処女作

探偵とホットケーキ

文字の大きさ
上 下
3 / 4

第三話

しおりを挟む
アルネブはある時、自宅で段差を踏み外して怪我をした。まさか、その怪我が人生を決めてしまうなんて思わなかった。
 腫れは日に日に酷くなったが、母が「これくらい問題ない」ということで医者には行けず、治りが遅くなり、そのせいでバレエの秋の発表会へは出られなくなった。
 代わりに小毬が出ることが決まり、アルネブは観客として見に行くことに決まった。その日から、アルネブは当日が楽しみで寝不足に陥ることとなる。
 さて、当日行ってみると、其処は大きなホールで、アルネブを感動させた。さっそく舞台袖へ皆に会いに行くと、酷く緊張した面持ちで座っていた。チュチュを着た姿に、アルネブは矢張りときめいた。芸術品の完成度を上げるために、と思い、アルネブは熱心に小毬を励ましたのだった。
 その後、アルネブは観客席に向かった。まだ暗い観客席に静かに座り、小毬が踊る姿を想像するだけで興奮した。膝に手を載せて見ていると、一瞬、華麗に踊る小毬を見た気がした。ブルーブラックの光に満ちた部屋で、小毬だけがピアノの音に合わせて踊っているのだ――はっと目を開く。この頃の睡眠不足が祟って、うたた寝していたらしい。
 目を開けた先に、紅蓮の世界があった。
 何らかの原因でステージに炎が回っていたのだ。ステージに上がっていた小毬にも火が点き、観客席まで、その泣き声が聞こえてきていた。
「小毬さん……」
 アルネブは、その様を口を開けて見守るしかなかった。
 観客席は更に輪を掛けて大パニックだ。何せ此方にまで火の粉が舞っているのだから。何とか逃げ切ろうと、出入り口に密集している。
 アルネブは、体が熱いことも忘れ、燃え盛る舞台をじっと見つめた。手が自然と両頬にいき、いつまでも恍惚と見つめていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

呪われた旅館の恐怖

ネモフ
ホラー
「呪われた旅館の恐怖」という物語は、主人公のジェイソンが、古い旅館で奇妙な出来事に巻き込まれるという物語です。彼は、旅館が古代の呪いによって影響を受けていることを知り、呪いを解くために奮闘します。神官たちと協力して、ジェイソンは旅館の呪いを解き、元の状態に戻します。この物語は、古代の神々や呪いなど、オカルト的な要素が含まれたホラー小説です。

ごりごり

みかんと納豆と食パンの牛
ホラー
色んな子達が突如現れた化け物に殺される話。

ショクザイのヤギ

煤原
ホラー
何でも屋を営む粟島は、とある依頼を受け山に入った。そこで珍妙な生き物に襲われ、マシロと名乗る男に助けられる。 後日あらためて山に登った粟島は、依頼を達成するべくマシロと共に山中を進む。そこにはたしかに、依頼されたのと同じ特徴を備えた“何か”が跳ねていた。 「あれが……ツチノコ?」 ◇ ◆ ◇ 因習ホラーのつもりで書き進めていたのに、気付けばジビエ料理を作っていました。 ホラーらしい覆せない理不尽はありますが、友情をトッピングして最後はハッピーエンドです。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

呪木-JUMOKU-

朝比奈 架音
ホラー
 ――呪い。  それは、普通の高校生だった私たちの日常を一変させてしまう。  どこから来たのかわからない。  誰が始めたのかもわからないこの呪いは、着実に私たちを蝕んでゆく。  1人が死に、2人が死に、そして親友までもがその呪いに侵されて……。  これを目にしたあなたにお願いがあります。  どうか、助けてください。  お願いします。  お願いします。

牛の首(ウシノコウベ)

黒星★チーコ
ホラー
「私は小さい頃、絵を描くのが大好きな子供でした……」 これは、ある女性へのインタビューの記録である。 ※表紙絵は自作です。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

処理中です...