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探偵に趣味はない

探偵に趣味はない 第十話

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「クッキー・ホープ」のカフェスペースは、テーブル席が四つとカウンター席が五つあり、淡い水色と白で統一された清潔感のある店だった。水樹と陽希はテーブル席に並んで通され、水樹側の向かいに、翔が座った。
「僕らは『探偵社アネモネ』という事務所から来ています。今は、ルイ・ナカムラが殺害された事件の謎を調査しています」
翔は両手の指を組み、深い溜息を吐く。
「御想像のとおり、ルイ・ナカムラと私は、小学校と中学校時代、同じ学校に通っていました」
運ばれてきたボックスクッキーをずっと食べまくっている陽希を軽く睨んでから、水樹は翔に問うた。
「どれくらい親しかったのですか?」
「ただ、同級生だった、というだけですよ」
「本当に?」
 水樹が身を乗り出すと、翔はその分体を仰け反らせて距離を取ってしまう。
「ルイ・ナカムラはフランス人とのハーフということもあって、小学校では物珍しく捉えられていたと思います。一方で自分はいたって普通の学生でしたから、彼とはクラスが同じだったのも中学校一年生の一年間だけで、向こうも覚えていなかったでしょう」
「部活動は一緒ではなかったのですか?」
「彼は文芸部だった気がするなぁ、日本語に興味があって、深く学びたいとかで。僕は美術部でしたから、しかも、先生が真面目に見てくださって、ようやく賞を獲ったのですが、それも一回だけで身になりませんでした。僕の父は画家なのに」
翔は眼鏡の奥の眉をハの字にして、自嘲気味に笑う。
「ねぇねぇ」
陽希が無邪気に声を上げた。見ると、口の周りにボックスクッキーの粉をたくさんつけている。
「陽希、口の周り」
水樹が叱ると、陽希は指で粉を取り、その指を下側から舐めとるようにしながら、話を続ける。舌に着けたストロベリークォーツのピアスが光った。
「因みになんだけど、山田勝って人、君の中学校の先生だったんだよね。どんな先生だった?」
 翔の顔に緊張感が走る。自分が秘書をしている政治家のアピールチャンスというところだろうか。
「彼は教員時代から優秀な方でした。生物の授業と、文芸部と美術部の顧問も務めていらっしゃって、絵をやっている生徒がインスピレーションを得られるように、デッサンのための合宿と称し、自身がお持ちの自然豊かな別荘を開放してくださっていました」
別荘、という単語に、水樹は自分の耳がぴくりと動くのを感じた。陽希のナイスパスだ。眼鏡を持ち上げて、姿勢を正す。
「その別荘の場所を教えてください」
「何故ですか。先生の別荘は関係ありません」
やはり、自分が女性に淫らな行為に及んだ現場は近寄りたくないのか、急に声を荒げる。そして、此処が店内であることを思い出したのか、椅子に座り直して腕を組んだ。
そして、決して口を開こうとはしなかった。
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