探偵たちに未来はない

探偵とホットケーキ

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探偵に趣味はない

探偵に趣味はない 第十三話

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中庭には手入れされた芝生があった。陽希がうろつく中、水樹は芝生に座り、少し不自由な足を摩りながら、患者たちが出てくるのを待つ間、景色を眺めた。目の前にある木立の向こう側に病棟の建物が見える。白く塗られた壁でできた、この病院の本館だ。窓の数から見て三階建てだろう。正面玄関のすぐそばに大きな四角い建物があり、それが先程歩いて来た外来受付所だとわかる。また別の棟にも大きな窓がいくつかある。そちらは入院患者の部屋か。さらにその奥に、小さな別館らしきものがある。屋根の一部が見えているだけだ。あそこが閉鎖病棟のようだ。建物のまわりは樹木が立ち並んでいる。今座っているところから見ると、それらの木々が邪魔になっているから、建物の色すら判然としない。
チーチュルチーチュルチチルチチルチュルチー、と、遥か遠くからヒバリの声がした頃、患者と思しき車椅子の人々が何人か、閉鎖病棟の方から来るのが見えた。陽希が、あ、とヒバリよりずっと小さな声を上げる。
「あの人だ! 松本美夜古みやこちゃん」
黒っぽい車椅子に乗っている女性の姿が、近づくにつれてよく見えるようになってきた。陽希は手に持った写真と比べている。水樹も今一度、首を伸ばして覗き込んで確認したが間違いない。コーヒー色のボブは陽光に当たると煌めいて見えた。その小鹿のような顔には、ずっと表情がない。
暫し、遠巻きに様子を窺った。美夜古の過去は、僅かながらも調査で知っている。踏まえ、その上でどんな言葉をかけるべきか、考えて来たはずなのに、水樹は固まってしまったのだ。心苦しいが意を決し、彼女についている看護師に近づき、親戚を名乗って、昔話の体裁で話しを聞き出す。美夜古はその最中、一度も口を開かなかった。陽希が呼びかけても、ぴくりとも動かなかった。
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