるのよ!!」
アリスはすぐさま自身と剣槍に風を纏わせ、空護を見る。
「あいつは偽大天使って言って、さっき倒した偽天使とは全くの別物で、さっきみたくすんなり倒せないわ!!」
「なんでそんなやつがここに………」
「そんなの知らないわよ!アンタ、死にたくなかったらここから離れて遠くに逃げなさい!!」
自分がこの場にいても何もできないと悔しく思いながらも、空護は小さく「…わかった」と呟き、走ってその場を後にする。
*
アリスは空護がこの場を離れるのを視界の端で捉えながら、上空で空中浮揚する偽大天使から目を離さないでいる。
「アイツが逃げる時間くらいは稼ぐつもりだけど、ここで死ぬわけにもいかないし–––––––––…ぶっ倒す!」
冷静に、だが最後の言葉には覚悟を込めた宣言をするとアリスは脚に力を込める。
地面から淡い光がチカチカと点滅しながら光が立ち昇った。
そして剣槍を横に構えながら、跳躍をするとアリスの能力《風操作》も合わさり、旋風を巻き起こしながら凄まじい速度で偽大天使に迫る。
「はあああああああああ!!!!」
身の丈以上ある剣槍を軽々しく切り上げ、鈍色の剣尖が偽大天使へ襲いかかる。
偽大天使はその攻撃を自身の腰に携えていた両刃直剣を引き抜き軽く受け止め、そのまま弾いた。
「………チッ」
弾かれた衝撃でアリスは後方へ飛ばされたが、剣槍を持っていない左手を飛ばされた方向へ向けると風を放ち衝撃を相殺する。
偽大天使はそれをただ見ているだけで動こうとしていなかった。
それどころか目の前で戦っているアリスすらも見ていない。
「アイツなんなの…私は眼中にもないってわけ?」
なら何を気にしているの。と思い偽大天使が見つめる視線を追うと、そこには倒壊したビルや木を縫うように走っている空護の姿があった。
「アイツが目当てってこと!?」
偽大天使も空護の姿を捉えたのか、巨大な翼を羽ばたかせる。
「行かせない!!」
アリスはそれを阻止しようと、離れた場所にいる偽大天使に向かって剣槍を突く。
剣槍の穂先に纏わせた旋風が収束され鋭い一条の閃となり放たれる。
放たれた旋風の一閃は凄まじい勢いと速度で偽大天使へ到達するが、偽大天使は自身の片腕を犠牲にすることで、旋風の一閃の軌道をずらし身体への直撃を防いだ。
そして勢いそのままに偽大天使は空護の元へ迫った。
「クッソ!!!自分の腕を犠牲にしてまで、アイツを追うなんて異常すぎるでしょ!!」
旋風の一閃の直撃を防いだのを見たアリスは、すぐさま偽大天使の後を追う様に空中移動を開始する。
アリスの数メートル前を飛翔する偽大天使は残った片腕に握られた両刃直剣を構えた。
偽大天使の前方を走る青年は逃げることに集中しているのか、まだ気が付いていなかった。
「早く逃げなさい!!!!!」
アリスは空護に向かって叫ぶが、このままじゃ間に合わないと思い自身の剣槍にありったけの風を纏わせ、それを空護の背後に向かって投げる。
*
空護は背後から聞こえたアリスの叫び声に速度を緩め後ろを見ると、すぐそばに剣をこちらに向けて突っ込んでくる偽大天使と、その数メートル後ろにアリスがいた。
アリスの方を向くと、目の前にアリスが持っていた剣槍が地面に突き刺さる。
直後、地面に刺さった剣槍が纏っていた暴風が吹き上がり、巨大な風の壁が出来上がっていた。
「……え?」
目の前で起こった一瞬の出来事に空護は何もできずにいた。
そして風の壁を突き抜けて自身の胸を貫く剣を見る。
アドレナリンが出ているからなのかわからないが、不思議と痛みは感じなかった。
風の壁の向こうから、アリスが空護の名前を呼んでいる声が聞こえる気がする。
-あぁ…意味もわからず、こんな世界に飛ばされたと思ったら…こんな意味もわからずに死ぬのかよ-
友人と笑い合った時間、母親と妹過ごしたなんでもないような日々が脳裏をよぎる。
-これが走馬灯ってやつなのかな-
と思いながらも、最後にみんなと会えたことに少し喜びを感じていた。
空護は暗くなる視界の中で様々な事を思いだし、何かを見る。
それは強烈な日差しの中にある影のように見えない。
だがどこか懐かしさを感じさせるその影は自分に触れると、静かにどこかへと去ってしまった。
-待ってくれ……!-
消えそうな意識の中、手を伸ばすが影に触れる事はできなかった。
だが暗かった視界に徐々に光が取り戻っていくのを感じると、ゆっくりと閉じていた瞳を開ける。
………
……
…
自身の身体を見ると、貫いていたはずの剣は跡形もなく消え去っていた。
その代わりに空護の身体からは溢れんばかりの光に包まれている。
「……これは」
防壁の外ではアリスが必死に空護の名前を呼ぶ声が聞こえる。
空護は自身を守るように展開された風の防壁にそっと触れると、激しい突風を起こしながら霧散する。
アリスに攻撃をされたのか、遠くに飛ばされへたり込む偽大天使が見えた。
アリスは必死に偽大天使を止めようとしてくれていたのか、かなり傷だらけだった。
「…アンタ。その光…」
「すまねぇ……アイツは俺が狙いだったんだろ」
偽大天使は空護の姿を見ると、ゆっくりと起き上がり、空護もそれがわかっているのか静かに歩みを進める。
「アンタじゃアイツには無理よ!せめて私と二人で行かないと!!」
「………大丈夫だから」
空護はそう言うと、一人で偽大天使の元へ進み、距離が10メートル程にまで迫ると脚に力を入れ一気に距離を縮める。
偽大天使は残っている片腕を振り下ろしたが空護はそれを躱す。
空護は握り締めた拳を開き、掌打を放った。
衝撃が偽大天使の身体全体へと駆け巡り、苦悶の表情を浮かべながら霧散する。
舞い上がる光の粒子の中、空護は一人、空を見上げ立っているのだった。
咆哮のあまりの大きさに空護は耳を塞ぐが、アリスはその場に凛と立ち続けている。
だがその表情には、最下級偽天使を倒した時の余裕さは失われていた。
アリスの目線の先には、倒壊した建物の上空にさっき現れた巨顔の偽天使と違い、鎧を纏った人間に猛禽類の翼が二対生えているナニカが、その巨大な翼を羽ばたかせながら無機質な表情でこちらを見ている。
その姿はまるで美術の教科書に載っている絵画で見かけたことある典型的な天使のそれだった。
「嘘でしょ……なんで偽大天使がここにいるのよ!!」
アリスはすぐさま自身と剣槍に風を纏わせ、空護を見る。
「あいつは偽大天使って言って、さっき倒した偽天使とは全くの別物で、さっきみたくすんなり倒せないわ!!」
「なんでそんなやつがここに………」
「そんなの知らないわよ!アンタ、死にたくなかったらここから離れて遠くに逃げなさい!!」
自分がこの場にいても何もできないと悔しく思いながらも、空護は小さく「…わかった」と呟き、走ってその場を後にする。
*
アリスは空護がこの場を離れるのを視界の端で捉えながら、上空で空中浮揚する偽大天使から目を離さないでいる。
「アイツが逃げる時間くらいは稼ぐつもりだけど、ここで死ぬわけにもいかないし–––––––––…ぶっ倒す!」
冷静に、だが最後の言葉には覚悟を込めた宣言をするとアリスは脚に力を込める。
地面から淡い光がチカチカと点滅しながら光が立ち昇った。
そして剣槍を横に構えながら、跳躍をするとアリスの能力《風操作》も合わさり、旋風を巻き起こしながら凄まじい速度で偽大天使に迫る。
「はあああああああああ!!!!」
身の丈以上ある剣槍を軽々しく切り上げ、鈍色の剣尖が偽大天使へ襲いかかる。
偽大天使はその攻撃を自身の腰に携えていた両刃直剣を引き抜き軽く受け止め、そのまま弾いた。
「………チッ」
弾かれた衝撃でアリスは後方へ飛ばされたが、剣槍を持っていない左手を飛ばされた方向へ向けると風を放ち衝撃を相殺する。
偽大天使はそれをただ見ているだけで動こうとしていなかった。
それどころか目の前で戦っているアリスすらも見ていない。
「アイツなんなの…私は眼中にもないってわけ?」
なら何を気にしているの。と思い偽大天使が見つめる視線を追うと、そこには倒壊したビルや木を縫うように走っている空護の姿があった。
「アイツが目当てってこと!?」
偽大天使も空護の姿を捉えたのか、巨大な翼を羽ばたかせる。
「行かせない!!」
アリスはそれを阻止しようと、離れた場所にいる偽大天使に向かって剣槍を突く。
剣槍の穂先に纏わせた旋風が収束され鋭い一条の閃となり放たれる。
放たれた旋風の一閃は凄まじい勢いと速度で偽大天使へ到達するが、偽大天使は自身の片腕を犠牲にすることで、旋風の一閃の軌道をずらし身体への直撃を防いだ。
そして勢いそのままに偽大天使は空護の元へ迫った。
「クッソ!!!自分の腕を犠牲にしてまで、アイツを追うなんて異常すぎるでしょ!!」
旋風の一閃の直撃を防いだのを見たアリスは、すぐさま偽大天使の後を追う様に空中移動を開始する。
アリスの数メートル前を飛翔する偽大天使は残った片腕に握られた両刃直剣を構えた。
偽大天使の前方を走る青年は逃げることに集中しているのか、まだ気が付いていなかった。
「早く逃げなさい!!!!!」
アリスは空護に向かって叫ぶが、このままじゃ間に合わないと思い自身の剣槍にありったけの風を纏わせ、それを空護の背後に向かって投げる。
*
空護は背後から聞こえたアリスの叫び声に速度を緩め後ろを見ると、すぐそばに剣をこちらに向けて突っ込んでくる偽大天使と、その数メートル後ろにアリスがいた。
アリスの方を向くと、目の前にアリスが持っていた剣槍が地面に突き刺さる。
直後、地面に刺さった剣槍が纏っていた暴風が吹き上がり、巨大な風の壁が出来上がっていた。
「……え?」
目の前で起こった一瞬の出来事に空護は何もできずにいた。
そして風の壁を突き抜けて自身の胸を貫く剣を見る。
アドレナリンが出ているからなのかわからないが、不思議と痛みは感じなかった。
風の壁の向こうから、アリスが空護の名前を呼んでいる声が聞こえる気がする。
-あぁ…意味もわからず、こんな世界に飛ばされたと思ったら…こんな意味もわからずに死ぬのかよ-
友人と笑い合った時間、母親と妹過ごしたなんでもないような日々が脳裏をよぎる。
-これが走馬灯ってやつなのかな-
と思いながらも、最後にみんなと会えたことに少し喜びを感じていた。
空護は暗くなる視界の中で様々な事を思いだし、何かを見る。
それは強烈な日差しの中にある影のように見えない。
だがどこか懐かしさを感じさせるその影は自分に触れると、静かにどこかへと去ってしまった。
-待ってくれ……!-
消えそうな意識の中、手を伸ばすが影に触れる事はできなかった。
だが暗かった視界に徐々に光が取り戻っていくのを感じると、ゆっくりと閉じていた瞳を開ける。
………
……
…
自身の身体を見ると、貫いていたはずの剣は跡形もなく消え去っていた。
その代わりに空護の身体からは溢れんばかりの光に包まれている。
「……これは」
防壁の外ではアリスが必死に空護の名前を呼ぶ声が聞こえる。
空護は自身を守るように展開された風の防壁にそっと触れると、激しい突風を起こしながら霧散する。
アリスに攻撃をされたのか、遠くに飛ばされへたり込む偽大天使が見えた。
アリスは必死に偽大天使を止めようとしてくれていたのか、かなり傷だらけだった。
「…アンタ。その光…」
「すまねぇ……アイツは俺が狙いだったんだろ」
偽大天使は空護の姿を見ると、ゆっくりと起き上がり、空護もそれがわかっているのか静かに歩みを進める。
「アンタじゃアイツには無理よ!せめて私と二人で行かないと!!」
「………大丈夫だから」
空護はそう言うと、一人で偽大天使の元へ進み、距離が10メートル程にまで迫ると脚に力を入れ一気に距離を縮める。
偽大天使は残っている片腕を振り下ろしたが空護はそれを躱す。
空護は握り締めた拳を開き、掌打を放った。
衝撃が偽大天使の身体全体へと駆け巡り、苦悶の表情を浮かべながら霧散する。
舞い上がる光の粒子の中、空護は一人、空を見上げ立っているのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
刻の短刀クロノダガー ~悪役にされた令嬢の人生を取り戻せ~
玄未マオ
ファンタジー
三名の婚約者候補。
彼らは前の時間軸において、一人は敵、もう一人は彼女のために命を落とした騎士。
そして、最後の一人は前の時間軸では面識すらなかったが、彼女を助けるためにやって来た魂の依り代。
過去の過ちを記憶の隅に押しやり孫の誕生を喜ぶ国王に、かつて地獄へと追いやった公爵令嬢セシルの恨みを語る青年が現れる。
それはかつてセシルを嵌めた自分たち夫婦の息子だった。
非道が明るみになり処刑された王太子妃リジェンナ。
無傷だった自分に『幻の王子』にされた息子が語りかけ、王家の秘術が発動される。
巻き戻りファンタジー。
ヒーローは、ごめん、生きている人間ですらない。
ヒロインは悪役令嬢ポジのセシルお嬢様ではなく、彼女の筆頭侍女のアンジュ。
楽しんでくれたらうれしいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる