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探偵に趣味はない
探偵に趣味はない 第八話
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それから陽希たちは、ルイ・ナカムラがどういう人物であったのかを調べるため、恐らくは今回の事件の発端となったであろう、ルイ・ナカムラの故郷を目指した。インターネットの中の情報が確かというわけではないが、彼は父が日本人、母がフランス人であり、生まれはフランスであったが、六歳で日本に来たとのことで、彼が通っていたという小学校は、タクシーに乗っても目玉が飛び出ない程度の運賃で行ける程度の距離にあった。途中、区議会議員選挙のポスターと、何人か演説する候補者らしき人物の姿が見えた。
ルイ・ナカムラの母校から三百メートルのところには、幼児のひとりもいない、カラスがたむろする寂れた公園があった。赤いゾウを模した滑り台には鳥の糞がたかっている。
この公園のトイレなら、仮に監視カメラがあったとしても、リアルタイムで監視していることもなければ、大きな事件がなければあとから観直すこともないだろう。そもそも、監視カメラとはそういうものだ。観直す機会がなければ、殆ど「ないのと同じ」である。
だから、水樹と陽希は、ここで変装をした。水樹はそのロシアンブルーのような毛を隠すように金髪のウイッグを着けて、サングラスを掛け、黄色いオーバーサイズのトレーナーとブルージーンズに着替えた。陽希は耳に無数に着いたピアスを外し、だらしない髪をオールバックに、濃いグレーのジャケットを羽織った。
「俺、こういう窮屈な服、嫌いなんだよなぁ」
そう難しい顔をしながらも、水樹が「仕方ないだろう」と宥めると、納得して歩き出した。
小学校の中に入るつもりは毛頭ない。公的機関に入り込むのは難易度も高ければリスクも高い。更に教師には人事異動がつきもの、ルイ・ナカムラを知っている者が残っているかどうかも怪しいだろう。
ならば、こんなところで変装してどうするのか。
「ルイ・ナカムラは、何故、今さらになって罪を告白したのでしょうか」
「それは……良心の呵責に耐えられなかった、ってやつじゃねぇの?」
「そうだとしても、もう子供の時の話です。何の証拠もない……それは、ルイ・ナカムラを殺害した犯人にしても同様です。今更になってルイ・ナカムラを殺害しなくても、知らぬ存ぜぬ、で通せる話……ましてや、公表された方法はあくまで小説です。勿論、性暴力を言い逃れようだなんて間違っていますが、現実的には、『知らないふり』でまかり通ってしまうでしょう」
「必死になって、隠そうとしているってことは、その性暴力が事実無根であろうが何であろうが、週刊誌とかに素っ破抜かれたってだけでピンチになってしまう、イメージを売りにしている人ってことだねぇ」
「つまり、犯人はある程度、地位や名誉がある人物である可能性が高いです」
水樹は、顎に手を当て、考えみながら進む。その耳に、やかましい声が飛び込んできた。そういえば、つい先程通過した道すがら、区議会議員選挙に関する告知のポスターが貼ってあったはずだ、と思い出す。
道を挟んだ向こう側で、一生懸命にマイクを握って公約のようなものを叫んでいる彼は、長きにわたり外を歩き回っていたせいか、深い皺の刻まれた顔は、すっかり日焼けしてしまっている。彼の横には、どう見ても秘書と思しき、黒髪をオールバックにした眼鏡の青年が立っている。ちょうど、ルイ・ナカムラと同い年くらいか。その前を足早に通り過ぎ、騒音のように顔をしかめる者もいれば、熱心に話を聞くものもいて、人間というのは本当に一人一人、全く違う思考回路や、感覚を持っているものだなぁ、と水樹は思わされた。
この立候補者の後で旗が棚引いており、「山田勝彦」と書いてある。
現状、水樹が立ちたい位置は、何方でもない。この立候補者を俯瞰して見られる場所だ。陽希と目配せし、水樹は彼らに接近していった。
ルイ・ナカムラの母校から三百メートルのところには、幼児のひとりもいない、カラスがたむろする寂れた公園があった。赤いゾウを模した滑り台には鳥の糞がたかっている。
この公園のトイレなら、仮に監視カメラがあったとしても、リアルタイムで監視していることもなければ、大きな事件がなければあとから観直すこともないだろう。そもそも、監視カメラとはそういうものだ。観直す機会がなければ、殆ど「ないのと同じ」である。
だから、水樹と陽希は、ここで変装をした。水樹はそのロシアンブルーのような毛を隠すように金髪のウイッグを着けて、サングラスを掛け、黄色いオーバーサイズのトレーナーとブルージーンズに着替えた。陽希は耳に無数に着いたピアスを外し、だらしない髪をオールバックに、濃いグレーのジャケットを羽織った。
「俺、こういう窮屈な服、嫌いなんだよなぁ」
そう難しい顔をしながらも、水樹が「仕方ないだろう」と宥めると、納得して歩き出した。
小学校の中に入るつもりは毛頭ない。公的機関に入り込むのは難易度も高ければリスクも高い。更に教師には人事異動がつきもの、ルイ・ナカムラを知っている者が残っているかどうかも怪しいだろう。
ならば、こんなところで変装してどうするのか。
「ルイ・ナカムラは、何故、今さらになって罪を告白したのでしょうか」
「それは……良心の呵責に耐えられなかった、ってやつじゃねぇの?」
「そうだとしても、もう子供の時の話です。何の証拠もない……それは、ルイ・ナカムラを殺害した犯人にしても同様です。今更になってルイ・ナカムラを殺害しなくても、知らぬ存ぜぬ、で通せる話……ましてや、公表された方法はあくまで小説です。勿論、性暴力を言い逃れようだなんて間違っていますが、現実的には、『知らないふり』でまかり通ってしまうでしょう」
「必死になって、隠そうとしているってことは、その性暴力が事実無根であろうが何であろうが、週刊誌とかに素っ破抜かれたってだけでピンチになってしまう、イメージを売りにしている人ってことだねぇ」
「つまり、犯人はある程度、地位や名誉がある人物である可能性が高いです」
水樹は、顎に手を当て、考えみながら進む。その耳に、やかましい声が飛び込んできた。そういえば、つい先程通過した道すがら、区議会議員選挙に関する告知のポスターが貼ってあったはずだ、と思い出す。
道を挟んだ向こう側で、一生懸命にマイクを握って公約のようなものを叫んでいる彼は、長きにわたり外を歩き回っていたせいか、深い皺の刻まれた顔は、すっかり日焼けしてしまっている。彼の横には、どう見ても秘書と思しき、黒髪をオールバックにした眼鏡の青年が立っている。ちょうど、ルイ・ナカムラと同い年くらいか。その前を足早に通り過ぎ、騒音のように顔をしかめる者もいれば、熱心に話を聞くものもいて、人間というのは本当に一人一人、全く違う思考回路や、感覚を持っているものだなぁ、と水樹は思わされた。
この立候補者の後で旗が棚引いており、「山田勝彦」と書いてある。
現状、水樹が立ちたい位置は、何方でもない。この立候補者を俯瞰して見られる場所だ。陽希と目配せし、水樹は彼らに接近していった。
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