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第2章

第2話

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「それで、アルネブさんは、『殺人犯のみを狙った連続殺人鬼』に関して、何か情報をお持ちだということですが、どのようなものなのです?」
「理人様、随分と余裕がないようにお見受けします。物事を成し遂げるには心身のゆとりが必要でしょうに。そんなに緊張なさらず、リラックス、リラックス。慌てなくても、私はちゃんと情報をお渡ししますよ」
アルネブは赤い目を三日月形にして、ズボンのポケットから、何枚か写真を取り出した。そこには、いずれも、深夜の海辺の風景が写っている。またいずれにも何人かの影がある。水樹は身を乗り出し、そのうちの一人の不審人物を指さした。
「この、燕尾服と、ウサギの耳が着いたシルクハットを身に着けている人物は誰なのでしょう。『不思議の国のアリス』の白ウサギみたいで、こんな深夜にこんなところに立っているなんて、非常に怪しいですね」
「それは私です、水樹様」
アルネブが、ちょっとムッとした顔をしたので、水樹は慌てて頭を下げる。
「すみません、アルネブさん……」
「構いませんが、この燕尾服の男は、仕事着の時の私ですよ。それと、『不思議の国のアリス』の白ウサギではなく、かちかち山のウサギです」
「すみません、アルネブさん……」
「まぁ、素直に謝ってくださったので許します。それよりも、御覧になっていただきたいのは、もっと波打ち際の方です」
水樹、理人、陽希は三人とも写真に顔を近寄せた。確かに、波打ち際に、二つの影がある。
「私の仕事は、出た死体を海や湖に自ら捨てることで、芸術として完結します。ですが、『殺人犯のみを狙った連続殺人鬼』も海などに死体を捨てるそうで、完全にネタが被っているのです。私が一生懸命考えた方法ですのに、軽い気持ちで模倣されては困ります」
「芸術、ねぇ」
理人は険しい顔をしたが、アルネブは聞き流した。
「ですから、『殺人犯のみを狙った連続殺人鬼』を自力で見つけて、始末してやろうと、このあたりの海辺に定点カメラを仕掛けてしばらく撮影していたのですよ。人のアイデアをパクるやつは、許せませんからね」
「さっき、アルネブさん、言ってなかったっけ? 依頼のない相手は、手に掛けないって」
「いいえ、陽希さん、パクり魔は万死に値します。めぼしいものが写ったのは、この時だけですが」
「この二つの人影の何方かが、今回探してる犯人ってコト?」
「そう思いますよ、私はね。しかし……――」
アルネブは腕組みして考え込んでいる。水樹はもう一度写真を覗き込んだ。
「アルネブさん、何か思うところがあるなら教えてください。どんな小さなこともヒントになるかもしれませんから」
「ああ、そうですね……改めて見ると、この二人のうちの片方の人、私の知り合いのような気がするのですよ。此方の、やたらひらひらした洋服を着ているお方。デルフィヌス様とおっしゃる方に似ているなぁ、と」
「デルフィヌス……?」
「デルフィヌス様は、私の同業者です。いや、デルフィヌス様ではない、かもしれませんけれど。かつては一緒に仕事をしたこともありましたが、今は敵対勢力に近い感じなので、しばらくの間、会っておりませんし、見た目も変わっている可能性が高いでしょう」
アルネブに更に質問しようと思ったが、其処でアルネブのポケットから端末の着信音がした。
「失礼」「どうぞ」のやり取りを挟んで、アルネブはそのメッセージを眺める。そして、白い眉をハの字にし、困った笑みを見せた。
「少々遠方で仕事の依頼が入ってしまいました。この辺りで私はお暇させていただきます。お三方、お体に気を付けてお仕事頑張ってください」
アルネブが小さく手を振る。何と愛らしい仕草か、これから人の命を奪いに行く人の姿とは思えない。引き留めることも出来ず、水樹たちは彼を見送った。
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